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準魔法少女  作者: ザキ・S・レッドフィールド
第1章・準魔法少女の始まり
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準魔法少女、職場見学へ・2

・PM6時00分:県内遺跡跡地

 遺跡跡地の前にパトカーや救急車が何台か止まっています。

<遺跡の中からお医者さん2人がタンカで誰かを運んでいるのです>

 運ばれているのは・・・さっき黒須君が捕らえたテロリストの男性です。

<悪夢にうなされているかのように「うーうー」言っているのです>

 黒須君に撃たれた右手が痛むのでしょう。

 無くなった右腕には止血用に布が巻き付けられています。

 あの後黒須君が手当したのでしょうか?

<あ、そうと噂をすれば遺跡の中から黒須君が出てきたのです>

 頭のカチューシャや両腕両足にアンクレットが無いという事はどうやら7宝具は外したみたいですね。

<黒須君はハルちゃんやラウジーちゃんがいるこっちに向かってくるのです>

 なんだか疲れているような表情です。


「ラウジー、任務は完了した・・・ってアレ? ラウジーが2人⁉ ・・・あ、女子の制服って事はもしかして転校してきた黒場か?」

「そうだリュウ。ここにいるのは君のクラスメイトのクロバ=ハルだ」

「なんで黒場がここに?」

「職場見学をさせた。クロバ=ハルは7宝具の1つ、テキンノ・ズオープを所持している」

「7宝具を⁉」


 黒須君、推理小説で意外な人物が犯人なのを知ったかのような表情でわたしを見つめています。


「まさか、黒場も俺と同じように戦場に行くのか⁉」


 そう言って黒須君はもう一度わたしを見つめ困惑している様子です。


「それはクロバ=ハル次第だ。彼女は戦場の事をよく知らない。実際に戦場に足を踏み入れているクロス=リュウの意見を聞いてから決めるそうだ」


 そ、そんな話でしたっけ?


「リュウ、僕達は少し席を外す。異世界対策班のトレーラーには誰もいないからクロバ=ハルと2人きりで戦場の事で話をするといい」


 ラウジーさんはそう言うと直実さんと一緒に警察の人とどこかに行ってしまいました・・・。


「・・・黒場、とりあえず対策班の車に乗ろう。話はそれからだ」


 黒須君はそう言うと義兄が務めるカーゴトレーラーの中に入っていきました。

<黒須君の後を追うのです>



・PM6時05分:カーゴ内

 カーゴ内に入ると黒須君は冷蔵庫が近くにあるオペレーター席に座っていました。

<黒須君、まるで自分の部屋の物のように冷蔵庫をあけて缶コーヒーを取り出したのです>

 よほど喉が渇いていたのか、缶コーヒーを一気飲みしました。


「ふぅ、さて・・・黒場」

「はッはい、なんでしょう?」

「ラウジーはお前が7宝具を持っていて戦場の事を知りたいと言っていたが、お前は7宝具を使って警察の対テロリスト行動に協力する気なのか?」

「・・・えっと・・・直実さんにそうして欲しいと言われたのですけどどうしたらいいか分からなくて・・・」

「・・・これは俺の予想だが、お前は偶然7宝具を手に入れてその事をラウジーや直実 (めい)班長に知られて協力を求められている。けど、どうしたらいいか分からなくてラウジーにここへ連れてこられたってところか?」

「・・・大体あっています」


<大体っていうかほとんど正解なのです>

 それを聞いた黒須君は少し困ったって感じの表情をしています。


「・・・黒場、お前は協力する気はあるのか?」

「それは・・・直実さんやラウジーさんの話を聞いていると協力しない訳にはいかないなとは思っていますが・・・」

「つまり協力はしたいが乗り気じゃないって事だな?」

「え・・・その・・・」

「・・・黒場、お前は戦場で何をするのか分かっているのか?」

「何をするって・・・テロリストを逮捕する事ですか? 状況によってはさっきまでの黒須君みたいに戦う事もあるって事ですか?」

「さっきまでの俺の戦い? ああそうか・・・追尾カメラで俺が戦っているのを見ていたんだな・・・」


 なんだか黒須君、自分の失態を知られたかのような困惑した表情のように見えます。


「・・・黒場、俺から言えるのは戦場とは自分が汚れる事だ」

「汚れる事?」

「黒場、お前は人を殺した事は無いだろう?」

「は、はい。当然ですけど・・・」

「戦場でその『当然』は無い。・・・俺は・・・1ヵ月くらいで十一人殺している」

「・・・え?」


 十一人も・・・殺した?

 あの教員の理不尽な仕打ちにも耐え、それでもなおかつ周りの人の気を配る優しさのある黒須君が人殺しを・・・?


