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傷だらけのバンビーノ  作者: 川崎殻覇
永遠に抗うサブマリン
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 止めようと思った。


 多分、あの子は私を守る為に顕現した。…当の私はそう望んでいないけれど…。


 いつもは絶対に出さないのに…どうして出て来てしまったのだろうか…おそらく母体からの影響もあったのだろう…きっと、簡単には殺させてくれないのだ。


 あの子…メガロとは長い付き合いだ。私がここに閉じ込められてからの付き合いとなる…言わば…親友に近いかもしれない。


 言葉はわからない、それでも絆を育んできた。


 感情も読めない、それでも一緒にいてくれた。


 そんなメガロが…護と戦っている。どちらも私にとって大切な存在だ。


 メガロは私と共にあってくれたもの…護は…私に終わりを齎してくれる人…。


 どちらも私のことを考えてくれて、そして命を削りあって戦っている……昔見た少女マンガのヒロインなら、私のために争わないで…とか言う状況かもしれない…とてもそんなことを言う気分にはならないけど…。


 どうしてそんなことを言える?根本の原因は私にあるのに?


 そんなこと言ってどうする?どちらの願いを叶えることはできないのに?


 どうして…どうして…思考は空回り、そしていつも思うのだ。


 どうして私に感情(想い)があるんだろう……って。


 機械のようになれたらよかった…それならこんな苦しみはなかった。


 でも…機械のようになったら…私は護達を傷付けていたのかな…いや、今も傷付けているか…。


 護の傷は深い、いくら再生能力があるといっても……。


 と考えるけど、護の顔を見て驚いてしまった。


「笑って……てる?」


 そう、笑っているのだ。ジャベリン•オルカやその前の戦いの時とは違って、その頬の輪郭は吊り上がってる。


 護は食事が絡まない時の戦い方は冷静に行っていたはずだ…それなのに今は…あんなに楽しそう…。


 お腹は抉れて辺は血塗れなのに…痛みや辛さがあるはずなのに…どうしてあんなに笑っているんだろう?


 わからない…わからない…護は辛くないんだろうか、こんな理不尽な状況に追い込まれているのに…。


 この状況を打開する方法は思いついている。私がメガロの所に行けばいいのだ。


 そうしたらメガロは私を安全な場所に運ぶはず…戦いを中断するはず…その隙に護達は地上へと戻ればいい…その為の準備はもうしてある。


 昨日からメガロを海上に浮上させてある。近くにダンジョン探索者が沢山いる場所を選んだから、きっとすぐに見つけてもらえるだろう。


 そう…あとは…私が諦めるだけでいい、このままじっと…来ない希望に縋って…いつもの場所(深海)に帰るだけ…それなのに…止めようと思うのに…護の顔が目に入ると、できなくなってしまった。


 勝てるはずのない戦いをさせてしまっている、無闇に傷付けてしまっている…なら、止めるべきだ…止めなくては…ならない…。


 でも、懸命に戦っている護を見て、未来を幻視してしまう…メガロを打ち果たし、私を救って(殺して)もらうという幻視を…。


 メガロは私のダンジョンのリソースというリソースすを殆ど吸収した文字通り、このダンジョンで最強の存在…勝てるはずないのに…あの笑顔を見ていると、胸な奥から何かが湧いてくる…。


 どうしたらいいのだろう…このまま護を信じればいいのか…メガロを止めればいいのか…。


「まりんお姉ちゃん!」


 後ろにいる裏葉ちゃんに声を掛けられ、少しビクッとしてしまう。


「う、裏葉ちゃん?」


 裏葉ちゃんの側にはジャベリン•オルカの幼体を備えさせている…この子達はまだ子供だけれど、護衛程度はできると思ったから。


「まりんお姉ちゃん…護お兄ちゃんを信じてあげて」


「え?」


 その言葉の意図がわからず、少し面食らってしまう。


 いや、意味はわかるのだ…でも…何故裏葉ちゃんがそれを言うのかわからない…だって、それは私の胸中の悩み…裏葉ちゃんが知る手段はないはずだ。


「ううん…わかるよ、だってみんなと一緒にいたんだもん、表情を読めば、考えてることなんてすぐわかるよ」


「え…エスパー!?」


 裏葉ちゃんの隠れた特技に驚愕する…え?表情でわかるものなの?


