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4 蒼穹の未来

エピローグその4です。

未来の可能性

 年が明けて寒さも一段と厳しくなった季節。

 FOI日本支局は新しい捜査官も加わり、博の後を引き継いだ新局長北村豪の元で何とか仕事を軌道に乗せていた。それぞれが皆、自分の為すべきことを定め、これからも続く未来に向かって、決意を新たにする。


 そんなある日、リビングスペースで小夜子が少し恥ずかしそうに告げた。

「子供が出来たのよね」


「・・・誰に?」

 1番驚いたのは、その夫である真だったに違いないが、出た言葉がそれなのはどういうものなのか。

「・・・・・『誰の?』って言わなかっただけ良かったわね。もしそう言っていたら、問答無用で殴っていたわ」

 憮然とした表情で吐き捨てるように言った小夜子は、居住まいを正して真を真正面に見据えた。

「私に、アナタとの子供が出来たの」

 その瞬間、ただ1人を覗いてその場にいた全員が拍手と喜びの声を上げる。

 真だけが、ただ馬鹿のように突っ立ってポカンと口を開けていた。

「はっきりしたら言おうと思ってて、昨日ふみ先生に診てもらったら、双子らしいって。それで病棟に行って色々検査して貰ったら、男の双子だって解ったの」

 小夜子の言葉に、真はとうとう尻もちをつくようにどさりとソファーに座り込んでしまった。


 口々にお祝いの言葉を掛ける捜査官たちに、ジーナも心からの『おめでとう』を捧げる。

 けれどその時、何かを思いついたようにそっとその場を離れると、こっそりと部屋を出て行った。


 ジーナの行き先はFOI病棟のドクター・ヴィクターのところだった。

「ジーナ・ハートか・・・何の用だね」

 むっつりと彼女を迎えた医師に、ジーナは彼の目の前まで歩み寄って質問した。

「ドクター、アナタの事だから空から手に入れた細胞やら組織やらは、そのデータと同じくまだ大事に保管しているんでしょ」

「いきなり何だ・・・確かに保管はされているが・・・」

 以前、彼が私的な研究として行っていた空の細胞や組織を使った研究は、本部にバレて差し押さえられていた。けれどそれらはデータと共に、本部の管理下で厳重に保管されている。

「この前、彼女が子宮外妊娠で手術した時も、組織を入手したんでしょ?」

「ああ・・・それはまだ、こっちの手元にあるが。それがどうした?」

 ジーナはニコッと笑い、それから真剣な表情になって一気に宣言した。


「アタシ、代理母になるわ!」


 ヴィクターは、空の生殖細胞である『卵』も保管している筈だ。

 そして博は、その事を知っていただろう。

 それならきっと、彼は自分の『精子』も預けたに違いないのだ。

「いつか空の卵を受精させるときには、自分の精子を使って欲しい』と。


 ジーナは一気にそう語ると、最後に付け加える。

「彼なら、あの独占欲が強くて空を絶対に離さない博なら、そうしている筈よ」

 ヴィクターは、渋々ながらも頷いた。

「その通りだ。将来そういう事が起こって子供が無事に生まれたら、いつかその子に渡して欲しいと言うメッセージも預かっている」

「それなら、問題はないじゃない。私が代理母になるのなら、アナタだって近くでそれを観察できるのだし、データだって手に入るじゃないの。どこの誰とも解らない女性が代理母になるより、遠い未来でガラスドームの中の胎児として育つより、ずっと良いと思うわ」

 ジーナは必死に言い募った。


「お願い!お酒もやめる。男遊びも女遊びも、もう決してしない。私に空と博の子供を産ませて!そしてその子を育てさせて!」




 それから半年余りの月日が流れた。

 小夜子は臨月になり、母子ともに健康な妊婦生活を送っている。双子であるがため、そのお腹は巨大サイズの西瓜のようになって重そうだが、小夜子自身はもう肝っ玉母さんの雰囲気を身に纏っていた。

 彼女はそれまでの間、支局の仕事を減らし保育士の資格を取っていた。豪も本部の許可を取り、支局内に保育室を作った。

 出産後も働く女性のためでもあり、家族のような仲間でありたいと願った博の意志を継いだ形でもあった。


 そしてジーナは、その日も屋上に上がり空を見上げていた。

 ビートは空を舞い、頭上に広がる空は高く澄んで青い。

 ジーナは目立ってきた腹部に手を当ててた。

 そして、2人の受精卵を移植させる処置を終わらせて退院してきた日の事を思いだす。


 ジーナはその日もここに来て、空を見上げて語り掛けた。

「・・・空、いいわよね?・・・アタシは許しを貰っていると思うのだけど」

 アンタレス号の船室で、彼女は自分の想いを受け入れてくれたのだと思った。

 空が愛しているのは博ただ1人だけれど、それでも彼女は応えられないながらも自分の心を受け取ってくれたのだ、と思っている。

 だから、代理母になった自分を空はきっと許してくれるだろう。

『ジーナが望むのなら、私は構いませんよ』

 生きていたならそんな風に、穏やかな笑顔で答えてくれただろう。

「見ていてね、ちゃんと健康で元気なベビーを産んで見せるから」


 そして今日は、大事な報告をするためにここに来た。

 空に1番近いこの場所で、愛する彼女に伝えたかった。

「あのね、女の子なんですって。きっと可愛い子になるわ。空も、お母さんになるのよ」


 今年の11月には、支局内は賑やかになっていることだろう。

 真と小夜子の、男の双子の赤ん坊たちと

 ジーナが産んだ、博と空の女の赤ん坊と

 それを取り巻く大人たちの、幸せで楽しく、忙しい日々。


 そんな彼らを

 そして全てを包むように

 空はいつも、高く広くそこにある。

 大気と言う悠久の愛に満たされて。



これを持ちまして、シリーズ『Life of this sky』は完全完結となります。

空という1人の女性の、命・生き様・人生を綴った長い話でした。

お付き合いいただいた全ての皆様に、大きな感謝を申し上げます。

いつか機会があったら、彼らの子供たちの話も書いてみたいです。

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