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準魔法少女  作者: ザキ・S・レッドフィールド
第1章・準魔法少女の始まり
16/54

準魔法少女、決断する

「クロス=リュウは罰という名の拷問の後に即退部届を出した。褒められないと分かった以上、続ける理由がないからだ」

「黒須君にこんな事があったなんて・・・」

「この出来事以来、クロス=リュウは自分を弱者だと思い込むようになってしまった。自分は褒められるに値しない人間だと。そう思わないと現実が辛すぎるからだ。実際、この出来事以降もクロス=リュウは色々な大人から叱られたからだ」

「ただ褒められたかっただけなのに・・・」


 わたしが転校してきた初日も理不尽な理由で先生に怒られていました。

 黒須君が平気な顔をしていたのも『慣れすぎ』たからなんでしょう・・・。


「そもそも、この動画もクロス=リュウの友人が叱られてばかりなのに同情して撮影したものだった。クロス=リュウには知らせていなかったけどね」

「教育委員会とかに証拠画像として出すつもりだったんですか?」

「この部活動の顧問は他の生徒からもかなり嫌われていて、当時の生徒の間でアンケートを取った結果、いなくなって欲しい教師のランキングで一位だったそうだ。この撮影者も嫌っていた。半分はクロス=リュウを救いたいという意思もあったようだが」

「でも黒須君は今でも理不尽な理由で叱られたりしていますが・・・?」


 もし教育委員会にこの動画を提出していたら他の先生達も黒須君を叱られ役にしようとはしない筈では・・・。


「ああ。クロス=リュウが撮影者の友人にやめてくれと言ったからだ」

「どうしてですか⁉ これだけの証拠があれば少なくともバスケット部の顧問の先生の横暴を防げるのに・・・」

「当事者の証言によるとクロス=リュウはこう言ったそうだ。『それで俺が褒められる訳じゃない』と。クロス=リュウにとって自分の実力で褒められる事の方が重要だからだ。不良学生みたいな事をしたくなかったのだろう」

「でもそれじゃあこの先も理不尽な叱責を浴びる事に・・・」

「ああ。この出来事の後もクロス=リュウは些細な事でも叱られるようになった。教員達の連絡網に『クロス=リュウは叱っても大丈夫』という情報が多くの教員に知れ渡った。中学校に進学した後も同じような仕打ちを受けた。その結果が現在のクロス=リュウだ。自分は褒められる価値の無い人間・・・そう思うようになってしまった」

「そんな・・・黒須君は過去も今も頑張っているのに・・・」

「その通りだ。クロス=リュウが非行に走らなかったのが奇跡なくらいだ」

「良い相談相手がいたんでしょうか?」

「ああ。近所の老婆がクロス=リュウを実の孫のように可愛がっていた。クロス=リュウも実の祖母のように尊敬していた存在だ。その老婆の教育による影響は大きかったようだ」

「そ、そうだったんですね・・・」


<ハルちゃん、すごく安心していますね>

 それはそうですよ。

 ひどい境遇のなかでも希望があるってだけで違うと思います。

 わたしの実のお母さんも怖い人だったけど一緒に住んでいたおばあちゃんは優しい人で生きている間は安心した日々を過ごせました。

 黒須君が優しい性格なのはそんな素敵な人がいたからなんですね。


「それに、先ほどの撮影者などのクロス=リュウの事を理解し、相談相手になってくれる友人もいたからクロス=リュウは非行に走らずに済んだ」

「良いお友達もいたんですね」

「最も、先程の動画の撮影者でもある友人とは現在では絶縁しているけどね」

「絶縁? どうしてですか?」

「殺人事件を犯したからだ」

「殺人事件⁉」

「ああ。クロス=リュウが身に付けているモーグ・ゲンバンノを使ってだ。クロス=リュウはその親友の事を信頼しているが故に迂闊にも渡してしまった。そして殺人事件が起きた」

