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傷だらけのバンビーノ  作者: 川崎殻覇
永遠に抗うサブマリン
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20

 夏休み…それは学生達のオアシスであり、癒しであり…まぁ兎に角素晴らしいものだ。


 学生達とって、一年で最初の長期休暇となり、ちょっと遠くに出掛けていつもとは違う風景を見るのも良し、いつも通りにまったりするのも良しだ。

 え、大人? 大人に長期休暇なんてないよ、大変だな。


 それは置いといて…夏休みとは素晴らしいものだと言いたかったんだ俺は。

 …それなのに。


「どうして…こうなった…?」


 腰の辺りで抱きついてくる子供を尻目に今の状況を嘆く。


 現在位置…ダンジョンの中。正確にはわからない。


 つい数時間前まで海に来ていただけなのに…俺はどうしてこんな所にいるのだろう?


 あれは確か…そう、数日前に……。



 ────


 現在俺は車の中で揺られていた…。


 別に誘拐とかではない、というか俺を誘拐する奴なんていないだろう……母さんとかならともかく。


 まぁつまりお出かけ…旅行…言い方は様々あるだろうが、とにかく俺は今遠出していた。そこには草薙も同行している。


 きっかけは確か…そう、俺って海行った事ないんだよねーという雑談から始まったんだ。


 ─


『そうなんですか?』


『おう、というかそもそも遠出自体をあんましたことない。別に海が近くにないって事はないんだけど、海行くのにも金掛かるし大変だし…』


『確かにそうですね…神崎市はなんだかんだ広いですし…』


 神崎市…俺達が住んでいる街。そこらの都会よりは人がいないが、田舎とは呼べない…そんな街だ。


『だから海ってどんな感じなのかなって、草薙は行ったことある? やっぱプールと変わんないかな?』


『いえ…プールとは少し違いますね。海の魅力といえばやっぱり砂浜と太陽だと思います。ざらざらとした砂の感触、太陽が爛々とこちらを照らす日差しは現地でしか味わえないと思いますよ』


『ふーん…人生で一度でもいいから行ってみてーな…魚も釣れるんだろ?』


『それは釣り堀とかの海なのでは? …それじゃあ行きますか? 桐崎君の要望とはちょっと違うかも知れませんけど』


『うん?』


 その会話の後、あれよあれよと話が進み、気付けばこの車の中にいる。

 おいおい、あの会話から一日しか経ってねぇぞ?


 草薙によると、なんと草薙家が所有しているプライベートビーチがあるとか無いとか…やっぱりスケールが違えな。


 目的としてはダンジョン探索者育成の為との事…その為に砂浜ごと買うなんてどんなに金持ちやねん。


 とまぁ、そんな場所にお呼ばれされてしまったというわけだ。


 さて、時は戻り車で揺られること数十分。


 見渡す程の海、こちらを嫌っていうほど照らしてくれやがる太陽に光り輝く砂浜…

 確かに、想像していた通りの海に着いた。


「着きましたね。車酔いはしていませんか? 酔い止め飲んでいませんでしたけど…」


「大丈夫、車酔いとかした事ないから。…それにしても…へー、これが海か…なんか、すげえな!」


 キラキラと輝く様子は確かに綺麗と思える。漠然とした感動が俺の心を満たしていた。


「ふふ、そうですか? それじゃあ取り敢えず荷物を置きに行きましょう」


「おう」


 草薙から十分の衣服などを持ってきて欲しいと言われたから持ってきてはいる。実はこの先の予定とか一切聞いてないんだよな。

 まさか海で泳ぐわけではないし、このまま解散するのだろうか? いや、それも無さそうだな…荷物を置きに行くとか言ってるし。


 どんなことをするのか想像しつつ、草薙と一緒に歩き、近くの建物向か…なんだこれ?


 目に見えるのは豪華な屋敷? いや、多分これは…。


「草薙家が所有している海の家…? 旅館みたいな所です。一般開放はされてはいないのですが、本当にいい宿なんですよ? 毎年夏の終わりに草薙家の本家、分家が一同に集まるんです」


「へ、へー…何の為に?」


 恐る恐る聞く…大体は予想できてはいるが、こういうのはついつい聞いてしまうものだ。


「それは勿論修行のためです」


(やはりそれか…)


 内心で呆れつつ、素直な疑問を草薙にぶつけてみる。


「やっぱり草薙の家ってあれなの? 修行僧か何かなの? 修羅の家系なの?」


「失礼ですね…私達は別にお坊さんじゃないですよ」


 …修羅は否定しないんですね…。まぁでも確かに草薙の家はダンジョン探索者の育成にも力入れてるって聞いてたからな…少し納得。


「それにしても…立派な旅館だなぁ。さぞ歴史ある建物なんだろう」


 草薙家が代々所有してきた築百年以上のオーラがこの建物にはある。いやぁ、わかる奴にはわかるもんなんだなぁ。


「いえ、そこまで歴史がある建物じゃないですよ? 出来たのはダンジョンが現れ始めてかららしいですし…」


「え?」


「そうですね…確か剛お爺様が二十歳の時に建てられた建物ですから…築五十年位ですかね?」


「………………」


 通ぶったことを言って、少し恥ずかしい目にあったけど…考えてみて欲しい…俺の家を!


