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傷だらけのバンビーノ  作者: 川崎殻覇
永遠に抗うサブマリン
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25

 あの後、なんとか晩飯前に起きれた…こんなに美味い飯を食いっぱぐれるなんて一生の恥だからな。


 その後もすぐに眠れた…人間、その気になれば永遠に眠れるものだ。


 さてさて、そして今日も今日とて爺さんの訓練は続いていた。


「遅い!太刀は質量がある武器だが、それは遅く振る理由にはならん!」


「押忍!」


 羅刹を握る手に力を込める、そして力一杯羅刹を振るが、しかしやけっぱちにはならず、これまでの教え通りに太刀筋は真っ直ぐに、速度だけを上げる。


「む?……よくなってきたな…。よし!その調子でもう百本くらい打ってこい!」


「う、うす!」


 ひゃ…百本ッ!こ…この爺さんは人の限界をなんだと思っているのか…全力で?百本?………む、むり…。


「無理じゃねぇよな?俺に一撃擦らせるんだよな?ならこのくらい余裕だよな?」


「ク…クソ……や、やってやラァ!!」


「おうおう、また威力上がったな!もっと来い!」


 ちくしょう…羅刹の一撃を木刀で防ぎやがって…羅刹も心なしか『俺…もしかして鈍なんか?』みたいな哀愁漂う雰囲気を醸し出している…違う!お前は悪くない!俺の技量が低いのが悪いんだ!


 そんな自分の無念感すら力に変えて爺さんに切り掛かる…それすら完璧に弾かれる…。


 このままじゃダメだ…なんか…こう、打開策を考えなければ。


 自傷は爺さんに禁じられている。となると…。


 振る力はそのままに、しかし意識は爺さんの手の動きに集中する。意識の分散は得意なんだ。


 細かい技術云々はわからないが、それでも真似できることはある筈だ。


 爺さんに言われた通り、百本打ち込み休憩となった。


「お疲れ様です。護君」


「おう、輪廻もお疲れ様…調子はどうだ?」


「そうですね…やはりトレーニング器具だけでは物足りませんね…どこか実践が行える場所があるといいんですけど…護君はどうですか?」


「俺は…まだダメだな、爺さんに一発当てることすら出来ない…情けない限りだ」


「いえいえ、これから頑張ればいいんです。幸いまだ合宿は五日ほど残っていますからそれまでに当てられるといいですね……とても難しいでしょうけど」


「……そうだ!参考までに輪廻が爺さんとの戦ってくれないか?」


 技術を盗むためには上位者の戦いを見ることが重要だと思い、提案してみる。


「んー…それもいいかもですね、ちょっとお爺様に聞いてきます」


 そして草薙が爺さんに聞いてみた結果、すぐに立ち合いが始まった。


「それではよろしくお願いします…」


「おう!護もしっかり見とけよ?これは輪廻ちゃんのためでもあるが、お前のためでもあるんだからな?」


「うっす」


 そして少しの静寂の後、輪廻の方が先に仕掛けた。


 目にも止まらぬ速さで木刀を振り抜く輪廻の攻撃に、爺さんは難なく弾いていた。


 そして何回か切り結んでいるが、そのどれも爺さんに届かない、だが明らかに爺さんが押されているように見える。


 ……?そういえば爺さんは木刀を両手で持ってないな…片方の腕は基本的に使っていない。


 それに引き換え輪廻の方は刀を両手でしっかりと握りながら振っている……ふむふむ。


 一瞬舐めプか?とも思ったが二つの候補が頭に浮かぶ。


 一つは怪我、なんらかの原因で片腕が使えない、もう一つは戦闘スタイルの違い。


 例えば二刀流なんかだったら刀を片手で一つずつ使うだろう。それだったら爺さんの片手が空いているのにも理由がつく。


 でも爺さんだったら普通に一刀流も問題ないと思うが…やはり舐めプ?


 こんなことを考えている時も二人の攻防は続いている。


「……ほぅ?学校に入って腕が停滞、もしくは落ちてるかと思ったが…存外に成長してるな…よし!護!木刀を一本こっちに投げろ」


 そう言われたので慌てて近くにある木刀を爺さんに投げた。狙いは中々によく、爺さんのところにスッと飛んでいった。


 そして爺さんはそれを空いてる手で掴むと…今までの状況がひっくり返った。


 爺さんの猛攻が続く。輪廻はなんとか対応はしているが、それでもギリギリだ。


 あわわ…これもうダメなんじゃないの?……と心を騒ぎ立てながら見ていると。


「…………ッ!」


「うぉっ!」


 爺さんが決着を付けるべく刀を振る速度を上げるその瞬間。


 その一瞬の隙をついて爺さんの片方の木刀を大きく弾く、だが爺さんにはもう一つの木刀が…!


