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準魔法少女  作者: ザキ・S・レッドフィールド
第1章・準魔法少女の始まり
3/48

準魔法少女、義兄の職場へ

・AM6時30分黒場家玄関

「いってきます」


 今日から新しい学校生活か・・・皆の前で上手に喋れるか不安です。

<気にする必要はなにのです! 魔法少女は元気よくです!>

 ですからわたしは魔法少女ではありません。

<ところでまだ朝の6時30分です。学校は8時過ぎからなの早いのです>

 今日はお義兄さんの鎧さんにお弁当を届ける事になったので。

 それに学校の初日ですから少し早く登校して学校の先生に挨拶をしないといけないので。

<むむむ~、忙しいのです。ところでアイちゃんの朝ご飯はいつですか? もうお腹ぺこぺこなのです>

 どこか人気の無い所で食べましょう。

<あそこの公園がいいのです!>

 確かに人気もないですし、誰か来たらすぐに分かりますし。

<さっそく食べるのです!>



・AM6時45分:公園

<美味しいサンドイッチだったのです>

 それはよかったです。

<はい! 未来の魔法少女の作るサンドイッチは激うまなのです!>

 だからわたし魔法は使えません。

<何を言っているのです! ハルちゃんは可愛い、ペッタンコな胸、小柄、綺麗な声質、そして喋れるマスコットペットのアイちゃんを飼っています! 魔法少女の鑑なのです!>

 ふうぅ~、胸が小さいって言わないで下さいよ~。

 まだわたしは中学1年生なんですよ・・・。

<何を言っているのです。普通の女の子は10歳くらいから大きくなり始めるものです。13歳になっても胸の膨らみが無いのは一生小さい証なのです>

 ふうぅ・・・確かに前の学校の女の子は少しだけど膨らんでいたしブラジャーを着けていた子もけっこういたけど・・・。

<何を落ち込んでいるのですか? アイちゃんはハルちゃんの事を褒めたんですよ?>

 それは褒めているとは言わないですよ・・・。

<むむ~、女の子は誰もが憧れる魔法少女に適任なのに嬉しくないのは不思議なのです>

 ・・・とにかく警察署に生きましょう。



・AM6時50分:警察署入り口

<ここが警察署ですか~>

 ここでわたしのお義兄さんが働いているそうです。

<さっそくゴーなのです!>


「どうしたんだいお譲ちゃん」


 声をかけてくれたのは30代半ばくらいの署員さんです。

<早速声をかけられるとは、魔法少女は人気者なのです>

 いや、単に親切で声をかけてもらっただけかと・・・。


「ここの署員の知り合いか・・・君は、いや貴方は⁉」


 どうしたんでしょうか?

 わたしの顔を見て急に怯え始めました。

<かなり怯えているようにも見えるのです>


「ら、ラウジーさん⁉ いや、その、『お譲ちゃん』と言ったのは女子の制服を着ていたから見間違えただけで、け、決して貴方が女みたいだという訳では・・・っ!」


 ラウジー・・・あ、もしかして。

<昨日、ハルちゃんのお義兄ちゃんが言っていたハルちゃんソックリな人でしょうか?>

 多分、そうだと思います。

 それにしてもこの怯え方、ラウジーって人、よっぽど怖い人なのでしょうか?

 この怯えっぷりはまるで、このままでは殺されてしまうと思っているかのように顔が真っ青です・・・。


「あの、わたしはその『ラウジー』って人ではありません。ここの警察署で働いている黒場鎧の義妹です」

「え? 別人? な、なんだぁ、ビックリしたよ・・・」


 すっごく安心していますね。

<ラウジーって人、そんなに怖い人なのでしょうか?>

 さっきの怯え方も怒鳴られるくらいのレベルではない・・・それこそ殺されるのを恐れているくらいの怯え方ですね・・・。


「それで、黒場君に何か用事かい?」

「はい。ここで働いている黒場鎧に届け物があるのですが」

「ああ、彼なら異世界兵器対策班の車にいるよ」

「いせかいへいき?」

「あ、いやこっちの話だ。それより黒場君はここの地下の駐車場にいるよ。でっかい大型トラックの中にいるよ。大きいからすぐにわかるよ。地下へはあそこのエレベーターで行くといいよ。地下2階で降りればいい」

「ありがとうございます」


<早速GOなのです!>



・AM6時55分:警察署地下駐車場

<地下に到着なのです。結構広い駐車場で学校の体育館の5倍はある広さなのです>

 確か大きいトラックの中だって聞きましたけど。

<む、アレなのです!>

 あ、もしかしてあの大きいトラックが?

