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傷だらけのバンビーノ  作者: 川崎殻覇
永遠に抗うサブマリン
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安部菜々さんの誕生日なので二回目の投稿です。誕生日おめでとう!

 翌朝、体の調子も戻り、朝食を食べた後に出発する。


 出発する前、裏葉がもう少し進むペースを落とそうと言ってきた…ありがたいが却下する。


 今日でダンジョンに閉じ込められてから三日…まだ三日とも言えるし、もう三日とも言える。


 まだ三日、されども三日だ、このような日々が三日を超え、十日、一ヶ月、半年と続いていったらどうなるだろうか…想像に難くない、きっと壊れてしまうだろ。極限状態でずっと過ごせるほど、人間は強くないからな。


 それに……折角の夏休みの大半をこんなダンジョンで過ごしたくないから…無茶もするさ。


 現在二十一層、俺にとっては未踏の領域だが…ペースを落とさず進めていた。


 過度な自信は毒になるが…それでも俺以外の人間が俺を信じているいる以上、俺も自分を信じるしかないからな…その自信が俺をどんどん先へ進ませていた。


 ものの数分で二十一層を踏破し次の階層へ…そんなことを繰り返してとうとう三十層に辿り着いていた。


 我ながら速いペースではあるが…そこで違和感が出る。


 これ…もしかして俺のペースが速いわけではなく、ダンジョンの難易度が低いのでは?


 感覚で悪いが、本当に手応えが少ないのだ。ボスを除いて雑魚敵が精々ボブゴブリン程の実力しかないように感じられる。


 二十一層に入ってもだぞ?それに二十五層の中ボスもそうだ、確かにドリルカジキよりは強いが、任侠ゴブリンの強さには届いていない…。流石に違和感が勝つ…それにモンスターもあまり積極的に襲ってこないし…まるでダンジョンが俺に攻略されたがっているような…。


 思考もその辺に、休息も終わったので三十層のボスの扉の前に立つ…さて、今度はどんな珍妙なモンスターなのか…知りたくないような、少し楽しみなような…。


 最初はふざけんな!生命のうんたらかんだら!とも思ったが、元来男の子は合体ものが好き…ドリルとカジキの組み合わせもなんだかんだ好きな部類である…相手にするのは本当に嫌なんだけどね。


 扉を開き先に進む、前と同じように、裏葉とまりんを先頭の余波が届かない場所に居てもらう。


 さて…それではご尊顔を拝謁させてもらおうか…。


 そこで違和感…なんか…いつもよりもスペースがだいぶ広いような…?


 まるで、それほど広いスペースでないと戦えないと言われているような…なんなら、目の前に変な物体あるし……。


 全身が黒くて…なんだろう…この生き物。


 そして、進むと、その全身真っ黒状態から変わり、ギョロッと大きなお目々が…あ、わかったわ、これ、クジラだ。


 すると目の前の巨大な真っ黒が、地響きとも思えるような咆哮を発する…ウルセェー!!!


 思わず耳を塞ぐが…本当に危なかった…。


 ほんの数瞬、奴の動きを見ていなかったら予測できていなかっただろう。


 奴が不自然にこちらに対して口を開く、まだ飲み込むには程遠い距離なのに…そして何より…目だ。まるで何かを狙っているかのように……照準しているように俺を見ていた。


 反射的にまりんと裏葉に対して横に移動するように合図する。前々から決めていたサインだ。当然、俺も横に大きく避ける。


 突如。俺がいた場所が青白い炎で照らされる…もし避けるのが遅れていたら灰も残らなかっただろう……え?……は?…………はあぁぁ!!!


 ふざけんな!奇天烈に過ぎる!海洋生物だよな!!魚類…じゃないけど!ほぼ魚類だよな!なのになんで口から火出してんの?ドラゴンでも気取ってんのか?馬鹿野郎!


 そもそもどんな原理で火を吹いているんだか…わからないけど、こいつはさっさと倒さなきゃ…!


 今見て確信した。こいつの攻撃は広範囲でかつ、中々の威力を誇る。幸いにもその図体からか、素早く方向転換とかは出来ないようだ…うし!


 そうと決まったらとっとと近づく……あんな攻撃連発させるかよ!


 テメェの炎で焼肉してやるぜ…!


