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準魔法少女  作者: ザキ・S・レッドフィールド
第1章・準魔法少女の始まり
15/54

準魔法少女、黒須竜の過去を知る

・PM13時20分:異世界対策班カーゴ内

<カーゴ内は誰もいないのです>

 ここにいるのはわたしとラウジーさん、そして直実さんの3人だけです。


「この動画を見てほしい」


 ラウジーさんはこの前も座っていた大きなモニター前の椅子に座ったと同時にそう言っていくつかのボタンを押しています。

<画面が起動したのです>

 画面に映った動画が荒いのを見ると一般人の、市販のカメラの映像でしょう。

<誰かが写っているのです>

 写っているは・・・黒須君?

<でも今よりさらに小さく見えるのです>


「これはクロス=リュウが小学校4年生の時の動画だよ」


 小学4年生って事は3年くらい前の動画って事ですよね。


『カズ、しっかり撮ってくれよ!』


 そう言って笑顔をカメラマンの人に向ける黒須君、今と違って活発な印象です・・・。

<すごく張り切っているのです>


『ああ。任せろ』


 カメラマンの人も表情は見えないけど口調だけで笑顔で答えているのが分かります。

<というか何をやろうとしているのですか?>

 黒須君がいる場所は学校の体育館、前後に番号が印刷されたスポーツ用のユニフォーム、他の同級生も黒須君と同じ格好なのを見るとバスケットの試合みたいです。

 黒須君は他の男の子達が既に集まっているコートの真ん中に向かって走っていきました。

 赤いユニフォームと青いユニフォームに分かれて試合をするみたいです。

 黒須君は青いユニフォームのチームなのです。


「当時クロス=リュウはバスケット部でこれはその部活内の練習試合だよ」

「黒須君、バスケット部だったんですか?」

「ああ。誰かに褒められたくてね」

「褒められたくて?」

「これを見てほしい」

「この紙は・・・?」


 紙には98点とか95点とか数字が色々書かれているのです。

 国語、算数、理科・・・もしかして、


「黒須君のテストの点数ですか?」

「ああ。小学4年生時、10月のテストの点数だ」

「低いのでも90点以上は取っています。というかみんな90点以上です・・・。黒須君、学力はそんなに悪くなかったんですね」

「その通りだ。だがクロス=リュウは叱られたよ」

「どうしてですか?」

「叱られ役だからさ」

「叱られ役?」

「ああ。近年では教員は生徒を叱りにくくなっている。ちょっとした事で言葉のパワハラだなどと言われるのは君も知っていると思う」

「・・・はい」


 わたしの転校前学校はそういうのは無かったですけど、TVで教員の人が些細な事で教育委員会や保護者とかに色々と言われるのを恐れて迂闊に生徒を叱れないって言っているのを見ました。

 TVに出ていた教員の証言によると、どんなに素行の悪い生徒でも教員は絶対に暴力を振るえず、悪い生徒のやりたい放題だって・・・。

<それじゃあ不良みたいな生徒はどうするんですか?>

 注意するしかできないないから言う事を聞かない生徒はどうしようもないってTVに出ていた教員の先生が辛そうに語っていました・・・。


「だから叱られ役にクロス=リュウが選ばれた。クロス=リュウは反論や両親に告げ口する性格ではないし、両親も共働きで家にほとんど帰ってこないから保護者のクレームを気にする理由が無い。叱り放題なのに気付いた教員達は皆でクロス=リュウを叱った。腹いせになるし教員としての使命を果たしている気になれるという理由でね」


「そんな・・・ヒドイ・・・」

「でもクロス=リュウは諦めなかった。一生懸命勉強をしてテストで褒められようと頑張った。もっとも教員側がそれを許さなかったから無駄だった」

「教師側が許さなかったってどういう事ですか?」

「クロス=リュウの国語の答案用紙と、100点の生徒の答案用紙を見比べて欲しい」


 黒須君は96点、間違っているのは・・・漢字の問題で・・・アレ?