「それにまりんお姉ちゃんわかりやすいよ?」


「それ以上心の中を読まないでくれると…嬉しいなぁ…」


 情けない…自分よりも遥かに歳下の子に筒抜けになってしまっているなんて…お姉さん…失格かな?


「じゃなくて!お兄ちゃんを信じてあげて欲しいの!」


 話が戻る。


「……裏葉ちゃん…」


 信じてあげてほしい…か。


「護お兄ちゃんは、今まりんお姉ちゃんの為に死力を尽くしている…だって、今までと全然違う戦い方だもん」


「うん…それは知ってる…護は本来、もっと冷静に戦っていたはず…どうして、あんなに身を削る戦い方をしてるんだろう…」


 どうしてもわからないのだ…彼が、あそこまで必死になって戦う意味が…。


 聡い彼なら私を差し出せばこの戦いは収められるとわかるはずだ…なのに…。


「それはね…きっと、まりんお姉ちゃんに見せたいからだと思う…希望を」


「希…望?」


 どういうことだろうと、裏葉ちゃんの目を見る…真っ直ぐなで、キラキラしてる目…私も…このくらい輝いていた時もあったのだろうか。


「裏葉はまりんお姉ちゃんの言ってみ意味がわからない…どうして死のうとするのか…どうしてそんなに諦めているかわからない…きっと裏葉には理解できない程辛いことがあったんだと思う…」


「裏葉ちゃん…」


「護お兄ちゃんは裏葉に『任せろ』って言った…きっと、なんとかする方法があるんだと思う…まりんお姉ちゃんが、未来を生きる方法が」


「未来を…生きる?」


 余計に意味がわからなくなってしまった…護は…私を殺す為に戦ってくれている筈では?それに…未来?私に…そんなものは必要ない…欲しいのは終わりだけ。


 色んな思いが頭の中を巡り、狼狽してしまう。でも、裏葉ちゃんは続けて言う。


「だって、仲良い人を殺す為に自分より強いモンスターに挑むっておかしいもん」


 衝撃…というより、頭から抜け落ちていた事が返って来た。


 護は私と出会えて嬉しいと言っていた…その言葉は嘘とは思えない…私もそう言われて本当に嬉しかったのを覚えている。


 私達は仲が良いと言っても良い関係だと思う…出会ってまだ数日だけれど、濃密に過ごしてきた数日だ…そんな存在を救うという名分があれ、殺すという事実は変わらない…その為に、あのメガロに挑めるか?


「……無理だと思う…でも…それならどうして?」


 結局そこに戻ってくる…彼は…どうしてあんなに必死に戦っているのだろうと。


「裏葉はなんとなくわかるよ…でも、それを言うのは裏葉の役目じゃない…だから、まりんお姉ちゃん、見てて?護お兄ちゃんの戦いを」


 わかる?裏葉ちゃんはわかるの?…それに…。


「見てて…か…」


 そう言われ…前を見る…胸中の疑問は他所に、親しい二人が戦っている。


 この戦いの行く末がどこに行くのか…誰もわからない…けど、最後に…一つだけ後悔が溢れ出す…。


「……護…メガロ…二人とも…死んで欲しくないなぁ…」


 叶わない願いを吐露しながら…戦いを見続ける。二人の戦いは…次のステージに進むのであった。



 ────


「だらっしゃ!」


 光線…光線…また光線…そして銃弾の雨…ふざけるのも大概にしとけよな!