 羅刹を構えながら走る。もう臆さない!どんなに奇天烈であり得ない敵でも動揺なんてしない!……それは無理だけど。


 見るからに高い耐久略を持ってるだろうこいつに、どうやって致命傷を与えるか…それが少し気掛かりだが、一先ず斬ってみないことには始まらん。


 まずは柔らかそうな部位…目ん玉か?に羅刹を突き刺そうとするが、ガキンッ!と弾かれてしまう…えぇ?硬すぎだろ…。


 というか、近くで見てみると、こいつの目…スコープのレンズみたいだな…。


 最初に俺に狙いを合わせていたのはこれか…大凡生物とは思えないような特徴だが、これもダンジョン…気にしないことによう。


 それより…攻撃が通る部位はどこだ?そこら辺を斬りまくってみる。


 すると、案外身は柔らかいらしく、簡単に血飛沫を出した…お?


 目ん玉が特別だったのかもな…そうと決まれば!


 標的を変更、無造作に火炎放射クジラを体を傷つける。その度に火炎放射クジラが血を噴き出すが、地面にその血溜まりが溜まることはない。


 羅刹は血を吸えば吸うだけ切れ味が増す…そしてこいつの体は巨大だ、さっきまでとは比べ物にならない程血を吸えている…これはあれだ。ただのカカシって奴だ。


 こいつは俺が近くにいてはご自慢の火炎放射は出来ない、そして図体がデカいからか当てずっぽうの攻撃も当たらない…ふ、最初はマジで焦ったけど。慣れてしまえばこれまでの敵より楽だな、斬る度に羅刹の切れ味も上がって、むしろボーナスポイントかな?


 三十分程だろうか、血を吸い続けていた羅刹に異変が…カタカタカタ!と俺に影響を与えない程だが、小刻みに震えている…え?ど、どうしたん?


 いつもとは違う羅刹に困惑していると、羅刹は何か俺に訴えかけるよう少し腕を切った…これは?


 意図はわからないけど…一先ず思考…妖刀は特殊能力ある。羅刹の場合血を吸って切れ味を上げるというものだったが…実は違うのか?


 切れ味が上がるのはもしかしたらそれに付随する効果で、本来の効果は違うのかもしれない…。


 ゲームだと、こういうのはパワーをチャージして、それを消費して強い技を放つというのがあるけど…って、お?


 まるで、正解!とでも言いたげな様子の羅刹…ふむ、信じてみるか。


 両手で羅刹を握り、イメージ…なんか強い技出ますように!


 鯨の首らへんに大きく一線…手応えなんて全く感じさせず、火炎放射クジラの首を両断できた…えっと、羅刹の刃渡よりもだいぶ長いんだが…細かいところは気にしないようにしよう。


 ぷるぷると震える…羅刹…お前…!カッコよすぎだろ!


 なんだ!今の!明らかに普通の斬撃じゃなかった!……まるで輪廻の飛ぶ斬撃のような…!ハ!まさか!羅刹!


 ………お前まさか…飛ぶ斬撃が使えるのか?


 羅刹はその俺の問いに、『ふ、当たり前だ』(幻聴)と答えた…最高だ。


 気分は上々!これは検証が楽しみになってきたな!おそらくだけど、血を吸うと羅刹の中でゲージのようなものが溜まって、「護ー!速く逃げなさい!」それを消費すると今の斬撃が放てるようになるのだろう。しかも今の斬撃は威力もあり得ないほどに上昇していた…もしかして血を吸えば吸うほど威力が「護お兄ちゃん!」……ってなんじゃい!今俺はロマンを……?


 おっと、思考が羅刹に傾きすぎていたようだ。二人の声で正気に戻った。


「おーい!今回の敵はなんか余裕だったわ!それに羅刹の新しい力もわかって、これから探索楽になるぞー」


 やけに遠くにいる二人に向かって大きな声で言う。


「そんなことより!さっさとそこから離れなさい!」


「そんなこととはなんだ、俺にとっては結構重要なことなんだぞ…」


「護お兄ちゃん!後ろ!」


「あん?後ろ?後ろにはさっき首を斬り飛ばした火炎放射クジラし…………か……?」


 後ろを振り向くと……お腹の所があり得ないぐらい膨らんでいる火炎放射クジラが…。


 そう言えば聞いたことある…クジラは死ぬと体が腐敗してガスが溜まると…でも確かそのガスは三日とか長期間放置しないと貯まらないはずなんだが?


 メタンガスとかなんとか…あと、首を斬り飛ばしたんだから密封されてないだろ…って!ツッコンでる場合じゃない!


 見るからに膨張が早まってる…爆発するのも時間の問題って感じだ…!


 すぐに方向転換、その場から離れる…が、遅かったようだ。


 火炎放射クジラのお腹がとうとう限界を迎え、大爆発を起こす……ぁぁぁあああ!!!!ふざけんな!!!


