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傷だらけのバンビーノ  作者: 川崎殻覇
交わる世界、翡翠樹の元に集うのは何者か?
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ま…間に合って…た?

 護がいるであろう『樹海の導き』の九層に辿り着いたけれど…護の姿は見えなかった…ここじゃない…?


 …同調の感覚を研ぎ澄ます。……もっと奥?


 この先は階層モンスターがいる筈だけれど…護の実力なら十層程度のモンスターなら倒せる筈。


 走り続けながら、どうして護の身に危険が及んだのか考えてはいるけれど…どうしてもわからなかった。


 十層に辿り着く、辺りは鬱蒼としていて、苛立ちがさらに高まる。


 階層モンスターを倒さない限り次の階層には進めない…。護の下に駆けつけられない…!


 それなのに目に映る敵はいかにもタフで、ちょっとやそっとな攻撃では倒れなさそうな巨大な樹木のような敵だった。


「…邪魔しないで…!」


 全方向、全範囲の熱…魔力…生物エネルギーを全て奪う。


 私の足元から冷気が迸り、周囲の木々を節々まで凍り付かせていく。


 一分も掛からず鬱蒼とした木々全てが凍り付く…それは、階層モンスターも例外ではなく…。


 体の芯まで凍りついたからだろうか、巨木は何の行動も移さずに倒れ伏した。


「…急がないと…!」


 まだ頭の痛みは続いている…だから、護はまだ生きている筈なのだ。


 そのまま階層を下り、走り続ける…すると、奇妙なものが見えた。


 注意深く観察しなければわからなかっただろう…床に何か黒いシミがついているのだ。


 そのシミを辿り、伝っていくと…そこには…。


 見るも無惨な姿で放逐されていた護の姿があった。


「…ま、まも…る?」


 一見するとただ倒れているかのように見える…けれど、たとえ外傷が無かったのだとしても、その床…天井…壁…護の服装を観察すれば何が起こったのかなんて容易に想像できる。


 胸の赤いシミは心臓を貫かれたあと…足元にあるシミは逃げ道を封じられた証…そして、頭の後ろに飛び散っているのは…………。


 何故?…何故何故何故何故何故!!!!どうして護がこんな目に遭わなければならなかったの!?


 どうして…どうして?…どうして貴方はいつも傷付いてしまうの?


 体から力が抜けかけるが…なんとか踏ん張って耐える…。私のこの感情は、護を救いはしないから。


 だから、この感情を解放するのはあとでだ。それなら…いいよね?


 護の側に近寄ろうとする…そして、不可解な声が私の頭の中から聞こえた。


【……警告、宿主の体に甚大な損傷あり、このままでは生命活動に支障…救助要請、宿主を救う為に手を貸して欲しい】


「だ、だれ!?」


 突然頭の中に変な声が響く…今まで聞いたこともない声だ。


 けれど、その言葉に無視できない言葉があった。


「宿主…?護のこと?…護の生命活動に支障…?……わ、私はどうすればいいの!?」


 この声がどんな存在なのか…それは今はどうでもいい。重要なのはこの存在が護を救うと言ったことだ。


「護を助けられるならなんでもする!…だから護を助けて…!」


【承認、協力感謝する】


 頭の中に響く声は驚くほど無関心な声でそう言い放った…まるで機械のように。


【名称、まりんには異能、氷撃冷奪を所有していると記録している。その能力を使い、宿主に生物エネルギーを与えて欲しい】


「生物エネルギー…?それはわかったけれど、それだけでいいの?」


【返答、問題ない。甦生に必要な要素のうち、二つはそこの者が行った】


 どこを指しているかはわからないけれど、めぼしい人一人がいた。


 護のすぐ側の血溜まりの中で倒れている人…。確認したけれど、もう動く気配はない。


 この人がどうして、何のために護を助けてくれたかわからないけれど…ありったけの感謝を。


「……そう、ならあとで地上に連れて帰ってあげないとね…」


 黙祷はそこまでに、今は護のことを考えないと。


 護の胸付近に手を当て、全力で生物エネルギーを注ぎ込む。…よかった、魔力とかだったらさっきいっぱい使っちゃったから足りるか不安だったけれど…生物エネルギーは有り余っている。


 今までの貯めた全てを使い切ってもいいから…!護…目覚めて!


