6話 決戦!
「うぅ……」
人型になったシンシアが不満そうな声をこぼす。
「どうしたんですか?」
「誰もいない。アズに任せるだけ」
「あはは……」
結局、ベヒーモスに立ち向かうのは私一人。
冒険者は全員逃げて……
街の人も家から出てこない。
ギルド職員は心当たりを当たってくれているみたいだけど、成果はこの通りだ。
やれやれ。
私はなにをやっているんだろう?
そんな気持ちがないわけじゃない。
でも……
「うん! がんばりましょう!」
やると決めた。
なら、全力でがんばろう。
「シンシアこそ、私についてきて良かったんですか? 相手はベヒーモスですけど……」
「私、アズを守る!」
「んーーー! 素敵です、かわいいです!」
「わふー」
我慢しきれずになでなですると、シンシアはうれしそうに尻尾を揺らした。
できるなら、こうしてシンシアとじゃれていたいのだけど……
そうもしていられないみたいだ。
「グルァッ!!!」
ズンズンと大地を揺らしつつ、ベヒーモスが現れた。
かなりの巨体で丘が動いているかのようだ。
丸太よりも太い手足。
筋肉の鎧。
槍のような角と牙。
「……っ……」
威圧感がすさまじい。
普通の人なら、ここにいるだけで失神してしまうだろう。
でも……私は負けられない。
負けない!
街の人のために。
そして、自分自身のために!
「いきます!」
地面を這うかのように体勢を低くして、駆ける。
ベヒーモスの懐に潜り込み、くるっと回転。
その勢いを乗せた蹴撃を叩き込む。
「風牙!」
故郷で習った格闘術を叩き込む。
技のキレは衰えていない。
それに加えて、今はシンシアの力がある。
「ギャア!?」
ベヒーモスが悲鳴をあげて後退する。
筋肉の鎧を衝撃が通過して、ダメージを与えることに成功した。
よし!
これなら……
「グガァッ!!!」
「……あ……」
怒り狂うベヒーモスの突撃。
すぐに反撃に転じられてしまい、対処することが……
「アズをいじめるなー!!!」
ゴガンッ!!!
シンシアが横から突撃。
そのままベヒーモスの巨体を蹴り飛ばした。
「アズ、大丈夫!?」
「あ……はい。大丈夫です、ありがとうございます」
「えへへ、よかった」
「それにしても、すごいですね……あのベヒーモスを蹴り飛ばしちゃうなんて」
「私、すごい?」
「はい、すごいです! かっこいいです!」
「えへへ~♪」
照れくさそうにしつつ、シンシアの尻尾がぶんぶんと揺れた。
「この調子でがんばりましょう!」
「うん!」
確実にダメージを与えているけど、ベヒーモスはまだ生きている。
今度は油断しない。
シンシアと協力して、確実に仕留めてみせる。
「グルルル……ガァッ!!!」
怒りに瞳を燃やしつつ、ベヒーモスが突貫してきた。
速い!
その巨体に似合わない俊敏な動きだ。
「アズ!」
「はい!」
差し出されたシンシアの手を握る。
そして、シンシアが跳躍。
私達の体が高く舞い上がる。
「私を投げつけてください!」
「こう!?」
シンシアが私をベヒーモスに向けて投げた。
グンッ! と加速して、直上からベヒーモスに迫る。
その勢いを乗せて……
「風牙!」
もう一度、蹴撃を叩き込んだ。
「ギャアアアアアッ!?」
骨を砕く感触。
そして、ベヒーモスの悲鳴。
間違いない、致命傷だ。
これで……
「ガァアアアッ!!!」
「えっ?」
もう一体、ベヒーモスが現れた。
まさか……つがい!?
パートナーをやられたことで、もう一体のベヒーモスは激怒していた。
牙がびっしりと並ぶ口を大きく開けて、怒りの咆哮を響かせる。
そして、仇を取ろうと私に向けて突撃する。
まずい!?
