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転生して早3年経った。
突然だが、僕はどうやらイケメンに転生したらしい。
わかってはいた。
あの美男美女の両親から生まれたのだ。
イケメンに決まっている。
鏡で一度自分の容姿を見たのだが、僕は母上寄りに似ているのかもしれない。
髪の色は銀髪、紫目が特徴で、幼くても将来は容姿端麗が期待できそうな容姿。
僕は鏡を見た瞬間飛び跳ねるくらい嬉しかった。
だが、その反面、少しばかり苦労するところもあった。
それは生まれつき備わっている耳の良さだ。
この3年間は大変であった。
僕の人並外れた耳の良さに慣れるのが特に。
だが、それでも今は落ち着いている。いや、慣れたというべきだろう。
今では普通に過ごせているし、慣れればむしろ便利だ。
耳をすませば使用人たちの小言や噂も聞き取れるし。
閑話休題。
さて、3歳になり、歩けるようになった僕はこの時期になったら行動を開始しようと思う。
僕がまずやることは、キアン……父上の仕事見学だ。
現場で見て学ぶ。
将来自分もやらなければいけないことだから、雰囲気を見ておきたい。
ただ、将来のための行動にあたって僕なりのルールを決めた。
年相応の行動で目立たずに生活しよう。
考えても見てほしい。幼い子供が言葉を流暢に話し、勉強も平均よりもできている。
難しい言葉も理解する。
これらを神童と呼ばずになんと呼ぶ。
僕はもともとスペックは高くない。
どんどん求められるレベルが上がっていき、自分を苦しめるだけだ。
だから、年相応らしい行動をする。
それでも、一度父上の仕事ぶりを見てみたい。
そのため、シンを伴い父上が仕事をしている書斎を耳を頼りに移動をしている。
父上に会いたい旨を表しながら。
「ちちうえ?」
「アレン様、こっちですよー。シンのところにきてください」
「ちちうえ、どこー」
「アレン様……」
現在僕は父上を探すため、屋敷の廊下を彷徨いている。
先ほどから僕の面倒を見て、最後には呆れているのは専属執事のシン。
年齢は40代ほどで痩せている黒髪、黒色の執事服を着ている。
他の使用人たちから聞こえた会話から、相当なベテランらしく、今後の僕の教育も担当するらしい。
心優しく、常に家のことを思ってくれているので僕自身シンのことは好きだ。
僕の行動でシンはため息をつきながら、どうしようかと考えている。
早く見つけないとなー。そう思うも、残念ながら父上の書斎の場所はわからない。だから、耳を頼りに進むしかないのだ。
僕は廊下を移動しながら父上の声がしないか移動しながら聞き探す。
さっきこっちの方から聞こえたんだよね。
ここの部屋かな?
『今日のお昼なんですかね?』
『何?もうお腹すいたの?』
『……はい』
『さっき朝食食べたばかりじゃない。しっかりしなさい』
なんだ、メイドさんの会話か。ここじゃないな。
たしかにお腹すいたけど、今は父上を探さなければ。
僕は奥の部屋へと移動する。
『掃除だりぃ。なんで、毎日同じところしないといけないんだよ』
ん?なんだこの声は。この人やる気なさすぎだろ。
少しお灸を据えた方がいいかな。ちょうどシンもいるし。
僕はこの部屋のドアを入りたいというアピールをシンにした。
「しん、ここあけてー」
「ここに入りたいのですか?」
「うん!」
ガチャッとシンが仕事に文句を言っていた者のいるドアを開けた。
「?!シンさん!なんでここに!」
「……ウェル、何をしているんだ?」
シンがドアを開けると、掃除が面倒くさいと独り言をしていたウェルと呼ばれた茶色髪の癖っ毛の使用人が椅子に座っていたが、慌てて立ち上がる。
シンはそんなウェルの姿を見て呆れていた。少し怒っているようだ。
「いやーその……掃除です」
「では何故座っていた?」
「ゆ、床の掃除をですね……」
「私には手には何も持っていないように見えるのだが」
「あ……すいませんでした!」
シンの質問についにウェルさんが勢いよく頭を下げて謝罪をした。
シンってこんなに怖いんだ。
ウェルさんに悪いことしちゃったなー。でも、サボってんのが悪いよね……うん。
「この部屋の掃除が終わり次第私の元に来なさい」
「……はい」
「アレン様行きますよ」
ウェルはシンの言葉にしょぼんとして返事した。
シンはドアを閉め、そのまま僕の手をひきその場を後にした。
『まじかよー。やっちまったぁ。……最悪。はぁ』
僕とシンが部屋を出た後、ウェルさんの愚痴が聞こえた。
もしかして反省してないか?
……今度同じような場面に遭遇したらもう一度やろうかなー。
『少し休憩するだけだったのに。……はぁ。……さっさと終わらせて、シンさんのところ行くか』
うん?ウェルさんって結構真面目なのかな?
なんか悪いことしちゃったなぁ。
僕はウェルさんに心の中で謝罪をする。
「アレン様」
「なに?」
ふと、考え事をしていると、隣を歩くシンが話しかけてくる。
「アレン様は立派な人間にならなければいけません。先ほどのウェルのようになってはいけませんよ」
「うん?」
「……少し難しかったですかね。そうですね。将来、大きくなったら悪い人になってはいけませんよ」
子供の教育は難しいらしい。シンは簡潔に言葉を言い換え、伝わるようにした。
流石に3歳からいいこと悪いことくらい分かると思う。とりあえず会話の流れから返すとすれば……。
「ウェルはわるいひと?」
「それは……」
シンは少し困った顔をした。
いや、別に困らせるつもりはなかったんだけど。
ウェルはどう返すんだろう?
「いえ。ウェルは努力家……頑張り屋さんですよ。それにすごい人です。ただ、ちょっと悪さをしてしまっただけですよ」
「そうなんだ」
そうか、ウェルは努力家なのか。
シンにここまで言わせるのはすごい。
ただの僕に言い聞かせるための言葉なのかもしれないけど、基本シンは人をここまで評価する人ではない。
むしろ、滅多に他人を褒めることはないかもしれない。
少しお灸を据えるだけのつもりだったけど、ウェルに悪いことをしてしまったな。もう何もかも遅いが。
「わかった。僕もがんばりやさんのすごい人になる!」
「頑張ってください」
「うん!」
言ってて恥ずかしくなるけど、我慢だ我慢。
ここで、本性を出すのはいけない。
子供らしく年相応に。
僕は自分にそう言い聞かせた。
毎回子供のふりして過ごすの面倒臭くなってきた。
今後のことを考えて何か策を用意した方がいいかもしれない。
また今度考えよう。
時間は自由にあるし、僕自身屋敷を自由に移動もできる。
父上と母上は放任主義なのか、シンに任せきりなのか、基本的にやることは自由にさせてくれている。
ま、この件は今はいいかな。
僕は思考を整理し、意識を父上探しに切り替える。
『ああ。早く仕事を終わらせてユリアンとアレンと一緒にいたいなぁ』
あ、ここだ。
それから探すこと数分。ついに父上の声を発見した。
読んでいただきありがとうございます。
次回は今日中に投稿したいと思います。
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