読まなくていいプロローグ。
「いよいよだ。」
某所にて十数名の者達が集っていた。
老若男女がいる集団の中でリーダー的立ち位置にいる男は他の者達に聞こえるように話しだす。
「もうすぐ我々が開発したFantasy・Roadが世界中へ発信される。」
「ついにですか。」
「世間ではこのゲームはかなり注目されていますからね。リリースされれば多くの人がダウンロードをするでしょう。」
「何も知らない奴らはこれをただのゲームと思ってプレイする。」
主導者の言葉に続くように他の者達も発言をしていく。この時発言した全員の表情は笑っていた。相手を見下して嘲笑う。そんな笑顔を浮かべていた。
「当日が楽しみですね。」
「えぇ。勝ち残らないとゲームから出られないと知ったプレイヤー達の顔、早く見てみたい。」
「きっと大騒ぎになりますよ。テレビを見るのも楽しみです。」
「民衆が突撃する頃にはここはもぬけの殻。我々は安全圏から鑑賞しましょう。」
ここにいる誰もが笑っていた。
楽しそうに笑っている。嘲笑っている。
男達が作ったゲームによって多くの人達の人生が狂わされる。
しかし男達はそれすらも娯楽にしようとしている。人の不幸は蜜の味と愉しむつもりでいる。
多くの命と想いを踏み躙る狂乱が始まってしまう
「なるほど。デスゲームか。」
はずだったのだが、突如この世界に乱入して来た災厄によって台無しにされる。
「その通りだ。…誰だお前は!?」
それが主導者の最後の言葉だった。
◆◇◆◇◆
「Fantasy・Road。最新のテクノロジーを使って開発されたVRMMO。広告に力を入れたおかげでさまざまな場所で注目を受けている今最も期待されているゲーム。」
災厄は端末を使って情報を見終わった後、情報整理のために独り言を呟く。
「だけどそれは表向き。これはただのゲームじゃあない。本当の目的はこれを使ってプレイヤー達の意識をゲームの仮想世界に閉じ込めてデスゲームを強行させる。そして現実世界で誰が生き残るか予想する賭け事を金持ち達がする。こいつらはゲームを利用して悪趣味な娯楽と金儲けの道具にするつもりだった。」
そこまで言って災厄は大きく息を吸い込み、そのままため息をつく。
「ありきたりだな。」
災厄は背もたれに体重をかけて床に転がっている男の方を見る。
先ほどまで計画の話をしていた時とは違い今はぴくりとも動かない。
「細かい所には目を瞑ろう。追求はしないでおこう。色々とツッコミを入れたい所だが言わないでおこう。真っ当な発言は野暮だ。」
男は何も言わない。意識も無い。
他の者達も何も言わない。意識も無い。
「だけどもう一度言う。ありきたりだな。」
それを気にするそぶりを見せない災厄。だって男達を再起不能にしたのは災厄自身だ。
「設定自体は好きだが捻りがないのはつまらない。大作の真似事をした作品は見飽きた。」
災厄はまたため息をついた。
「…いや。ろくに見ないで判断するのは駄目だな。」
そう言って災厄は端末を操作し、男達が先ほどまで話していたFantasy・Roadという名前のゲームのデータを見つけ出す。
「せっかくだ。こちら目線でこのゲームを見てやろう。どんな仕上がりになっているかな?」
ほんの少しワクワクした様子で災厄は端末を操作してデスゲームを企てようと男達が作ったFantasy・Roadを起動する。
「世界観は、王道なハイファンタジーか。好きな設定だがありきたりだな。これでは埋もれてしまう。まぁそれを覆すほどの何かがあれば話は別だが。」
そう言いながら災厄はゲームの中身を見ていく。
数時間後。
Fantasy・Roadの全てを見終わった災厄は叫んだ。
「なんだこれは?!」
災厄は苛立ちのままにテーブルを拳で叩く。
「グラフィックは荒いしデザインはクソダサなものばっかり! 動作はクソ重い! NPCは突っ立っている死体そのもの! バグが多い! こんなものをよくもまぁあんなに自信満々に世に出そうとしたなこいつらは!」
どうやら災厄にとってFantasy・Roadの出来は酷いもののようだ。
「広告であれだけ期待させておいてこの仕上がり。俺だけじゃなくて他の奴らもガッカリするぞ!」
災厄はFantasy・Roadの開発者である男達に死体蹴りを容赦なくしていく。
「速攻でサービス終了だなこれは。」
そう言うと災厄は立ち上がり脳死した開発者達に蹴りを入れながらこの場から立ち去ろうとする。
しかし出口を前にして立ち止まり
「…あぁ駄目だ! あんなもの存在自体が許せない!」
そう叫ぶと災厄は踵を返して再び開発者達に蹴りを入れながらさっきまで座っていた席まで戻り座り端末を手にする。
「これはもっと良いものにできる。あれもこれもそれも。もっと素晴らしいものにできる。」
そう言いながら災厄は端末を操作していく。
「あークソ! ここに来たのは休む為なのに! 仕事をするつもりはなかったのに! ここに入ったのは会社の名前が俺のペンネームと同じだったから気になっただけなのに! こいつらのせいだこいつらの!」
苛立ちながらも災厄は端末を動かす手と見る目を止めない。
「根元まで駄目だなこのゲーム。最初から作り直そう。リリース日はいつだ? …明日?! クッソ!」
端末を置き頭を抱える災厄。
「…やってやる。やってやるぞ。この程度の修羅、数えきれないほど潜り抜けてきたわ!」
災厄はそう言って端末を手に立ち上がりゲーム開発のためにこの場から立ち去って行った。