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あれから数時間ほど探索を続けて二階層を超え、四階層に行ったあたりで折り返すことになった。
マッピングも並行して行っていたのですんなりと帰れた。ちなみに今潜っているダンジョンの最終階層は二十階層…だっけか?
道中のモンスターは大体俺が倒した。特に危なげもなく対処できていたから草薙は戦闘に加わっていないが、戦闘が終わった後に改善案を出されたり、体の動かし方の修正もされたりした…これもしかして金払う案件なのでは?
…と言ったら『私は人に教えられるほど技術は高くありません。所詮は未熟者の素人意見ですし、私がこうしたらいいかな? と曖昧に思っていることを言っているだけですので…』と言われた。
全然素人じゃないし、技術も俺から見て遥かに高いと思うが…実際どうなんだろうか? もしかしたら上には上がいるのかもしれない。
それはさて置き、現在位置はダンジョン出口の近くだと思われる。そろそろ外に出られそうだな。
今回の授業ではダンジョンに慣れるという所から始めるらしい。なので指定時間になったら例え全然探索出来ていなかったとしてもちゃんと引き返すようにと言われていた。
まぁ初めてのダンジョンだからな、それで怪我して引退ってのも勿体無いし、いい塩梅の内容だと思う。
何故教師が付きっきりで指導しないのか? とも思ったが、考えてみればダンジョンは中々に狭い。集団行動するならばせいぜい五、六人が精々だろう。
あと、単に教師の数が少ない。
肝試し方式で五、六人で班を決めて、そこに教師が随伴して行動する…なーんてしたら一組に時間が掛かりすぎるってわけだ。
それならある一定のポイントで待機していて異常事態が起きたらすぐに駆け寄るというのがいいらしいな。俺達も数人の教師と出会い、四層に入った所で引き返せーと言われたからな。
どうやら現在教師は五階層にはいないらしい。まだ初めてのダンジョンだからな…そこまで潜る生徒はいなかったんだろう…。それに時間も丁度良かったので引き返したって訳だ。
「もうそろそろ出口ですね。ダンジョン探索は出口に戻るまで続きます。最後の最後まで油断せずに行きましょう」
「了解…といっても割と楽に探索できたな、やっぱり経験者がいると違うもんだなぁ」
しみじみと呟く。
「…確かにそうですね。私がいたから少しは楽だったとは思いますが、桐崎君もしっかり頑張っていましたよ。…素人とは思えないぐらいです」
急に煽ててくる草薙…ちょっと照れる。
「へへ…そう言ってもらえると自信出てきたな」
「そ、そうですか? それならよかったです」
こんな会話をしていても警戒は怠らない。…が、特に波乱も起きずに普通に出口に着いた。
出口には俺たちの他にも生徒が座り込んでいる。やけに疲れている様に見えるな。
まぁ俺とは違い、素人同士で探索したんだ。動いた以上にモンスター達と相対したことによる心労が溜溜まったのだろう。
先生に到達階層を伝え、俺達も待機する。
その間にもちらほらとこちらに視線を向けている奴が多数いる。
…俺達を見ながらコソコソ話しているね…お? 何て言ったんだろ。
ふと気になり聞き耳を立てていると、あいつらの反応としては俺達が四層まで行ったことについて驚いている様だった。
どうやら他の連中は大体は一層、最高でも二層が精々らしい。…ま、俺はキャリーされただけなんだけど…。
ビビット脳内に電流が走る…。
これはチャンスかもしれんな。ふむ、ここは一つ芝居をしてみるとしよう。
こほんと咳払いをする。えー、皆のもの…とくと拝聴せよ。
「いやー…草薙さんはやっぱり凄えや。俺みたいな足手纏いがいてもダンジョン探索に慣れている…! しかも優しくどうすればいいか教えてくれたし、草薙さんと探索できてラッキーだったな」
なるべく違和感がない様に言ってみるが、どうだろうか?