 あんな掘建小屋みたいな場所に住んでて建築のあれやこれやなんて分かるわけないだろ! いい加減にしろ。


「ま…まぁ? 築五十年もそこそこ年季入ってる方よねぇ?」


 恥ずかしさをなんとか隠して、打開を図るように言う。


「それもそうですね、取り敢えず中に入りますか」


 …どうやら打開は成功したようだ。草薙はあっけらかんとそう言い、旅館の先に進む。

 この、なんというか…こっちが気にしまくって向こうが特に気にしてないというのも恥ずかしさを助長して…あ、待って待って。


 まるで住み慣れているかのように草薙は進む。…そういえば草薙が所有してる場所だったな、ここ。


 中もしっかりと清掃が行き届いているのか綺麗だ。普通の宿泊施設と言われても遜色ないレベル…。

 これを保つクオリティーを全部ダンジョン探索者育成に使っている草薙の爺さんはどんな人なんだろうな。


 今は確か七十数歳だったか? やっぱイメージ通りの豪快な爺さんなのかな?


「ここですね」


 案内されたのは三階の一室…こういった建物で三階というのは中々に良い場所なんじゃないか?


 扉をばっと開き、中に入ると…そこには…。


「あん?」


 そこにいたのは不思議な爺さんだった。


 体には皺もあり、腕もそこまで太いわけじゃない…それなのに不思議と力強さがある。


 見た目の年齢と雰囲気の年齢が合っていない様に思えた…ふむ。


「すみません、部屋間違えました」


「お、おう? …おう」


 スーッと襖を閉め、草薙の方へ向く。


「なんか中に人いるけど…場所間違ってない?」


「へ? ここに案内してと言われたんですけど…」


 そうは言われても…。


「いや…だって中にいるし、ていうか違う部屋じゃあかんの? 先客がいるんならそっちの方が優先…ってか、ここって草薙の家専用だった気が…なんで知らん爺さんが…」


『あー…お前ら中入れ』


 突如として中から声が響く…十中八九さっきの爺さんだろうな。


「……草薙、先入ってくれ。多分草薙が知ってる人だろ? ここ草薙家専用だし、多分そっちの方が印象いいはず」


「え? は、はい…わかりました…」


 戸惑いながらも先に行ってくれる草薙…。

 いや…別に間違ってることをしてるとは思ってないけど…なんか罪悪感が…。


「……やっぱり大丈夫、俺が行くわ…一度顔を見せた手前相手にも失礼だし…。でもすぐに入ってくれよ? 本当に頼むよ?」


「そこまで緊張しなくてもいいのでは?」


 違うんだよなぁ…一回出て行った手前、気不味いだけなんだよなぁ。


 スーッとなるべく音を出さずに入る。


「失礼します…」


「おう、なんか遅かったな」


「いえ…気にしないでください…」


 やっぱり呼んだのは爺さんだったようだ。


「いや、悪いな多分女将にここに案内されたんだろ? この部屋は俺のお気に入りでな、たまに忍び込んで泊まってるのよ! あいつはそのこと知らねぇからな」


「あー…分かりました…えぇと…あれですか? 一緒に泊まります?」


「はぁ? ……ぷ、フハハハハ…! お前さん変わってるな! こんなジジイと一緒に寝泊まりとしてもいいってか?」


「いや…だって今から違う部屋に変えてください…って言うのも恥知らずだし…爺さんもここにいるって事は草薙の家の関係者なんすよね? だったら俺が出てけと言うのもおかしいし…だったら一緒に泊まるかー…って感じっす」


 率直な考え、実際に俺も泊まるーと言われたらちょっと困る。気不味くて。


「ふーん…まぁ確かに俺は草薙の関係者だ。でも俺は不当にこの部屋を使ってるんだし、別に追い出してくれても構わねぇぜ?」


 そう言われればそうかも…でもなぁ…。


「人からお気に入りのものを取り上げる…なんてんな酷いこと俺は出来ませんよ。でも爺さんが嫌って言ったら話しが変わってくるんすけど…。俺野宿になっちゃうからなんとかお願いしたいっすわ」


「そうか……まぁ安心しろ、俺はもうちょいしたら出て行くからよ」


「あ、そうなんすか?」


「あの…桐崎君?襖の前で止まられると困るんですけど…」


「あぁ、悪い」


 そういえば襖を開けた状態で詰まっていたな…。


 部屋の中に入り、横に逸れる。


「ん? その声…輪廻ちゃんか?」


「お、お爺様!?」


 え? なになに? なんか知り合いみたいな雰囲気あるぞ?