今は攻撃直後で体勢が……
「アズ!!!」
私とベヒーモスの射線上にシンシアが割り込んで、
「キャイン!?」
私をかばい、シンシアが跳ね飛ばされてしまう。
小さな体が空高く飛んで……
ドサリ、と地面に落ちる。
その体は……動かない。
「シンシア!?」
体が熱い。
それは怒りによるものだろう。
激情が内からこみ上げてきて、感情のコントロールができない。
「よくも!!!」
怒りに任せた突撃。
でも、妙なところで思考は冷静で、ベヒーモスの一挙一足がスローモーションのようにハッキリと見える。
力任せに前足を薙ぎ払ってくる。
拙い攻撃だけど、当たれば即死は免れない。
今までの私なら、避けることはできなかった。
でも、今は……
「ふっ」
右足で地面を蹴りつけて、強引に軌道を変える。
ベヒーモスの前足は空振りした。
私はさらに前へ出る。
恐れることなく、前へ前へ前へ。
ベヒーモスが暴れ、一撃で即死してしまうような攻撃が飛んでくる。
でも、その全てが見えていた。
身体能力だけじゃなくて、動体視力も強化されている。
これもシンシアのおかげ?
「……ありがとうございます」
彼女が傍にいてくれる。
なら、負けない。
こんなヤツに絶対に負けない。
こいつは、私の友達を傷つけた。
「あなたを許しません!」
「グァアアアアアッ!!!」
ベヒーモスは一際強く吠えて、私を噛み砕こうとする。
しかし、当たらない。
当たってなんかやらない。
紙一重のところ……ミリ単位でベヒーモスの牙を避けた。
その上で、さらに突撃。
ベヒーモスの懐に潜り込み、手の平をぴたりと密着させた。
そして……
「烈火掌!」
もう片方の手の平を重ねて……打つ!
ガッ!!!
石をまとめて十砕いたかのような音。
それと同時に衝撃が伝わり、ベヒーモスの内部を破壊する。
「……!!!」
ベヒーモスは一瞬、ビクンと痙攣して……
やがて、その巨体を地面に倒して魔石となった。
両手で担ぐほどの巨大な魔石。
売れば一財産だけど……
「シンシア!!!」
そんなものはどうでもいい。
私は、慌ててシンシアのところに駆け寄る。
「大丈夫ですか!? シンシア! シンシア!!!」
「……んゅ?」
必死になって声をかけると、シンシアがむくりと起き上がる。
キョロキョロと周囲を見て……
私を見つけると、にっこりと笑う。
「アズ! よかった、大丈夫だった?」
「それは私の台詞ですよ!?」
「んゅ?」
「ベヒーモスに殴り飛ばされて……」
「大丈夫! 私、けっこう頑丈だから!」
頑丈ってレベルじゃない気がするんですけど……
「はぁあああああ……よかったです」
「アズ?」
気が抜けて、色々と我慢していたものがあふれてしまう。
それらは涙となって、ぽろぽろと頬を伝う。
「よかった、よかったです……シンシアになにかあったら、私、また一人に……一人になっちゃうところでした……」
「……アズ……」
「一人は……嫌ですよぉ……嫌なんです……」
「大丈夫だよ」
ぽふっ、とシンシアに抱きしめられた。
そのまま、優しく頭を撫でられる。
「私はアズの傍にいるよ? ずっと一緒にいるよ?」
「……本当ですか?」
「うん。だって……」
シンシアは太陽のような笑みを浮かべて言う。
「アズのことが好きだから!」
「……っ……」
なんかもう……
追放された時の悲しさとか悔しさとか。
一人ぼっちになった時の寂しさとか孤独感とか。
冒険者仲間に拒絶された時の心の痛みとか苦しみとか。
そういうのを全部思い返してしまって、とにかく、もうダメだった。
「うぇ、えええええ、えうううう!」
「アズ?」
「わ、わらひ、が、がんばって……がんばって、きた、のにぃっ……! でも、でも誰も、み、認めてくれ、くれなくてぇ……!」
「……よしよし」
「こんな、ひっく、辛いこと、また繰り返して……うっ、ううう、うっく、ひっく!」
「私は一緒だよ、アズ。ずっと一緒だからね」
「ううううっ……うあああ、ああああああぁ!!!」
……しばらくの間、私はシンシアの胸の中で泣いた。
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