「あぁ畜生…!鬱陶しすぎる!」


 突然姿を現した兵装達…俺はその対処に目を回していた。


 あの一撃から碌に近づけていない…こりゃ完全に近距離を警戒されてるな…。


 そして、俺に遠距離攻撃の類がないとも知られている…そら、基本的に近付いて攻撃してたから、わかるだろうな…。


 徹底的に俺の間合いの外から攻撃されていてどうしようもない…一見すると詰みに近い盤面だろう…だが、実はなんとかなったりする。


 実はあの一撃で、血装のチャージが溜まっている…それを使えばあの兵装関係なく斬り裂けるだろう…いや…そんな簡単にいくか?


 もし倒せなかったらどうなるだろうか…またもやこの盤面に戻り、ずっと一定の距離を取られるだろう…そうなったらマジのゲームオーバー…勝つ術がガチで無くなる…。


 なら、最優先はあの兵装を全て叩き落とす事…いや、全部じゃなくていい、優先すべきは…。


「そのうざってぇ!砲身!光線銃じゃい!」


 戦況を打開するべく走り出す。迎撃の為に、幾つもの銃器が発射されるが…。


「うっしゃ!おら!光線以外は慣れたんだよ!ボケ!」


 避けたり、弾いたり、斬ったり…様々な方法で銃撃の雨を避け続ける。


 幸い、俺には再生能力でゴリ押しができる…足や頭…重要器官に当たるコース以外は無視しても大丈夫だからな、なんとかなる。


 後ろに下がりながら攻撃してくるメガロのケツを追いつつ、とうとう端に追い詰める。


 さて…ここで選択肢…追い詰められた奴はどうするでしょうか?迎え撃つ?それとも横に避ける?正解は…!


「ふははははは!わかってるんだよぉ!!」


 脚に力を溜め、全力でジャンプする。そう、答えは上に逃げる…だ。


 この空間は人間なら地上、海棲生物なら水の中というふうに、二つの要素が入り混じっている…俺は勿論人間、この空間の特性により地上と同じような環境となっているが…こいつは海棲生物…なら、上に泳ぐことも可能だ。


 メガロがギョッとする…そらそうだろ。逃げた先に敵がいるんだからなぁ!


「お前の失敗は一つ!俺のことを見ていなかったことだ」


 匂いで居場所がわかってはいたんだろう、正確に俺の場所を狙ってきていたからな…しかし…。


「お前はわからなかったろ?俺が脚に力を溜めていたことを…匂いで動作がわかるわけないからな!」


 もう避けられない、その硬直は命取りだぜ…!


「血……装!!」


 羅刹から放たれるその横薙ぎの一線は、メガロの装備していた兵器を粗方消し飛ばし、ついでに中々のダメージを叩き出した。


「………………ッ!!!!」


「っし!第一目標達成!」


 腹側にある兵装は少し残っているが、そこは問題ない、光線銃は背中側にしかなかったからな。


 メガロもこの一撃は相当効いたようだ…その巨体を支えられなくなったのか、どんどんと沈んでいく。


 これは…やったか?


 今の奴は結構なダメージが入っている筈…なら、畳み掛けた方がいいかもしれん。


 追撃を入れるべく、着地した後、メガロに近づくが…メガロの体に変化が起きる…えぇ?また兵装増えるの?もしかして詰んだ?


 少し絶望してしまったが、兵装が増える…ということは無いようだ。何故なら、メガロの体に生えている兵装が全て破壊?というか、体の中に収納されている…どういうことだ?


 その次に気付いたのはメガロの体の色が変わりかけていること…灰色?や、黒色の部分が真っ白に変わり始めている…一見するとアルビノと思えるような状態だが、アルビノ独特の赤い目とかは確認できない…単純に色が変化しただけか?


 そして、大気の状態が変わる…正確に言うと、寒くなってきた…。


 そして、バキッバキッ…と何かが割れる音…そして、メガロの体が少しぼやけて見える…これって…。


「………………!!」


「おいおいおい…なんだ…?その姿…イメチェンにはまだ早いんじゃねえか?」


 さっきも兵装をコーディネートしてたんだし…と続けようと思ったが、悪寒がして、すぐに回避行動に移る。


 飛んできたのは透明な礫…わーお、その状態でも遠距離攻撃手段あるのね…?くそったれ……!


