28話 スズカの戦い
スズカは、領主の屋敷にいた。
客間のソファーに座り、のんびりと紅茶を飲んでいる。
猫舌なので、アイスティーだ。
「いいですか? 敵は、賢い盗賊です。真正面から突撃するだけじゃなくて、陽動をしたり隠し通路を使おうとしたり、色々な手を使ってくるはずです。その中に、領主さまを人質に取る、という作戦もあるはずです。なので、スズカは領主さまを守ってください。話はこちらで通しておきます」
アズの言葉を思い返して、スズカは小首を傾げる。
「お姉さまは、ああ言っていたものの……もぐもぐ……なにもないわね」
屋敷の中で待機しているものの、特に異変はない。
領主は、一階のシェルターに逃げた。
とても頑丈な部屋で、あそこに逃げられたら、スズカでもこじ開けるのは苦労するだろう。
無論、盗賊ごときがどうにかできるものではない。
「人質を考えていたとしても、もう詰んでいると思うのだけど……あ、おかわりちょうだい」
「は、はあ……」
近くに控えているメイドにおかわりを要求した。
領主が手配してくれて……
スズカは遠慮することなく、のんびりしていた。
大丈夫なのだろうか?
メイドの目は不安そうになっているけど、気にしない。
自分のやりたいようにやる。
それがスズカ流だ。
「あら?」
ゴォン! と、屋敷の上の方から爆発音が響いてきた。
軽く屋敷が揺れる。
「な、なにが……?」
「これ、音がした場所はわかる?」
「え、えっと……たぶん、ですけど、厨房ではないかと」
「上にも厨房があるの?」
「領主さまの部屋が上にあって、すぐに熱いお茶などを届けるために、もう一つ、作ってありまして……」
「ふーん」
スズカは尻尾をぴょこぴょこ動かしつつ、考える。
考えて。
考えて。
考えて。
……そして、閃いた。
「ちょっと出るわ」
「え? あ、あの……どこへ?」
「不心得者を捕まえに」
スズカはニヤリと笑い、部屋を出た。
そして、爆発音が響いた上ではなくて、逆の下へ向かう。
ふんふんと鼻歌を歌いつつ、ステップを刻んで移動。
そうしてやってきたのは、シェルターの前だ。
本来ならシェルターの前に警備の兵士がいるはずなのだけど、今は誰もいない。
上で起きた爆発音を確認しに行ったのだろう。
……代わりに、老齢の執事がいた。
「ねえ、なにをしているのかしら?」
「え? あ、あなたは領主さまの客人の……」
「なにをしているの、って聞いているんだけど? シェルターの鍵なんか持って、なにをしているの?」
スズカはコツコツと床をつま先で叩きつつ、もう一度、問いかけた。
「え、と……さきほどの爆発音はお聞きになりましたか? 私は領主さまの安全を確認するために……」
「嘘ね」
スズカは執事の言葉を遮り、断定した。
「なっ……ど、どうしてそのようなことを」
「もしかして、私のことバカだと思ってる? むかつくわ」
アズには従順すぎるほど従順なスズカではあるが……
基本、彼女はプライドが高く、最強種は人間よりも上、という考えを持っている。
アズの前ではおとなしくしているものの、その目が届かない場所ではこうなる。
「なんで、あんたがシェルターの鍵を持っているわけ?」
「そ、それは……私は領主さまに仕える執事だから、当然のことです。いざという時は、シェルターを開けられるように……」
「嘘ね」
再び断じた。
「シェルターの合鍵なんて作るわけないじゃない。そんなものを作って、誰かに悪用されたらシェルターの意味がないもの。私、そんなこともわからないバカだと思われていたの? 今の言い訳、最高にむかつくわ」
「う、ぐ……」
「ってか、そろそろ白状したら? あんた、盗賊と通じているんでしょ? さっきの爆発は、人を上にやるための陽動。その間にシェルターの鍵を開けて、仲間を招き入れて、領主を人質に取る……そんなところでしょ?」
「な!? ど、どうして……!?」
ズバリ的中だったらしく、執事は顔色を青くした。
対するスズカは、ふふん、と自慢そうに胸を張るものの……
敵の行動を予測したのは、実のところアズである。
ここまで読んで、アズはスズカに作戦を伝えていた。
「あぁ、やっぱりお姉さまは素晴らしいわ! 強いだけじゃなくて、こんなにも頭の回転が速いなんて。きっちり仕事をしたら、なでなでしてもらえるかしら? にゃふー」
「くっ……あ、あなた達の出番ですよ!」
追い詰められた執事は声を張り上げた。
まだ、なんとかなる。
どうにかしてスズカを排除すれば、領主を人質にすることは可能だ。
そんなことを考えて、最後の悪あがきを企むものの……
「あなた達っていうのは、こいつらのこと?」
スズカは数歩下がり、廊下の端から伸びている紐を引っ張る。
すると……
「うぅ……」
「ま、まったく歯が立たねえ……」
「なんだよ、こいつ……化け物だ……」
縄でぐるぐる巻きにされた盗賊達が引きずり出された。
先手を打たれないように、あらかじめ排除しておいたのだ。
「あ、あ……」
敗北を悟った執事は、ぺたんと腰を落とした。
そんな執事に、スズカはにっこりと笑いかける。
「あら、もう終わり? 抵抗してもいいのよ?」
「……う……」
「私、暴れ足りないのよね。ねえ……私のストレス発散に付き合ってくれない? ちょっと、気が済むまで殴らせてくれない?」
「や、やめ……」
「ってなわけで、終わり!」
「ひぃ!?」
ゴォンッ!!!
スズカが拳を放つ。
それは攻城兵器に匹敵するほどの威力で、大理石の床に穴を開けた。
「あ……ひ……」
執事に直撃はしていない。
頭の横、スレスレのところを抜けていった。
でも、それは相当な恐怖だったらしく……
執事は白目を剥いて、ふらりと倒れる。
「にゃー……この程度で気絶するなんて、だらしないヤツね。まったく……それくらいで主を裏切るなら、最初からバカな真似するんじゃないわよ」
スズカは苛立っていた。
主を裏切るという執事に対して、強い怒りを覚えていた。
主を裏切るなんて、あってはならないことだ。
猫霊族は、シンシアほど高い忠誠心はないけれど……
でも、アズのことは大好きだ。
裏切るなんて絶対にありえない。
それなのに、こちらの執事は簡単に主を裏切って……
そんな彼を見ていると、とてもイライラしてしまうスズカだった。
「にゃー……ちょっとくらい踏み潰しておこうかしら?」
そんな物騒なことを考えつつ、スズカはアズの帰りを待つのだった。
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