7話 ご主人様
「……ずずっ」
ほどなくして泣き止んだ私は、ティッシュで鼻をかんで、ハンカチで目元を拭う。
「見苦しいところを見せてしまいました、ごめんなさい……」
「なんで? そんなことないよ? アズ、かわいい」
「っっっ……!!!」
恥ずかしい。
ものすごく恥ずかしい。
穴があったら入りたいというのは、こういう気分なのか。
「それに、アズは私のご主人様なんだから、そんなこと思わないで。まったく気にしていないよ」
「ご主人様……?」
「うん、アズは私のご主人様!」
シンシアの尻尾がぶんぶんと揺れていた。
犬だからご主人様?
そういうことなの……かな?
「えっと……なら、恥ずかしくないご主人様にならないとですね」
「うん、がんばって!」
シンシアがにっこりと笑って。
私も、にっこりと笑う。
今、本当の意味で二人の間に絆が結ばれたような気がした。
「でもでも、アズ、すごいね!」
「え?」
「ベヒーモスを殴り倒しちゃうなんて、すごく強い!」
「それはシンシアのおかげで……」
「アズの才能の方がすごいかも? 闘気もすぐに扱えちゃうし……アズみたいな人、今までみたことない!」
「えっと……ありがとうございます」
ちょっと照れくさかった。
「……おーいっ!」
ふと、声が聞こえてきた。
何事だろうと振り返ると……
「遅くなって悪い! 援軍を連れてきたぞ!」
ギルド職員は慣れない武装にもたつきつつ、一生懸命こちらに走ってきた。
彼だけじゃない。
男女問わず、他の職員もいて……
街の人も武装して駆けつけてくれて……
「っ……!」
街の人、全員が駆けつけてくれた。
その光景に、思わず感動してしまう。
私は……一人じゃない。
「悪い、説得して回っていたら遅れて……でも、この通り、たくさんの援軍を連れてきたぞ!」
「そうですね……ふふ」
「それで、ベヒーモスはどこだ!?」
必死な様子で言うギルド職員。
他の人達も、恐怖に震えつつも、逃げ出すようなことはしないで……
私と一緒に戦う、という覚悟を見せてくれている。
……うん。
私の目が曇っていただけで、この街は素敵なところかもしれない。
「大丈夫ですよ」
「え?」
「ベヒーモスなら、私とシンシアが倒しました」
「倒した!」
シンシアが元気よく応えた。
人型のままだけど……
たぶん、大丈夫。
きっと受け入れてもらえる。
「た、倒したのか!? それは……って、そっちの嬢ちゃんは?」
「彼女はシンシア。えっと……私の、大事な家族です」
「アズの家族!」
「その耳と尻尾、最強種……? でも、見たことが……いや、そんなことはどうでもいいか」
ギルド職員はとびきりの笑顔を浮かべて、後ろの街の人達に声をかける。
「みんなっ! もう大丈夫だ、ベヒーモスは倒された!」
どよめきが広がる。
そんな街の人達に、続けて声をかける。
「ここにいる冒険者が……いや。英雄アズ・アライズが倒してくれたんだ!」
「「「おぉ!?」」」
「みんなで彼女を讃えよう! 小さな英雄、アズ・アライズ、ばんざい!」
「「「ばんざーいっ!!!」
「え!? いや、あの……!?」
万歳三唱されるとか、なんていう罰ゲーム?
ものすごく恥ずかしくて、顔が熱くなってしまう。
でも、シンシアはにこにこ笑顔で……
「えへへ、よかったね、アズ」
「……ふふ、そうですね」
なんか、シンシアの笑顔を見ていたらどうでもよくなって、楽しくなって……
一緒に笑うのだった。
――――――――――
「ありがとう!!!」
街へ戻ると、改めてお礼を言われた。
私の手を取り、ぶんぶんと縦に振る。
「あんた達のおかげで街は救われた、本当にありがとう!!! それと……すまなかった。俺、あんたにひどい態度をとっていて……何度でも謝罪させてほしい、すまない!」
「む……都合がいいね。私、がぶってする?」
「……しなくていいですよ」
苦笑しつつ、シンシアをなだめる。
確かに都合が良い。
でも、この人は本気で謝罪をしてくれている。
なら、それ以上責めるようなことはしたくない。
にらみ合うより、笑い合う方が絶対にいいから。
「はい、謝罪を受け入れました」
「許してくれるのか……?」
「仲直りです」
手を差し出すと、
「ありがとう! ありがとう!!!」
泣きながら握手をされた。
そこまで……?
「それと……こちらの都合で申しわけないんだが、今、時間は大丈夫か? 可能ならギルドに来てくれないか?」
「ギルドに? それは大丈夫ですけど……」
どうして? と目で問いかけると、ちょっと気まずそうな顔をされてしまう。
「えっと……実は、ギルドマスターがあんたと話をしたい、って」
「ギルドマスターが?」
この街……アクエリアスの冒険者ギルドを収めるのが、ギルドマスターだ。
アクエリアスでは冒険者の立場が強い。
そのため、ギルドマスターは領主に近い権限を持っている。
そのギルドマスターが、どうして私に?
ベヒーモスを倒したから?
それとも……
「わふ?」
ちらりとシンシアを見る。
もしかして、この子が関係しているのだろうか?
言葉通り、話をするだけなら問題ない。
でも、もしもシンシアに手を出すつもりなら……
「……その時は、なにをしても守らないといけないですね!」
――――――――――
冒険者ギルドへ移動した。
中は……空っぽだ。
冒険者は元より、職員が誰もいない。
もしかして、冒険者だけじゃなくて職員も逃げたのかな……?
「こっちだ」
「あ、はい」
奥に案内された。
「ギルドマスターは、この部屋で待っている」
「わかりました。案内してくれてありがとうございます」
「ああ、いや。これくらいは……ただ」
微妙な顔をされてしまう。
「その、色々と驚くかもしれないが、ギルドマスターには決して悪気がないことはわかってほしい」
「え? あ、はい」
なんのことだろう?
「じゃあ、後は任せた」
話をするのは私とシンシアだけ、ということだろう。
「よし。シンシア、行きましょうか」
「うん!」
ちょっと緊張しつつ、私は扉を開けて……
「ふふ、いらっしゃい」
妖艶な笑みをするお姉さんに出迎えられたのだった。
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