周囲の反応を探る。
男の方はでもぅ…やっぱりぃ…俺達が誘っとけばよかったぁ! …とやけに女々しい反応をしているが、女はほんとかな? なら次は声掛けてみようかな…と、そんな反応をしていて中々に好印象だ。
少々わざとらしかったが…概ね良い反応だな。
「やっぱりあいつは草薙さんにおんぶに抱っこじゃねぇか…異能が四つあるって持て囃されていたが、数があっても使いこなせないようじゃ無意味だな…」
「結局は異能は使う人間によって変わるよな。なんであんな奴が最初から四つも異能を持ってるんだ?」
「さぁな、でも宝の持ち腐れだな…あんな奴と組まされて草薙さんが可哀想だ。…俺が草薙さんとパーティを組めば良かったぜ」
「しかもあいつ入学式遅刻したんだろ? んな適当な奴と一緒にダンジョンに入るなんて…草薙さんが可哀想だ」
聞き耳を立てていたから、そんな温かいお言葉も少々頂いた。
んー…ま、いっか! 気にすることでもなし。
草薙はまだ硬い表情だが心なしか最初よりも柔らかくなっているように感じる。
ダンジョン内で会話の練習や、表情筋を動かせ等のアドバイスをして、帰りはその練習をしていた。…心なしかその成果が少し出てきたかもしれん。
会話は経験がものを言う。経験値を積まなければいつまで経っても人と話すのは難しい。なのでとにかく経験値を積む必要がある。会話術とかの本とか読んでも意味ないんだよな。
つまり経験値が足りてないだけなんだよ草薙は…でも要領がいいんだろうな。俺との会話も最後の方では自然にできていた、会話に慣れるまであと少しさ…。
さてさて…この後はどうするんだろうか。…取り敢えず先生の指示待ちだな。
「………よし、最後の生徒が帰ってきたな…。これで授業は終了する! 殆どの者が一層もクリアできなかったがそれは全く問題ない。これから学び、進んでいけばいい。中には四層まで到達した者もいたが間違っても自分はいける! …とか思って真似するんじゃないぞ。個人個人、進む速さはそれぞれだからな、自分の力を誤って不相応な真似をしたら早死にするぞ」
と、そんなこんなで先生の言葉。…その一言は俺に刺さるからやめてくれ……。
それは他の奴もわかっている様で、俺に視線を向ける…あぁ!めっちゃ見られてるぅ!!
おいおい、そんなに注目されたら照れるだろ? 勘弁してくれ。
…そんな皆の反応に草薙だけが気付いていない様子…なんのこっちゃとキョロキョロと周りを見渡している。
表情筋を動かす練習をしたからかちょっとは柔らかくなっているが、それでも無表情と言える表情だ…。
その草薙の表情に周りは睨まれてる!? …と勘違いし、俺の方を見るのも一斉にやめた。
ふぃ…おちつくー。やっぱり視線を向けられるのって苦手だわ…。
さてさて、今日のカリキュラムはこれで終了。さっさと家に帰るかー。
「あの…桐崎君、少しいいでしょうか?」
「ん? どした?」
「いえ、今日は初めてクラスメイトと一緒にダンジョン探索をしたので…よかったら打ち上げを一緒にやりませんか?」
打ち上げ? …ほん、打ち上げかぁ。
「んー…うん。まぁ別にいいけど打ち上げは流石に大袈裟じゃね? そこまで大したことじゃないし、これからも授業として沢山あるだろうに」
少々謎だ。別に否定しているわけじゃないんだけどな。
「いえ、あの…ずっと憧れていたんです、打ち上げというものに、そういうのに縁がなかったものですから」
そう言えばあまり友達がいない…とかなんとか言ってたな…。
「なるほどな、んじゃどこ行く? 適当なファミレスにでも寄るか?」
「……っ! はいっ!」
そんな打ち上げの誘いを受け帰りのバスに乗る。
今日一日で草薙とだいぶ仲良くなったな。…隣の席の人と仲良くなれて本当によかった。これからの学園生活も明るくなるだろう……明るくなるといいなぁ!
「あ、そうだ、せっかくですしLOIN交換しませんか?」
LOIN?あぁ、最近のメッセージアプリだったか?
「あ、ごめん。俺スマホ持ってないからLOIN交換できないんだわ」
「えっ!!」
「代わりに家の番号教えるからこれで許してくれ」
いつも持っているメモ帳を一枚破り、さらさらーっと番号を書いて渡す。
我が家に個人でスマホを所持するなんて贅沢は許されない。両親は仕事用で持っていて、兄や姉達は自分で買っている。
ふっ…中学はそれで少々苦労したが、今はもう気にしない事にしている。無理なもんは無理!そう思わなきゃやってらんないね!
…大人になったもんだな…俺も。
そんなふうに雑談をしながらバスの中を探すこと数十分。俺達は元いた学校に到着していた。
今日は授業はもうないし、このまま直帰していいことになっている。…武器はちゃんと預けるよ?
「んじゃ行くか」
「え、えぇ、はい」
俺は借りていた武器を返却し、草薙と共に道草を食う。
打ち上げ場所は俺の要望により安くて美味いファミレスで打ち上げとなった。
草薙との会話は思った以上に弾み、更に仲良くなれた…気がする。