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六月、世間では特に特徴もない無い月…まぁ祝日もない月だし、梅雨という雨が続く月だ。嫌がる人は割合的には多いんじゃなかろうか?
俺個人としてはそこまで嫌いな月ではない。雨漏りするという点では辛いが、雨自体は嫌いじゃないしな。
そして、雨が晴れた後のあの空気が好きだ。ジメッとした空気が払われるある種の清涼感がなんとなく好きなんだよな。
ザザーッ…と雨が降っている。今日は中々強い雨の日だ。
「にいちゃん! お帰り!」
「おかえり!」
「おーただいま」
俺は学校には家から登校している。学校が運営している寮に入る選択肢もあったが寮に入るにあたり金が掛かるとの事だったので遠慮した。
「にいちゃん! 今日は早かったな!」
「あそぼあそぼ!」
「いいぞ、何して遊ぶ?」
基本的にダンジョン攻略学校の授業時間は長い。普通ならば六限が最大だと思うのだが、それを超え、七限八限といった授業が普通に存在する。
普通の高校の課程にダンジョン探索技術を組み入れたんだから仕方ない、その代わり部活動などは存在しない。まぁ異能所持者がバスケとかサッカーしても大会に出られないからな。
さて、今日も八限まである予定だったんだが…なんか七、八限を担当する教師にトラブルが起きたかなんかで今日は早く帰れた。この学校はこういう時の対応は臨機応変で助かる。
「今日はどれだけ雨漏りの場所を見つけられるか勝負してんだ! にいちゃんもやろうぜ!」
「俺なんてもう三か所見つけちゃったよ! 凄えだろ」
本当にそんな遊びしかできなかったのか?
…にいちゃん悲しくなっちゃうよ…。
「おぅ…よし。その場所を教えて…いや、俺は審判をしよう。もう結構探したんだよな? じゃあ取り敢えず探すのは一旦終了にして、誰がどれだけ見つけたか確認しよう。一番多かった奴には…」
そう言って出すのはお菓子、今日帰りがけに買ってきたんだよな。
「コイツをくれてやろう。ふっふっふ…誰が優勝するかな?」
「え! マジ! ええと…傑が二つで…俺が三つ、そして早苗が五つだから…ちくしょー、早苗の勝ちだな…」
「わーい!」
傑が八歳、早苗は四歳、そしてさっきから元気のいい奴が大介が十一歳だな。
「よし、早苗か…じゃあ、はい! おめでとう! これからも励めよ」
「ありがとう! おにいちゃん!」
「でもいっぱいあるからな…ちょっとだけでいいから大介達に分けて欲しいんだが…どうだ?」
「うんいいよー、はい! 大介にいちゃん」
「いや…俺はいいよ。…これは早苗が頑張った証だもんな! 早苗が全部食べて大丈夫! な?」
「そうだ! 早苗が全部食べるべきだぞ!」
「お? お前ら偉いな…そんなお前達にもちゃんと用意してあるぞ、早苗よりは少ないがな」
「「わーい!」」
「ちょっと! 護兄さん…? ご飯前なんだからあんまりお菓子あげないでよね。夕ご飯が食べられなくなっちゃうじゃない」
「わりわり」
次女の愛梨に怒られてしまった。
「もう、久しぶりに早く帰って来たんだからご飯作るの手伝ってよ。毎回私一人で作るの大変なんだけど」
「あー、悪いな。先に雨漏りを直させてくれ」
「ん? あぁ…別にもう慣れてるから気にしなくていいよ? それに直すお金もないでしょ?」
「ふっふっふ…気にすんな。修繕費を払えるだけの金ならある! 何故ならダンジョン攻略で稼いだから!」
「え! まだ学生でしょ? どうやって稼いだの?」
「いや、俺も驚いたんだけどさ、別に学生でもモンスターの素材を売ること自体は可能だったんだよ。それでちょっとした小金を稼いできたのさ」
俺の場合は他の学生よりは探索する場所は深い。その分素材を売るときの値段は上がる。
まぁE級ダンジョンだから高が知れているけどな。
それでも結構な回数潜ったから、全額で大体ニ、三万ほど稼げた……その半分はボブゴブリンの素材だった。頑張った甲斐あったな。
そんなこんなで金になら少し余裕はある。雨漏りを直すぐらいは大丈夫な筈だ。
「そうなの? …じゃあお願いしていいかな? 慣れてはいてもやっぱり気になるものは気になるし」
「おう」
一旦家から出て、近くのホームセンターで木材を購入した。そのまますぐに帰宅する。
雨漏りの場所はさっき分かったから割とスムーズに直せた。身体能力も上がっているから作業スピードが速い速い…いやぁ、ダンジョン攻略者様々だな!
