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「……もういいかね…」
校舎からだいぶ離れ、そう呟く。
「……そうですね」
少女は先程までの様子は鳴りを顰め、元の無感情な状態に戻る。
「…さっきは助かった。ありがとな、咄嗟に誤魔化してくれて」
「…いえ、もともとはわたしがまねいたことですので」
それもそうだな…と言える雰囲気じゃねぇな。
というか、いつまでこいつの手を握ってればいいんだ?
「………」
そう思って、俺から手の力を緩めようとも、この少女は俺の手を握り続けている。
このまま力任せに払ってもいいが……。
…なんだかな、そういう気にはならなかった。
「そういやお前って何で眼帯付けてるんだ?」
場の流れに任せてそんなことを呟く。
「…がんたいをつけているのは…たんじゅんにわたしのめがこうなっているからです」
そうして少女は眼帯を外す。
「お前……」
眼帯の奥。少女の目の中には眼球がなかった。あるのは虚の様な穴だけ…。
つい最近それと似た様なものを見たせいか、心がざわつく。
「わかっているとはおもいますが、わたしたちはオリジンのもぞうひんとしてつくられたクローンです」
それはわかるが…どうしてそんなことになってしまってるんだ?
「…しかし、オリジンのクローンをつくるにあたり、げんざいりょうがきょくたんにすくなかった。しおうみかどはぶざまにもオリジンのさいぼうをさがしましたが、けっきょくはひとりぶんのクローンしかかくほできなかったのです」
…こいつ製造者に対して口悪いな。なんだよ無様にもって…心底同意だ。
「そのはてにつくられたのが、しおう刃…オリジンのしさくがたクローンいちごう、刃。…わたしたちのオリジナルなのです」
「あ?」
誰が至王刃だ。ぶっ殺すぞ。
「…ていせい、あちらのこしょうをまちがえてもちだしてしまいました。オリジンのなまえはきりさきまもるです。ちゃんとわかってますよ。しおう刃というのはしおうみかどのもうそうのなまえですからあまりきにしないでください」
「……お前、わかってるじゃん」
こいつらに対して好感度が爆上がりした。
「…はなしをもどします。…オリジナルはオリジンのクローンとしてはかんぺきでした。とくにからだにふちょうもなく、けんこうたいそのもの…ですので、しおうみかどはこうかんがえたのです。…オリジナルのたいさいぼうであらたにオリジンのクローンがさくせいできるのではないかと。…そのけっかつくられたのがわたしたち…失敗作です」
「失敗作…?」
不安な言葉に眉を顰める。どう考えてもいいイメージが持てる言葉じゃないからだ。
「はい。そもそもかぎられたさいぼうだけでクローンをつくるのはむぼうです。うんよくオリジナルはなんのもんだいなくうまれましたが、それでもさいぼうのれっかはあります。…そんなさいぼうでつくられたそんざいがせいじょうにうまれられるわけがありません」
少女は自身の目に手を覆う。まるで自分の記憶を思い返している様だ。
「…オリジナルからはそうぜいごひゃくにんのクローンがうまれました。ですが、オリジンのれっかクローンであるわたしたちのからだにはどのクローンにもからだにいじょうがはっけんされたのです」
「体に異常…」
「はい。わたしのようにがんきゅうがないようなけいどなたいけっそん。…ほかにはあしやうで、ないぞう、もしくはそのすべてがないじゅうどのたいけっそんがあるこたいもいます。…そんなそんざいはつかいものにならないとだきされ、すてられほうちされたがゆえに、わたしたちは失敗作なのです」
「…………ぁ?」
なんでお前達はそんなことを言われなきゃならねぇんだよ。
おかしいだろ。勝手に生み出され、問題があるから唾棄? 放置? 捨てる? 意味わかんねぇ。
失敗作なわけがないだろう。…だって、どんな理由があれ、生まれた者には生きる権利がある。それを失敗作と決めつけるなんてあり得ない。
「…ありがとうございます。わたしたちのためにおこってくれて…でもきにしないでください」
俺の態度で考えていることがバレバレだったのか、少女はそんなことを言ってくる。
「むしろ失敗作とだきされたわたしたちはしあわせなのです。オリジナルとちがいかこくなにんむにかりだされない。…ほんとうはすていしにされるよていだったのですが、オリジナルがそれからかばってくれたのです」
「刃が…?」
「はい。オリジナルはわたしたちをちょくぞくのぶかにしたいとしおうみかどにじきそしました。…そのけっか、オリジナルはじぶんのじゆうのすべてをさしだすこととひきかえにわたしたちをまもってくれたのです」
「………」
「…わたしたちのいのちはオリジナルに救われました。だからこそ、わたしはオリジナルのためにこうどうしたいとおもいここにしたのです。…だから、オリジンがさきほどオリジナルをきらわないといってくれたのでわたしのもくてきはたっせいできたのです。…オリジナルは、オリジンのことをほんとうにそんけいしていましたから」
「……尊敬」
「はい。じぶんとはちがい、しおうみかどにかったすごいひとだっていっていました。…きっと、うまれたときからオリジナルはオリジンのいきかたにしょうけいをいだいているんだとおもいます」
「……あぁ」
だから、交流戦のあの時…刃は最初から俺に…。
あの時のことを思い返す。
不思議な少女だとは思っていた。何せ会話をしても全く不快感がなかった。
人類を相手にする時、俺は例えどんな奴でも少なからず不快感を抱く。
それが俺に定められた特性と言うべきもの…鏖殺の化身としての役割が人類と交わることを否定する。
でも、あの時俺は刃を敵と認識出来ていなかった。なんなら部屋に招き入れ、菓子を与えもした…その後、何の見返りもなく俺は刃を部屋に居させた。
あの時は子供相手だからそうしたのだと思ったのだが…実際は違かった。
そして何より…俺はあの時刃の顔を正確に認識出来ていた。
それはつまり…心の中ではわかってたんだ。こいつが俺に近しい存在であると。
…理解した。理解してしまった。
見ようとしていなかったもの、あえて目を塞いだ事実を。
「わたしたちやオリジナルはオリジンのさいぼうからうまれたそんざいです。それもオリジンのかんじょうがつよくそまっているぜんとうようのそしきから…ですから、わたしたちやオリジナルはうまれたしゅんかんからとあるかんじょうをえとくします」
……そうだ、こいつらは俺の…。
「それはしおうみかどにたいしてのふかいかん、さつい。…たとえやくぶつでしこうをせいげんされても、うまれたしゅんかんからしおうみかどをさんびするきょういくをうけたとしても…その害意だけはきえはしないのです」
俺の、可能性の一つなんだ。
全文ひらがなって超読みづらいですね。漢字使いたい。




