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傷だらけのバンビーノ  作者: 川崎殻覇
羅刹に挑むは探索者の誉なり
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 ゴールデンウィークも過ぎ、その後もちょくちょく授業でダンジョン探索をしていた。


 そうそう、あのボブゴブリンと戦った場所。E級ダンジョンの五層にもう一度行っても新しくボブゴブリンが現れる事は無かった。


 一度攻略すれば中ボスは現れなくなる様仕様らしい。流石にあんな奴ともう一度戦うのはごめんなので正直助かる。

 …因みに草薙はまだ五層に到達していなかったらしく、さっきあのボブゴブリンと戦ったんだが…瞬殺だったな、自信無くすぅ…。


「いえ、桐崎君、階層モンスターはその後も普通に出てきますよ?」


「そうなん? というかしれっと思考を読み取るんじゃないよ」


「顔に出てただけです…!」


 現在地点、六階層。今日は草薙と共にダンジョン探索をする約束をしていた。


 実は草薙はクラスの女子に誘われていたのだが…律儀な性格だからな、先に約束していた俺の方を優先してくれた。


 …なんだか悪いことしてしまったかな? まぁ次はその子達と行くと言っていたから今回は譲ってもらおう。


 さて、久しぶりに草薙とダンジョン探索をするな…最初以来か? …業務連絡でコミュ力上げよう! と言っていたのが懐かしいくらいだ。


 結局あの約束も一回しか果たせなかったが、最近はクラスの女子達とガールズトーク? している所を教室で見る。


 その時どんな紹介をしたか分からんが、クラスの女子達の俺の評判はそこまで悪い事になっていない。


 その反面、男子共とはまだあまり話せないらしく、結果的に俺だけが草薙と喋ることができる男子…なんて影で言われているのをこの前聞いた。


 そのせいで俺の男子評判は最悪。女子としか喋らないヤリチンやら、草薙の足手纏いなどなど…最近どこで聞きつけたかは分からないが金儲けしか考えてない俗物、守銭奴も追加された。

 いや守銭奴に関しては間違ってねぇけどな? はぁ…マジでどうしよ…。


 いや、俺も会話を試みようとしてるんだけどな?話しかけようとすると無視されるんだよ。

 しかも微妙に申し訳なさそうな顔をして…どうやら一部の男子が結託して俺を無視するという雰囲気が男子の中で形成されているらしい。

 その同調圧力により、別に俺を嫌っていない男子も俺を無視せざるをえない…そして話す対象は自然と草薙や他の女子達に固定され、その様子を見て更に嫌われる…負のスパイラルかな?


 まぁ大体の主犯格は分かっているんだが…別に犯人探しした所で…ねぇ?

 俺が嫌われている事実は消えないし…対処するだけ無駄…あーやだやだ、もう何も考えたくない。

 …なんで、そんな面倒なことを考えるよりもダンジョン探索に集中!


 っと、意識を切り替えたところで前方から足音が聞こえる…これは…?


「がァァ!!」


「潰れろ!」


 四層のゴブリンよりは強そうな犬人間が六層では出て来る。

 まぁ強さ的にはそこまで変わらん。ゴブリンを潰す様に棍棒を振るう。


 これまたゴブリンと変わらず頭が砕けた。


「ふぅ…急に来るなよな…びっくりした…」


「……凄い反応でしたね、私でもあぁも早く判断するのは難しいですよ?」


「こいつら足音軽いからな、人間じゃないって事はすぐ分かる。…つまりあんまり確認してない、っべー…人間じゃなくて良かったー」


「……次からはちゃんと確認しましょうね?」


「ういす」


 少し怒られるのであった…。憂さ晴らしの気がなかったとは言わない…むしろ100%それなんだよなぁ。


「さて、このままペースで進んだら今日中に七層に行けそうですね…行きますか?」


「んー…先生達にはあんまし奥行くなーって言われてんだよな…まぁ草薙がいるから大丈夫だろ、進もう」


「頼りにしてくれるのは嬉しいですが、私に頼り切らない様に…。私だってまだ未熟者ですから、自分の身は自分で守る…ですよ?」


「わかってるって、お互いに頼り合おうぜ? …頼り合うと言えば、俺多分サポートもいけるんだよなー」


 鞄の中にある試験管…俺の血液を手で転がす。


 検証の結果、俺の血の弱体化の効果は大体一週間って所だ。


 地味に検証が大変だった…まぁそれはどうでもいいか。


「桐崎君の弱体化…本当に効果強いですよね。弱体特化の探索者にも負けない位程です」


 新しくモンスターが来たので、試験管を投げつける。


 試験管はモンスターに当たり、割れる。


 その瞬間モンスターは苦しみもがく、その隙を突いて草薙がモンスターの首を斬り飛ばした。


「そもそも弱いモンスター限定とはいえ、モンスターを倒せる程の弱体化なんて聞いたことありません…血を流すというデメリットに目を瞑れば破格の性能ですね」


「それなぁ…あ、そうだ。そろそろ棍棒じゃモンスターの防御を突破するのがキツくなってきたんだよな…。あのボブゴブリン、ぶっ叩いてもピンピンしやがって…それで手痛い反撃食らって死ぬとこだった」


