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傷だらけのバンビーノ  作者: 川崎殻覇
羅刹に挑むは探索者の誉なり
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「さて、お前らには二回目のダンジョン攻略を行なってもらう。前回同様好きなメンバーで取り組みたまえ」


 今日はダンジョン探索の授業…さてさて、周りの様子を見てみる。


 俺の装備は前回同様棍棒とナイフ。そして動きやすい軽装備…そして新たに小物入れを腰に巻いている。


 小物入れの中には俺の血液を入れた試験管が入っている。弱体化効果の異能を使う際いちいちナイフで体を刺して血を流すよりも予め血液をストックしてそれをぶつける方がいいと思ってな。


 もしかしたら異能の効果に有効期限があるかも知れないが…これらはさっき使ったばかりだから今は問題ないだろう。詳しくは後で調べるとする。


 さて、今回も草薙と一緒に探索するかと思って声を掛けようと思ったが…。


「あの…草薙さん? もし宜しければ私達と一緒に行きませんか?」


 …どうやら先客が現れた様子だ。


「…はい?」


「いえ! 別に嫌でしたら構わないのですが…」


 声が小さくなってしまう。

 が、がんばれっ! もうちょっとだけ勇気を出して!


 あとそこ! せっかく同じクラスの女の子(名前は知らない)が勇気を出してるんだから草薙も頑張れ!


「…別に嫌ではありませんよ。是非よろしくお願いします」


 まだ無表情…だが溢れる凄み的なオーラは軽減されている。

 くぅ…! よく頑張ったな…! まだ特訓し始めて二週間くらいなのに…!


「……ッ! はいっ! ありがとう御座います…! …それでは私達の班と一緒に行きましょう。丁度六人になりますし」


 嬉しそうな声を出している女子生徒。

 ……ん? 俺は?


「え?でも桐崎君が………」


 草薙もそのことを疑問に思ってくれたのか、そうやって聞いてくれる。


 だが今回は…ふむ、ここは遠慮しとくか。

 さっきは突然のことで驚いてしまったが、仲間意識を高めるということでは女子生徒だけで固まる方がいいだろう。

 …あと女子だらけだとなんか気まずいし…。


「あー、俺の事は……」


「桐崎君なら大丈夫です! ささ、行きましょ」


「えー?」


 言葉が遮られてしまった。なんだか避けられている様子…。

 まぁ…俺の顔は少し強面かもしれなくもないからな…仕方ないと考えよう。


「あの、あのー……」


 草薙の言葉が段々と遠ざかっていく。…連れてかれてしまったな。


 …さて、周りを見渡すがもうグループが固まり、誰にも声を掛けられそうな雰囲気ではない。

 というかなんか視線鋭くない? まるでお前とは誰も組まねぇよ! と言いたげな雰囲気だ…こりゃあ…派手に嫌われてんな。


 まぁそこら辺は俺の普段の態度が悪いわけで…別に不満とかはない。だって俺が悪いんだもの…。

 ま、こうなったら仕方ない…一人で潜ろ。


 待機している教師に声を掛ける。


「桐崎護、メンバーは俺一人です。今からダンジョンを探索したいと思います」


「一人で? …ふむ、まぁ止めはせんが草薙はどうした? 前は一緒だったろ?」


「それには深い事情がありましてね…まぁ前の探索でこのダンジョンの難易度と引き際は分かっているので大丈夫です」


「ふむ…なら良い、気を付けて進めよ」


「へーい」


 何処か突き放す様に言われる…無謀とお思いか?


 確かにダンジョンに一人で潜る…。言うのは容易いがそれには遥かな危険が付き纏う。

 でもなぁ…多分だけどこのダンジョンの難易度だと俺を殺せないんだよなぁ。


 前の探索の時にわかったんだが、血潮再生の効果は甚大だ。なんたってナイフで刺した傷が一瞬で塞がった。


 どれくらいの怪我まで修復できるかは分からないが、このダンジョンのモンスターは総じて攻撃力が低い。欠損や即死するほどのダメージを負う事はあるまい。


 なんで、少しだけ緊張感を切らしながらダンジョンの中に入る。一層は前回の地図を頼りに直ぐに踏破、二層も同様…。三層も少し手こずったが概ね無傷…で、四層に来たわけだが…ここまでするするーっと来れたのに少し驚いている。


 前の授業で行ったダンジョン探索と同様に学校にいる時にも草薙にダンジョン攻略の知識を色々と教えてもらっているからな…ありがたや…。


 だが、ここからは初見なので、警戒を強める。

 別に今までも警戒してなかった訳じゃないけど、よりね?


 さて、予想通りと言ったところか…四層でもさして強いモンスターは現れず…大体のモンスターの脳天を潰しながら進んでいると次の階層の階段を見つけた。


 …え?速くね?


