30話 アズの戦い・その2
「……」
「……」
戦いやすい洞窟の外に出て、私はアッガスと対峙した。
私は拳を構えて……
アッガスは、片手斧を両手に持つ。
彼のメイン武装は大剣だけど、それしか扱えないわけじゃない。
長剣、短剣、槍、弓、槌……ありとあらゆる武器を使いこなす。
伊達に、勇者パーティーで戦士をやっていない。
「手加減はするが、それなりの怪我は覚悟するんだな」
「大丈夫です。特製のポーションを持っているので、アッガスさんが大怪我をしても、だいたいは治療できると思いますよ」
「……生意気な」
アッガスは苛立った様子でこちらを睨みつけて……
次いで、ニヤリと笑う。
「だが、多少、生意気な方が楽しいな。屈服させるのは面白い」
「うわ……」
ロリコンでサド。
これはもう、救えないほどに変態なのでは……?
別の意味で怖くなってきました。
「えっと……じゃあ、このコインが地面に落ちたら開始、ということで」
コインを取り出して、アッガスに見せる。
「構わない」
「では」
ピーンと、コインを指で弾いた。
コインはクルクルと回転して宙に舞う。
一定の高さまで上がったところで止まり、重力に引かれ落ちる。
そして地面に……
「むぅんっ!」
落ちるよりも少し早く、アッガスが動いた。
フライングだ。
ずるい。
でも、色々とやらかしてくるだろうな、と予想していたので慌てない。
地面を蹴り、砂を巻き上げてやる。
「ぐっ……!?」
アッガスは顔の前に手をやり、砂が目に入るのを防いだ。
ただ、足は止めてしまう。
「卑怯な真似を……!」
「いえいえ、それ、アッガスさんが言わないでくださいよ。特大のブーメランですよ?」
「ふん……少しだけ本気になるか」
不意打ちに対応したことで、アッガスは私に対する警戒度を引き上げたみたいだ。
戦意が高まり、放たれる圧が増していく。
ピリピリと大気が震える。
彼の圧力に、世界が悲鳴を上げているかのようだ。
「悪いが、一気に終わらせる」
「そうですか、やれるものならどうぞ」
「その生意気な口、どこまで通じるか楽しみだな……くらえっ!!!」
地面を蹴り抜くような勢いで、アッガスが駆けた。
一瞬で巨体が目の前に迫り、両手に持つ片手斧を同時に叩きつけてくる。
「双刃旋風斬っ!!!」
二つの刃が風のごとく迫る。
威力、速度、共に申し分ない。
だから私は、シンシアに託された力を使うことにした。
「……なん、だと?」
私はなにをするわけでもなくて、その場に棒立ち。
でも、刃は通らない。
肩と頭部。
それぞれ、手斧が叩き降ろされているものの、刃が通ることはない。
直前で時間が停止したかのように、ピタリと止まっていた。
「今、なにかしましたか?」
「くっ……!?」
アッガスは顔を引きつらせつつ、慌てて後ろに跳んだ。
「ばかな!? 今、なにが……俺の攻撃は、確かにアズに当たったはずだ!」
「そうですね、当たりましたね」
「なら……どうして無傷なんだ!?」
「どうして、と言われても……その程度の攻撃だから、としか言えません」
種明かしをすると……
シンシアから託された力、闘気を使ったのだ。
闘気を使うことで超人的な動きを可能とするだけじゃなくて、身体能力も強化できる。
さらにうまく扱うことができれば、今のように、闘気を一点に集中して攻撃を防ぐことも可能だ。
そしてアッガスは、闘気の盾を貫くことができない。
その程度、というわけだ。
「くっ……ならば、これならどうだ!」
アッガスは猛牛のごとき突進してきた。
隙だらけなので、足元の石を蹴り上げて、アッガスに向けて叩きつけてやる。
それなりに痛いはずなのに、アッガスはわずかに顔を歪ませただけで、足を止めない。
さすが、勇者パーティーで戦士を務めているだけのことはある。
そのままアッガスは私の目の前までやってきて……
「うぉおおおおお!」
「ひゃっ」
私を押し倒した。
こちらの両手を押さえつけて、地面に押しつけて、上に覆いかぶさる。
戦いの最中になんですが……
これ、どう見ても事案ですよね?
「どうだ!? これで俺の勝ちだ! どうすることもできまい!」
「……」
「負けを認めるか? まあ、認めたくないのなら、好きなだけあがいてもいいぞ。どうすることもできないだろうけどな」
「……」
「好きなだけあがいてみせろ。俺を楽しませろ」
「……」
「悔しいか? 悔しいなら、この状況をなんとかしてみせることだな。まあ、そんなことは不可能だが……はははっ!」
「あ、なんとかしていいんですね?」
「……なに?」
こんな状況、闘気を使うまでもない。
私は体を捻り、まずはアッガスの手を払う。
それから上体を逸らして……
近いところにいるアッガスに、思い切り頭突きした。
「がっ!?」
アッガスが怯んだところで、その体を押し上げて、強引にどいてもらう。
無事、脱出することができた。
故郷にいた頃、こういう訓練は何度も積んできたから、なにも問題はない。
「き、貴様……いったい、どうやって……」
「どうもこうも、今、目の前で実演してみせたじゃないですか。アッガスさん、もしかして目が悪いんですか?」
「くっ……貴様!」
アッガスから怒気があふれた。
ゆらりと立ち上がり、両手に再び手斧を構える。
「甘い顔をしていれば、いい気になって……大人の本気というものを見せてやろう。はぁあああああ!!!」
アッガスは獣のように叫びつつ、再び突撃してきた。
同時に両手の手斧を振り、嵐のような猛攻を繰り出してくる。
しかし……
「くっ……なぜだ!? なぜ当たらない!?」
私は、アッガスの攻撃を全て見切っていた。
ミリ単位で刃を避けて、髪の毛すら切らせない。
丸一日。
疲れ果てて気絶するまで敵の攻撃を避ける、という訓練をしたことがあるため……
それに比べれば、こんなもの児戯に等しい。
嫌っていた里の技術に助けられるのは、ちょっと癪だけど……
でも、おかげでアッガスと戦うことができる。
シンシアとスズカと出会うことができた。
なので、今だけは感謝する。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ……」
体力が尽きたらしく、アッガスの動きが止まる。
「ばか、な……どうして、俺の攻撃が……なぜ、こんな子供に……」
「もういいですか?」
「っ……!?」
「終わりにしてもいいですよね? というか、終わりにしちゃいます」
ダンッ! と地面を強く蹴る。
一瞬でアッガスの懐に潜り込んで、その腹部に手の平を当てた。
「まっ……!?」
「烈火掌!!!」
良い感じに技が通り、アッガスは全身をビクンと震わせた。
ダメージに抵抗することはできなくて、白目を剥いてそのまま倒れる。
「私の勝ちですね」
と言っても、アッガスは気絶していて、私の話を聞いていない。
聞こえていない。
……今なら、なにをしてもアリですね?
「というわけで……ちょっとだけ、仕返しをしますね。せーの!」
ゴン!
アッガスの股間を思い切り蹴りつけた。
「!?!?!?!?!!!???」
アッガスは泡を吹いて、声にならない悲鳴をあげて……
今度こそ、完全に意識を失った。
「や、やりすぎた……? でも、まあ……よしとしておきましょう、うん!」
私が勝ったから、なにをしてもいい。
そんな追加ルールを勝手に加えて、自分を納得させるのだった。
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