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六月はあっという間に過ぎ、いつの間にか夏に入ろうとしていた。
え? 六月は夏だって? あれはもはや梅雨っていう季節だろ…あれを夏とは認めん。
さてつまり今は七月。世間では定期テストやらなんやらで大変な季節だと思う。だがこの学校は違う。
定期テストは六月で終わった。つまり高校一年の前期の学科の課程は終わったということになる。
…速いだろ? でもここは普通の学校ではない、ダンジョン攻略学校…つまりその課程のテストがあるって訳だ。
その内容とは!E級ダンジョンの中ボス(正式名称階層モンスター)を倒す! …だ。
……うん、俺もう倒したね。
つまり…やったー!俺テスト無し!最高だね。
とは問屋は許さず、俺と草薙には別途課題が与えられた。残念…。
因みに中ボスを倒すと言っても一人で倒す訳じゃない。パーティを組んで、しっかりと安全マージンを取る必要がある。
…俺みたいに一人で挑む馬鹿は論外ということだ。…あ? 誰が馬鹿だって?
…さてさて、そんな俺たちの課題とは何か…それは十層のボスを倒すことだ。
…は? 中ボスであんな大変だったのにもうボス? ふざけてんの?
…と思ったが、どうやら教員も付いてくるらしい…なら大丈夫かな?
でも俺達に付いてきて他の生徒は大丈夫なのだろうかとも思うが、どうやら俺と草薙以外は五層に到達すらしていないらしい。遅くね?
いや、それが通常ペースだからしょうがないと思うが…。
試験の期間は七月の中盤まで…つまり後二、三週間での攻略となる。
ん? これにクリアできなかったらどうなるって…? …普通に夏休みに居残り、つまり補修だ。
全員クリア出来れば上々らしいがどうしても戦闘向きではない異能もある。毎年ニパーティほど補修になるらしい。
しかし補修になったら先生達が倒すのを手伝ってくれるらしい。教師陣も居残りは嫌なのだろうな…。
それにどうしても向かないものはある。そういう時は別の道を進めるそうだ。例えばダンジョン物資の管理の仕事とか。
まぁそこら辺はいい、俺には関係ないし考えるだけ無駄だ。
さて、そんなわけで進み続けているうちに現在地点八階層、中々いいペースだ。この分なら今日までに九層に行けるかもしれない。
今日も今日とて草薙と一緒に探索する。もう慣れたもんだな、このパーティも。
最近では草薙に頼る事も少なくなってきた。あれから訓練続けているからな、正真正銘良いパーティになってきてるだろ、多分。
今は前衛が俺、後衛が草薙…というか草薙はほとんど手を出していない。俺が今はカバーだけでお願いと頼んだからな。
草薙が本来の実力を出せばこのE級ダンジョン程度では余裕で無双してしまう。なんなら一人で二十層まで一日で潜れるだろう。…そうなると俺がいらない子になっちゃうんだよな…。
だから取り敢えず俺が出来るところまでは手を出さないように頼んでいる。因みにこれは俺だけの意見ではなく教師陣の考えでもある。
さて、取り敢えず向かってくる犬人間を金棒でぶっ叩く。
こいつらの名前はコボルト? だったか? まぁいい、それよりこれだよこれ、どう!
ついに武器を棍棒から金棒へと変える許しを草薙から得た。
最近になって『金棒、使ってみますか?』と草薙に言われ、今現在使っている。
棍棒とは違いトゲトゲがあるから普通に凶器、しかしそれ故に敵を倒すことに関しては楽なんだよな…その分余計にスプラッタになったけど、まぁその辺は些事よ。
「桐崎…お前戦い方怖いなぁ。先生もっと…なに? 安全…とは違うけどもうちょい目に優しい戦い方してると思ってたよ」
「仕方ないだろ? 先生。草薙から他の武器を使う許可貰えないんだよ。でもちょっとずつ他の武器種も触らせてもらってるんだぜ? 段々シフトさせてやるのさ」
「…私は金棒、桐崎君に合ってると思うんですけど、似合っていますし」
「草薙…お前も大概アレな奴だな、あの絵面見てそう言えるのすげーわ。先生びっくりしっぱなしだよ」
この人は槙島みどり先生、名前のイメージとはちょっと違う男勝りの先生だ。でもこの人保険医なんだよな…。イメージが渋滞を起こしている。
何故槙島先生が俺達のことを引率してくれているのか?
その理由は結構単純なもので…今現在二、三年生は定期テストの為この近場ではないダンジョンへ潜っているから学校に一人も生徒がいないとこと…。
だから暇してるから一緒にいこーぜと先生に言われて現在共に行動している。
因みにボブゴブリンにボコボコにされた俺の状態を見てくれた先生でもある。その時から結構仲良くなったんだよな。
俺としては特に知らん先生と付き合わなくて済むし、先生は暇を潰せる…win-winだな!