「棍棒は初心者向けで使いやすい武器とはいえイマイチ決め手に欠けるんですよね。…金棒、なんてどうですか? トゲトゲで痛そうですし」


「なんだか蛮族路線推してね? こう…なに? 草薙みたいに刀…とかまではいかないけど…ね? わかるだろ?」


「つまり刀剣を使いたいと?」


「そゆこと」


 男の子は一度は刀とか剣とかに憧れるもんだ…その前に魔、とか聖とか神とか付くと尚よし。


「んー…いつかは扱うべきとは思いますが…。…刀にも言えますが刃物全般を扱うには責任が生じます。扱うことによりどんな危険が生じるか、そして扱いを間違えない様に正しい心を持たねばなりません。…桐崎君にはまだ早いですね、もうちょっと精進しましょう」


「まぁ、そりゃそうだな」


 何事にも責任ってものはついてくるもんだ。特に危ない物を扱うのには免許が必要な物もあるくらいだし。


 だからこそ迂闊には扱えない。心構えがしっかりとしていない者には教えられないと言いたいんだろ。その考え方には賛成だし、俺もそう思う。


 まぁ今は棍棒で頑張るか、ボブゴブリンみたいな大物ならともかく普通のモンスターなら倒せるし。



 そんなこんなで、モンスターを倒し進み、目の前に階段が見えてくる。


「七層が見えてきましたね。戻りますか?」


 ん? もうそこまで進んだのか。草薙が一緒だと本当に速いペースで進めるな。


「そうだなー…もうそろそろいい時間だし戻るか」


 少し考えてそう答える。

 日帰りだとそこまで深く潜れない。精々十階層とかそこらだと思われる。


 …ダンジョンは最小で二十、多くなると百層を超えるくらいには層が増える。

 つまり一日で探索するには元々限界がある。となると、ダンジョンの最深層に潜る為にはダンジョンで寝泊まりしなくてはならないことになる。

 授業が進めばそういうサバイバル訓練もあるらしいが、俺はまだ入学して一、二ヶ月やそこら…ダンジョンで寝泊まりする知識がない。これ以上進んだら危険だろう。


 なので踵を返す。あ、そうそう。教師陣は俺達の階層にはいない。


 教師達は五層より前の階層で生徒達の面倒を見ている。つまりここまで生徒が進むことを想定していない。

 となると、当然この階層では教師陣がいないので危険度は高くなるが、ここには草薙がいる。

 純然たる事実として草薙はそこらの教師よりも強いらしい。なんで先生達から草薙同伴なら六階層以上に進んでもいいと言われた…草薙の信頼が厚くて助かる。


 前回同様帰りは速い、あっという間に入り口に戻れた。


「………チッ…またあいつかよ…」


「…………」


 戻ってきて早々不安な声が俺を待ち構える。


 ……これはちょっと…不味いかもなぁ…。


 クラスの雰囲気が悪過ぎる。

 はぁ…こいつらは本当に純粋というか、どうにも自分の考えが世界の考え方と考えている節があるな。


 人の考え方は一人一人違う。似通った考えはあるだろうが、完全に一致するというのはほぼない。


 自分の考え方は正しい…だからそれ以外の考え方違う、異端だ…。まぁそう言いたいんだろうな。


 要するに俺のことが気に食わないわけだ。

 このお坊ちゃん達はダンジョン探索はきっと崇高な物だと思ってるんだろう。


 別にそれ自体は否定するつもりは無い、さっきも言ったが考え方は人それぞれ、俺は個人個人の考え方を尊重する。

 …けど、別に俺がそれに従う理由はないよな?


 俺が誰と仲良くなろうと勝手だし、誰かが草薙と仲良くなるのも自由。

 俺の事を気に入らない理由はわかってる。つまりアイドルが自分以外の男といるのが耐えられないんだろ?


 草薙という人気者と唯一仲良くしている男、それが俺。それがずるくて仕方ない。あり得ない…とまぁ、そんな俺を認めない空気がクラス中に蔓延しているのだろう。

 …メンドいったらありゃしないが、残念ながらそれが今の大多数の考え方だ。


 それに従うというのが今の時流、当たり前。

 俺という敵がいることが当たり前の世界。俺を排除しようとする流れ…それはクラスの男子意思という大波の流れを通じてわかる。


 例えそれが対して複雑でない理由だったとしても、大波は大波、抗うのは難しい。


 何も流されるのは俺だけではない、別に俺に対してそこまで敵対心を持っていない他の男子も同様だ。同調圧力には勝てんからな。


 それらが塵となり集まり、ここまで大きくなってしまった…もはや修復不可能だろうな、これは。


 ま、別に気にしないでもいいのだが…人間は苛立ちが沸点を超えると本当に何をするか分からないからな、あー本当にどうしよ…。


 ダンジョンで晴らした筈の心が曇っていくのが分かる。

 はぁ…これからどうなるのやら…。

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