 …どうやら正解のルートを選び続けていたようだ。後でマッピングの内容を草薙に共有してやろう。


 …でも草薙はダンジョン攻略経験者…もしかしたらもう俺よりも先に進んでいるかもだ。

 …やっぱりこの地図要らないかな?


「むむむ…どうすべきか…」


 一先ずそこら辺の思考は放棄し、階段の前で新たに悩む。

 …別に普通の階層ならば迷いはしても最終的に行くという選択になるのだが…次の階層になると少々勝手が変わる。


 授業で習ったがダンジョンは五回層毎に少々強いモンスターが現れるそう…所謂中ボス。

 そして十層でさらに強いモンスターが出てくる。こるが所謂ボス。

 そのまた更に強いのか二十層で出てくる…こいつは大ボスと言ってもいいだろうな。


 そしてダンジョンの難易度はその大ボスを境に変わっていく。E級は二十階層しかないダンジョンで、そこから二十ずつ階層が増えていくごとにD、C…と階級が上がっていくわけだな。


 そして現在五回層に行く階段の前なわけだが…次は詰まるところ中ボスが出てくる階層。つまり強力なモンスターが中にいるというわけだ。


 俺も蛮勇ではない。簡単に言うと怖気付いてる……。


 えー! こわーいっ!

 ……はぁ。ふざけてないで現実逃避はやめよう。…まじでどうしよう…。


 ほんの少し悩むが、数十秒後には決断に移ることにした。

 こんな場所でクヨクヨしてても仕方ない…こういう悩んだ時にスッパリ決める為にいつもやっていること…そいつで成り行きを決めようと思う。


 懐の中から五百円を取り出す。これは一昨年のお年玉で、次男の兄さんから貰ったものだ。

 お年玉なんて初めて貰ったもんだから今も使わずに大切に懐にしまってある。


 その五百円玉を弾く。

 キンッと音を鳴らし、上空へ舞った後…そのまま地面に落ちる前に五百円玉を掴み取る。


 表なら中ボスに挑む、裏ならそのまま四階層の探索を続ける…さて、結果は?


 掌の中にある五百円を見る。結果は…表か…。


「んじゃあ進むかー…」


 …と、そんな軽い感じで決断した。


 ところで俺ってなんでこんなキザな習慣つけたんだっけ?

 …よく思い出せないが、進むと決めたならさっさと進むに限る。


 そのまま階段を進み、少し広い空間に出る。


 中ボスがいる五回層は今までのような通路ではなくドーム状の空間が多いらしい。

 例外として森の中だったり、水の中という様な空間もあるらしいが概ねドーム状なのだと…。まるで、試練のように、殺し合えとでも言いたげな形状だな…。


 その思惑に乗り中心へ向かう。

 奥の方に下へ続く階段が見えたが、その前に鎮座する存在が一つ…あれが中ボスだな?


 なんだか見たまんまの印象としてはデカいゴブリンって感じだな。手には巨大な直剣が握られている…。あれで斬られたらひとたまりもなさそうだ。


「ブォォォオオオオオ!!!」


「うわっ!」


 部屋に入った瞬間突然ガンダッシュで突進してきた。

 慌てて小物入れの中にある試験管を投げる。


 こえーよ! 目が血走っていて涎を垂れ流して…俺を殺す事に全力って様子…流石の俺も少しビビってしまった。マジで怖い。


 投げた試験管など気にせずこちらに突っ込んでくるデカいゴブリン。当然、試験管が割れ、デカゴブリンは俺の血液を派手に浴びた。


「グモ? ……ガ、ガァァァァ!!」


「お? …へへ、やっぱ用意して良かったな」


 どうやら俺の血液の効力は一日経っても続くようだな。

 ………本格的に効果時間を検証するか?


「ブモ…ブモぉぉ!」


 今はそれよりも目の前の相手に集中だ。

 デカゴブリンは派手に血を吐き出し苦しそうにもがいている。

 …なんか、申し訳ないな。無駄に苦しめてる感が半端ない。


 …これ以上苦しませないためにも棍棒を握る力を強め思いっきり頭を殴る。


「グモォォォ!」


 俺的には渾身の一撃だったが、デカゴブリンは痛がるだけで致命傷にはなりえない様子…。

 俺の力では一撃を与えるだけでは足りないらしく、まだまだ暴れ回る元気がありそうだ。


 痛みに悶えるように腕やら足を振り回すデカいゴブリン…それに巻き込まれないようにその場から離れる。


「グモォォ…グモォォ!!!」


 あらら…あんなに派手に暴れられちゃあ手が付けれんな。手に持つ剣ごと振り回しているから、ちょっとでもぶつかったら大怪我しそうだ。


 まだ俺の血液の効果は続いてるっぽいけど…さっきと同様突進してくるが先程よりもキレがない。

 蝕みの鮮血の説明に載っていた弱体化って文言…正直弱体化なんかではなく毒とか何かでは? と疑っていたが…どうやら痛みを与えるだけの効果だけではないようだ。きっちり相手の力を阻害してくれている。


 デカゴブリンの突進をなるべく引き付け、通り過ぎたと同時に棍棒を振りかぶる!