<どうしたんですか?>


「コレ、黒須君間違っていないです・・・」


<そうなんですか?>

 百点の人の答案用紙を見て下さい。


「間違いにされている箇所、百点の生徒と全く同じ回答です」


<あ、本当なのです! 合っているのにバッテンが付いているのです!>


「不正解の理由は回答に使った漢字の『はね』や『はらい』が短いなどの理由だ」

「そ、それだけで、ですか⁉」


 わたしが日本に来てすぐの頃、学校の先生によってはそういう細かい事も注意する人もいましたけど、そういう先生は『皆』にそういう指導をしていました。


「で、でも百点の人の回答にも『はね』とかが短いのもいくつかありますけど・・・」

「教員達が叱りたいのはクロス=リュウだけだ。他の生徒は保護者からのクレームを受ける可能性があるからそういう事はしない」

「そ、そんな・・・。黒須君は頑張っているのに、そもそもどうして黒須君は何も言わないのですか?」

「クロス=リュウは褒められたかっただけだ。反論したところで望みの台詞が聞けないと思って反論しなかった。薄々教員達が自分を叱る道具として見ている事に気付いるからこそ反論しなかった。反論してもひきつった笑みで褒められるだけだ。クロス=リュウはただ純粋に褒められたかっただけだった」

「でもそれじゃあさらに叱られてしまうんじゃ・・・」

「ああ。だからさらに叱られた。そしてクロス=リュウは何でもいいから褒められたいとさらに願うようになった。自分の力で評価されたい・・・そう強く想うようになった」

「あ、もしかしてこの動画は・・・」

「そう。何か褒められる長所を作りたい。学問が駄目ならせめてスポーツでとバスケット部に入り練習を頑張った。それを実証しようとした試合がこの映像だよ」

「それで張り切っているんですね」

『行ったぞ!』


<話しているうちに試合が始まっていたのです>

 ボールを持っているのは・・・黒須君です。


『行くぜ!』


<すごく早いのです!>

 ドリブルが上手いし足も速い・・・敵のチームの生徒を次々と抜いていきます・・・。

<まるでスポーツ漫画の主人公みたいなのです>

 そのままゴール下に・・・あ、

<敵チームで一番背の高い選手が立ちふさがったのです>

 身長は170cm近い・・・いくらなんでもそこからシュートは無理です。


『工大!』


 黒須君は近くにいる味方生徒に華麗にボールをパスしました。


『決める!』


 工大って人は即座にシュート・・・あ、先ほどの長身の生徒に撃ったボールが叩き落されました。

 弾かれたボールは黒須君のチームの子に渡ったのです。


『原笹!』


<いつの間にかに黒須君がコート脇にいるのです>

 皆ボールのある場所に密集しているからノーマーク、シュートのチャンスです。


『黒須!』


<それに気付いた原笹って子は黒須君にパスしたのです>


『ッ!』


 姿勢のいいフォームでシュートを撃つ黒須君、まるでボール自身がゴールに向かう意思があるかのように勢いよくリングの中に・・・入りました!


『よっしゃあ!』


 映像の中の黒須君はガッツポーズ。

<今までのクールな黒須君からは想像できない程嬉しそうなのです>

 嬉しいのは当然ですよ。

 努力が報われたくて始めたバスケットボール、報われるって事は結果を出すって事でもありますからシュートが決まったというのはそれの証明になりますから。

<映像の中の黒須君は嬉しくて仲間の生徒とハイタッチしているのです>


『コラ黒須ゥッ‼』


<きゅ、急に審判&顧問の先生が怒り出したのです!>

 黒須君、何かしましたっけ?


『なんでガードのお前がそこにいるんだよ! シュート外したらどうするつもりだコラァ‼』


 確かにシュートを外したら敵に相手チームにボールを渡してしまう可能性はありますけど他の生徒さんも自分のポディション以外の事をしていましたが・・・。


『え?』


 黒須君もなんで怒られているか分からない様子です。


『「え?」じゃねえぞコラあ! ちゃんとポディションを守れ!』

『・・・はい・・・』


<黒須君、すごくショックを受けているのです>

 それはそうですよ。

 一生懸命頑張って結果まで出したのに待っていたのが称賛どころか叱責じゃあ努力を踏み躙られたも同然ですよ・・・。

<でも表情はすごく真剣なのです>

 きっとこの時は「先生の言いつけを守って別の事で褒めてもらおう」みたいな考えがあったんだと思います。

 ・・・でもこの先生の雰囲気だと・・・。


『おい、行ったぞ!』


<いつの間にかに試合が再開されていたのです>

 ボールは黒須君のチームで一番背の高い男の子に奪われて黒須君のチームに得点を得るチャンスが。


『黒須!』


<背の高い子が黒須君にパスしたのです。黒須君はボールを受け取るとそのままゴールに向かってダッシュ、黒須君の前に敵チームで一番背の高い男の子が立ちふさがったのです!>

 黒須君は即座にパスをしました。

<追い抜けばシュートのチャンスなのに?>

 追い越してシュートを撃ったらまた顧問の先生に叱られるからだと思います。

 さっきまでのドリブルの上手さを見ていると追い越すのは可能そうですが・・・。


『今だ!』


 黒須君からボールを受け取った男の子は即座にシュート、ボールは・・・入りました。


『よっしゃあ!』


<シュートを決めた男の子はガッツポーズの後に黒須君にハイタッチしたのです>

 黒須君のパスのおかげで点数が入ったようなものですから。


『おら黒須ゥ!』


 また顧問の先生の怒鳴り声が。


『え・・・?』


 黒須君は何故叱られているか困惑していますがわたしも同じです。

 今度はどんな理由で黒須君を?