<すっごい大きいトラックなのです!>

 はい、全長は12mくらいでしょうか、幅も2mを余裕で超えています。

 あのトラックの中に鎧さんが?

<お、トラックから誰か出てきたのです>

 男の人と女の人がいます。

 2人共20代半ばくらいの年齢でしょう。

 男性の方は身長180cmくらいの茶髪、ちょっと不良っぽい風貌だけど怖い印象は無いですね。

 女性の方は身長170cmくらいでセミロングの黒髪、仕草などでワイルドな印象を受けますね。

 2人共口にタバコをくわえているのを見るとこれから一服するつもりなのでしょう。

<近場に窓ガラスでできた喫煙ハウスがあるのでそこで吸うもりなのでしょう。吸う前にあの人達に聞いてみるのです>


「あの・・・」

「お、どうしたこんなところ・・・ラウジー? え? え? ど、どういう事だ? さっきまでトラックの中に・・・」

「ど、どうなっているんだ?」

<お、この人達もハルちゃんをラウジーって人と間違えているのです>

 2人共びっくりしていますけど、ここに案内してくれた署員さんみたいに怯えている様子ではないですね。


「あの、私はここで働いている黒場鎧の義妹(いもうと)です。義兄(あに)に届け物があるのですが・・・」

「鎧の? ・・・ああ、お前がラウジーソックリっていう鎧の義妹か! ビックリしたぜ。対策班・・・いや、2課の作業場はこのトラックの中だ。入りな」


 よかった、入れてくれるそうです。

 それにしてもトラックの中が作業場とは珍しいですね。

<そんな事より早く入るのです!>



・AM7時00分:カーゴ内

<おお~これがハルちゃんのお義兄ちゃんの仕事場ですか~>

 オペレーター用の通信機器、壁には重火器、冷蔵庫やトイレまでついています。

 トラックの中はまるで特殊部隊の一室のようです。

<まるでヒーローの秘密基地のようなのです!>


「おーい、客だぞ~」


 茶髪のお兄さんの合図でその場にいた人全員の視線がハルちゃんに向きましたのです。

 ふうぅ~、緊張します・・・。

 中の人は全員20代半ばくらいなのです。


「どうしたの佐助。客って・・・え?」


 おお、皆ハルちゃんを見て驚いているのです。

 きっとわたしがラウジーって人と顔がソックリだからなのでしょう。

 最初に驚いたのは黒髪が肩まで伸びた綺麗な女性です。

<女性なのに身長が170cmくらいありそうなのです。でも胸がデカイので魔法少女でないのは明確なのです>

 胸が大きいだけで・・・というか成人している時点で『少女』ではないと思うのですが・・・。


「?」


 格闘家のようなたくましい筋肉に褐色の肌が特徴の男性はそんなに驚いていないようですが瞳を見るとやはり少し驚いているようです。

 きっと感情を表情に出さないタイプなのでしょう。


「やあ、よく来たね」


<おお、ハルちゃんんのお義兄さんなのです>

 知っている人がいると少し安心します。

 ところでラウジーって人はどこにいるのでしょうか?