「あ、そういえば黒須君、前に自分の親友に7宝具を渡してしまってその親友さんが殺人事件を起こしたって言っていました・・・」

「そうだ。短慮な理由で殺人を犯した。そしてクロス=リュウまでも殺害しようとした。それもくだらない理由でね」

「黒須君、まるで身内の出来事のように辛そうにその事を話していました・・・」


 その出来事をわたしに話してくれた時の黒須君、本当に辛そうでした・・・。


「クロス=リュウは人間不信の一歩手前と言っていい。血縁関係者以外で信用している人間は数える程だ」

「それで、信頼していないわたしに戦場に来ないでほしいって言っていたんですね・・・」


 最初からわたしの事を信用できなかったんですね・・・。


「いや、逆だ」

「え?」

「クロス=リュウは君の事をかなり良き人間だと思っている」

「どうしてですか?」

「七宝具を悪用しなかったからだ。7宝具は装着者の人間の感情を高まらせ、短慮な思考で事を起こしやすくなる。先程言ったクロス=リュウの友人みたいに悪用する可能性がある。逆に言えば7宝具を悪用しない人間はその時点で信頼するに値する人間だとクロス=リュウは考えている。きっとクロス=リュウは7宝具を悪用しない人間は、自分以外は高潔な人間だと思っているだろう」

「自分以外?」

「ああ。クロス=リュウは先程の映像内の出来事で自分に自信を持てなくなってしまった。自身が選ばれたのは悪用しないだけ。精神に問題の無い人間がいたら即自分はお払い箱、そう思っているだろう」

「そんな! 黒須君はいっぱい頑張っていますし結果も出しています!」

「ああ。だがクロス=リュウ本人はそう思えない程自分に自信が無い。中学生になった後も理不尽な仕打ちを受け続けているから自分が弱者と思い込まないと自身の精神が潰れてしまうかも知れないからだ」

「そんな・・・」

「クロス=リュウが7宝具の装着者になってから僕はクロス=リュウをできるだけ褒め称えた。少しでも自分に自信を持ってほしいからだ。だが、クロス=リュウはそれまでの無能な教育者達の仕打ちのせいで称賛の言葉を真に受ける事が出来なくなっている」

「どうしてですか?」

「叱る人間の中にはわざと褒める事で褒めた時以上の結果を出せなかった時に『褒めてやったのに期待を裏切った』と徹底的に叱る馬鹿もいたからだ」

「それでは褒められるのも怖くなってしまいます・・・」

「その通りだ。クロス=リュウはマイナス思考が身に付いてしまった。任務を終え、僕が称賛の言葉をかけても『人間が犬や猫が指定の場所でトイレをできたら褒めるのと大差ない』と思っている可能性もある」

