第2話 俺の彼女になってくれ
放課後になると、俺は真っ先に『10000円くれるなら何でもします』と言った彼女の元へ向かった。
初日から人気者になっていて、もう人だかりができている。その集団の中に突っ込むのは少し勇気がいる事だったが、気合いでなんとか1対1になれる状況を作った。
……ただ、体育館の裏に呼び出しただけだが。
「自己紹介の時に言ってた事って本当か?」
二人きりの状況になってすぐ、俺はそう質問する。
「なんでそんなこと聞くの? みんな冗談だと思ってるでしょ」
「いや、俺には本気で言ってるように見えた。だからこうして聞いてるんだ」
「ふーん……」
彼女は腕組みをして、少し考えてから口を開いた。
「そうよ。私は本気で言った」
やっぱり、予想は合っていたようだ。
だが、すぐに返事を返してくれなくて正直ちょっと焦った。……外してたら恥ずかしいからな。
「なんでそんなことするんだよ。全員が本気だと思ってたら変態とかが来てたかもしれないんだぞ?」
「……え? あ、確かに……」
「そういう事は何も想定したりしてなかったのか?」
「いや――――」
そこまで言うと、彼女は続けて話すのを少しためらった。それからしばらく時間を開けてから再び話し始める。
「何か変な事を言ったら『こいつ面白いヤツだな』っていう認識になるのかなと……」
「…………」
思っていたよりもクソしょうもない理由だった。
真面目そうな子だから、しっかりとした理由があるのかと勝手に思っていた。そういう偏見は良くないな。
「ほら、真面目な子よりもそういう子の方が関わりやすいじゃん?」
「それだけ?」
「そ、それに、もしかしたら勉強教えてほしい人がいるかもしれないでしょ? それならお金は取るけど賢い人に教えてもらえた方が良くない?」
確かにそうだが、お金取るなら相当賢くないと。
そんなことを思った俺は彼女に質問をする。
「お前賢いの?」
すると、まさかの答えが返ってきた。
「中学のテストの点はだいたいトップだったよ」
普通に賢い。可愛くて勉強も出来る人が本当にいた事に少し感動を覚えた。
「……あとさ、お前って言うのやめてくれない? 私には明日花っていう立派な名前があるんだけど」
彼女は俺のことを軽く睨みながら、怒ったように暗いトーンで言う。
そういえば自己紹介の時に言ってたな。『何でもする』が気になりすぎて完全に忘れていた。
「じゃあ明日花。お願いがある」
「ん?」
「明日一万円持ってくるから、俺の彼女になってくれ」
そこまで言うと、さすがに明日花も焦ったのだろう。驚いたように「えっ!?」と声を出した。
「あれ本気のつもりだったんだろ? なら、言った事はきちんと守ってもらうよ」
「かっ、かか、かのじょっ!? 瀬良くんの!?」
「うん。まぁ、とりあえずまた明日」
そう言って、俺はすぐに家に向かって歩き始めた。
最後、明日花の顔が少し赤くなっていたのは気のせいなのだろうか。