 なんと、輪廻はそのままに姿勢を変えて爺さんの腕を蹴り上げる。その際に木刀が大きく飛ばされ、大きな隙ができたように思える。そして今は爺さんに攻撃を当てる絶好のチャンス。…こ、これは!


 そして輪廻の木刀が爺さんに打つ…かと思われたが。


「だが…まだ…まだぁ!」


 流石は英雄、完璧に決まったと思われた一撃が空を斬った…。


 爺さんは素早くバックステップし、輪廻の木刀の間合いから出たのか…そして今の輪廻は木刀を振り切った状態。


 爺さんは残っている片方の木刀を輪廻の首辺りに置く。


「………参りました」


 そして降参の宣言を輪廻がして試合が終わる。


「おう、いやぁ…本当に成長したな、輪廻ちゃん。割と全力を出しちまった」


「ご謙遜を、まだ実力の半分も出していないじゃないですか…それでも、あともうちょっとで勝てたんですけど…何が悪かったんですかね…」


「基本的な試合の運び方は問題ない、俺が二刀流を解放してからもよく対応していた…だが、最後の一撃は勿体無かったな、あそこは流れに任せず、輪廻ちゃんの得意な居合で決めるべきだったな、そしたらきっと木刀は届いていたし、防がれたとしても輪廻ちゃんの動きやすい形で仕直せたと思うぜ?」


「そこですか…確かに焦りすぎていましたね…」


「そう、どんな時でも冷静さをなくしちゃいけない、焦りは禁物、無理も禁物…人間有利な時ほど隙が生まれるからよ、好機だと思った時でも冷静にその次の次の手まで考える。絶対に自分に不利な状況を作らない。全てにおいて有利になるべし…が草薙流戦闘術の心得だからな。でも本当によくできてたぜ?爺さん驚いちまったよ」


「そうですか?…それでしたらよかったです。ちゃんと成長してるという実感が出来ました」


「護もなんか分かったか?」


 俺に話が振られる…と言われましても…。


「全然ついていけなかった…」


「まぁ最初はそれでもいいさ…。んじゃあ輪廻ちゃんはちょっと休憩、護は訓練を再開するぞ」


「了解!」


 さてさて、俺の休憩も終わり、これから爺さんとの訓練なのだが…せっかく参考にさせてもらうていで見させてもらったんだ。なんとか糧にしないと…。


 爺さんと向かい合う…さて、もう訓練は始まり、俺から仕掛けるべきなのだが…うーん。


 闇雲に打ってても意味がない、されたて爺さんからは仕掛けてこない…うん、決めた。


 今まで通り攻める。当たり前のように爺さんに防がれるが、取り敢えずは問題ない。


 爺さんの動きを注意深く観察する。さて、そろそろ……。


「どうした?護?そんな攻撃じゃあ一生……ッ」


 爺さんが煽ってくるはず…そこが狙い目ッ!


 なんちゃって刀術、双葉。輪廻の技をパクらせてもらう。家に帰ったあと、こっそり練習した甲斐があったもんだ。


 まぁまだ完璧じゃないからあんまし威力出ないが…奇襲には充分!


 爺さんはその二撃共防ぐが体制は崩れた…いける!


 多少卑怯だと思うが…これも勝つ為!


 なるべく体制を直させないように斬り続ける。ふっふっふ…やはり片腕だけではキツイようだな?


 もともと羅刹はなかなかの質量を持つ太刀だ。それを片腕で受け止めるのはしっかりとした体制があってこそ!


 しかしまだ焦らない、さっきの輪廻と爺さんの戦いで学んだ。こういう時に焦ると負けるってな。


 まだ……まだだ。重くなる腕に争いながら待つ…そろそろだと思うんだが…。


 ミシッ…と小さな軋みが聞こえる。来た!


 羅刹を握り直し、全力で振り抜く!