 ・・・あ、もしかしあの奥の椅子に座っている人・・・。

<あの奥のオペレーター用の椅子に座っている人ですか!?>


「ほう・・・」


 わわわ、すごくわたしも驚きました・・・ラウジーって人、鏡を見ているかのようにソックリです・・・。

<ハルちゃんと同じ綺麗な銀色の瞳と髪、ショートヘアの美少女なのです!>

 身長もわたしと同じくらいでしょうか・・・。

<ハルちゃんソックリで美人さんなのです!>

 でも、同じ顔でもあの人の方が綺麗だと思います。

 落ち着いた雰囲気にクールな表情、座り方も上品です。

 両足はピッタリ揃え、上着のポケットに入れた左手もどこか丁寧に入れているようですし、携帯電話みたいな電子端末をいじる右手の手つきもなめらかで、すごい気品を感じます。

 わたしを見る視線も上流階級者のようで、色々な面でわたしより綺麗だと思います。

<何を言っているのです! ハルちゃんだって魔法少女なのです!>


「驚いたな」


 ラウジーって人、声の音色も綺麗で声優とかの仕事も出来そう・・・。 


「顔が僕と似ているとは聞いていたがここまでソックリだとは」


 ラウジーさん、驚いたというわりには表情になんの変化もありません。

<クールなのです>


「驚いただろ? 俺も煙草吸いに外に出たらラウジーソックリなコイツがいたんだ。ビックリしたぜ」

「あたしもだぜ」

「女子の制服を着ているのを見れば分かると思うが?」


 ラウジーさんの台詞、それは自分が男だから女の子の服は着ないという主張でしょう。


「わ、悪ィ・・・」


 女の人の方は友人に悪口を言ってしまったかのように申し訳なさそうな表情です。


「何言っている。鎧の妹を見ろ。女子の制服着ても違和感無ぇ。こりゃあラウジーも違和感が無い証拠だ、ハハハハハ!」


 男の人は嫌らしい笑みを浮かべながら右手をラウジーって人の肩をポンポン叩きながら大笑いします。

<ラウジーって人、性なんとか障害という病気だって言っていましたね>

 女扱いするとすごく怒るって聞いていましたけど・・・。


「カエデ、サスケが消費期限の過ぎた加熱用牡蠣を生で食べたいそうだ」

「おお、そりゃあいい。コレ勿体なくて捨てられなかったんだ」

「ちょ、ちょっと待て! ソレ消費期限が2週間以上キレてぼごごごごご・・・ッ」


 外でタバコを吸おうとしていたサスケって人は褐色の肌の男性に背後から羽交い絞めにされて、外でタバコを吸おうとしていた(かえで)って女性に牡蠣を口の中に流し込まれています・・・。 

<まるでゴミ箱にゴミを捨てる勢いでパックに入っていた牡蠣を勢いよく流し込んでいるのです>


「ふごごごご・・・お・・・」


 あ、失神したのです。

 周りの人は倒れているサスケって人の事を介護しようとしませんけど・・・こういう光景はこの人達にとって日常茶飯事なんでしょうか・・・。


「それで、此処に何か用か?」


 外でタバコを吸おうとしていた女性がわたしに顔を近づけてきたので緊張してしまいます・・・。


「あ、はい。義兄にお弁当を届けに来ました」

「あら鎧、いい妹さんじゃない」

「ええ班長」


 班長って、あの黒髪の女性はここの責任者なのでしょうか?

 20代後半くらいでまだ若いのに。


「それにしても・・・ええと、ハルちゃんだったわね。本当にラウジーと似ているわね」

「・・・まるで双子だ」


 ケンジロウって人もわたしに注目しています・・・緊張する・・・。


「本当にソックリだ。・・・だからラウジー君、君に言っておきたい事があるんだ」


<ハルちゃんのお義兄さん、ラウジーって子を見ながら急に真剣な顔になったのです>

 まるで辞表を上司に提出するかのように険しいです。


「・・・君の事・・・もう男扱いはできないよ」


 ・・・え?


