準魔法少女、引っ越し先へ・2
・PM6時30分:黒場家キッチン
「ハルちゃん、もうニンジンは切り終わった?」
「はい」
<カレーを作るだけなのにいっぱい食材が並んでいるのです>
はい、野菜をたっぷり入れたカレーを作るので。
「あら、あまり経験が無いにしては上手く切れているわね」
「あ、ありがとうございます」
よかった、上手に切れて。
「じゃあ、このボールに入れてね」
「はい・・・ってわああッ!」
しまった、切ったニンジンを何枚か落としちゃった・・・。
「すすす、すみませんすみません!」
急いで拾わなきゃ!
<ハルちゃん落ち着くのです! お義母さん、全然怒っていないのですよ>
「大丈夫よハルちゃん、ここではちょっと失敗したくらいで暴力を振るう人はいないから」
<ほら、全然怒っていないのです>
はい、笑顔が優しいです。
本当のお母さんの時みたいに怒鳴られるかと思った・・・。
<もう殴られる心配をする必要は無いのです>
「ハルちゃん、ルーの味見をしてみて。うまく出来たと思うけど」
「はい」
<味見ですか? アイちゃんも味見したいです!>
あ、だめです!
今出てきたらお義母さんがビックリしちゃいます!
<む~>
後で出来上がったカレーを部屋に持って行きますからそれまで我慢して下さいね。
<・・・・分かったのです>
ふ~、納得してくれてよかった。
「ハルちゃん、どうしたの?」
「い、いえッ何でもないです」
急いで味見をしなきゃ。
<お味の方はどうでしたか?>
「美味しいです」
<うう~アイちゃんも早く食べたいのです!>
も、もう少し我慢して下さいね・・・。
・PM7時5分:黒場家食卓
「おお美味い!」
「ああ。料理の腕は抜群だね!」
「あ、ありがとうございます」
新しい家族との初めての食事・・・とっても楽しい一時なのだけど・・・。
<美味しそうなのです・・・お腹すいたです・・・早く食べたいです・・・>
わたしとお父さんの歓迎会・・・なんだけど、アイリスちゃんがわたしの体から出てこないかハラハラしてそれを楽しむどころじゃありません・・・。
<・・・お腹すきました・・・こんなに美味しそうなカレーをアイちゃんだけ食べれないなんて不公平です・・・>
あ、アイリスちゃん、今わたしの体から出てきたらパニックになっちゃいます!
<もう我慢できないです~!>
こ、堪えて下さい!
「どうしたんだハル?」
「今、お腹が膨らんだような気が・・・」
「い、いえ。なんでもないです・・・」
ああ、お父さんとお義兄さんが怪訝そうな目で・・・。
「そうか。ところでその小さい小皿に乗ったカレーはだれの分だ?」
「あ、後で味付けを変えて、食べて味を研究しようと思いまして・・・」
「ははは。ハルは相変わらず勉強熱心だな。ただ、それにしては少し量が多くないか?」
言えない・・・。
全長1メートルのカマキリさんが食べる用だなんて・・・。
「そ、そうですか?」
「ははは。太っても知らないぞ~」
「ははは・・・」
<ゔゔ~・・・ハルちゃんが太るのを防ぐためにも、このカレーは今すぐアイちゃんが食べるべきですゔ~!>
わわわ!
こ、堪えて下さい!
「ご、ごちそうさまです!」
「もう食べたのか? 今日はやけに食べるのが早いな」
「ま、まだ部屋の片づけが終わってないですし、あ、新しい学校の準備もありますので・・・」
ふうぅ・・・なんか下手な言い訳になっちゃった・・・。
<美味しいカレーライスぅ゛~!>
でもこのままじゃアイリスちゃんが暴走しちゃう・・・!
「し、失礼します!」
部屋に急がなきゃ!
「・・・ハルのやつ、どうしたんだろう?」
「何か慌てているみたいだったけど・・・」
「もしかして新しい環境に戸惑っているのかな?」
わぁ・・・皆に心配されてる・・・ごめんなさい、みなさん!
・PM7時10分:黒場ハル自室
「いっただきま~す!」
私の体から出てきたアイリスちゃん、すごい勢いで食べてます。
両手の鎌でお皿を掴み、捉えた昆虫を食べるかのように勢いよく食べています。
よほどお腹がすいていたんですね。
「美味しいのです! やっぱりハルちゃんはいい魔法少女になれるです!」
「いやだからわたしは魔法少女じゃ・・・」
そもそも料理の腕となんの関係が・・・?
「アイリスちゃんは野菜あまり好きじゃないけど、これなら食べれるのです!」
「それはよかったです」
自分が作ったものを美味しいと言ってもらえるのは素直に嬉しいです。
たとえそれがカマキリさんの感想でも・・・。
「もっと食べたいのです!」
「あ、おかわりですか?」
「はい! あと2皿は食べれるのです!」
「分かりました。今持ってきますね」
アイリスちゃん、親友から受け継いだ2つの物の1つがこのアイリスちゃん。
『マ・ペット』という寄生生物らしいです。
人間の脳に寄生して宿主を操ってしまう生物・・・らしいのですがアイリスちゃんをくれた親友のエマちゃんによるとアイリスちゃんは悪い事はしたことが無いそうです。
それにアイリスちゃん本人によるとわたしの体は何故か操れないらしいです。
「ところでアイリスちゃん、明日は家でお留守番ですが大丈夫ですか?」
「え~? アイちゃんも学校に行きたいです~!」
「でも学校でも家と同じで姿見せたらだめですし、給食の時は途中で席を外す事もできないですし・・・」
「大丈夫なのです! ハルちゃんの体の中でじっとしているのです!」
「でもさっきは危うく皆の前に姿を出しそうになりましたし」
「うっ、それは・・・」
「それにアヤメ(義母)さんは勝手にわたしの部屋を物色しないでしょうから、部屋に入ってきてもタンスの中に入って隠れていれば大丈夫ですよ」
「でもアイリスちゃんはハルちゃんのマスコットペットなのです! マスコットペットは魔法少女と常に一緒でなければならなにのです!」
「だからわたしは魔法を使えません」
どういうわけか、アイリスちゃんはわたしの事を魔法少女だと思っているみたいで、何度もわたしに魔法が使えない事を話しても、わたしが魔法少女だと断言するので困っています。
「大丈夫なのです! アイリスちゃんに提案があります!」
「提案?」
「はい! ハルちゃんがお弁当を持ってくればいいのです!」
「お弁当?」
「そうです! お弁当をコッソリ持って行ってコッソリとアイちゃんが食べるのです!」
確かに休み時間のどこかの時間でアイリスちゃんにお弁当を渡せれば大丈夫かも。
休み時間のどこかで体からアイリスちゃんを出して、お弁当を渡せば問題ないかも。
お弁当を作る練習にもなるし。
本当ならここでアイリスちゃんに「ダメです」って言わなきゃいけないんだろうけど、料理を作るというのはわたしにとって楽しい一時になったので料理を作る機会が増えるのはどうしても嬉しくなってしまいます・・・。
それに『わたしに作ってほしい』って事はわたしの料理の腕が評価されてるって事ですし。
「・・・分かりました。アイリスちゃんの分も作っておきますね」
「やったーなのです!」
それにアイリスちゃんが勝手に外出するかも知れないですし・・・。
「その代わり、絶対に授業中に出たり学校の人に姿を見られないで下さいね。もしアイリスちゃんの姿を見られたら学校中がパニックになってしまいますから」
「分かっています。それも魔法少女のマスコットペットの役目なのです!」
「だからわたしは魔法少女じゃありません」