5話 主
「アズ、私のご主人。だから、私の力を得た!」
あの後、慌ててギルドを離れて……
宿に戻ったところで、シンシアからそんな説明を受けた。
やっぱり、シンシアは最強種らしい。
で……
その最強種が心を寄せた相手は、その力の一部を得ることができるとか。
さっきの力はそのおかげ。
他にも、最強種を使役すれば、同じく力の一部を得るらしいけど……
でも、そんな人、いるわけがないから意味のない話だ。
「そうだったんですね……あれは、シンシアのおかげだったんですね」
「私、アズ、好き!」
「えへへー、私もシンシアが好きですよ♪」
ぎゅう、って抱きしめる。
すると、シンシアもぎゅうっと抱きしめ返してきた。
もふもふ天国。
すごく気持ちいい。
「おかげで、この依頼をこなせば旅費が溜まりそうです」
魔物の群れの討伐。
それと、さっきの賭けで手に入れた賞金。
二つを合わせれば、大きな街へ移動することができる。
そうしたら、改めてシンシアの情報を探してみよう。
大きな街なら色々な情報が転がっていると思うし……
それに、情報屋なんかもいると思う。
うん、がんばりましょう!
「というわけで、魔物の群れの討伐です」
「らじゃー!」
街から少し離れたところにある平原へ。
ここに出没するウルフを狩ることが今回の依頼だ。
あの腕相撲を見て、なんとか依頼を回してくれるようになった。
「んー……敵、どこかな?」
「そうですね……」
じっと集中して、
「たぶん、あっちですね」
「アズ、わかるの?」
「たぶん、ですけど」
移動してみると、無事、ウルフの群れを発見した。
まだこちらに気づいていないらしく、のんびりとくつろいでいる。
「……すごい! アズ、なんでわかったの?」
「……気配を探ることには慣れていますから」
「……アズ、拳士なのに? なんで?」
「……これくらい普通ですよね?」
「……スカウトならともかく、拳士は、探知難しいと思う」
シンシアは混乱するような顔になって、
「アズ、やっぱりすごい!」
そんな結論に落ち着いたらしく、にっこりと言う。
でも、いきなり大きな声を出してしまうとウルフに気づかれてしまうわけで……
「グルルルゥ!」
「あう……ごめん」
「大丈夫です! 二人でがんばりましょう」
「うん!」
私とシンシアは、協力してウルフの群れを討伐した。
――――――――――
依頼は無事に成功。
報酬を手に、宿の部屋に戻る。
「はふぅ……ちょっと疲れた」
「大丈夫ですか? えっと……少し待ってくださいね」
私はポーチからいくつかのポーションを取り出して、それを独自の配合でブレンドする。
「はい、どうぞ」
「うー?」
「元気になりますよ」
「……んくっ!」
少し迷った末に、シンシアはポーションを飲んでくれた。
そして、目を大きくする。
「おいしい! それに、なんか元気が湧いてきた!」
「よかったです。それ、私のオリジナルのポーションなんですよ」
「どうして、こんなものを作れるの?」
「私の故郷では当たり前のもので、普通なんですけど……」
「ぜんぜん普通じゃない! アズ、すごい!」
「あ、ありがとうございます……」
そんなに褒められると照れてしまう。
「ねえねえ、アズ」
「はい?」
「なでなでして? アズのなでなで、好き」
「うー……もう、シンシアはかわいいですね! ほらほら」
「クゥーン」
こうしていると故郷を思い出す。
二度と戻ることのない、捨てた故郷……
そんな故郷で飼っていた犬のことを思い出す。
あの子と同じで、シンシアはとても優しい子だ。
ダンダンダン!
突然、扉を激しくノックする音が響いた。
なんだろう?
シンシアとのんびりしているというのに……
「シンシア、犬型になってもらえますか?」
「うん」
ぼふん、とシンシアが子犬に戻る。
それを確認してから扉を開ける。
「よかった! まだいてくれたか!」
「あなたは、冒険者ギルドの受付の……」
「頼む! 力を貸してくれ!!!」
――――――――――
「……なるほど」
街の近くで強力な魔物……ベヒーモスが出現したらしい。
ベヒーモスは街に向かっていて、このままだと壊滅的な被害が出てしまう。
そうなる前に叩かないといけないのだけど……
ベヒーモスと聞いて、この街にいる冒険者は、全員、逃げ出してしまったという。
そこで一縷の望みを賭けて私のところにやってきた……というのが経緯になる。
「今更、虫のいいことを言っているのは十分に理解してる。でも、このままだと街が……俺達の街がとんでもないことになっちまう! だから頼む、力を貸してくれ!!!」
「……」
正直なところ……
私は彼の気持ちがわからない。
故郷を大切に思う気持ちがわからない。
私は……自分の故郷が大嫌いだから。
でも……
「わかりました! どこまでできるかわかりませんが、がんばります!」
「い、いいのか……?」
「あなたが頼んできたのに、どうして驚くんですか?」
「そ、それは……俺は、あんたにひどいことを……」
「そうですね、ひどいことを言われました」
「うっ……」
「でも、それはそれ。これはこれ、です!」
困っている人は見捨てられない。
私の力が役に立つのなら、できる限りのことをしたい。
「クゥーン」
シンシアが、「いいの?」と問いかけるように鳴いた。
「大丈夫ですよ」
ひどいことをされた。
でも、この街の人、全員が悪いわけじゃない。
きっと良い人もいる。
ギルドの受付の人も、話してみれば気が合うかもしれない。
そういう可能性を、なにも知らないうちから潰したくない。
お人好し?
そうかもしれない。
でも、人を見捨てるろくでなしよりはマシだ。
「困った時はお互いさまです! 私でよければ、力を貸しましょう」
「うぅ……すまねえ、本当にすまねえ! あんたは、こんなに良いヤツなのに、俺ってバカはなんてことを……」
「わ、わわわ!? な、泣かないでくださいよ」
「自分のバカさ加減に、ほとほと呆れて……本当にすまなかった!」
「謝罪は受け入れますけど……でも、安心するのはまだ早いですよ。ベヒーモスを退治したわけじゃないんですからね」
「そ、そうだったな……よし! 俺も、他にできる限りの心当たりを当たってみる! あんただけに任せるなんて、恥知らずはできないからな」
「はい、お願いします」
「オンッ!」
私もがんばる! というような感じで、シンシアが力強く吠えるのだった。
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