 爺さんはそれを木刀で弾こうとするが…木刀が羅刹の猛攻に耐えきれずへし折れた。


 そう、俺と爺さんの武器には決定的な差がある。普通ならそこらの木刀羅刹なら余裕で断ち切れるのだが、それをさせなかった爺さんの腕は流石と言えよう…しかし、木刀はどうかな?


 そこいらの木刀よりは頑丈だそうだが、それでも木刀!羅刹と比べるべくもない。これまでのダメージが蓄積し、とうとう折れた。


 爺さんの手には武器はない、もう抗う手もないはず!これで!決める!


 羅刹を振る。ふっふっふ…爺さんのハンデを最大限に利用した攻撃…!避けれるわけないよな!


 しかし、羅刹は本物の刀。流石の爺さんとのいえどもこれで斬られたらただじゃ済まないだろう…いや、爺さんの実力を疑ってるわけじゃないが。


 刀身を返す。いわゆる峰打ち。喰らえ!


「……………ッ!」


 しかし、俺の爺さんに対する認識は甘かったようだ。


 突如として俺の視界が変わる。爺さんを見ていた筈なのに突如として空、そして砂浜…グヘェ!


「おっと…ちとやり過ぎたか?大丈夫か?護」


「うぇ?い、今何が起きた…」


 頭から落っこちたが、砂浜がクッションとなりそこまで痛くはなかった。


「咄嗟にお爺様が護君を投げたんです…お爺様?反撃しないんじゃなかったんですか?」


 あ、あぁ…一瞬手首を掴まれた感覚があったのはそれだったのか。


 輪廻が手を差し伸べてくれたので、その手を遠慮なく取る。


「いや…思った以上に危なかったからついな?…いや護が峰打ちしてくれるのはわかってたんだが……痛いのは嫌なんだよな…しかし護…。お前双葉使えたのか?うちの門下生じゃないんだろ?」


「輪廻が前に見せてもらったんで自分の家で練習したんすよ…まだ完璧じゃないからダンジョン攻略には使えないかもしんないけど、奇襲には使えるかなーって」


「え?私双葉に関しては一回…いえ、六花も含めたら二回しか見せてないんですけど…それに双葉は抜刀術なんですが…」


 あぁ、そういえばそんなこと言ってたな…。


「抜刀術なんて高等な技術は俺には無理だから、そこら辺は改変させてもらった…ダメだった?」


「いえ…それは別に問題ないんですけど…」


「どっちかっつうと、そのまま双葉をやる方が難しいと思うが…それにしても二回見ただけで覚えたのか?」


「いやぁ…輪廻に見せてもらったのが本当に心に残って…ここ数ヶ月はずっと練習してましたわ」


 ガハハと笑いながらそう言うと二人は少し真剣そうな顔で見合っている。…え?なになに?


「おい…こんな逸材そんなに見たことねぇぞ…どうやって囲む?」


「護君は将来私とダンジョン探索をするという約束してますからそこは大丈夫です…」


「ならいいか…んでいつ本家に呼ぶ?もうとっととうちの門下生にしちまおうぜ?」


「それは護君の意志の問題ですから…そこら辺は追々相談してみます」


 二人が何やら裏でコソコソしている…まぁ、今俺が話しかけてもしょうがないだろ…少し散策をする。


 あんまり海に近づきすぎないように砂浜を歩く。ここの海は安全じゃないからな…ん?あれは?


 俺のことを埋めかけやがったガキだ…あんな所で何してんだ?


 よく見れば貝を集めているようだった。ったく!最近の子供は海に近づきすぎるなってこと忘れてんじゃねぇか?


 取り敢えず注意する為に子供に近づく…だから分かったのだろう。


 水面に映る巨大な影を。


「………ッ!おい!ガキ!逃げろ!」


「……ふぇ?」


 だが子供は後ろの存在に気付いていないのかなんのアクションも取れていない。


「クソッ!」


 親ならそこら辺しっかり説明しとけや!今海といったら……ッ!


 世界で一番危険な地域だというのに。


 子供に向かって走る。なんとか子供を逃そうとするが…そうは問屋が卸さない…俺と子供含め、巨大な影…海遊型生物ダンジョンに取り込まれてしまうのであった。

主人公は中々に凄いやつです。才能は割とあります。

最後突然どうした?と思われるかもしれませんが、そこら辺は次の話で説明します。


誤字脱字などがありましたら教えていただけると有難く思います。

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