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準魔法少女  作者: ザキ・S・レッドフィールド
第1章・準魔法少女の始まり
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準魔法少女、現状講習・2

「・・・2年前、とある森林地帯で二組のヤクザ同志の抗争が起きたの・・・」


 直美さんはおとぎ話をするかのように目をつむって顔を天井に向けました。

 なんだか亡くなられた身内を思い出すかのような雰囲気です・・・。


「ヒドイ争いだったわ。双方共に銃を使っての殺し合い、まるで戦争だったわ。我々警察が現場に駆け付けた時には既にヤクザの死体が20人くらいは転がっていたわ」

「に、にじゅう・・・人?」


 日本映画とかで見る戦国時代の戦場が脳裏に浮かびました・・・。


「我々警察もすぐに駆け付けて鎮圧しに向かったわ・・・けど」

「けど?」

「警察側の8割程が命を落としたわ」

「8割・・・? そんなにヤクザの人数が多かったのですか?」

「ヤクザの人数は二組合わせて六十人・・・いえ、既に二十人死んでたから四十人ね。我々警察は私を含めて200人出撃したわ。全員防弾チョッキを身に着けていたし前衛の100人は盾も装備していたわ」

「そ、それだけの武装と人数で警察の人達が8割も・・・?」

「ええ。そもそも普通のヤクザならそれだけの人数の警察が来たら逃げるか降伏するかのどっちかよ。でもヤクザ達は警察の姿を見た途端、縄張り争いの事を忘れて即座に警察に攻撃を仕掛けてきたのよ。そして一瞬で前衛の盾を装備していた警官のほとんどが命を落としたわ」

「盾を装備していたのにですか?」

「ヤクザ達が使っていた銃がその盾を簡単に貫いたからよ」

「盾が?」

「ええ。かろうじて警察側が鎮圧に成功し、押収したヤクザの武器を調べたらこの地球上には無い物質で作られた銃器だったのよ」

「この地球上に無い物質・・・あ!」

「分かったようね。さっきラウジーが説明した異世界の物だったのよ」

「異世界の技術の方がわたし達の住む世界より優れていたとさっきラウジーさんが言っていましたが・・・?」

「ええ。異世界の兵器技術は特殊で我々の武器は一切通じないの。()化学と呼ばれているらしく、それに対抗できるのは同じ裏化学の技術だけなのよ」

「ファンタジー作品で聞くような話ですけど、本当にこちらの技術では防げないのですか?」

「ハル」


 わたしの疑問に答えてくれたのはラウジーさんでした。


「部屋の窓ガラスを見てほしい」


 ラウジーさんが視線を向けた先にわたしも視線を向けると部屋の奥、外の道路が見える普通の窓が見えます。


「あの窓ガラスは防弾ガラスでミサイルでも割れない特殊な防弾ガラスだ」


 何故そんな防弾ガラスが・・・?


「空気だって通さない。そんな窓ガラスでも防げない物もある」

「防げない物?」

「現に今も太陽光は部屋に通している」

「・・・あ!」

「厳密に言うと原理は違うが『そういう物』と思ってほしい」

「それはつまり詳しく理解するには天文学レベルの知識が必要って事ですよね?」


 無理そうなので『そういう物』と思う事にします。


「先に話したロックギア(この世界)に入る扉を発見したテロリスト達はその自分の世界の兵器を売りさばいた」

「それが先ほど警察の人達に多く犠牲が出た原因の兵器ですか?」

「ええ。そのヤクザ達を確保できたのは今思うと奇跡だったわ・・・」


 また深いため息を吐く直美さん、今でもトラウマなんでしょう・・・。


「我々はそれらの武器を『異世界兵器』と呼んでいるわ。そしてその事件後から異世界兵器関連の事件が勃発・・・いえ、異世界兵器の事件がいくつも起こっている事に気付いたの」

「ソレはつまり既に密かに流通してしまっていたという事です・・・よね?」

「ええ。今の所はヤクザなどの裏社会だけど・・・。今朝、春日部市のデパートで謎の爆破事件がニュースで報道されていたのを知ってる?」

「今朝の・・・あ、はい。ここ最近起きている爆破事件ですね」

「アレもその異世界の兵器よ」

「え?」

「テロリストが異世界兵器を使って行った犯行なの」

「分かっているのにどうして『謎の』爆破事件なんですか?」

「普通に報道したら異世界兵器の存在が公になるわ。そしたら多くのテロリストや暴力団員がそれを欲しがる。異世界兵器の売人の思うつぼよ!」

「・・・すぐにその異世界兵器を売っている犯人を捕まえられないんですか?」


 さすがにそれだけ大量に売っていたら多少は痕跡が残ると思うのですが・・・。


「売人もかなりのプロみたいで直接売るのではなく警察に誤情報を流したり暗号で客とやりとりするなどかなり狡猾なのよ・・・。我々警察側がいざ情報を得ても現場に来ても既に『完売』なのよ・・・」

「それで異世界兵器の事件が多発しているのですか?」

「ええ。こちらの武装は敵にとって貧弱、多くの刑事などが命を落としているの。命の欲しい警察側は弱腰になっている。討伐の命令をだされただけで辞職届を出す者もいるわ」


 直美さんは深いため息を。

 辞めようとする警察の人が相当多いのでしょう・・・。


「情けないわよね。それが仕事の警察がこんなんで・・・」

「・・・いえ、警察の人は悪くないと思います。いくら仕事でも命を落とすと分かっていて向かう人は少ないと思います」


 誰だって自分の命は大事です。

 警察の中にはもっと守らなければならない家族がいる人もいると思います。


「ありがとうハルちゃん。でも世間のほとんどはそう思ってくれない人の方が多いのよ」

「・・・・・・」


 税金を払っている国民の人達にしてみれば、その税金の一部を貰っている警察の人が職務放棄をしているなんて納得はできないですよね・・・。


「警察側はお手上げ状態だったのよ・・・」

「だった?」

「クロバ=ハル、君が使ったテキンノ・ズオープは異世界で『7宝具』と呼ばれている7つの兵器の1つで他の異世界兵器と比べてもはるかに高い性能を持っている」

「そ、そんなにすごいんですか?」


 わたしが知っている限りでは高い身体能力が身に付くくらいしか知らないんですけど・・・。


「クロバ=ハル、テキンノ・ズオープを左手に装備すると同時に出現する右手用のテキンノ・ズオープ、その右手用に錫杖の形をした金属が手の甲部分に付いているのは知っているかい?」

