表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/5

初めてのログイン。

スプリングは自分がいつの間にか座っている事に気がついた。不思議に思ったスプリングが窓から外を見た時、目を見開き窓に張り付き景色に釘付けになる。

青い空。

空に浮かび飛ぶ広告用ドローン。

高層ビルの数々。

アニメや漫画から飛び出たような見た目をした人々。

窓の向こうに広がるものは全てスプリングが初めて見るものばかり。自分が今車に乗っている事に気がつく間も無く食い入るように外の景色を眺め、スプリングは自分が精巧なアニメーションの世界に入ったように感じた。


スプリングが乗っている車は自動運転であり車内にはスプリング以外の者の姿は無い。


『スプリング様。まずは初ログインおめでとうございます。』


にも関わらずスプリングの耳に中性的な声が入る。


「誰?!」


驚くスプリング。窓から目を離し車内を見てようやく自分が車に乗っている事に気がつく。

 

「ここ、車の中?」


スプリングが座っているのは後部座席だ。そこから運転席に助手席を見るが、誰も座っていない。


『私はここです。』


声は指輪から聞こえてきた。


『申し遅れました。私はスプリング様のサポートAIです。これからスプリング様が送る【ゴースト】活動を支える為に存在しているものです。何なりと御命令を。』


スプリングは指輪をしばし見つめた後、指輪に向かって話しかける。


「何してくれるの?」

『イベント情報を伝える事から道案内などスプリング様のお役に立つ事が私の仕事です。御命令してくだされば私の持つ権限で可能な限りスプリング様のお望みが叶う様尽力致します。』

「…よく、分からない。」


サポートAIの言い回しに首を傾げるスプリング。


『分からない事があれば質問をしてください。私の持つ権限の範囲以内であればすぐにお答えします。』

「質問。だったらおれは今どこに向かってるの?」

『この世界の首都です。名前はシティです。』

「シティ。」

『はい。【ゴースト】の皆様が活動するにあたって必要な施設が数多くある場所です。』

「そこに行って何をするの?」

『まず最初はチュートリアルを行うかミッションを確認する事をお勧めします。』

「ミッション?」

『ミッションはこの世界の者達からの仕事の依頼です。ミッションの確認は今すぐ確認できます。確認しますか?』

「確認、します。」


スプリングがそう言うと指輪が1瞬光り、目の前に立体映像が出現する。映像の中には文字がずらりと並んでいた。


《ごみ収集の手伝い募集中! 参加条件。やる気のあるやつなら大歓迎!》

《イベント用の料理の下準備を手伝って欲しいです。参加条件。最低でもピーラー使える人。》

《交通整理の手伝いを求む。参加条件。警察、警備関係の【プルーフ】の所持。》


立体映像に表示されているのは仕事の依頼だ。


『現在は1周年記念のイベントが明日に迫っているせいか掃除や準備の手伝いのミッションが多いようです。』

「1周年記念ってお祭りみたいなもの?」

『その通りです。1周年記念は【HERO&VILLAIN】と他4つのゲーム世界と【ゴースト】の皆様方の世界が繋がってから1年経った事を祝う記念すべきもの。前日からシティは盛り上がっている事でしょう。』

「そっか。」


立体映像に書かれている仕事の依頼を見ながらスプリングはサポートAIの話を聞く。


「おれにもできるのあるかな?」

『初めてであろうとこの世界の者達であれば教えてくれるでしょう。礼節を持って接すれば邪険に扱われません。』

「れいせつ? じゃけん?」

『失礼致しました。言い直します。礼儀正しくすれば色んな人が優しくしてくれます。』

「なるほど。」

『最初は簡単な仕事をこなしこの世界に慣れる事から始める事を推奨します。【ヒーロー】か【ヴィラン】か。それを決めるのはその後でも問題ありません。』

「【ヒーロー】? 【ヴィラン】? 何それ?」

『この世界での役割です。人々の認識ですと誰かを助ける為に力を使うのが【ヒーロー】。誰かを傷つける為に力を使うのが【ヴィラン】です。この世界での【ゴースト】は【ヒーロー】か【ヴィラン】になるか選択ができます。』

「そうなんだ。」

『間も無くシティに到着します。』

「え。」


サポートAIと話をしている間に目的地に到着する。停車すると車の扉が開く。


『目的地に到着しました。ご乗車ありがとうございます。スプリング様。』

「降りればいいの?」

『はい。』


スプリングは車の外に出ると車の扉が閉まり、そのまま発車する。走り去っていく車の後ろを見えなくなるまでスプリングは眺めた。


『スプリング様。ログインボーナスをお贈りします。現在1周年記念ログインボーナスも実施されていますのでそちらも併せてお贈りします。』

「贈り?」

『プレゼントボックスに転送されております。後ほどご確認ください。』

「プレゼントボックス?」


スプリングが呟くとミッションの事が表示されていた立体映像が消え、別の立体映像が出現する。その立体映像にも文字が記されていたが、先ほどのミッションの立体映像と比べれば文字数は少ない。


