3話 大事な笑顔
子犬を抱えて街へ戻る。
適当な宿にチェックインして、部屋に。
「よーし、じゃあまずは綺麗にしましょうね」
お風呂の準備をする。
このために、わざわざちょっと高いお風呂付きの宿を選んだのだ。
汚れはそこまで気にしないのだけど……
清潔にしておかないと病気になっちゃうかもしれないからね。
きちんと綺麗に洗っておかないと。
湯船にお湯を張り……
その途中、鏡を見る。
太陽の輝きを表現したかのような金色の髪。
足元に届くほど長く、絹のようにサラサラだ。
私の自慢の髪です、えへん。
陶器のように白い肌。
手足はすらりと伸びていて、無駄な肉は一切ない。
……ついでに胸もない。
悲しい。
自分で言うのもなんだけど、私は美少女だと思う。
ただ……
「まだ十二歳なんですよね」
ちょこん、というような表現が似合うような小柄な体。
背も低い。
まだまだ成長途上の子供だ。
「それなのに、私を求めてくるなんて……アリオスはロリコン?」
からかっていた……ということはないと思う。
追放までしたのだから、本気のはず。
「そういえば、アッガスもよく声をかけてきましたが……同類?」
勇者パーティーにロリコンが二人。
怖い怖い怖い。
今になって、ものすごい恐怖がやってきた。
「私、追放されて正解だったかもしれませんね……」
「オンッ!」
妙な寒気を覚えていると、子犬が浴室に入ってきた。
たぶん、私を追いかけてきたのだろう。
「アリオスやアッガスに比べて……ふふ、あなたはかわいいですね」
「クゥーン」
「でも……あれ?」
この子……犬なのだろうか?
よくよく見てみると、なにか違う気がした。
子犬にしてはサイズが大きい。
尻尾も大きくて、胴体と同じくらいの長さがある。
それに……
「角?」
額の辺りに触れてみると、ゴツゴツとした感触。
毛をかきわけてみえると、小さいけど、確かに角が生えていた。
「えっと……むぅ、なんでしょう? 犬? 狼? それとも……」
……未知の生物?
「まあ、なんでもいいですね! かわいいから問題ありません。かわいいは正義です!」
せっかくなので私も一緒にお風呂に入ろう。
濡れずに洗うのは難しいですからね。
というわけで、服を脱いで……
「さあさあ、お風呂の時間ですよ」
「ワフゥ?」
子犬を抱っこして、風呂桶の中へ。
そして、お湯が適温であることを確かめてから、そっとかける。
「キャイン!?」
「あっ、暴れないでください!?」
「キャンキャン!」
子犬はとても驚いた様子で暴れてしまう。
お湯を知らない?
だから、こんなにも驚いている?
野生で暮らしているのなら、お湯を知らなくても違和感はないけど……
でも、この子、犬(?)だよね。
猫が水を嫌うっていう話は聞いたことあるけど、犬も嫌いって話はあまり聞かないんだけど……
うーん。
「大丈夫ですよ、怖くないですよ。ちょっとおとなしくしててくださいね?」
ちょっと迷うものの、続行することにした。
汚れたままだと、やっぱり衛生的に不安だ。
この子が病気になってしまうかもしれない。
無理矢理洗うのは心苦しいけど……
でも、この子のため。
心を鬼にして洗わないと!
「というわけで、おとなしくしてください!」
「キャイン!?」
「痛いことはないですからね。むしろ、きっと気持ちよくなれると思います。病みつきです。もう離れられません」
あれ? なんか違う?
「キャンキャン!」
子犬はそれでも暴れて……
「オンッ!!!」
「えっ!?!?!?」
ぼんっ! という音と共に、子犬が女の子に変身してしまうのだった。
「うー……」
子犬改め、女の子は涙目になって壁際まで後退してしまう。
一方の私は、突然のことに混乱して、ぽかんとしてしまう。
子犬が女の子に変身した……?
女の子は、私と同じ……いや、ちょっと下の十歳くらいかな?