「どういう事だい?」


 ラウジーって人 は相変わらず表情を変えずに質問しています。


「君を男扱いするって事は、君にソックリな僕の義妹を男扱いするのと同然になっちゃうからだよ」


 鎧さん・・・ちょっと違う気が・・・。


「ケンジロウ、ガイが君の汗拭きタオルの匂いを嗅ぎたいそうだ」

「了解だ」


<ラウジーって人は表情を一切変えずにケンジロウって人(褐色の肌の男性)に言ったのです>

 茶色のタオルを鎧さんの背後から押し付けています・・・。

<何だか臭さそうなタオルなのです・・・>


「や、やめるんだ! その白かったタオルは一か月以上洗わず使ぶごごごご・・・ッ」


『白かった』って事は茶色の部分は全部汗って事ですよね・・・。

<白い面積が全くないのです>


「ぶごごごご・・・」


 鎧さん今にも死にそうな表情で倒れてしまいました・・・。


「ガイ、僕とクロバ=ハルは顔が似ているだけだ。僕を男扱いしたところで君の義妹が男扱いされる訳ではないよ」


 言い方は『あんまり怒っていない』という意味に聞こえますけどその割にはかなり危険な物を嗅がせた気が・・・。


「ゴホッゴホッ・・・な、何を言っているんだ!」


 鎧さん、辛そうなのに立ち上がってちょっとムキになって怖いです・・・。


「し、身長だって同じくらいじゃないか!」


 直接背比べをしていませんけど、ラウジーさんとわたしの身長を知っている鎧さんが言うんだから同じくらいなんでしょう。


「ハァ、ハァ・・・体格だってそうだ。躰の細さだってほとんど同じじゃないか・・・」


<確かに見た感じ、ハルちゃんと同じくらい細いのです>


「む、胸だって全く膨らみが全く無いところなんてソックリじゃないか!」


 ・・・ヒドイ・・・。

<どうしたんですかハルちゃん? 小さい胸を褒められているのに何故ガッカリしているんですか>

 胸が小さいと言われるのは褒め言葉ではないんです・・・。


「ガイ、君はサスケと違って僕の女扱いに侮蔑の意味で言っていないのは分かる。だが、これだけ女扱されるのは僕も気持ちが良くない。これ以上の女扱いはやめてもらおうか」


<気持ちがよくないというわりにはずクールな表情が相変わらず変わらないのです>


「何を言っているんだ! 男みたいにまっ平な胸以外のどこが男だって言うんだよ⁉」


 ・・・それ、同じサイズのわたしの胸が男みたいって事ですよね?