「はい」


 洋服とかに付いている飾りみたいなかんじでした。


「ソレをテキンノ・ズオープから引き離すと武器になる」

「武器に・・・ですか?」


 もしかしてあの錫杖の形をした金属が武器に変形するのでしょうか?


「そうなのです! ハルちゃんの身長くらいの長さの錫杖に変化するのです!」

「そうなんですか?」

「錫杖の先端の宝石部分から直径30cmくらいの光線が発射されるのです!」

「・・・なんだか強力そうです・・・」

「とっても強力なのです! 暴走族相手にエマちゃんと戦っていた時はそれで逃げ出す不良達の車をぶっ壊していたのです!」


 ・・・よく死人が出なかったですね・・・。


「戦車だって簡単に破壊できる」


 戦車って、現代の科学で破壊するとなると同じ戦車かミサイルとかかなり限られているって聞いた事があるんですけど・・・。

 というかそれを人間相手に使ったら・・・。


「それを使えば逆に君がテロリストを皆殺しにもできる」


 皆殺し・・・わたしの脳裏に死体の山が浮かび上がりました・・・。

 どの死体も恐怖と苦痛の表情を浮かべてそんな機能を持つ兵器を使っていた自分が恐ろしくなります・・・。

 よく考えたら不良の人達をやっつけた時も殺人未遂だったと思う。

 近場の川に放り投げたのだって相手を死なないようにするためだったけど、それだってラウジーさんの言う通り、落ち方が悪ければ死んでいたかも知れない。

 友達を助けるためとはいえ、軽率な自分の行動への罪悪感でいっぱいになる・・・。


「クロバ=ハル、今君はそんなテキンノ・ズオープを使った自分に対して心の中が罪悪感で満ちている・・・そんな表情をしているね」

「な、なんで分かったんですか?」

「僕はそういうのを見抜くのが得意だからね」


 もしかして、ラウジーさんが警察関係者の人達と一緒にいるのってそういうスキルを買われてなのでしょうか?


「何度も言うけど君は安全な人間だ。犯罪者の命でさえ気に掛ける慈愛の心を持っている。7宝具のテキンノ・ズオープを使って戦うのに向いている・・・そうナオミ=メイは判断した」

「え? テキンノ・ズオープを使って戦う?」

「そう! ハルちゃんに協力してほしいの!」


 直実さんの眼が輝いている・・・逆になんか怖い・・・。


「ハルちゃんは悪用する心配は無いし衛生兵としても活躍できる! ハルちゃんなら戦場のヒロインになれるわ!」

「ひ、ヒロイン⁉」

「さすがハルちゃん、もう魔法少女と認めてもらっているのです!」

「い、いや何故わたしが?」


 身体能力のある警察の方が使うべきでは?


「先に話した通り、7宝具は使った人間が暴走する可能性が高い」


 相変わらずラウジーさんは黙々と解説していますね。

 直実さん程わたしに興味がないのでしょうか?


「ハルちゃん、先に話した通り誰でも使えるわけじゃないの。装備した途端衝動的に破壊や殺人を行う者もいるの・・・使ってすぐ暴走する者、いずれ暴走する者、割合で言うと合計8割程が最終的に暴走するってラウジーが・・・」

「は、8割?」

「つまり、簡単に7宝具を使わせられないという事だ」

「8割って・・・そんなに危険なんですか?」

「ああ。装備した途端興奮して殺人行動に出る者もいる」


 自分が使った時は人を殺したいとかそういった感情は湧いてこなかっただけにラウジーさんの8割という台詞は実感が無いです。


「8割って実際に警察の人達に使用したんですか?」

「割合に関しては僕の推測だ。だが、実際に装備して悪用しない人間はそれぐらいいると僕は思っている。実際、45日前に装備した途端殺人を犯した警官もいた」

「そんな・・・ん? 装備したって・・・他にも7宝具が警察署にあるんですか?」


 わたしが持っている7宝具はさっき警察の人達に知られたばかり。

 前の持ち主のエマちゃんも入手経路は知らないけど2ヵ月くらい前から持っていたらしいのでラウジーさんが言う45日前の殺人を犯したっていう警察の人が使った7宝具とわたしが持っている7宝具とは別の7宝具が?


「ああ。警察側に装着型の7宝具がもう1つある」

「・・・それがあるのにわたしに協力をしてほしいって事はそのもう1つの7宝具を使って戦える人がいないって事ですか?」

「いや、適合者はいる」

「え?」

「警察関係者ではないが素晴らしい適任者がいる。その人物は今日もその7宝具を使って戦っている」


 ラウジーさん、その人の説明をするときクールな表情が少しだけ穏やかになった気がします。

 まるで弟か妹の自慢をしているかのようです。


「もちろんその子も一生懸命頑張っているわ。けど1人じゃあの子の負担が多すぎるからハルちゃんにも協力して欲しいの。実際、事件が多すぎてその子1人じゃ手が回らないの」

「今も任務中だ。ちょうどいい。彼の勇姿を見せてあげるよ」

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