腰の辺りまで伸びている銀色の髪は宝石のように輝いていた。
肌はちょっと陽に焼けている。
でも、健康的な感じがしてとてもいい。
そして……
なによりも目を引くのが、彼女の頭とお尻の辺り。
犬の耳と尻尾が生えている。
ぴょこぴょこと動いているところを見ると本物だろう。
すごい……もふもふしたい!
「じゃなくて!」
どういうこと……?
普段は子犬の姿で、いざという時は人間に変身できる。
そんな存在は……
「最強種……?」
この世界には、最強種と呼ばれている規格外の力を持つ存在がいる。
身体能力が極限まで特化された、岩を拳で割る猫霊族。
高い身体能力と魔力、両方を持つ竜族。
人智を超えた魔法を操る精霊族。
色々な最強種がいるのだけど……
でも、犬型の最強種なんて聞いたことがない。
新種?
でも、こんなことができる種族なんて、最強種以外にいそうにないし……
「ううう……」
「あ……えっと」
この子が何者か、それは今はいいや。
それよりも落ち着かせないと。
「私の言葉、わかりますか?」
「……うん」
女の子はこくりと頷いた。
よかった。
会話ができるのなら話は早い。
「私は、あなたをいじめようとしたわけじゃないんです。お風呂に入ってもらいたかったんです」
「お風呂……?」
「綺麗になって、あと、すごく気持ちいいことなんですよ」
「気持ちいい……?」
女の子の尻尾がひょこひょこと揺れた。
興味があるのかな?
「お湯が怖いのかもしれませんけど……でも、大丈夫です。すぐに慣れます。私を信じて、任せてくれませんか?」
「……うん」
「よかった。じゃあ、このイスに座ってくださいね」
おっかなびっくりという様子だったけど、女の子はバスチェアーに座ってくれた。
「じゃあ……いきますよ!」
――――――――――
お風呂上がり。
「ふわぁ……」
女の子はとてもごきげんだった。
ほんわか柔らかい笑顔を浮かべていて、ごきげんな様子で尻尾を振っている。
最初はびくびくしていたけど……
最終的にお風呂の良さを理解してくれて、気に入ってくれたみたいだ。
「お風呂、気持ちいい!」
「あ、動いたらダメですよ」
「キューン……」
今は魔道具を使い、女の子の髪を乾かしている。
じっとしていることが苦手らしく、女の子はそわそわしていた。
ちなみに、私の服を着てもらっている。
サイズはぴったりだ。
よし!
「ところで……あなたは、最強種なんですか?」
「う?」
「犬型の最強種なんて、聞いたことがないんですけど……」
「……よくわからない」
女の子の犬耳がぺたんと沈む。
正体は不明だけど……
でも、無理に聞くのはやめておこう。
彼女の暗い顔は見たくない。
それよりも、太陽のように明るい笑顔が見たい。
「えっと……あ、そうです! まだ自己紹介をしていませんでしたね。私は、アズ・アライズ。十二歳。冒険者です」
「アズ……?」
「はい。そのまま、アズって呼んでくださいね」
「アズ!」
私の名前を知ることができてうれしいのか、女の子の尻尾がぶんぶんと揺れた。
「あなたのお名前は?」
「私、シンシア」
「シンシア……とても綺麗な名前ですね。それに、かわいいです♪」
「私、かわいい?」
「はい、かわいいです!」
「えへへ~♪」
尻尾がさらにぶんぶんぶん! と揺れた。
ぺちぺちと当たって、ちょっと痛い。
「シンシアは、どうしてあんなところに?」
「うー……私、迷子。家に帰りたい……」
「そうだったんですね……」
この子の正体は不明で、出会ったばかり。
そして私は、勇者パーティーを追放された身で、街の冒険者から嫌われている。
なにができるかと問われたら、本当になにもできない。
一緒にいることくらいだ。
でも……
「シンシアが家に帰れるように、私が力になりますよ」
一緒にいることはできる。
「本当!?」
「はい、本当です。大したことはできませんけど……でも、いっぱいいっぱいがんばりますよ!」
「ありがとう、アズ!」
にっこりと笑うシンシア。
その笑顔がなによりの報酬だ。
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