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流石にあそこで終わるのは申し訳ないので続投です。文字数は少し少ないかな?
迫るメガロ。先程とは違い、一切遠距離攻撃をしてこない。
「グッ…!」
それをなんとか避けながら思案…。
遠距離攻撃をしてこなくなったおかげで攻撃のチャンスは生まれた…が、その代わりに破壊力は激増した。
さっきの氷塊ですら対処を誤れば死!みたいな攻撃なのに、そんなのが優しいと思えるくらいの攻撃…直撃したら死は避けられんな…。
真正面から叩き潰すとか言っといてなんだけど、これ正面から突破は無理だな…。
今のところ、攻撃方法は突進…というか、噛み殺そうとしてくるだけだ。
まるでB級映画のサメ映画のように、凄まじい勢いで俺に迫ってくる。
だが、あの突進をなんとかしなければ先には進めまいだろう…一度、受けてみる必要があるな。
メガロがターンして来た…今度は避けずに待ち構える。
「弾き返してやらァッ!」
進行方向を避けさせるように、側面に羅刹を叩き込む…しかし…。
「おも……チッ!」
羅刹を当ててわかる…生半可の攻撃じゃこいつを止められねぇ…。
一瞬で姿勢を変え、攻撃に当たるまいとするが…やはり待ち構えたせいか、ほんの少し掠ってしまう。
激痛…掠ったとは思えない程の痛みが俺を襲う。
「ぐぅぅぅ……!」
なんとかその場から離れ、体勢を整える。そして傷口を見る。
傷口は奇妙なことになっていた。
俺の肉が一部抉り取られていたのだ…氷鎧にあたった場所よりも広範囲に。まるで無理矢理引きちぎられたかのように…。
何故だ?なんで掠っただけでんな大変なことになってる?……少し考える。
あの氷の鎧…あれにはメガロが生成する冷気が全て込められていた…つまり、あり得ないほどの冷気があの鎧には注ぎ込まれている。
もう一度メガロが迫ってきてたので、避ける…その際、あるものが見えた。
メガロの氷鎧の外側に何やら変なものがくっ付いている…その見た目はまさに冷凍した肉製品といったところか?
………嫌な想像…そういうこと…?
……検証してみてぇな…なんか使えるもんは…。
辺りを見渡すが、使えそうなものはない…そういや、裏葉が昨日の飯の残りを持ってたような?
「裏葉ぁ!なんでもいい!狩った生物を寄越してくれ!」
そう叫ぶと、遠くから『分かった!』という声が聞こえ、すぐさま魚が飛んでくる…多分投げたのはまりんだな、裏葉にはこんな距離投げれんだろう。いつの間にか裏葉を守れる位置に戻っていたようだな…有難い…。
魚を受け取り、メガロの前に待ち構える。そしてまたメガロがやって来る。
……段々速度が上がってきてるんだよな…そのうち避けれなくなりそう…。
だが、今ならまだ大丈夫、タイミングよく受け取った魚をメガロに投げつける………後で食べるからな!
投げた魚はしっかりとメガロにぶつかるコースを飛んだ。
そして当たった瞬間…瞬きよりも速く凍りついてしまう…そして不恰好にメガロの側面へと貼り付いた…あー…予想当たっちゃったか……。
つまり、あの氷鎧は触れたもの全てを瞬間凍結するのだ。
その速度は尋常ではない、普通物はあんなに速く凍らないからな?
俺が受けた傷が深い理由もわかる、あの氷鎧に触れた瞬間、俺の体は凍結したが、そのままメガロが通り抜けたから、凍っていない肉と凍った肉が無理矢理分離…その結果があの肉が抉り取られたような傷というわけだ…。
多分あれでも傷は軽かった方なんだろう。あの魚が凍結する速度からして、本来なら俺も半身ぐらい凍りついてる筈なんだが…まりんからもらった何かの肉?のお陰だな…本当に感謝しとこう。
「……我ながらちょっと無謀だったな…もう少し考えて行動するべきだが…」
そうも言ってられん…この調子のままだといつかは直撃してしまうだろう。
しかし突破口は一つだけある。
あの状態になる前に付けた傷…現在メガロの左目は使えなくなっている…そこに死角がある筈だ。
「っしゃ!ぶっ飛ばしてやる…!」
集中…迫り来るメガロをもう一度待ち構える…気分はバッティングセンターか?…やったことないけど。
時速は知らん、取り敢えず当たったら俺が弾けるくらいの速度ということはわかる…が!輪廻の居合よりは遅い!
その速度に慣らされてる俺ならば…超強化されている今の俺ならばッ!