 ドンっと鈍い音が出るが、全然有効打にはなってない。

 少しは痛がってるとは思うが厚い筋肉に阻まれ致命打にはなり得ていなかった。こんにゃろ…硬すぎだろ…。


 こういう時、刃物だと簡単に裂けると思うのだが…いや、コイツの筋肉を前にしては俺程度が刃物を振るっても意味がないかもしれないな…。


 …無いものを強請っても仕方ない…頭だ、取り敢えず頭を数回ぶん殴ればどんな生物だろうと死ぬだろ。多分…。


 デカゴブリンがターンをし、また突進をしてくる。

 くそぅ…しゃあねぇ!覚悟決めるか!


 デカゴブリンの突進を限界まで引き付け…ここッ!


 ぶつかる直前に横にステップし、躱す…。

 そうして奴がもう一度こちらに振り返る。…それを待ってたぜ。


「オラァ!!」


 振り返った顔面目がけて棍棒を振り下ろす。全力を込めたからな、ちったぁ効くだろ。


 そう思った矢先、足に違和感が走る…まるで何かに掴まれるよう………ッ!!


「あッ…?」


 それが何かわからず。反射的に声を漏らした瞬間、俺の体が後方の壁に投げ飛ばされた。


「ぐぉっ…!」


 ぐるぐると回る視界。壁に激突した瞬間全身から鈍い音が幾つも鳴る。

 口からは血も吹き出し、身体中に激痛が幾つも走った。


(な、何が起きた?)


 体が思うように動かせない…必死に立ちあがろうとするが首を動かすのが精々だ。


 今、見えるのは俺の攻撃なんざ全く気にも留めていなかったゴブリンが、俺目がけて剣を構えて向かってくる様子。


(不味い…っ)


 このまま黙ってここにいればすぐさまデカゴブリンはあの直剣で俺を切り殺すだろう。その前に何とかしなければならない。


(…体は…動くか?)


 普通は動かない。だってこんなにも血を吐き出してる。床に血の池が出来るほど血を流してるんだぜ?

 ……それでもなんとか動かせるんだから、異能者って不思議だよな。


 体に力を入れて立ち上がる。体の傷が急速に塞がっていくのが感覚でわかった。


 立ち上がったのは良いものの…立ち上がるには少し遅かった。


「ブォォォオオオオオ!!!!!」


「ヤベぇッ…!」


 慌てて避けようにも体制が不十分。少しは躱せたが、やはり避け切ることは出来ず…。


 上半身から下半身まで盛大にぶった斬られた。


(…ッ! 痛い痛い痛い痛い痛い!!)


「ゲホッ! ……いってぇ…なぁッ!!!」


 あまりにも辛過ぎる痛みに、猛烈に怒りが湧いてくる。


 激痛を他所にやり強引にゴブリンの頭をぶん殴る。

 先程までの俺ならばこんな破れかぶれの攻撃では大したダメージを出せなかっただろう。

 しかし、結果は真逆…俺の目の前からゴギッと骨が砕けるような音がした。


「グモッ!?」


「あ? あー…そういえばそんな異能もあったな」


 一瞬疑問に思ったが、すぐに記憶を思い出す。

 血を流すほど身体能力が上がる…だっけか?あまりに空気だから忘れてたわ。


「グモ…? ……グ…!! グギギャァァァアア!!」


 そして、骨が折られたにしては過剰過ぎる悲鳴…ふーん?


「骨が折れたのに加え、俺の返り血を浴びて更に大変…っと。…あぁ、本当に不便だなこの異能」


 一々こんな目に遭わなきゃ使えないなんて不便すぎる。それになんだよこれ、モンスターの強さ変わり過ぎだろ…中ボスなのに難易度激変し過ぎじゃない?


 俺の血を浴びて、更に痛がるデカいゴブリン。さっきは少し可哀想と思ったが間違いだった。

 お前はさっさとぶっ殺す! この痛みは高くつくぞ…!


「代金は…お前の命ってなッ!!」


 渾身の力で棍棒を振るう…。デカいゴブリンの頭は果実を潰す様に簡単に弾け、脳味噌が俺の周囲一帯にぶち撒けられた。


 ………あーあ…汚ったね…。しかも肉片が俺に掛かって大変だ。


 …これ、落ちるかな?

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