31話 三人で一緒に
みんなうまくやってくれたみたいで、盗賊団は無事に撃退することができた。
こちらの損害は軽微。
対する盗賊団は、全員が捕縛されて壊滅。
アッガスは巧みに正体を隠していたらしく、盗賊の誰もがアッガスの正体を知らなかった。
彼の悪事を証明することはできなくて、逃げられてしまうものの……
まあ、きついきついお仕置きをしておいたから、それでよしとしよう。
一つ、潰しちゃったので。
そうやって色々とあったものの……
無事、アクエリアスの平和は守られた。
――――――――――
「「「かんぱーいっ!!!」」」
盗賊団の脅威を払うことができたお祝いに、冒険者ギルドでパーティーが開かれることに。
パーティーといっても、格式張ったものじゃない。
それぞれ食べ物と飲み物を持ち込んで、好きにはしゃぐだけのもの。
でも、そんなものでいいのかもしれない。
大事なのは、みんなで一緒にごはんを食べるということ。
そうすればきっと、今まで以上に仲良くなれるから。
「わふー!」
「にゃふー!」
シンシアとスズカがグラスになみなみと注がれたお酒を一気飲みして、とても気持ちよさそうな顔をした。
「お酒おいしいね!」
「たまには、人間の酒も悪くないわね」
「むう……」
「どうしたの、アズ?」
「私も、お酒を飲んでみたいです」
「お姉さまはダメですわ。だって、まだ子供ではありませんか」
「それはそうなんですけど……うぅ」
おいしそうに飲み物だから、私も飲んでみたいです。
どんな味がするのか?
酔うっていうのは、どんな気持ちになれるのか?
うぅ……自分が子供であることが恨めしいです。
「おっ、天使さまは酒が飲みたいのか?」
「うーん、できれば飲ませてやりたいが、天使さまはまだ子供だからな……さすがに、子供に酒は進められないな」
「天使ちゃん、焦らなくていいわ。すぐに大人になって、酒も男も楽しめるようになるから」
冒険者の方々が、笑顔でそう言うのだけど……
「あの……その天使、っていうのはなんですか?」
「私が説明するわ」
そう言って現れたのは、顔を赤くしたミゼリーさんだった。
すでに、かなりできあがっているらしい。
「アズちゃんは、アクエリアスの英雄よ。何度も街を救ってくれた」
「そ、そんなことは……」
「謙遜しないの、事実なんだから」
「そうそう、アズは英雄!」
「お姉さまだからこそ、成し遂げられたことですわ!」
シンシアとスズカまで私をもてはやす。
うぅ、恥ずかしい。
そういう柄じゃないのに。
「でも、アズちゃんはとってもかわいくて綺麗でかわいいから、英雄って言われても、あまりしっくりこないのよね」
なんで今、かわいいを二回言ったんでしょうか?
大事なことだから?
「それで、代わりに天使、って呼ぶことになったの」
「はあ……いったい、誰がそんなことを言い出したんですか?」
「私よ!」
「ミゼリーさんですか!!!」
思わず全力で叫んでしまう。
好意の表れなのはわかっているのだけど……
でも、恥ずかしいからやめてほしい。
「それはともかく……今日の主役はアズちゃんよ。たくさん楽しんでね」
ミゼリーさんは、私を一度ぎゅうっと抱きしめると、笑顔で去っていった。
今、抱きしめた意味はいったい……?
うーん。
私、なんだかマスコット扱いされているような?
でも、まあ。
それだけ親しまれているということなので、よしとしておきましょう。
「アズ、アズ! このお肉おいしいよ? 一緒に食べよ?」
「お姉さま、こちらの魚も美味ですわ。一緒に食べましょう?」
「うん。順番に、です」
お肉を食べて、お魚を食べて。
それから笑顔で話をする。
楽しい。
楽しい。
楽しい。
笑顔が絶えない。
ふわふわと、心が幸せな気持ちでいっぱいになる。
ああ……良かった。
この幸せは、シンシアとスズカのおかげだ。
二人に出会うことができたから、今の私がある。
今の幸せがある。
改めて、シンシアとスズカに感謝を。
「ねえねえ、アズ」
「お姉さま」
「なんですか、二人共?」
「「ありがとう」」
突然、二人からお礼を言われた。
でも、まったく心当たりがないので、私は目を大きくして驚いてしまう。
「えっと……どうしたんですか、いきなり?」
「私、アズに助けてもらわなかったら、酷いことになっていたと思う。具体的には……あー、うー……と、とにかく、大変なことになっていたの!」
具体例が思い浮かばなかったらしく、シンシアは勢いで押し通す。
「でも、アズが助けてくれたの。私のこと、優しく受け止めてくれたの。すごくすごくすごく嬉しくて……えへへ、ありがとう」
にっこりと笑うシンシアは、とても優しい顔をしていた。
「お姉さまがいなかったら、私は、取り返しのつかないことをしていたかもしれません」
スズカは神妙な顔をして言う。
「昔の私は、いかに自分を大きく見せるか、ということしか考えてなくて……とても愚かでした。でも、お姉さまが、それではいけないと気づかせてくれたんです。優しく、甘やかに教えてくれたんです」
「そう……でしょうか?」
「そうですわ。お姉さまは、私の恩人です。人生を変えてくれたと言っても過言ではありません。だから、お姉さまに最大級の感謝を。ありがとうございます」
スズカもにっこりと笑う。
その笑みはとても綺麗で、宝石のように輝いていた。
「「ありがとう」」
シンシアとアズは、もう一度、優しく言う。
「シンシア……スズカ……」
二人は、私に助けられたと言う。
でも、違う。
本当に助けられたのは私の方だ。
故郷から逃げ出して。
パーティーを追放されて。
私の居場所はどこにもなかった。
誰にも相手にされなくて、世界で一人、孤立したような気持ちになった。
そんな時、シンシアとスズカが私の隣にやってきてくれた。
ここにいるよ。
一人じゃないよ。
そう優しく語りかけてくれた。
いったい、どれだけ私が助けられたことか。
二人のおかげで、私は、ようやく自分の居場所を見つけることができたのだ。
「私の方こそ、ありがとうございます」
ともすれば涙がこぼれてしまいそうだったけど……
この場にふさわしくないので、ぐっと我慢した。
そして、にっこりと笑う。
「シンシアとスズカに出会うことができて、私、すごく幸せです」
「……アズ……」
「……お姉さま……」
「その上で、わがままを言わせてもらうと……このまま、ずっとずっと二人と一緒にいたいです。ダメ……ですか?」
「「もちろん!!」」
即答だった。
前のめりになって、食い気味に答えていた。
「私もアズと一緒にいたい! ずっとずっとずぅうううっと一緒!!!」
「お姉さまと私は一心同体ですわ! 離れるなんて、欠片も考えたことがありません!!!」
「はい……ありがとうございます」
ダメだ。
今度は我慢できずに、涙をぽろりと流してしまう。
でも、悲しいわけじゃなくて……
これは嬉し涙。
こんな経験は初めてだ。
シンシアとスズカが一緒なら、これから、たくさんの初めてを経験できると思う。
だから、ずっと三人で一緒に……
「これからもよろしくお願いします」
私はそう言って、にっこりと笑うのだった。
ひとまず、ここで終了です。
もうちょっと色々とやる予定でしたが、ネタ切れのため……
また落ち着いたら、どこかで再開するかもしれません。
なので、一応終了ですが、完結には設定しておきません。