「合わせることだって出来るんだよ!」
見よう見まね、輪廻の居合術をパクる。
その一閃はメガロの死角を突き、左目付近の氷鎧を剥がすことに成功した。
直接当てても無意味ならば、当て方を考えるだけだ。
氷鎧を引き剥がすような角度で羅刹を叩き込む…その際、俺に攻撃が当たらないように調整する。
「…………!!!」
「ふはははは!何回も黙ってやられるほど俺ぁ大人しくねぇんだよ!」
その苦悶の表情を見ると危険を冒した甲斐があったってもんだ…それより。
「いいのか?立ち止まって、俺から仕掛けるぞ?」
言う前から羅刹を叩き込んでいるけどな…しかし硬い…が、それでも今の羅刹ならこの氷鎧を貫通して攻撃できているようだ。
幾度か当てられたが、また距離が離されてしまう…チッ!右目も奪っときたかったんだが…。
まぁいい、次に備える。
一回対処できたんだ…それを繰り返しまくったらいつか勝てんだろ。
失敗=死、なら失敗なんて考えねぇよな!
「………………!!!」
剥ぎ取った氷が元に戻る…いいぜ?何回でも引き剥がしてやるよ…。
そう思い、羅刹を構えるが、攻撃はやって来なかった…あん?
対峙するメガロを見る…その身は更なる変化を遂げていた。
なんてことはない、ただ、透明色な氷の鎧から赤色の氷の鎧に全身に置換している。
氷鎧が赤くなっていく度にメガロの存在感が更に上がっていく…つまり…。
「この一撃に全てを賭けるってわけか?……いいぜ、付き合ってやるよ…!」
頭のいい奴ならどうにか避けたり防いだりする方法を思いついたりするんだろうが…俺はそこら辺狂ってるからな。
賢者になるより愚者になる方が俺には合ってる…それに……。
「テメェの全力に耐えられないようじゃ…まりんを救うなんてとてもじゃねぇが言えねぇからな…お前を乗り越えて、俺がその役目を請け負ってやる」
こいつは今までまりんのことを守り続けていた…そんな奴の全力…受け止めなきゃ漢じゃねぇ!
「羅刹…俺の血をもっと吸え…奴に勝てるまでな…!」
鞘に羅刹を収め、言葉を放つ。
多分今の状態じゃ足りない…メガロと比べると絶対的に能力値が足りねぇ…それを補うために道具を使ったんだ。
羅刹の棘が更に本数を増す…感覚的に血液の喪失量が加速度的に上がる。……キッツイがまだいける!いや、勝てるまでいくぞッ!
血を吸わせ続けたからか、羅刹の刀身は紅を超え、深紅に染まっている…ここまで血を吸わせたことがないから、俺もどの程度威力が出るかわかったもんじゃない。
遠く離れた場所…先に仕掛けてきたのはメガロの方だった。
「血───
まるで爆撃のような音……瞬きをする間もなく、こちらに詰め寄ってきた…だが、俺は既に振り切ってるぞ!
さっきまででもギリギリだったんだ…まだ追っていたら確実に間に合わない…つまり、予測するしかない。
タイミングが合わなかったら遅くても速くても死ぬ…だが、これを乗り越えねぇと勝てるわけねぇよな!
───装!!!!」
羅刹とメガロが綺麗に搗ち合う…得てして俺の感覚はメガロを捉えていたようだ。
瞬間、大いなる力の奔流が俺たちを襲う…意識が飛びかけるが、なんとか耐える。
あとは、根性で耐えるしかない…次第に皮膚…目…肉体の柔らかい部分から剥がれ落ちるように消し飛んでいく…これ程の力の奔流…そうなるのも致し方ないだろう。
今の所は拮抗している…メガロを羅刹で受け止められている。
「おれ……は……!」
圧力で喉がうまく動かない…それでも言わずにはいられなかった。
「まけねぇ!!!」
鼻腔が焼き尽くされ、鼻血も止まらない…目も潰れて見えないから、目の前のメガロがどんな姿をしているかもわからない…それでも!
「まりんは……俺が!………守る!」
拮抗した力に決着をつける要因はただ一つ。……それは……。
「だから……てめぇは!……すっこんでろ!」
気力、根性、気合い……それらを全て統括し、想いで勝敗が決まる。
そしてそのまま拮抗が崩れ、赤い奔流が全てを飲み込んでいく。
……そして、一つ、大きな音がした。……まるで何かが壁にぶつかり、破砕されたような音だ。
拮抗の中心には一つの影…禍々しき太刀を振り切り、その状態で固まっている…しかし、次第にその姿を変え、太刀を杖代わりとし、片膝を突いている。
見た目はボロボロ、無傷な場所なぞ存在せず、普通の人間なら放っておけば確実に死に至るであろう数の数々…傷だらけの少年がそこにいた。
だが、どれだけ傷付いたとしても、そこにある事実は変わらない…力と力のぶつけ合い…最後の最後で勝ったのは……。
「…………ゴボ…!…はぁ…ッ……俺の…勝ちだぜ?」
桐崎護の姿だけが、そこに残っていた。