「それ程に・・・なら、どうすれば・・・」

「クロス=リュウと同じ『人間』が救うしかない」

「同じ人間・・・?」

「ああ。人間じゃない僕では意味がない」

「人間じゃない・・・? 前から聞こうと思っていたんですがラウジーさん、何者なんですか?」


 前に重力を操作したりとか色々な偉い人に意見できる地位とか明らかにわたしと同い年の人とは思えないのですが・・・。


「7宝具にはクロス=リュウのように人間が装備するタイプと最初から人間と容姿が同じタイプの2種類。僕は、人間型タイプの7宝具だ」

「ら、ラウジーさん自身が・・・7宝具?」

「そうだ」

「え⁉」


<ら、ラウジーちゃんの右腕が水色の粒子になって散らばっていくのです‼>


「ラウジーさん! う、腕が⁉」

「僕の体は全てこの粒子で出来ている」


 散らばった粒子がラウジーさんの腕に集まって元の腕の状態に戻りました・・・。


「人間型の7宝具は契約者に対して何かしらの使命がある。僕の場合はそこにいるナオミ=メイが現在の契約者で彼女の命を守るのが僕の使命だ」

「直美さんが?」

「そうだ」


 言われてみれば直美さん、いつもラウジーさんの傍にいましたね。

 どのような経緯で契約するのかも気になりますが本題からズレそうなので聞かない事にしましょう。


「そしてその使命の為なら、たとえ罪のない幼い子供を殺してでも守る必要がある。僕はそう作られた7宝具だ」

「つ、罪のない子供を・・・ですか?」

「そうだ。人間が自分の意志で心臓を止められないのと同じだ」

「い、今までもそうしてきたのですか・・・?」

「そんな状況になる事態になる状況を僕が許すと思うかい? そんな状況になったら時の話だ」

「そ、そうでしたか・・・」

「何故少し嬉しそうな顔を?」

「だってラウジーさん、怖い面もあるけど悪人だとは思えないですから。黒須君の事褒める時の表情、優しいお兄さんみたいでしたよ」


 それに今までそんな状況を許さないという事はむやみに人の命を奪う事をしようとしないって事ですから。


「優しくなんかないわ‼‼‼」

「わッ!」


 さっきまで黙っていた急に直美さんが大声を・・・⁉


「コイツと契約した途端タバコ即禁止にされたのよ‼ 3箱も残っていたのに‼」

「タバコは寿命を縮めるのだから当然だ」

「お酒だって飲む量減らされたのよ‼」

「それは君が二日酔いする程飲み過ぎるからだ」


 ・・・子供と大人の喧嘩のように見えるのは気のせいでしょうか?

 しかも大人な直美さんが子供で見た目が未成年なラウジーさんが大人のように見えます。


「ハルちゃんなら分かるでしょ! この辛さ!」

「あの、わたしは未成年なのでタバコもお酒も飲みません」

「なら夏休みに毎日学校の授業受けに行く必要になったらどう思う⁉ お酒の量減らされるって事はそれ以上の辛いことなのよ‼」


 一瞬納得しそうになってしまった自分が情けないです・・・。


「話が進まないから頭の悪い馬鹿は無視してほしい」

「誰が馬鹿よ‼」

「話を戻すが」

「まだ終わっていない‼」

「クロス=リュウを救うには同じ人間の力が必要だ」


 直美さんを無視するラウジーさんはまるで玩具を買ってもらえなくて喚く子供を冷徹につっぱねる保護者の方みたいですね・・・。


「そして僕は先程見たように人間ではない」


 まだ直美さんが何かわめいていますがわたしも無視する事にしましょう・・・。


「クロス=リュウは僕が人間でない事は既に知っている。おそらく僕の事を雲の上の存在のように思っているのだろう。僕が褒めても意味はない。人間が褒めなければクロス=リュウは報われない」

「警察関係者の方達は褒めてくれないんですか?」


 状況によっては他の警察の方と行動する事もあると思うのですが・・・。


「異世界兵器対策班のメンバーはもちろん、任務に携わる全ての職員にクロス=リュウをできるだけ褒めるよう指示した。しかし無駄だった。クロス=リュウは7宝具で成果を出している事を自覚し過ぎている。褒められても称賛されているのは所持している7宝具だと思っている」

「過去の理不尽な出来事が足枷になっているんですね・・・」


 先程のバスケットの試合映像で成果を出しても叱られたのが今でもトラウマになっているのだと思います・・・。


「だが解決策はある」

「?」

「君がクロス=リュウの頼りになる相棒になれれば可能性はある」

「わたしが相棒?」

「そうだ。君はクロス=リュウと同じ人間で同年代だ。そんな君が共に行動し、信頼し、助け合う、そういった仲間がいればクロス=リュウは心を開く。精神面の負担も少なくなる」


<なんで同年代だと黒須君は信頼するんですか?>

 それは、わたしは黒須君の『格上』の存在ではないからだと思います。

 わたしが黒須君を称賛したら少なくともラウジーさんが例えに出した『人間が犬や猫が指定の場所でトイレをできたら褒めるのと大差ない』と黒須君は思わないでしょう。

 ただ問題は・・・


「でもわたしに出来る事は・・・」

「クロス=リュウは君が転校してきた日、バスケットの練習試合で理不尽な叱られ方をした後に君が声をかけ気にかけてくれた事をすごく喜んでいた」

「喜んでいた? 黒須君が?」


 確かに黒須君はその事で嬉しかったと言っていましたが・・・。


「ああ。その日、任務に出動する時にクロス=リュウはテンションが少し高かった。理不尽な仕打ちを忘れられるくらいにね」

「確かに黒須君は女子では気にしてくれたのはわたしが初めてだって・・・」

「そうだ。それに君も過去に努力が報われなかったからね」

「あ・・・」


 お父さんとお母さんに仲良くなってもらいたいから勉強を必死になって頑張ったけど、それができなくて・・・。


「君の過去を調べたよ。君も現実を変えようと必死になって頑張った。そして報われなかった。クロス=リュウと同じ心の痛みを抱いている。君はクロス=リュウと分かち合える」