「うーい、直したぞー」
「ほんと? 結構早かったね。ホームセンターまで結構遠いのに」
「これが異能持ちの身体能力だな。いつもの二倍の速さで走れた」
「へー、やっぱり凄いね…私も異能あるといいんだけどなぁ…」
「えー? やめとけやめとけあんな危険なこと…命が幾らあっても足らんぞ?」
「でも護兄さんばっかに任せてらんないし、まぁ結果は来年までわかんないんだけど」
愛梨は俺の一個下だ。つまり来年には俺と同じく異能検査を受ける選択肢が出てくる。
「まぁそれはお前の自由だからもう言わんけど、でもやめといた方がいいけどなぁ…」
「うっさい! それよりご飯運ぶの手伝って。今日は野菜炒めだよ」
「野菜炒め(肉少なめもやしマシマシ)な、うんうん。うちらしい」
「仕方ないでしょ、うちにお肉買うような余裕はない!」
世知辛いな…まぁそれももう少しの辛抱だ。
このまま順調にダンジョンを攻略し続けていればもうちょい余裕が持てるほど金を稼げるはず。
「はいはい! さっさと運んで! 数多いんだから」
「あいよ」
愛梨から皿を渡されてどんどんテーブルへと運んでいく。
うちのテーブルは特別性だ。何せ家族全員が並んでも大丈夫なほどデカい。
そのせいでリビングのほとんどを占拠しているが、親父は食事はみんなでするもんだーとかなんとか言って押し通して来た。ま、別にそれは否定しないけどよ。
ちなみに今親父はいない、母さんも同様だ。親父は仕事。母さんは十一人目だったか? の子供がもうすぐ産まれそうだーって言って通院している。
流石に体力的にもキツくなって来た親父がこれで最後の子供だ…と言っていたが、今一番下の妹の早苗の時も言っていたから信用できない…。
親父の仕事なー…別に給料は悪くない、むしろちょっといいぐらいだが、この人数になるとちょっといい…じゃあ足りないんだよなぁ。
「じゃあみんな?手を合わせて」
「「「「いただきます!!」」」
全員で言う。まぁ色々不満をどうたらこうたら言ったけど…俺はこの家族嫌いじゃないんだよな。
人数が多すぎて狭くても、一人部屋が無くてプライベートなんて無くても、それでも嫌いじゃない。
「愛梨、大介、傑、早苗。なんか欲しいもんあるか?」
「どうしたの?突然?」
「いやさ、さっきも言ったがダンジョン攻略が今結構順調なんだ。俺にサプライズの才能はないからな、先に要望を聞いたこうと思って」
「えー! じゃあ俺はラジコン! 友達がやってんの見て羨ましかったんだー!」
傑はラジコンか…でもラジコンって一週間ぐらい遊ぶと飽きない?…まぁ取り敢えず覚えとこう。
「俺は新しいバットかな、今の奴ちょっと短い」
大介はバットか…こいつ野球上手いからな、もしかしたらプロになれるかもしれん…流石に弟贔屓しすぎか。
「えと…私は…お人形さん!」
早苗は人形…あれだろ? なんとかかんとかファミリーとかいう奴…うちにそんなの置くスペースあったか? まぁいっか。
「愛梨は?」
「私? ……うーん、特に無いかなぁ」
「お前って昔から欲薄いよな。…なんでもいいからなんかないか? これ欲しい! とかこれやりたい! …とか」
「んー…強いて言うなら、護兄さんが無事でいてくれればそれでいいよ」
「愛梨…なんて嬉しい事言ってくれるんだ!最愛の妹よ!」
「うっざい!」
感極まって抱き着こうとするが、邪険にされてしまった…くそ、手強い。
「でも本当。…ダンジョンって危険がいっぱいなんでしょ? まぁ私も目指すって言ったから他人事じゃないけど、それでも兄さんには怪我してほしくないなぁ」
「あー、妹が優しすぎて辛い…世界中に愛梨の優しさを知らしめたい…」
「そんな事いーから、むしろ嫌だよ世界中に認知されるなんて」
………本当にいい奴らだ、この家で生まれて、色々と大変だったけど後悔は一度もした事は無い。
どこぞのCMの家よりも暖かいんだ。この家は。
「安心しろ。怪我なんてしねーよ。俺が安全性を重視してるのは知ってるだろ? それに俺の怪我なんかより、お前達が怪我しないか心配だよ。お前らジッとするって事が出来ないからな、いつか怪我しそうでこえーよ」
「それぐらい出来るわよ! 失礼ね」
「悪かった悪かった…まぁ、なんというか…あれだ。お前達の怪我とか痛み辛さとか、全部俺が受け止めてやりたいんだよな、上は一人を除き役に立たないし…だから…受け止めるよ、全部」
「そんなこと言わなくて良いよ。全く…護兄さんは心配症ね」
「悪いな、これは性分なんだ。許してくれや」
「んもぉ…さっさとご飯食べよ? 久しぶりに一緒に食べられるんだから、ご飯食べた後も家事手伝ってよね」
「あいよ」
その後は洗濯物を畳んだりしていた。あれってやってみると結構綺麗に畳むの難しい…いつも畳んでくれている愛梨に感謝しないとな。
今日はとても穏やかな日になってくれて良かった。このまま続いてくれると有難いだがね。