『なんですぐパスだした! まだ中田(黒須竜がパスした生徒)の位置がゴールから遠いぞ! 外したらどうするんだ‼』


 黒須君は指示通りガードというポディションの役割を守っただけなのに・・・?

 そもそも外す可能性を指摘するなら黒須君がパスをして即座にシュートした中田って人を注意すべきでは・・・。


『す、すみません・・・』


 それでも謝る黒須君・・・こんな理不尽な仕打ちを受けても反論しないから叱りやすい、ラウジーさんの言う通り叱られ役にしやすいが故に・・・。

<また試合が再開されたのです>

 相手チームのボール運び役がゆっくりとドリブルをしながらゴールに向かっています。

<黒須君がそれを阻止するために前に立ちふさがったのです>

 ボールを持っている相手は即座に味方にパスしました。

<顧問の先生は黒須君にはすぐパスしたら怒鳴ったのにこの人には何も言わないなんておかしいのです>

 ラウジーさんの言う通り、少しでも叱って後で保護者に告げ口されて何か言われるのを恐れているからでしょう・・・。


『行かすか!』


 ボールを持っている生徒の前に黒須君が立ちふさがったのです。

 黒須君がかなり良い動きをするからか、ボールを持っている生徒はなかなか前に進めないようです。


『くそッ、崎高!』


 黒須君を追い抜けないと諦めたみたいです。

<またすぐパスしたのにこの生徒も叱られていないのです>

 やっぱり黒須君だけを・・・。


『任せろ!』


 ボールをもらった黒須君の後ろ斜めにいた生徒はパスをもらうと即座にゴールに向かって走りました。

<黒須君は・・・さっきまでボールもっていた人に付きっ切りなのです>

 顧問の先生に言われた自分のポディションを守っているのでしょう。

 表情はもう褒められるより怒られる事を恐れているって感じです・・・。


『もらった!』


<相手チームの生徒がシュートを決めたのです>


『おい黒須ゥ‼』


 ま、また⁉

 今度は何が⁉


『なんですぐボールを追わないんだ! やる気あんのかあ‼』

『え、ええ・・・』 


 黒須君の表情から困惑と絶望に飲み込まれるのが分かります・・・。

 積極的に動けば怒られ、慎重に動いても怒鳴られる、指示通り動いても叱責、黒須君じゃなくてもどうしたらいいか分からず、今の黒須君みたいに今にも泣きそうな表情になるでしょう・・・。

<試合が再開されたのです>


『黒須、頼むぞ!』


 黒須君の仲間が黒須君にボールをパスしたのです。


『・・・原笹』


<ボールを受け取った黒須君は何もせずにボールを味方に即パスをしたのです>

 きっと叱られすぎてどうしたらいいか分からないのだと思います。

 成果を出しても叱られる、指示通り動いても叱られる、もう混乱状態なんだと思います。


『黒須ゥ‼』


 そしてまた顧問の先生の怒鳴り声・・・。


『何もせずにパス出しやがって! もういい! テメエはすっこんでろ! 本阪、交代だ!』


 とうとう別の生徒と交代・・・酷すぎる・・・。

<黒須君は何も言わずトボトボとベンチに戻って座ったのです>


「ラウジーさん、黒須君はこの一件のせいで自分の事を弱い人間だと思うようになったんですね・・・」


 こんな出来事、黒須君でなくてもショックだと思い・・・


『コラ黒須ゥ‼』

「え?」


 ま、まだ何か⁉


『誰が休んでいいって言ったあ! 今すぐグランド100週走ってこい!』

『・・・はい・・・ッ』


 震える声で返事をする黒須君、泣きそうなのを堪えて外へ・・・。

<画面が止まって再再生のマークが出てきたので映像はここで終わりみたいなのです>


「クロス=リュウはこの後、指示通り校庭のグランドを100週走ったよ。最も終わる頃には試合は終わっていて、部活動自体も終わっていた。この動画の撮影者である友人以外は誰も待ってくれなかった」

「そんな・・・」

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