「でも黒須君はわたしに戦場に行かなくてもいいって・・・」

「それは君がクロス=リュウにとってマトモだからだ。7宝具を悪用する人間を見てきたクロス=リュウだからこそ、7宝具を悪用しない君が輝いて見えるからだ。しかもクロス=リュウ自身が叱られる事を気にかけてくれる、天使や聖女のように見えているのだろう」

「て、天使? 聖女?」


<ハルちゃんは魔法少女なので違うのです>

 それも違います。


「ああそうだ。それに加えて自分と同じ報われない過去があるとなれば親近感も沸くだろう。心許せる戦友にもなる。君自身が特訓し、強くなれば相手を殺す事無く事件を解決出来る、君もクロス=リュウも汚れずに済む。テロも減る。そうなれば今日起きたテロなどで友人が泣く事も無くなる」


「長野さんの事ですよね・・・」


 長野さん、目的はどうであれ転校初日からわたしと仲良くなってくれました。

<でも長野ちゃんは元気付けようとしたハルちゃんに暴言を吐いたのです>

 それはショックのあまり気が動転していただけです。


「ラウジーさん、7宝具を・・・わたしに貸してください!」


<ハルちゃん、戦うんですか⁉>

 もちろんです。

 もう、親しい人が泣くのも、黒須君が苦しむのも見たくないです!


「戦う理由と決意が出来たのだね。では1つ問う。場合によっては人間相手に銃を撃ち、殺さなければいけない時もある。その覚悟はあるのかな?」

「それは・・・できます!」


 本当はいざという時撃てる自身無いけど、ここで自信が無いって言ったら追い返されてしまいますのでこう言っておかないと。

 というかそんな覚悟じゃ黒須君や平和を守れません。

<おお、ハルちゃん、魔法少女らしくなってきたのです!>


「そうか。それとクロス=リュウは君が戦場に行く事に反対すると思うが説得も君自身がする必要があるが・・・出来るかい?」

「やらなきゃ追い返されるだけですよね・・・」


 確かに黒須君がわたしを喜んで歓迎してくれるとは思えません。


「そうだ。場合によってはクロス=リュウの悪口を言うくらいの事をしないと本当に追い返されてしまうよ」

「わ、悪口ですか?」

「無理して言えとは言わない。だがそれくらいは覚悟しておいた方がいい」


 ラウジーさん、足元に置いていたアタッシュケースから何かを・・・アレは、エマちゃんから貰った7宝具!


「これでクロス=リュウを救い、君が守りたい者も守るといい」

「はい!」

『到着しました』


 突然アナウンスが・・・。


「今、クロス=リュウが戦っている現場に到着した」

「い、いつの間に⁉」

「君が先程のクロス=リュウが理不尽な仕打ちを受けた動画を見始めた直後くらいだ。運転手にはクロバ=ハルがこの車に乗ったらすぐに現場に向かうようあらかじめ指示をしていた」


 もしかして、最初から現場で黒須君を救うためにここに呼んだのでしょうか?

<顔はハルちゃんソックリなのに心は腹黒なのです>


「僕は近くで見守っている。存分に戦うといい」


<ラウジーちゃんはサボる気なのです!>

 いえ、単にわたしがサボらないのを分かっているのと、わたしに楽をさせない為だと思います。

 わたしが本当に黒須君の役に立つなら楽をせず、自分の力で救えるのを証明する必要がありますから。


「さあ、出撃だ」


<いつの間にかにハッチが開いているのです>


「はい。行きます!」


 ハッチの外は・・・森林?

<辺り一面、建物が1つも無いのです>


「このまま真っ直ぐ進めば目的地だ」

「は、はい!」


 まずは指示通り進みましょう!

<マジカル☆ハルちゃん出撃なのです!>

 だからわたしは魔法少女ではありません!

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