「でもアレだな…お前ら強すぎるわ。草薙は当然だとしても桐崎…桐崎がそんなに強いと思ってなかったよ。めっちゃ戦えてんじゃん、それにそのアイテムも効果凄いし」
「あー、これすか?」
鞄の中にある試験管を一つ取り出す。
「そう、それ。確か自分で作ってるんだったか?いいなぁ、先生にも一つくれよ」
「えー…別にいいっすけどこれ効果一週間ぐらいしか続かないっすよ? 長期保存に向かないっす」
「あ、そうなの? んーじゃあいいかな」
「それに作る時結構痛いし…あ、コボルトだ」
金棒で殴る、グシャっと嫌な音を鳴らしてコボルトが潰れた。さて、素材素材♪
「お前本当に容赦ないのな…他の生徒達は人型だから少し抵抗あるって奴もいるのに…」
「人型と人間は明確に違いますよ、それが倒せないならば向いてないとしか言えませんね」
「うわキッツ…草薙…お前友達少ないんじゃないの? 大丈夫? 相談乗ろっか?」
「し、失礼な! 確かに友人は少ない方ですけど最近はクラスの人と喋れています! それに桐崎君もいますから!」
「おー、一応その相談も受けたしな、最初とは違って今結構雰囲気良いんだぜ? 最初は近寄るもの全て傷つけるオーラ纏っていたからな」
「も、もうっ! その話はよしてください! 私も出したくてそんなオーラ出してた訳じゃないんですから…」
「確かに今はそんなに出てないな…でももうちょっと他の男子と話していただけると…ねぇ? 先生?」
「あー、確かに草薙はほとんど男子と喋らんな、別に箱入りって訳じゃないんだろ?」
話の方向をちょいとシフト、これ以上イジると可哀想だしな。
それに草薙から見た他の男子共の評価を聞きたい…これ以上俺にべったりだとちょっと困るし…。
「んー…別に話せない訳じゃないのですが…特段用事もないので話す必要がないんですよね」
「つまり男子から声を掛けられたら答えると?」
「んー…まぁ、はい、そうですね」
あ…(察し)これはアレですね。俺の意思や草薙の行動では覆せないことですね…。
…よし、つまりあれだ。男子諸君頑張れ! お前達が頑張れば話せるってよ!
つまりチキってないで速く話しかけろ、やっかみを俺に向けるんじゃない。
話さねば…
世界は変わらぬ…
チキンらよ…
桐崎、心の俳句…。あ、コボルトみっけ。
─
さてそんな風に余計な事を考えながら進んでいると階段が見えた。
「いやー本当に速いね。…えーと? 潜り始めたのが八時ぐらいで今は大体十二時…四時間で九階層まで来たのか…」
槙島先生が状況を判断するかのようにそんなことを言ってくる。俺はなんだなんだと思いながらその言葉に耳を傾けていた。
「…でもこのまま進むのは危ないから一回休憩しよっか。ぶっ続けでやって怪我されたら困るし…見張りは先生やっとくから、結局私何もしてないしね…」
どうやら頃合いを見て休憩の時間を作ろうとしてくれているらしい。流石保険医、優しい。
「マジっすか! いやー助かる…実はヘトヘトなんだよな」
「それも仕方ありませんよ、桐崎君、頑張ってましたしね」
その好意に乗っかるようにどてっと崩れるように座る。なんだかんだここまで殆ど俺一人で戦っていたからな、疲労が溜まる溜まる…。
「あ、草薙は桐崎を守ってくれよな。もし敵を見逃してたら桐崎危ないし」
「はい、分かりました」
そう言われ草薙は俺の隣に座る…座る時の所作でさえ綺麗というか、洗練されてるよな。
有体に言えば行儀が良い…うーん、生まれの違いをダイレクトに感じる。
「桐崎君、このまま進めば九階層なのですが大丈夫ですか? 九層からボブゴブリンが通常スポーンしますが…」
「えぇ…マジかよ…よし、草薙、あれだ。援護お願いしても…いいですか?」
「えぇ、平気ですよ。そもそももっと頼ってくれてもいいんですよ?」
「いやぁ…それはなんか…ねぇ?ズルしてるみたいでなんか嫌だ」
草薙は本来こんなダンジョン一日で突破できる。
そんな草薙に頼りきりっていうのは他の学生に申し訳ない…それじゃあ、あいつらが言ってる通り本当にただの足手纏いだからな。
なんでまぁ自分で行けるとこまでは俺の力だけで進んでいきたい…簡単にいえば男のプライドって奴だ。
「そんな事ないと思いますが…でも危なくなったらすぐに言ってくださいね?約束ですよ」
「あいよ、流石にそこまで真面目じゃないからな、危なくなったら泣き叫びながら助けを呼ぶよ」
「別に泣き叫ぶ必要はないですけど…そうですね。存分に頼ってください」
苦笑しながら返してくれる。うん、我ながら泣き叫ぶは無いな。
その後、昼食を食べた。どうやら草薙が準備してくれたようだ…俺なんも持ってきてねぇ…申し訳なくなる。
弁当の中身は…予想通りおにぎりだった。いつも通りの味…あれ?もしかしていつの間にか餌付けされてる?




