8話 専任
「わぁ」
思わず声が出てしまうくらい綺麗なお姉さんだった。
歳は、二十半ばくらい?
背は高く、手足はスラリと伸びている。
それでいて、出るところは出ていて、引っ込むべきところは引っ込んでいるというスタイル。
……ものすごくうらやましい。
ウェーブのかかったロングヘアー。
やや派手な髪飾りをつけていて、服も露出が多い。
でも、嫌な感じはしない。
むしろ、この人にはこれが一番似合う、という感じがして好印象だ。
派手だけど、そうすることで魅力を引き出している。
「ようこそ。私が、アクエリアスの冒険者ギルドのマスター、ミゼリーよ」
「あ……は、初めまして! 私は、アズ・アライズです。この子は……」
「シンシアだよ!」
「し、シンシア!?」
相手はギルドマスターなのだから、もう少し言葉遣いを……
「私は堅苦しいのは嫌いだから、気にしていないわ」
「そ、そうですか? ありがとうございます」
「その代わりといってはなんだけど……抱きしめてもいいかしら?」
「え?」
「んー……ダメ、もう我慢できない!」
「わきゃ!?」
いきなりミゼリーさんに抱きしめられた。
頭をなでなでされて、頬をすりすりされてしまう。
「なっ、ななな、なんですか!? なんですかぁーーー!?」
「あーもうっ、かわいいわね! 小さくて、でもキリッとしてて、かわいい! ものすごく尊いわ!!!」
「ふわあああああ!?」
「アズ!?」
どういうこと!? どういうことですか!?
どうして私は、なでなですりすり抱きしめられているんですか!?
――――――――――
「こほん……さっきはごめんなさいね」
「はぁ……」
ややあって解放された私は、ミゼリーさんが用意してくれた紅茶を飲んでいた。
ちなみに、シンシアはお菓子をぱくぱくと食べている。
満面の笑みでとても幸せそうだ。
……餌付け?
「私、かわいいものが大好きなのよ。それで、アズちゃんがあまりにもかわいいものだから、つい我を忘れてしまって」
「私、かわいいですか?」
「天使みたい」
「えへへ」
ちょろい私だった。
「え? でもそれじゃあ、私は抱きしめられるためにここへ……?」
「まさか。さっきはつい暴走しただけで、もちろん、本題は別にあるわ。ただ、その前に聞いておきたいのだけど……シンシアちゃんは最強種なのかしら?」
「たぶん、ですけど……ただ、聞いたことも見たこともないんですよね」
犬に変身できる最強種なんて知らない。
犬といえば猫。
猫に似た猫霊族はいるけど、あちらは変身できない。
「とんでもなく強いから、たぶん、最強種だと思うんですけど……」
「とんでもなく強い、という点が保証されているのならそれでいいわ。で、二人は仲間なのね?」
「はい! 大事な仲間です」
「……アズ……」
シンシアはうれしそうな顔をして、尻尾をぶんぶんと振る。
……たまに私に当たって痛い。
「話っていうのは、この街……アクエリアスの専任冒険者になってほしい、っていうことよ」
「専任……ですか?」
専任というのは、個人と契約するのではなくて、街と契約する冒険者のことだ。
街から依頼を請けて、街のために活動をする。
もちろん、個人の依頼を請けることも可能だ。
ただ、基本的に街の依頼を優先させなくてはいけない。
街がスポンサーになるようなものなので、選ばれた人しかなることができない。
「どうして私が専任に……?」
「理由は二つ。まず、あなた達がとんでもなく強いから」
「……」
「評判が悪いけど腕は立つ冒険者との勝負に勝ち、そして、ベヒーモスを撃退してみせた。詳しくはわからないのだけど、アズちゃん、あなたは格闘術を習っているのかしら? その拳技、放っておくのはもったいないわ」
確かに、私は格闘術を習っていた。
故郷で習っていた。
でも、それは……
「もう一つの理由は、腑抜けた冒険者共が全員逃げたからよ」
「あ」
「俺の女にならないか? とかイキッて私を口説いていた男連中は、ベヒーモスと聞いて全員逃げ出したわ。まったく、情けないったらありゃしない」
「アズは立ち向かったから、偉い! えへへ、私のご主人様、かっこいい」
「ありがとうございます、シンシア」
彼女に褒められるとうれしい。
ご主人様らしく、立派であらないと、という気持ちになる。
「だから、今この街にいる冒険者はアズちゃんだけなの」
「それは……」
「都合のいいことを言っているのはわかるわ。ウチの者がひどい態度をとって、所属してた冒険者連中もふざけたことをして……そんなギルドに、街になにかする理由なんてないと思う。でも、私はアズちゃん達にすがるしかないの。このままだと……」
「はい、いいですよ」
「そう遠くないうちに街の循環がうまくいかなくなって……え?」
頷いてみせると、ミゼリーさんが目を大きくして驚いた。
「えっと……今、なんて?」
「いいですよ、って」
「本当に?」
「はい」
「本当の本当に?」
「本当の本当です」
それでも信じられないらしく、ミゼリーさんは驚いた顔のままだ。
「えっと……引き受けてくれるのはうれしいけど、どうして? 私達はアズちゃんにひどいことをしたわ。アクエリアスに対する思い入れもないはず。普通なら他の街に行くのに、どうして……」
「深い理由はないですけど……」
私は、それが当たり前だと思っている。
「だって、ミゼリーさん、困っているんですよね?」
「え?」
「困っているのなら、見捨てたくないです」
確かに、思うところはある。
ひどい扱いを受けたこと、気にしていないわけじゃない。
でも……
困っている人を見捨てるようなことはしたくない。
「なんで、そこまで……」
「困っている人を助けるのに理由なんていらないです」
「っ……!?」
ミゼリーさんは衝撃を受けたような顔をして、それから、ぶるぶると震えて……
「あーもう! アズちゃん、天使! 天使ね!? かわいいだけじゃなくて優しくて、マジ天使!!!」
「ふわあああああ!?」
「アズ!?」
再び抱きしめられてしまう私だった。
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