【………!?名称、まりん。生物エネルギーを与えて欲しいとは言ったが、そこまで急激に与えては…き、危険!?】


 謎の人が妙に焦った声を出す。機械みたいな人だと思ったけど、実は人間味がある人…?なのかもしれない。


【生物エネルギー過剰摂取。死血暴虐強制起動。並びに蝕みの鮮血が異常変質…血壊装蝕を会得。危険性大(ヤッベ…!)……名称、まりん。直ちにそこから離れることを望む。さもないと命が────】


 そこで、ブツッ…と謎の人の声が途切れてしまった。


 何やら不吉なことを少々言っていたけど…何が起きたんだろう。


 けど、そんな疑問は護の指先が少し動いたことにより彼方へと消えた。


「護!?起きたの!」


 その返答かどうかはわからないけれど、護の体は指の動きは大きくなる。


「よかった…!よかった!本当によかった!!あの光景を見て、私もうダメなんじゃないかって一瞬思ったけど…」


 護を起こそうと腕を掴んだ瞬間、あり得ない速度で目の前の護が消えた。


「…え!?」


 辺りを見渡すと、少し離れた場所で護が立っていた。


「護…?どうし…た…の?」


 護の様子がおかしい…さっきまではいつもの護だったのに…今は少し違う。


 護が新しく手に入れた異能、自血暴走を使った時のように、護の体がヒビ割れている。


 そのヒビ割れは、いつもは腕にある筈なのに…今は腕から肩を伝って顔の傷口まで届いてしまっている。


 まるで人外としか思えないその相貌に私は……。


「護!もしかして異能が覚醒したの!?」


 特に何も感じることはないのだった…いえ、一つ訂正。あのヒビ割れ痛くないかな?……感覚を研ぎ澄ましてみると、鈍痛が半身を響き渡っている。


「もしかしてその異能も護の体を傷つけてるんじゃないの?…ダメよ!今すぐ解除して!今、貴方は大怪我を負ったばかりなのよ!」


 慌てて異能の解除をお願いする。…どうしていつもこう…!自分の体を労ってくれないのかしら!


「まも……」


 護に近づこうとした瞬間、急に目の前に護の姿が現れて………。



 ────


 あぁ、頭がいてぇ…。


 脳味噌をぐちゃぐちゃにされてしまっているかのような感覚が俺を襲う。…今、どうなってんだ?


 確か…救援を頼まれて…それが罠で…。……あぁ、そうだ。俺は一回殺されたんだ。


 いや?殺されたのか?…わからない。覚えているのは、確実にあの軍刀が俺の頭を貫いたこと。常人なら死んでいるだろうが…俺なら?


 いや、そんなことはどうでもいい。さっさとあいつを探す。


 殺す、絶対に殺す!無惨に殺す!無秩序に殺す!


 この恨みは絶対に忘れない。絶対に…!絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に!!!!


 殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す!!!!


 皆殺しだ、殲滅だ、撲殺だ、掃滅だ、消滅だ、鏖殺だ!!!


 ⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎の名の下!確実にあいつらを………。


『護?どうしたの?』


 今にも貫こうとしている相手の、見覚えのある微笑みは、例え⬛︎⬛︎の波動に飲まれたとしても、俺の心に一瞬で塗り替え……………。


 意識的か、それとも無意識的か…自分の足が何かに絡み、躓く…どうやら自分の足を引っ掛けて自分を転ばせたらしい。


「ゴブ…!ガハ…!あだ!?」


 相当なスピードで突っ込んでいたのだろう。あり得ないぐらい程ダンジョンの中を転がり続ける。イタタタタ…。


「ま、護ー!?」


 身体中が絶賛超痛い。慌てて転がり続けていく俺を追いかけてくるまりんの姿を見て…心の底から安堵する。


 そして同時に心の底からまりんに感謝する。ありがとな、俺を元に戻してくれて。


 ……あの心境になるのは久しぶりだな…中学以来か?


 目の前の対象全てに殺意を向けて、一切合切を破壊しようとする…。ここだけ聞くとイキリ中学生みたいだな。


 まぁ、実を言うとそんなに間違ってない。溢れ出る激情を抑えきれず、ただただ暴れ回る…。うん、我ながら恥ずかしい。


 ゴロゴロゴロ!…と、転がり続け、ようやく止まった。…体制としてはでんぐり返しの途中みたいな?頭が下で、尻が上の状態で止まった。


 冷静に自己判断しているが…凄え!無様だな!おもろ!


 …本当に笑い事になってよかったと思う。結果としては最高だ。……だけどね?


 向かってくるまりんの足音を聞きながら、ここまでの事情をどう話したもんかと悩む俺であった。…ほんとにどうしよ…。


 けれど、もう、頭の中を掻き混ぜるような痛みは消え去っていた。…代わりにめっちゃ頭を悩まされてるけどな!

護君!復活おめでとう!

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