29話 アズの戦い・その1
今回の事件、おかしな点が多い。
小さな盗賊団が急激に力をつけたこと。
アクエリアスの冒険者ギルドの力が衰えていたとはいえ、今まで討伐できなかったこと。
そしてなによりも、街を襲ったこと。
盗賊団が街を支配しようとするなんて、普通に考えてありえない。
そんなことをすれば、王都から精鋭が派遣されてくる。
待つのは破滅だ。
あの有名な漆黒の牙も、街を支配しようなんてことは考えていないはずだ。
それなのに、今回の盗賊団は街を襲うという暴挙に出た。
それは、なぜか?
「……あなたの仕業だったんですね、アッガスさん」
街外れの洞窟を探索してみると、アッガスの姿があった。
いつもの鎧姿ではなくて、フード付きの黒いコートを着ている。
武器も大剣じゃなくて、片手斧を二つ、腰に下げていた。
たぶん、変装しているんだろう。
勇者パーティーの一員が盗賊団を率いているなんて知られたら、とんでもないスキャンダルですからね。
「ひさしぶりだな、アズ。元気にしていたか?」
「はい、すこぶる元気ですよ。アッガスさんは?」
「見ての通りさ」
アッガスはニヤリと笑う。
私にバレたというのに、落ち着いたものだ。
普通は、もっと慌ててもいいのだけど……
この余裕、気になる。
「それにしても奇遇だな。アズも、盗賊退治に来るなんて」
「……え?」
「ちょっとした理由があって、今、アリオスとは別行動をとっているんだが……そんな時、盗賊団が悪さをしていると聞いてな。討伐しに来たのさ」
「あなたは……」
アッガスの態度を見て、理解した。
彼がアジトに残っていたのは、証拠を隠滅するためだ。
自分と盗賊団が繋がっている証拠を全て消して……
そして、最後に盗賊団を討伐して、手柄を立てようとしていたのだろう。
余裕の態度を見る限り、証拠隠滅は完了したのだろう。
アッガスはとても慎重な人だ。
隅々まで調べても、証拠が出てくることはないだろう。
つまり、私は遅かった……ということになる。
「せっかくだから一緒に討伐するか? 俺の勇姿をその目に焼きつけるといい」
「……」
「お前はパーティーから追放されているが……まあ、それくらいは許してもいいだろう。なんなら、俺の……」
「はぁあああああ」
深い重いため息をこぼした。
そんな私の態度に、アッガスは怪訝そうな目を向けてくる。
私は間に合わなかったけど……
でも、それがどうした?
このまま、なにも見なかったことにする?
泣き寝入りする?
そんなことは嫌です。
ありえません。
勇者パーティーにいた頃は、なにかあったとしても、ぐっと我慢していたけれど……
でも、それはもう終わり。
彼に遠慮する必要なんてない。
やりたいようにやる。
そうしていいのだと。
好きに生きていいのだと。
シンシアとスズカが、そう教えてくれたのだから。
「アッガスさん、手合わせしてくれませんか?」
「なんだと?」
残念ながら、アッガスの罪を問うことは難しい。
でも……
代わりに、その罪を体に叩き込んでやりましょう。
「前々から、手合わせをしたいと思っていたんです。こうして、また会えたのもなにかの縁だと思いますし……どうですか?」
「どう、と言われてもな……それを受ける理由がないな」
「ダメですか?」
「理由がないからな」
やっぱり、アッガスは慎重な人だ。
追放した相手でも、下手に戦いをしかけることはない。
……と、思っていたけど、それは買いかぶりだったらしい。
アッガスはニヤリと笑いつつ、さらに言葉を続ける。
「ただ、かつての仲間の頼みだ。聞いてやらないでもない」
「本当ですか?」
「とはいえ、タダで、というのは割に合わないからな。そこで、賭けをしないか?」
「賭け……ですか?」
「俺が勝てば、アズは余計なことをしない……まあ、この意味はわかるな?」
これ以上、この件に首を突っ込むな、ということか。
本当に慎重な人だ。
「私が勝った場合は?」
「そうだな……アズがしてほしいことがわからないからな。金でも払おうか?」
「わかりました。あと……この街から消えてください。アリオスさん達が近くにいるのなら、彼らも連れて」
「ずいぶんな言い草だな。ただ、それだと願いが二つになるが?」
「なら、アッガスさんが勝った時の権利を一つ、追加してもいいですよ」
「なに?」
「私のこと……好きにしていいですよ?」
やっぱりやめた、なんてことになったら困るので、そんな追加条件を足してみた。
餌の効果は抜群。
アッガスは露骨に顔色を変えて、ごくりと喉を鳴らす。
「それは本当か?」
「はい、嘘は吐きません。一日、私のことを好きにしていいです。言葉通り、なにをしてもいいです」
「悪くないな」
「ただし、アッガスさんも約束を守ってくださいね?」
「ああ、もちろんだ」
ここまで嬉しそうなアッガスは、初めて見たかもしれない。
いや、まあ……
自分で言っておいてなんだけど、本当に乗ってくるなんて。
しかも、ものすごい乗り気。
繰り返すけど、私、十二歳ですよ?
どちらかというと成長は遅い方で、さらに下に見えてしまうくらいですよ?
それなのに、好きにしていい、って言うと喜ぶなんて……
怖い怖い怖い。
ガチのロリコンじゃないですか。
よし。
全力で叩き潰しましょう!!!
私は、心の中で、そう固く強く思い切り決意するのだった。
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