<失礼なのです>


「もう一度言う。僕を女扱いするのはやめろ」


 ラウジーさん、表情は相変わらず変わらないけど口調は少し怖く、やや怒っているのが分かります・・・。


「何度でも言うよ! 君はカワイイ女の子だよ!」


 そんなラウジーさんの苛立ちに気付かないのか気にしていないのか、鎧さんは相変わらず必死に主張しています。

<逆にラウジーちゃんを怒らせちゃうのです>


「そうか・・・」


 ラウジーさん、表情を変えずに指令用の基板にあるマイクを手に取りました。


「ゴウ、今すぐ北総合病院まで向かってくれ。一分で行けるだろう」

『はい。夜勤明けでも一生懸命に・・・』


<お、車内のスピーカーから声が聞こえるのです>

 あ、今わたし達がいるこの車がエンジン音と同時に揺れました。

<きっとラウジーって子が言った北総合病院に向かっているのです>

 じゃあ、さっきラウジーさんが『ゴウ』って言った人がこの車の運転手なのでしょう。


「レイチェル」


 ラウジーさん、今度は携帯電話で誰かと連絡しているみたいです。


「今、北総合病院に向かっている。今朝言っていた不足分のB型Rh+の血液提供者が見つかった」


 ・・・何だか嫌な予感が・・・。


「ああ。クロバ=ガイがB型Rh+の血液を2リットル献血してくれるそうだ」


 ・・・。

<そんなに献血して大丈夫なのですか>」

 確か人間の1ℓでも致死量って聞きました。

 その人の体格にもよりますが2ℓも失ったら本当に死ぬ可能性が・・・。


「すぐ到着するから歓迎の準備を」

「ら、ラウジー君・・・?」


 ラウジーさんは携帯の電源を切って義兄をこれから食糧になる家畜を冷徹に処理する人みたいにじっと見つめています・・・。


「ガイ、聞いての通りだ」

「いや、2リットルも献血したら・・・死んじゃうよ?」

「別に死んでも僕は構わない」

「・・・・・・」


<ハルちゃんのお義兄ちゃん、固まっているのです>

 蛇に睨まれたカエルってきっと今の鎧さんみたいな感じだと思います。


『到着しました』


 もしかしてさっき言った北総合病院でしょうか。

<エンジン音と車の振動が止まったと情事に扉が自動で開いたのです>

外で白衣を着た人が10人くらい待ちかまえているんですけど・・・。

<きっとお医者さんなのです>


「おお、君がB型の提供者か!」

「待っていたよ! 早速協力してもらうよ!」

「B型の患者の手術の予定が5件も入っていて困っていたんだ!」

「さあこっちだこっちだ」

「わぁ~! た、助けて~!」


 鎧さん、白衣の人達に連行されていますね。

 白衣の人達も物凄い手際の良さでハルちゃんのお義兄さんを連れていくのです。


「・・・あの、義兄(あに)は大丈夫なのでしょうか・・・」

「一応水分補給をしながら献血をさせる。病院のスタッフも一気に血を抜いたりはしないだろう。君が学校から家に帰る頃には死なないギリギリの状態で帰ってくるだろう」


 死なないギリギリって・・・。

<ラウジーって人が恐れられていたのが分かったのです>


「さて、昨晩の報告書かかないと」


 班長と呼ばれている黒髪の女性は仲間の人が連行されたのに日常茶飯事かのように気にしていないですね・・・。


「あの、お弁当は・・・」


 アレじゃあお弁当どころじゃないから持ってきたお弁当をどうしましょうか・・・。


「あら、そうねぇ。・・・あ、そうだ! 麻雀で勝った人が貰えるってのはどう?」

「ああ、それはいいな」

「・・・いい案だ」


 お金ではないとは言え、警察の人が麻雀で賭け事っていいのかなぁ・・・。


「じゃあ(ごう)とルイも呼んで早速始めましょう。私はラウジーに作ってもらうからいいわ」

「え? ラウジーさんは料理が得意なんですか?」

「調理師と栄養士の資格を持っているだけだよ」

「すごいじゃないですか!」


<そんなにすごいんですか?>

 そうですよ!

 ちゃんと勉強して努力している人じゃないと無理ですよ!


「私にも料理を教えて欲しいです!」

「クロバ=ハル、僕は味覚障害だ。料理を作る君ならこの意味が分かるだろう」

「あ・・・」


<味覚障害ってなんですか?>

 ・・・食べ物や飲み物の味が分からなくなる病気です。

<そんな病気もあるんですか?>

 はい。


「そういう事だ」


<でも技術や知識があれば美味しい料理を作れるんじゃないですか?>

 そうでもないです。

 料理はただ作ればいいわけではなく、味見をして調味料の量を調整したりしながら作るものなんです。

 味覚が無いって事はそれができないから本当に美味しい料理を作るのは難しいです・・・。

<むむむ、料理の世界は厳しいのです>

 だからラウジーさんの凄さが分かります。

<???>


「それなのに、そちらの・・・ええと、課長さんのお名前を聞いてもよろしいでしょうか?」

「あたし? ああ、そう言えば名前言ってなかったわね。あたしの名前は(なお)() (めい)。この課のリーダーよ。あたしと同じくらいの身長の女の子は(かえで)よ。褐色の肌の男は健次郎よ」

「よろしくな」

「・・・よろしく」


<楓って人は相変わらずワイルドなのです>

 健次郎さんはストイックな感じです。


「それで、何の話だったっけ・・・ああそうそう、ラウジーの料理の腕がどうこうって話だったわね」

「はい。さっき直実さんがラウジーさんの料理を食べたいって言っていたのを聞いてラウジーさんって料理が上手なんだなって。直実さんが食べたいって事は上手な証拠だと思います。味覚障害で誰かに『食べたい』って言ってもらえるって事は相当努力したんだと思います」