「相手は多くの罪の無い人々を死に追いやったテロを犯したテロリスト達だが、それでも俺は足や腕などの即死しない場所を撃った。幸い、できれば生け捕りにしろと指示されているからだ。だが、それでも失血多量やショック死で死ぬこともある」

「で、でもそれは正当防衛とか正当な公務執行行為なんじゃ・・・」

「ならお前は自分の攻撃でテロリストを殺した日に気分よく食事ができるのか?」

「そ、それは・・・」

「相手は殺されても文句の言えないレベルの犯罪者だが、それでも殺してしまった時はとてつもない罪悪感と嫌悪感でいっぱいになった・・・」


 黒須君は目をつむってその行為全てを思い出しているのか、とても辛そうです・・・。


「黒場、お前はその嫌悪感に耐えられるのか?」

「・・・できないです・・・」


 もしわたしが事故でも人を殺めてしまったらきっと毎日のように嘔吐や睡眠不足に襲われてとても辛い日々を過ごしていると思います。


「俺は十一人も殺した。この汚れは一生落ちない。そして今後ももっと『汚れる』と思う」


 黒須君は目をつぶったまま深いため息を吐いています。

 表情にはでていないけど本当は『汚れる事』がとても嫌なのでしょう・・・。


「それにテロリストを生け捕りにしろと指示された任務でも『逃がすくらいなら殺せ』とよく言われる。逃がしたら多くの犠牲者が出るからな」


 つまり、最初から相手を殺める任務もあるって事・・・。


「黒場」


<いきなり目を開いたのです>

 わたしを強く見つめる黒須君の表情は教師が道を踏み外しそうな生徒を引き止めるかのようです。


「お前はまだ『清潔』だ。わざわざ『汚れる』必要はない。確かに今の現状ではテロを防ぐのに人手が1人でも必要なのは事実だ。けどお前みたいな綺麗な人間がわざわざ汚れる必要は無い。綺麗なままでいられるならそれにこした事はない」


 黒須君はわたしが戦場に足を踏み入れるのが嫌なのではなく、純粋にわたしの事を気遣っているのが真剣な表情を見るとよく分かります。

 1人で戦って心細い筈なのに・・・。


「でもこのグローブは・・・」


 ラウジーさんはこのテキンノ・ズオープは悪用する可能性があるから簡単には使わせないって言っていましたけど・・・。


「黒場、お前はこのグローブを渡せと言われたら渡せるのだろう?」

「は、はい・・・」


 ラウジーさんと同じ質問を・・・。

 このグローブを渡す事がそんなにすごい事なんでしょうか?


「ラウジーは反対するだろうが、適合者が現れるまで俺はお前が護身用に持っているのがいいと思う」

「? 護身用にわたしが持つ?」

「ああ。7宝具は危険な兵器だ。装備した途端殺人を犯す場合もある」

「装備した途端ですか? ラウジーさんもそんな事を言っていましたが・・・」


 わたしは使った時はそんな事は無かったですが・・・。


「ああ・・・」


 また辛そうに目に力を入れてつむりました。

 嫌な思い出があるのでしょうか?


「俺の親友だった奴も7宝具を装備した途端、殺人を犯した・・・」

「え?」

「相手は殺されても文句の言えないレベルのクズ教師だったけど、それでも正義感の強い普段のアイツなら殺人まではしなかったハズだった。だがアイツは殺人を犯した・・・」


 黒須君、まるで兄弟が殺人を犯したのを知ってショックを受けているかのようです。


「さらにその後俺まで殺そうとした。『俺は悪くない』と自己正当しながら・・・だ」


 辛そうに話すのを見ると相当そのお友達と仲が良かったんですね・・・。


「7宝具は感情が高まりやすくなる。普段なら我慢できる事も出来なくなる」


<黒須君が急にハルちゃんをジッと見つめてくるのです>


「黒場、お前は一度使ったのだろう?」

「は、はい」

「それで7宝具の危険性が分からないのはお前が安全な人間という証拠だ」


 今度は立ち上がって両手をわたしの肩の上に乗せました。


「黒場、俺は7宝具を手に入れた時、他に適合者が他に沢山いるんじゃないかと思っていた。ただの中学生の俺が使うより、ちゃんとした大人が使う方がいいって・・・だが・・・」


 とても残念そうな黒須君の表情・・・それってつまり・・・。


「・・・その『大人』がいなかったんですね・・・」

「ああ。現に試しに使用した警官も即座に暴れて殺人を犯した・・・」


 黒須君が悪い訳でもないのに自分に責任があるかのように語っています・・・。


「俺が7宝具を使う度にこの世界に自分以上にちゃんとした大人が・・・信用できる人間がいないと不安に思っていた。この世界に頼れる人間がいないんじゃないかって」


 黒須君のわたしを見る目はまるで美術家が名画を見て感銘を受けているかのようです。


「俺はただの凡人だ。教師の理不尽な説教に反論できない弱者だ。そんな俺が適合者で周りの人間が相応しくない・・・それって世の中凡人以下の人間だらけなんじゃないかと不満に思っていたんだ・・・」


 ・・・黒須君は凡人じゃないと思います。

 きっと昨日の体育の授業みたいに理不尽な仕打ちを受けすぎて自分に自信がないだけなのだと思います。

 自分が凡人だと思わないと現実が辛いからそう思うようになったんだと思います。

 黒須君は良い人だって言わなきゃ・・・!