 なんとか直撃は避けたものの、余波には満遍なくぶち当たる…降ってくる臓物や血のシャワー…そしてあり得ない程臭い悪臭の嵐…ゲロ以下の匂いの生暖かい風と、それらの汚物が俺を激しく包み込んだ……。



 ────


「あのクジラはおそらく、メタンガスとかを貯める機関があり、それを圧縮してたんだろう。そして生きてる間はそれをなんらかの形でコントロールしていた。あの火炎放射もそのガスを用いて放ったんだろう。火種は何か知らんがどうでもいい、そして死んだことによりそのコントロールが離れ、圧縮されたガスがあり得ない速度で膨張して爆発したんだろう…それによる破壊力は凄まじいものだった。地獄ですらこんなキツい刑罰なんて存在しないだろう。奴は生き物じゃない、兵器だ。そもそも海洋生物でそんな火炎放射の機能なんてクソ程役に立たないはずなのに所有してる時点で意味がわからない、流石ダンジョン、生物としての限界をとどめていない、しかしモンスターとしては百点満点だろうな、死ぬ前は火炎放射でクジラという概念に染まり切ってるダンジョン探索者に初見殺しできるし、死んだ後でも大爆発による初見殺しを、可能としている…そしてその大爆発も逃げるのなんて間に合わない早さで爆発するもんだ、ダンジョン探索者の絶望をさせることに特化してる…あぁ、最高だな!素晴らしいな!きっとこのモンスターを生み出したダンジョンはとても人の心を知り尽くしているんだろうな!ふはははは!最高にハッピーだな!おい!クソがぁぁぁぁ!!!!」


「あわわわわ…護が本当にキレている…あんなに怒っている所初めて見た…ご、ごめんなさい…本当にそんなつもりはなかったのよ…」


「それも仕方ないよ…だって…あんな…」


 現在…俺は階層を戻り、もう使わないであろう湧水で体を洗っていた。


 臭い、汚い、気持ち悪いの3Kをたっぷりと隙間という隙間に浴びた俺の体は、まりんと裏葉に半径十メートル以上離れた距離でなければ近づけない程今の俺は激臭らしい…それは発臭地である俺が一番わかってる。


 取れない…取れないよぉ…臭い…気持ち悪い…。


 えぐ…ひぐ…辛い…助けて欲しい…早くこの苦しみから解放されたい…。


 なんなら身に付けてる服すら気持ち悪い………脱ぐか。


 もう羞恥心すら存在しない…あるのは苦しみから解放される事のみ…。


 一張羅脱ぎ、洗う…後ろから『キャーー!』と甲高い声が聞こえたが…気にする余裕がない…あぁ、洗剤が欲しい。


 服を入れた瞬間に赤黒く汚れる水溜り…うわ…俺の服汚すぎ…!


 悲嘆に暮れてると…何かが近づいくる…。


 目を覆い隠しながらまりんが近づいてきた…どうした?今の俺は何かのアクションを取るのも嫌なくらいテンション低いぞ…?


「あの…護?これ使って…!」


 渡してきたのは…四角い石?


「あんまり強い効果はないと思うけど…それなら体を綺麗にできると思うから…!」


 ………取り敢えず、この湧水はもう使えないから、違う所に移動する。


「キャーー!服着て!服!」


「いや…これ汚いし…一先ず移動するわ」


 割と近くに湧水あってよかった…そして四角い石を水に浸けて擦る。あ…あわあわ…?


 こ、これは……!石鹸!


 バッ!と勢いよく振り返る。


「わっ!だから…服着て!」


「ま、まりん!」


 手をぎゅっと握る…。


「え?ま、護?どうしたの?というか…早く服着て…!これってセクハラよ!そろそろ目を逸らすのも限界だから…!」


「ありがとう…ありがとう…!愛してる…まりん!!大好き!」


 惜しまない感謝を伝える…この恩は一生残るぞ…!


「ま、護お兄ちゃん…!大胆!」


「だから服着てってぇー!!」


「ぐへぇ!」


 思いっきり張り倒されてしまう俺だった…ま、当たり前か。

火炎放射クジラの生態は護君の予想した通りです。本来排泄するはずのものを全て体内に貯め、それら全てをメタンガスへと変容させます。その為このクジラには排泄機関がありません。それら全てを体のガス袋という特殊な機関に貯蓄すると同時に、ガスを圧縮します。ガスを圧縮できるのは全てこのクジラ独自の能力です。あれです。体に力を込めてガスが抜けないように踏ん張ってるんです。火炎放射は口の中に火種を作る機構があり、その火種と圧縮したガスをとてつもない速度で放つことにより火炎放射という離れ業をこのクジラ君はしています。しかし死亡したことによりその踏ん張りが消え、圧縮をしている為に使っていた力が消えたことにより、ガスが大膨張。血みどろ大爆発したというわけです。ダンジョンには不思議な生物がいるんですねぇ。

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