《ログインボーナスです。1日目は1000コインです。》

《初心者応援ログインボーナス。1日目は10000コインです。》

《1周年記念ログインボーナス。1日目は【継承の結晶】です。》


『プレゼントボックスは受取り期限は無く、99件まで保存可能です。今受け取りますか?』

「えっと。よく分からないから後でで良い?」

『もちろんです。』


サポートAIがそう言うとプレゼントボックスの立体映像ご消える。


「えっと」

「そこの君。」


次は何をするのだろうかとスプリングは思った時、声をかけて来たのは1人の成人男性だ。この男性もアニメーションのキャラクターの姿をしている。


「あの。おれ?」

「そう君だよ。君見たところ初心者だよね。分からない事がたくさんあるだろ。良かったらうちのグループに入らないか。手取り足取り教えるし強化アイテムも渡すから。」

「え? えっと。」


初対面の男性にいきなり話しかけられたスプリングはどう答えたらいいとか分からず何も言えなかった。


「座って話を聞きたいだろ。落ち着いた良い場所を知ってるんだ。一緒に行こう。」


スプリングの様子を見て畳み掛ける男性。


『スプリング様。目の前の男性に向かってこう言ってください。』

「え?」

『チュートリアルがまだ済んでいないので行けません。』

「えっ。あの、チュートリアルが済んでないから行けないです。」


スプリングは少し間違ってはいるがサポートAIの言われるがままに答える。


「じゃあ俺も一緒に」


男性はスプリングから断りを言われてもまだ諦めないようだ。一緒に行動して距離を縮めてこようとしてくる。


『スプリング様。失礼しますと言った後右を向いて走ってください。』

「失礼します!」


スプリングは見知らぬ男性よりもサポートAIの事を信じて言われた通りに全身右を向いて全速力で走った。


「あっ! 待って。」


後ろから男性に呼ばれたがスプリングはなりふり構わず走って行く。途中で何度も人とぶつかったがスプリングは走り続けた。

その途中で高い機械音が何度も耳元で鳴る。


「えなに?! なに?!」


突然の異音にスプリングは走りながら周りをキョロキョロと見回して音の出所を探す。


『スプリング様。この音は【【VP】】と【【HP】】の残りが少なくなった事を知らせる警告音です。立ち止まってしばらく待てば音は止みます。』

「止まれば音は止まるの?」

『はい。』

「分かった。止まる。」


スプリングはサポートAIの言う事を聞き立ち止まる。すると警告音はすぐに止んだ。


「止まった。」


落ち着いた後、スプリングは道の脇に移動する。そして気になった事をサポートAIに聞いた。


「ねぇ。なんで警告音ってのが鳴ったの?」

『【VP】と【HP】が残り僅かになった事を知らせる為です。』

「【VP】、と【HP】。なにそれ?」

『正式名称は【VILLAINPOINT】と【HEROPOINT】です。これは激しい運動をしたりスキルを使う事で消費されていきます。全て消費してしまうと行動が不能になりリザレクションルームへと強制的に移動します。』

「リザ、なんとかルームってなに?」

『行動不能になると【ゴースト】の体は崩壊してしまいます。それを修復する為の部屋です。』

「へー。」


スプリングはサポートAIから聞かされる情報をなんとか頭に入れていく。


『スプリング様。先ほどは出過ぎた真似をしてしまい申し訳ありません。』


サポートAIからの思いがけない謝罪にスプリングは動揺する。


「え、なんで謝るの?」

『スプリング様の【VP】と【HP】を消費させた原因は私の提案によるもの。まだ【VP】と【HP】の存在を知らなかったスプリング様に対してあまりに危険な事であるにも関わらず先ほどのような提案をしていました。深く謝罪いたします。』


気に病んで謝罪している様なサポートAIの言葉にスプリングは慌ててまう。


「あの。気にしないで。君のおかげであの人から逃げられたんだから。」

『許しに感謝致します。』

「それで、次は何をしたらいいの?」

『チュートリアルを行います。よろしいでしょうか?』

「うん。」

『では移動しましょう。地図を表示します。』


サポートAIがそう言った後、立体映像が出現する。映ったのは地図と地図の上に表示されている小さな矢印だ。


『地図はシティの施設や道を記録したものです。矢印はスプリング様の現在位置を示すものです。目的地まで案内しますがいいですか?』

「いいよ。」

『ではまず左を向き真っ直ぐに進んでください。』

「はい。」


スプリングはサポートAIに案内されながら目的地まで歩いて行った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