〈ハルちゃんがこんなに褒めるなんて、ラウジーちゃんは凄いのです〉


「調理師の免許と栄養士の資格は味覚障害になる前だ。ナオミ=メイとはかなり前から知り合いだから彼女の味の好みをよく知っているだけだよ」


 表情が変わらないから照れ隠しで言っているのか本心で言っているのか分からないのです。


「でも今でもそれを維持できるのは凄いと思います!」

「まあ、君が僕の事をどう評価するか興味無いが、僕が教えられる事は無いよ。ハッキリ言って本や料理教室などで学べば済む事だ」


<む~、教えてくれてもバチは当たらないのです! イジワルなのです!>

 いえ、タダで教えてもらおうとする方が図々しいのかも知れません。

 ラウジーさんの言う通り、本気で上達したいなら将来そういう学校で資格を取ったりすればいいだけですし。

<さすが魔法少女なのです! 心が広いのです!>


「ところでハルちゃん」

「何でしょう、直実さん」

「この後学校よね?」

「はい」

「鎧から聞いたんだけど確か大北(だいほく)中学校だったわね。もしよければ送っていくわよ」

「え? いいんですか?」

「ええ。報告書を警察署にメールで送ったらこの後は私達も帰宅するところなの。ついでに送っていくわ」


 直実さん、わたしの返事を待たずにオペレーター席のマイクのスイッチを押しています。


「豪、大北中学校まで行ってちょうだい」

『はい。安全運転で一生懸命に・・・』


<直実って人、ハルちゃんの答えを待たずに車を発進させたのです>

 でも困る事ではないのでここはお言葉に甘えてお礼を言いましょう。


「ありがとうございます」


‐PIPIPI‐

<ん?、オペレーター席の通信機からのコール音なのです! 何かの事件なのです!>

 ただの定時連絡かもしれませんよ?


暗合(あんごう)からの通信よ」

「暗合さん?」

「このメンバーの隊員の1人よ」


 そう言いながら慣れた手つきで通信用のヘッドセットを装備し、特定のスイッチをピアノを弾くかのようにテキパキ押す姿はやはり犯罪と戦う職場の人なんだなって思えます。


「はい、こちら異世界兵器対策班よ」


<カッコイイのです! 正義の組織の隊員みたいなのです!>

 それにしても『異世界兵器対策班』って・・・。

 そう言えば警察署で地下の駐車場への行き方を教えてくれた職員さんもこのメンバーの人達を『異世界兵器対策班』って行っていましたけど、『異世界兵器』って・・・?


『よう姉御』


<スピーカーからかん高い男性の声が聞こえるのです>

 それにしても上司に姉御ってよくないんじゃ・・・この人が暗合さんなのでしょう。


『トトカマ工場にテロリストがたむろっているぜ』

「ぬあにぃ⁉」


 な、直実さん?

<さっきまでの穏やかさが消えたのです>


「夜勤明けで疲れているってのにぃ‼」


 直実さん、ギャンブルで負けて大荒れしている人のように地団駄を踏んでいます・・・。


「心配要らないよ。こういう時のためのエコーウルフだ」


 直実さんをなだめる様に言ったのはラウジーさん。

 ラウジーさんが今言ったエコーウルフって何でしょう?

<人の名前でしょうか?>

 チーム名っぽい名前にも聞こえますけど。


「なッ、アイツ()の手を借りろっていうの⁉」


 アイツ『等』って事はやっぱりチーム名なのでしょう。

 それにしても直実さん、とても不満そうです。

<まるで親の(かたき)の手を借りるかのような態度なのです>


「僕は君の体調管理もする必要もある。夜勤明けでこれ以上の勤務は体に毒だ」


 体調管理?

 ラウジーさん、わたしと同じくらいの年なのに。

 そもそもラウジーさんって13歳のわたしと同じ年くらいなのにどうして警察の人と一緒にいるのでしょうか?

 相当な頭脳の持ち主で警察関係のお仕事をしているのでしょうか?


