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10

 転生して年月が経ち、気づけば10歳になっていた。

 僕はこの世界が乙女ゲームの世界だとわかってから、目立たずに努力を重ねた。


 今思うと、ウェルに本性を曝け出して、専属にしたのは正解であった。

 ウェルは本当に有能な人材であった。

 僕の専属になってからというもの、その立場に相応しくなるために努力を重ねた。


 もともと才能に恵まれていてそれに加えて努力。

 その結果、ウェルはシンの代わりになるべく、教育係も兼任することになり、父上の仕事の手伝いをしてもらったため、今では僕がいる時、忙しい時限定で手伝っている。


 

 

 僕は6歳……物心がついたと思われた時期からウェルによる教育が始まった。

 読み書きから算術、歴史など基本的な教養を学び始めた。


 勉強に関しては前世があるため、そこまで苦労はしなかった。そのおかげか、本来なら長い時間をかけて学ぶはずの範囲を終わらせている。


 ただ、ウェルは僕自身があまり目立ちたくないことは伝えているので、教養の進捗については父上に虚偽報告をしてもらって、順調に学んでいることになっている。


 全てが円滑に進んでいた……僕はそう思っていたのだが、最近になってある悩みができた。


 それは……。


「ウェル……僕にはいつになったら婚約者ができるんだ?」


 これだ。

 今、ウェルと勉強中ということにしての自室にこもっている。

 ウェルは部屋の端で椅子に座り本を読み、僕は針を片手に刺繍をしていた。


「……なんですか唐突に?」


 そんな質問にウェルは本を閉じ、視線を僕に向ける。

 

「いや、唐突でもないんじゃないと思うんだ。僕も10歳になったんだよ。縁談の一つもないのはおかしいと思うんだ」

「……いや、おかしいのはアレン様のその考えかと」


 いや、その返答おかしくないか。

 僕の考えがおかしい?意味がわからない。それと、ウェル……自分の主人に対してその態度はないんじゃないか?


「ウェル……流石に今のは失礼じゃないか?」

「いや、フランクに接するように言ったのはアレン様じゃないですか。それに今更ですよ」

「それはそうだけどね。僕が言いたいのは僕の考えがおかしいと言う部分だよ。もう少し遠回しに言うとかできないの?」

「……では、こういえばいいですか?失礼ながらアレン様のその考えは世間の常識から多少、乖離している部分が複数ございます。まず一つ目ですがーー」

「あーいや。面倒くさい。もういいから」

「なら初めから言わなければいいのに」


 ウェルはため息をしながら文句を言う。

 ウェルは僕に対してフランクに接してくれている。

 雑だと言ってしまえばそれまでだが、まあいい。これは一つの信頼なのだと思っておこう。もともと僕から言い始めたことだし。

 僕自身も気を遣わないで接することができるため、本気で咎めたことはない。

 

 少し話が本筋から逸れてしまったため、話を戻そう。


「はぁ……もういいや。一応話戻すけど、さっきウェルが言った僕の考えがおかしいとは言ったけど、どう言うこと?」

「……その前に一つ聞きますが、何故時代遅れの婚約の話が出てきたのですか?」

「時代遅れ?なんのこと?」


 僕の発言にウェルは呆れた目で僕を見ていた。

 だめだ。ウェルが言っている内容がわからない。

 婚約が時代遅れだなんてあるはずがない。これは僕自身が調べたからだ。

 父上の書斎から貴族についての本を借りて読んだから間違いないはずだ。


「いや、そんな呆れた表情しないでよ。本当に意味ないわからないんだよ。ちゃんと本で読んだし」

「……いや、そんな本ないはずですが……。ちなみになんと言う本を読んだのですか?」

「何って、これだけど」


 僕は父上から借りた、赤い古びた本をウェルには見せた。


「はぁーー。何読んでるんですか全く。アレン様って頭いいのか悪いのか分かりませんよね」

「いや、流石にその発言はおかしくないかい?流石の僕も怒るよ」


 ウェルはこめかみに手を乗せため息をした。

 僕はすぐにウェルを咎める。流石の僕も許容できる範囲があるので、一応咎めたのだが、何故かウェルはさらに大きなため息をついた。


「いや、さっきからどう言うことなんだい?言わないとわからないよ」

「……では、今アレン様が持っている本のタイトルを言ってみてください。それと出版期日も」

「……わかったよ」


 僕はウェルの言われるがまま、持っている本の名前と出版期日を言う。


「タイトルは《古の貴族の在り方》出版期日は……あれ?」


 ……見間違いかな?

 何故か今の時代の30年ほど前になってる。


「今から30年も前になってる」

「そんな昔の本、一体どこから持ってきたのですか?」

「どこって……父上の書斎だけど」

「……なるほど。納得しました」


 いや、一人で納得されても困るんだけど。

 

「キアン様の書斎にある本は全て古書ですよ。年代は別でも、今では出版されてない珍しい本が多々あります。……もしかして勝手に持ち出したのですか?」

「まぁ……うん」

「アレン様はご存じないかもしれませんが、キアン様は珍しい本を集める習慣があります。そのアレン様の持っている本もその一冊。黙って持っていかれるのはキアン様が困ると思いますよ」

「……申し訳ない」


 執事に怒られる主人ってなんか父上とシンの関係のような。ウェル、シンに似てきた?


「この本は俺が戻しておきますね」

「……すまないね」

「いえいえ、これも仕事のうちですから」


 そう言ってウェルは僕から本を受け取り、部屋を出ようとする。

 今から戻しに行ってくれるのか……本当にウェルは働き者だなぁ。


「すぐに戻りますね」

「ありがとう……いや待って!」

「なんですか?」



 危ない。

 まだ、重要なことを聞いてなかった。

 ウェルは足を止め、振り返る。


「いや、まだ僕の質問に答えてもらうまでないんだけど」

「戻ってからではダメですか?」

「解説は後ででいいから結論だけでも言ってほしいかな」


 せめてこのモヤモヤは解決しておきたい。僕の考えが古いってどう言うことだよ。


「今の時代、恋愛結婚が主流なんですよ。家同士の政略の婚約なんて考えは行き遅れたもの同士で行うことになります。まぁ、家によっては事情によって婚約する家はあるそうですが……。まだ、学生でもないのに婚約とかそういう考えは今の時代古いんですよ」

「……そ、そうなんだ」


 ウェルはそう言って退室した。


 婚約の考えが古いとか意味わからん。

 なんか考えずれているな。

 

 だめだ。意味がわからない。

 とりあえず帰ってきたらウェルに解説をお願いしよう。

読んでいただきありがとうございます。

次回は今日中に投稿したいと思います。


もし、少しでも面白い、続きが読みたいと思って頂けましたら差支えなければブックマークや高評価、いいねを頂ければ幸いです。


評価ポイントはモチベーションになります。


よろしくお願いいたします。


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