 目に映るは分厚い氷を纏ったメガロの姿…宙には氷塊が幾つも浮かんでいる…。


 目の前に映る光景…それは幻想的でもあったが、それ以上に絶望の眺めでもあった。


 ここ五十年…つまりダンジョンが出現してから新たな物質が発見された…それは何も無い場所に火を起こしたり、水を出したり…つまり、今までの法則とは全く別の現象…それに用いる物質を魔素と言う。


 前に言った炎を出すという異能の場合、その魔素を自身の魔力と呼ばれる力に変換し、炎を出すらしい…詳しいことはよく知らん、これは一般的な授業の内容だしな…それに、俺は魔力があるかわからんし、殆ど身体能力系だから…そういったものには魔力は使わないのだ…。


 だが、俺が言いたいのはそういうことじゃない…言いたいのは…。


「お前…魔力持ってんの?」


 それ即ち…絶体絶命?


 降り注ぐ氷の礫や槍を対処しつつ考える…。


 これ、本格的に勝てなくなったかもしれん…と。



 ────


「なに…あれ…?」


 裏葉ちゃんの呟き…私はその原因がわかっていた。


 氷轟…メガロに備え付けた全力の形態…氷の魔力を身に纏い、相手を殲滅する。


「裏葉ちゃん!ちょっとカバン貸して!」


「え、うん…」


 おそらくだけど、護と氷轟状態のメガロは護が不利だ。


 護の異能は再生能力…だけど、肉体が凍結する程の寒さで傷は再生されるのだろうか?…予想では不可能…とまではいかないけど、再生速度が遅くなったりすると思う。


 それに、寒さというのは生物にとっては敵だ。体が縮こまって動きが鈍くなるし、何より手が悴む…それは護の戦い方は刀を振るう近接…きっと、このまま放置したら最悪な結果になるだろう。


 カバンの中のライター代わりにしていたチンアナゴ…ニトロアナゴを取り出す。


「…散々力を借りたけど…ごめんね…」


 調理用のナイフで、ニトロアナゴを捌く。


「まりんお姉ちゃん?何して…え?」


 ジュー…という肉が焼ける音がする…激痛を抑えながら、急いで作業を続ける。


 この子の発火原理は単純、恐ろしく熱くて、可燃性の血を、口内で摩擦することにより火を吹き出しているだけだ。


 血が熱いのは外敵から襲われない為…という設定で創ったけど、本当の理由は寒さ対策で創った子だ。


 この子の血肉を食べれば、体温が急上昇し、寒い所でも普段通りの活動ができるようになる…


 だって寒いのは嫌だったから…この暗い海の底…震え続けるのは嫌だったから…暖かさが欲しかったから…我ながら不思議な生物を創り出してしまったと思う。


 それでも、今、護の力になるのなら…。


「出来た…!」


 全然不細工で、料理とも言えないような出来だけれど…取り敢えずは完成した。


 もし…私に先があれば…料理の練習ができればいいのに…そんな空想が浮かんだが、すぐに脳裏の端っこに寄せる。


 護の下に急ぐ…変な話だ。仲間()を助ける為に、親友(メガロ)に不利なことをしている…。


 でも…ごめんね、許してほしい…貴方の邪魔をすることも…護を助けたいという、自分の心を優先することを…。…もしかしたら、護もこんな風に悩ませちゃったのかな?……もし、そうだとしたら本当に酷なことをさせてしまったものだ…でも…。


 それでも私の願いは変わらない。変わらない日々…そして変わりゆく思考…永劫に続く日々に、抗い、終止符を打ってやるのだ。


 だから…お願い…勝ってほしい。私の絶望を振り払って、私に希望を見せてほしい。


「護!」


 名前を呼び、手に持つ肉団子を投げた。護はそれに気付いて─────。

最後めっちゃ悩んだ。

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