「だからって!」


 直実さんは親に反抗する子供みたいに猛烈に反論しているって事は相当その『エコーウルフ』というメンバーを嫌っているみたいですね・・・。


「他のメンバーだって夜勤明けでそろそろ休息を取った方がいい状態だ。君個人の私情に部下達まで巻き込む気かい?」

「う、それは・・・」


 直実さん、まるで親にイタズラがバレてしまってうろたえている子供のようです。


「それでも意地を取るのかい?」


 ラウジーさん、直実さんより年下なのにまるで何歳も年上の先生みたいです。


「・・・わかったわ。エコーウルフに連絡して任務を任せるわ」


 直実さんはあきらめたのか、急にテンションが下がったのです。

 不満はあるけど反論のしようが無いからあきらめたみたいです。


「連絡は僕がしておく。今日は全員帰宅して休むといい」

「麻雀で鎧の義妹(いもうと)の弁当を誰が食べるか決めてからだがな」


<ケンジロウって人、本当に麻雀で決める気なのです>


『到着しました』


〈あ、運転手の豪って人の声です〉

 もう大北中学校に着いたみたいです・・・とりあえずお礼をいわなきゃ。


「わざわざ学校まで送っていただき、ありがとうございます!」

「気にしなくていいわ」


<ドアが自動で開いたのです>


「それでは失礼します」

「いってらっしゃい」

「・・・弁当、アリガトな」

「気をつけろよ」


 皆さん、笑顔で(健次郎って人は無表情でラウジーさんは振り向きもしないままだけど)手を振って送ってくれる姿はまるで家族のようで少し嬉しいです。

<もう学校へ行くのですか? まだ学校が始まるまで少し時間があるのでもうちょっとお喋りしていても大丈夫なのです>

 でも転校先の学校の先生にも挨拶しないといけませんし、わたしがいつまでもここに居ると2課の人達が休暇を取れないですし。

<むむむ、そういう事なら仕方が無いのです>

 さあ、行きましょう。 

<ハルちゃんクラスメイトにも仲間の魔法少女がいないか楽しみなのです!>



「メイ、あのクロバ=ハルはマ・ペット所持者かも知れない」

「なんですって⁉」

「歩いた時の音が外見の体重より少し重いようだった。それにマ・ペット特有の動物臭もした。マ・ペットと融合している状態だったかも知れない」

「でも、マ・ペットと融合した人間は大抵外見に大きな影響が出るからハルちゃんは違うと思うんだけど」

「マ・ペットはまだ研究が不十分だ。突然変異や新型で見た目が変わらないマ・ペットとも考えられる。異世界兵器対策班の内情を探るために送りこまれたスパイの可能性もある」

「え? ハルちゃんが? でも鎧のお母さんが再婚する時に相手の身辺調査は念入りにしたんじゃ・・・」

「ああ、したよ。でも調査を指示したシェリーは父親のクロバ=ゲンの調査はしたがクロバ=ハルの調査はそこまで念入りにしていなかったそうだ。クロバ=ハルが何か企んでいるなら危険だ」

「まさか、ハルちゃんがテロリストの仲間だって言うの?」

「マ・ペットに操られているならその可能性もある。此処(ここ)の情報を探る為に義兄に弁当を届けるという理由さえあればここに出入りできる。自然な形で調査ができる」

「まさか・・・」

「それにクロバ=ハルは、クロス=リュウと同じクラスに転校するみたいだ。『自然な流れ』でここに顔を出し、『自然な流れ』でクロス=リュウのクラスに転入する。偶然にしてはできすぎている」

「ハルちゃんがテロリストとかの手先だって言われても信じられないわね」

「可能性の1つだ。僕が見た感じ、クロバ=ハルは何か企んでいるようには見えなかった。発信機や盗聴器を所持している様子も無かった」

「・・・どうする気?」

「ハンクにクロバ=ハルを、シェリーにクロバ=ハルの両親の身辺調査をもう一度調査させる。既にハンクとシェリーを調査に向かわせている」

「やる事が相変わらず早いわね」

「ルイとゴウ以外の対策班メンバーの顔を見られた。事前にガイが呼んだのは偶然みたいだが、念のためだ。徹底的に調べるさ」

「アンタの杞憂だったらいいんだけど」

「そうならないかもね」

「どういう事よ?」

「クロバ=ハルの鞄の中に匂いが分からない物があった。歩いた時の音で推測した持ち物の数と匂いの数が合わない。1つだけ匂いが『全く無かった』物があった」

「匂いが無い?」

「ああ。『それ』からはクロバ=ハルが触れた匂いはあったが『それ』本体からは匂いが全くしなかったよ」

「野生動物より嗅覚のあるアンタが分からない物って・・・」

「心当たりがあるのは僕と同じ『7宝具』だけだ」

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