「あの・・・!」

「黒場、お前は信用できる人間だ」


<ハルちゃんが言い終わる前にまた喋りだしたのです。待っててくれればいいのに・・・>


「そんな人間がいた。それだけで俺は十分救われた」


 黒須君、本当に嬉しそうに笑みを浮かべています。


「そんな人間がわざわざ汚れる必要は無い。お前は綺麗なままでいていいんだ。・・・いや、いるべきだ。汚れないでくれ」


 黒須君、わたしの肩に乗せた手に少し力を入れました。

 少し痛いけどそれだけわたしの事を気にしてくれているって事ですよね・・・。


「黒場、平穏な日常を手放す必要は無い。7宝具を使える人間だからこそ、使わない道を歩むべきだ。俺は・・・7宝具を使う事でしか長所を生かせない人間だ。戦場にいるしかない。だけどお前は違う。昨日の体育の授業で俺が説教された後、俺の事を気遣ってくれただろう?」

「あの体育の授業で黒須君が反論しなかった事を聞いた事ですか?」

「ああ。女子で気にしてくれたのはお前が初めてだ。実はとっても嬉しかったんだ」


 やっぱり黒須君、理不尽な仕打ちを受けて辛かったんだ・・・。


「お前には優しさという長所もある。俺はそんなお前に汚い戦場に来てほしくないんだ。黒場、平和な日常に帰るんだ。俺から言えるのはそれだけだ」


 そう言うと黒須君は笑みを浮かべてわたしの両肩から手を放して車内を出ていきました。

 あの笑みは警察に協力しなくても良い・・・安心していいと言っているみたいです・・・。

<ハルちゃん、どうするんですか?>

 黒須君に協力しなくていいって言われて・・・ホッとしている自分がいます。

 わたしの本心は汚い事に手を貸したくないんでしょう・・・。

 エマちゃんからテキンノ・ズオープを受け取った時、平和のために使うと誓っていたけど結局は自分の事が大事な偽善者なんだって・・・。

<そ、そんな事ないのです! ハルちゃんは今日だって悪い奴から友達の長野ちゃんを救ったのです!>

 でも黒須君と同じように戦場に足を踏み入れたら黒須君のように人を殺さなきゃいけない時が来ると思います。

 わたしには・・・できないです・・・。

<ハルちゃん・・・>

 わたし、テキンノ・ズオープをラウジーさんに渡そうと思います。

 黒須君は護身用に持っていてもいいって言ってくれましたけど、わたしみたいな自分本位な人間が持っていてはいけないと思います。

 そうするべきです・・・。



・PM6時10分:県内遺跡跡地

 外に出るとラウジーさんと直実さんがわたしを待っていました。


「ハル、どうだった? クロス=リュウから戦場の概要を聞いた感想は」

「・・・わたしが居るべき場所ではないと思いました」

「そうか」


 ラウジーさんはまるでわたしがそう言うのを予想していたかのような言い方に聞こえます。

<あ、ラウジーちゃんがハルちゃんに近づいてきたのです>

 手にはブリスターパックの中に入った薬らしきものが10個・・・。


「今夜はこれを飲むといい」

「これは?」

「睡眠薬だ。今日はショックな物などを見てよく眠れないだろう」


 確かに人間の腕が吹き飛ぶ光景とかを見て寝付けないと思います。

 あの光景、しばらくは頭から離れそうにないです・・・。

 黒須君がテロリストとはいえ人を殺した事実もショックでしたし、ラウジーさんの言う通り今日は眠れないと思います。


「就寝前に飲むといい。1日一粒だ。即効性があるから直ぐに効くだろう」

「ありがとうございます」

「ただし、これは劇薬だ。かなり即効性があるうえに強力な痛みでも来ない限り目を覚まさないくらいだ。就寝前以外に使用するのは危険だ。就寝前以外に使用する場合はよく考えて使ってほしい」


 劇薬って言われると怖いですけど薬は受け取りましょう。

 本当に今日は色々ありすぎてこういう薬がありがたいです。

 おや、ラウジーちゃんが別の方向を向いたのです。


「リュウ、もう終わったのかい?」


 ラウジーさんが顔を向けている方向を見ると、そこには黒須君がいます。


「ああ。回収班の人達にも報告は済んだ」

「そうか。では帰還しよう」


 ラウジーさんがそう言うとカーゴトレーラーの中に黒須君が入っていきました。


「クロバ=ハル、僕達はこれから警察署に帰還する。君も車にのるといい」


 ラウジーさんはわたしの返事を待たずに直実さんと一緒にカーゴトレーラーに乗りました。

 後処理はさっき黒須君が回収班と言っていた人達に任せて帰還するのでしょう。

 わたしがカーゴトレーラーに乗らないと出発できないでしょうからわたし達も急いで乗りましょう。

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