 …草薙の関係者って言ってたし多分知り合いか。早とちり早とちり…。


「お爺様がどうしてこちらに? 本家のお屋敷にいる筈では?」


「あー…最近腑抜けた奴しかいねぇからよ。教えるのも面倒になって気分転換に来た。全く、最近うちの奴らは甘いったらありゃしない! こっちが誠心誠意鍛えてやってんのにやれ厳しいだ、やれパワハラだなんとか言いやがって…最近で言えば鍛え甲斐がある奴は輪廻ちゃん以外にいねぇからな…」


「本家は少し遠いので…すみません…」


「いや、別に謝る必要はねぇよ、ただ孫みたいな子に会えなくて寂しいだけだ」


 孫みたいな子…という言い方は気になったが、草薙がこんなに打ち解けているのは珍しい。


「あー…もしかして草薙のお爺さんですか?」


 なので草薙と血縁関係があるのではないかと思い、そう聞いてみる。

 お爺様と言ってたし多分そうなんだと思うのだが…。


「ん? いや…正確にはちょっと違うんだが…まぁそんなもんよ」


 やはりそうだったか、…となると草薙にとっては久しぶりのお爺さんか。ならちょっと気を遣ってやるか。


「へー、まぁ、取り敢えず草薙はそこら辺に座りなよ。爺さんと久しぶりに会ったんだろ? 積もる話もあるんじゃないか?」


 周りを見渡す。お、座布団発見、持ってきて草薙に渡す。


「あ、ありがとうございます…」


「いいって事よ。…あ、俺先外した方がいいか? 身内の話に他人が入ってるのもアレだろ?」


「いんや、そこまで気にせんでいいよ。お前さんも座りな、神崎からここまで遠かっただろ? 俺ぁ居候みたいなもんだから気にしないでくれ」


「そうすか? そうさせてもらいます」


 はてはて、なんだか不思議な状況になったもんだ。


 草薙と爺さんは談笑している。俺はそれを尻目に茶を飲む。備え付けに茶沸かしの道具やお茶請けもあったからちょちょいと…ついでに爺さんの分含めて用意した。


「どうぞ」


「おう、気が効くな」


「あ、桐崎君、ありがとうございます」


「あんまり茶の入れ方知らないんで…味に問題が無いといいんすけど」


「ん? 別に問題ねぇよ、それに俺は味に頓着しない派だからな……それよりお前さん、名前は?」


「あぁ、すんません。桐崎護です」


 そういえば名乗ってなかった。なので改めて名乗る。


「おう、護な…お前さんの事はさっき輪廻ちゃんから聞いたけど…凄えな! まだダンジョンに潜り始めて数ヶ月なのに、一人で任侠ゴブリンをぶっ倒したんだって?」


 豪快に顔を綻ばせながら爺さんはやけに嬉しそうにそう言ってくる。


「え? あぁ、まぁ成り行きっすね。別に一人で倒すつもりじゃなかったんすけど…」


「なぁに、それでしっかり倒せてるんだから問題ねぇよ。ここで何か大怪我したってんなら別だがな」


「んー…特に怪我とかは無いっすね」


 というか怪我した瞬間に治ってるからな。怪我する心配すらない。


「ならいい…そうだ。俺の名前言ってなかったな、俺は草薙剛っつうもんだ」


 ほほう、草薙剛…ん?


「草薙…剛?」


 それってどっかで聞いた事あるような……まぁいっか。

 なんとか思い出そうとしたが無理だった。こういう時って中々記憶を掘り出さないんだよなぁ。


「あ、これ桐崎君忘れていますね…お爺様?もうちょっとアピールしないと気付いてもらえませんよ?」


「え?……うーん…自分で言うのもなんだが、俺って結構有名だと思ってたんだが…まぁ、精進が足りなかったって事か?」


 はて、なんの話をしてるんだろう。


 結局草薙剛について思い出したのはその数分後だった。

 結局草薙(輪廻の方)にめっちゃヒント貰ってこれだよ。俺の記憶領域ポンコツ過ぎでは?

街の名前は架空のものですので、もし同じ名前の場所を知っていたとしても気にしないでください。

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