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この世界が乙女ゲームの世界だと確信して数日、僕はゲームシナリオに備えて行動する……ことはしなかった。
だって、「夢ファン」にはバッドエンドがないのだ。
バッドエンドが待っているとしたら悪役令嬢くらいだ。
アレイシアは主人公をいじめていてそれが貴族らしくない行動ということで、最終時に断罪されていたっけ。
その後はどうなったか知らん。記憶にない。
王道的に国外追放とかかな?
でも、それは自業自得だ。
主人公をいじめていたアレイシアが悪い。
流石に救いようがない人は放っておくに限る。
なんせ相手は公爵家。
貴族階級トップにして王家の次に逆らってはいけない。
下手したら没落だ。
せっかく人生が約束されているのに下手に首を突っ込むほど勇気はない。
乙女ゲームの世界に転生したのだがら不幸なキャラを全て助けようみたいな、立派な志は持ちあわせていない。
僕自身の幸せを掴めなくて他人を幸せにできるはずがないのだ。
だからこそ、僕自身が幸せになるための方針を立て直す必要がある。
もちろん将来家を継いで無難に生きる、その指針は変わらない。
では、何を変えるのか問われれば、乙女ゲームのフラグをどうへし折るかだ。
僕は乙女ゲーム関係なく普通に過ごしたい。
僕の将来設計としては、気が合う婚約者を作り、学園を卒業し、伯爵家を引き継ぎ領主として過ごす。
これが妥当だろう。
僕は以前までは普通の貴族としての生活ならこれだと思ってきたが、それに乙女ゲームの内容が入ってくるといくつか不安要素がある。
主人公の動き、物語の強制力、そして主要キャラたちとの関わり。
ゲームではアレンは普通に交流していた。
日常パートでも他の攻略対象との絡みから悪役令嬢アレイシアとの関わりから対立まで。
もしも物語の強制力があるならこのイベントに参加することになるし、主人公が仮に僕のルートを選択したならば、公爵家と対立する羽目になる。
触らぬ神に祟りなし。
だからこそ、ゲーム開始までにシナリオブレイクをしたい。
そのために考えられる行動は2つ
主要キャラと交流を持たない。まず学園に入学しないくらいだが……この二つは却下だ。
ここは貴族社会だ。
主要キャラは上位貴族と王族のため関わらない選択肢は取れないし学園に入学しないのも将来伯爵家を継ぐことを考えれば無理。
ハルム学園。
僕が通うことになるグラディオン王国の成人を迎えた貴族の子息子女が通わなければいけない学校。
だから、2つ目の選択肢は不可能なのだ。
なら、いっそのことシナリオ通りに進め、仮に僕のルートに入ったらその通りに進める。
考えたが、これもだめだ。理由は主人公のおい立ちにある。
少しフローラのおい立ちをかたろう。
「夢ファン」の主人公、フローラのおい立ちは少し複雑だ。
フローラは15歳で成人した年にオーサス男爵の元へきた。
フローラはオーサス男爵と愛人とできた娘だ。
オーサス男爵家の血が流れていること。そして、正妻との間に子供が恵まれなかったこと。オーサス男爵領の平民が通う学校で常に優等生で、天才と呼ばれていて、もともと優秀な成績を修めた生徒は領主に報告がいく。
それらの理由で、オーサス男爵は正妻と相談し、フローラを迎えることにした。
フローラは物心つく前から孤児院で育った。
悲しいシンデレラストーリーである。てか、フローラ可哀想すぎだろ。
現当主が子供に恵まれなかったから、正妻との子供ができなかったから、愛人の子供を娘を迎える。
フローラが孤児院に入れられたのも、正妻に愛人のことを隠すためだが、最終的に子供ができなかったことを焦ってフローラのことを告げて子供に迎える。
……オーサス男爵屑すぎる。
こんな初期設定に色々制作側に文句を言いたいが、残念ながらこれは乙女ゲームの設定。
主人公に感情移入しやすいようにあえてそのようにしたのだろう。
そんな過程をフローラは経て、オーサス男爵の誘いを高度な勉学に励めると思い承諾。
はれて貴族の仲間入り、学園に入学した。
ゲームの説明書に書かれていたのはこんな感じだったはずだ。
色々が語ったが、ここで重要なのは彼女の立ち位置にある。
男爵家の令嬢で元平民。
もしも仮にフローラと僕が結婚したら周りの評価はどうだろう?
同情はされると思うが、周りの評価はどうだろう?
僕はなんと言われようが周りの評価を気にする。
貴族の風習に慣れていないフローラが周りにどんな影響を与える?
フローラに貴族の令嬢の振る舞いができるか?
貴族の令嬢は幼い頃から教育を受け、貴族としてのあり方を学ぶ。
しかし、フローラはそんな知識はない。
入学前に多少のことは学ぶかもしれないが、それでも限界がある。
付け焼き刃が通用するほど貴族社会は甘くない。
僕はフローラは悪影響しか与えない気がするんだ。
ひどい考えをしていることは自覚している。
それでも、少しでも将来の不安感は無くしておきたい。
こういった理由で考慮し、考えた結果、結論を出した。
学園入学前に婚約者作ること。
僕の生家は伯爵家。
婚約の話の一つや二つ、そのうち話がくるはずだ。
婚約者がいれば絶対にフローラの件と関わらなくても良い。
多少関わってもそれが理由で距離を取れる。
これが良い選択かもしれない。
よし、聞ける時に聞いてみよう。
年相応で普通の成長をする。
三歳の子供がいきなりこんなことを聞いたらおかしいだろう。
だから、まずは大きくなろう。
そして、時間をかけて乙女ゲームに備えよう!
最後まで読んでくださりありがとうございました。
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