プロローグ
花河相です。
きりがいいところまで投稿したいと思います。
最後まで読んでくださると幸いです。
乙女ゲームというのはよっぽどの理由がなければ、普通男はやらないものだと僕が思う。
同性愛者の人とかならやるかもしれないけど、ノーマルの僕には何が楽しいのか全くわからない。
だってそうだろう?何が楽しくて男を攻略せんといかんのだ。
「ねぇ雄大くん!どうだった?」
「え、いや……どうって言われても……よかったんじゃない?特に最後の悪役令嬢が断罪されるところなんて」
「もう!私が聞きたいのはそこじゃないの!……なんかおかしくなかった?アレイシアの様子」
「えぇ……」
僕……上代雄大はある日突然、従姉妹の理恵に呼び出しをくらい、乙女ゲーム「夢見る乙女のファンタジア」の一通りプレイした。
「夢見る乙女のファンタジア」
通称「夢ファン」と呼ばれ、ストーリーは幼い頃、孤児院で過ごしていた主人公のフローラが夢を叶えるべく、王族貴族の通うエルス学園に入学し、3人の攻略対象キャラクターと仲を深めるというシンプルな内容の恋愛シュミレーションゲーム。
僕はそんな乙女ゲームを理恵に誘われ、貴重な社会人の休みを返上してプレイした。
きっかけは理恵が乙女ゲームのプレイ中に「悪役令嬢のキャラが少し気になるから一緒にやってみてほしい」と誘われ、意見を聞かせてほしいとのことで、僕は乙女ゲームを始めた。
理恵はいわゆるオタクという人種で、やり始めたゲームは隅々まで網羅するのだ。「夢ファン」も理恵がやり始めたゲームの一つ。
「いや、どうって聞かれてもわからないよ。理恵は何が気になったんだ?」
「え?雄大君見てわからないの?だって、アレイシアが何も表情変えずにこんな酷いことするかな?」
「……いや、そう言われても。残念ながらいつも無表情で主人公をいじめていたから、ひどいやつだな、くらいにしか思わなかったよ。それにこれはゲームじゃん。制作側の都合のいいキャラってことなんじゃないの?深く考えてもしょうがないと思うけど」
「えぇー。絶対それはないと思うけど!だってどんなキャラの行動にも必ず理由があるものなの!どんな悪役にも何故そのような行動をするのか。……必ず理由は存在するの!アレイシアも何か絶対あるはずなの!」
「いや……そう言われてもなぁ」
その意見は合っていると思うけど、その理由の中に「夢ファン」の悪役令嬢も当てはまるとは限らないと思うんだけど。
僕はそう言おうとするが、この場がより面倒臭くなるだけなので何も言わずに考えるふりをする。
理恵が気になっていると言ったアレイシアは「夢ファン」の悪役令嬢。
これは少しネットで調べたのだが、アレイシアというキャラは「夢ファン」をプレイしたユーザーからこう言われていた。
「感情のない人形」と。
その名の通り、アレイシアはシナリオ進行中必ず攻略の邪魔をしてくる。それが、表情を一切変えることなく。
理恵が気になるのはそこの部分で、一緒にプレイをしている時もネット情報の通り表情を一切変えることなく、アレイシアはフローラの妨害やいじめの時、笑うそぶりすら見せず、眉一つ動かさないでいじめをしていた。
僕はそんなアレイシアは運営側が用意したただの悪役、シナリオを都合の良いように進めるため用意されたキャラで、ユーザーが感情移入をさせないための制作側の配慮の可能性があると考えた。
ネットの評価はあながち間違いではないと思う。
それでも、僕にも見てほしいと言われてシナリオ飛ばし飛ばしであったが、確認をしたのだが……。
僕は一切何もわからなかった。
「理恵の勘違いじゃないのか?実際シチュ見ても特に気にならなかったし。ちょっと可哀想かもだけど、制作側の都合のいいキャラって可能性もあると思うし」
「うーん。そうなのかなぁ?でも、私は必ず理由があると思うんだよねぇ」
理恵は一向に諦めた様子を見せない。
でも、残念ながらこの談義は長くは続けられない。
「理恵……アレイシアの件は後日また話し合おうよ。もう一通りシナリオ全部やったし、今日は終わりにしようよ」
「え!まだまだこれからだよ!ハーレムルートも終わってないし、隠しキャラの王子も終わってないよ!」
「え……まだあるのかよ。てかハーレムルートって。……ごめんね理恵。僕明日早番で、明日早くて」
時計はすでに夜中の一時をすぎている。
これ以上やると、仕事に影響が出る。
「また次の休日に……ね!」
「ぶー」
「膨れてもだめだよ。理恵も明日仕事でしょ。アレイシアの件はまた次の休みの日にでも検証しようよ!」
理恵は膨れても首を縦に振ろうとしない。どうしよう?ここまで膨れた理恵の扱いは面倒くさい。
どうしようか。
「理恵……」
「……わかったわよ。じゃ、また来週あけといてね!」
「……わかった」
何が楽しくてまた休日を返上しなければいけないのか。
僕はため息をしながらも了承した。
首を縦に降らないと永遠に返してくれそうにないから。
僕はスケジュール帳を開き、「理恵とゲーム」とメモし、この日は解散した。
「理恵は度が過ぎてるよなぁ」
一度やり始めたら最後までやり切る。
たしかにそれは理恵の美徳であり、長所なのだが、度がすごているとたまに思うことがある。一つ疑問に残ったらそれが解消するまでやり続ける。
「夢ファン」のアレイシアの件だってそうだ。一度気になり出したら止まらない。独自で納得するまで悩み続ける。
このような理恵とのやりとりは初めてじゃない。
毎回僕自身の理由で解散してしまうことが多々ある。
その度に機嫌が悪くなるのだが……。
「次、シュークリームでも買っていくか」
理恵は好物を買えばすぐに機嫌が良くなる。
意外に単純なのだ。
「明日もまた仕事か……」
現在僕が勤めている会社はブラック寄りだ。
僕は昔から物覚えが悪く、人の数倍努力するしかない。
勉強も嫌いであったたため、高校卒業と共に就職した。
高卒で何もスキルも資格もない僕を雇ってくれた時点でありがたいので、不満はたまるが直接出したことはない。
社会人として過ごしたからこそもう少しちゃんと勉強すればよかったと後悔している部分もある。
「はぁー」
もう考えても手遅れだし、特別やりたいこともない。
今の生活に少し満足してしまっている。
僕は一人でため息をつきながら帰路についていた。
「……あれ」
またいつも通りの日常が始まる。僕はその時までずっと思っていた。
「トクン」と胸に激しい痛みを感じるまでは。
僕は胸を抑えてその場に座り込み、意識が遠のいていくのを感じる。
僕はそれを思いながらある結論に達する。
それは「死」。
人間誰もが迎える最後。
ごめん理恵、約束守れそうにないや。
考えもしなかった。
これが僕……上代雄大の最後であったなんて。
お読みいただきありがとうございます。
次回はすぐに投稿します。
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