23話 因縁の相手
幸いというか残念と言うべきか、ダナは生きていて、ほどなくして目を覚ました。
彼は癇癪を起こした子供のように暴れたものの、すぐに、シンシアとスズカによって制圧された。
男爵だろうがなんだろうが、魔族に関わっていたのだ。
屋敷のメイドも事件を目撃している。
言い逃れすることはできず、事件を揉み消すのも不可能。
ダナを冒険者ギルドに連行して……
その後、さらに騎士団に連れて行かれた。
たぶん、爵位は剥奪となるだろう。
そして、強制労働か絞首刑か……どちらにしてもひどい結末を迎えるだろう。
女の敵なので、ざまあみろ、というのが正直な感想だ。
それから私は、ミゼリーさんのところへ報告に行った。
一連の事件の話をして……。
そして、魔族が現れたことを報告する。
「……なるほど」
ミゼリーさんはとても苦い表情に。
「魔族なんて信じがたい話だけど……でも、アズちゃんが言うのなら本当なんでしょうね」
やれやれと首を振り、それからため息をこぼした。
それだけ事態は深刻なのだろう。
「立ち去った、っていう話だけど……しばらくは警戒を続けた方がいいわね」
「はい、それが一番だと思います」
「とはいえ、魔族を相手にどこまでできるか……あーもうっ! こうも立て続けに問題が起きるなんて、呪われているのかしら?」
「……立て続けに?」
気になる言葉が飛び出して、小首を傾げた。
「魔族と関係ないと思うのだけど……また盗賊が現れたのよ」
「えっ」
物騒なワードを聞いて……
なにか嫌な予感を覚えた私は、胸をざわつかせるのだった。
――――――――――
「あっ! アズ、おかえりー!」
「おかえりなさい、お姉さま。失礼なことを言われたりしませんでした?」
冒険者ギルドのロビーに戻ると、そこで待っていたシンシアとスズカが駆け寄ってきた。
「大丈夫です、ミゼリーさんは良い人ですから」
「わふー……でも、アズを見る目が変」
「そうですね。ミゼリーさんは良い人間かもしれませんが、お姉さまを性的な目で見ていると思いますわ。まあ、とてもわかりますが!」
そこで理解を示されても……
「どんな話をされたの?」
「えっと……その前に、ごはんにしましょうか」
「わーい、ごはん!」
「じゅるり」
「わかっていたことですけど、二人って、けっこう食いしん坊ですよね」
苦笑しつつ、食堂へ移動した。
「えっと……ここからここまで!」
「これとこれとこれと……あと、これを十人前お願い」
「あはは……」
シンシアとスズカの食欲はすさまじい。
一人で十人前以上を食べている。
色々な依頼をこなしてきたから、財布には余裕はあるけど……
少し節約した方がいいかな?
って考えるのは、仕方ないことだと思う。
「それふぇ、ふぁにをひふぁれふぁふぉ?」
「おふぇえひゃまに、ひゃっふぁいなおおひごとをおひふふぇたのでふぁ?」
「話は後でいいので、食べることを優先してください」
「……!」
「……!!」
二人は無言になって、食べることに集中し始めた。
笑うしかないのだけど……
でも、こんなシンシアとスズカもかわいいと思う。
「「はふー」」
ややあって二人は食事を終えて、満足そうに笑う。
テーブルの上には、空になった皿が山のように積まれていた。
支払いのことを考えると胃が痛い。
「えっと……すみません。お皿を片付けてもらっていいですか? あと、果実ジュースを三つ、お願いします」
「は、はい……」
店員さんを呼び止めてそう言うと、なにやら、恐ろしいものを見る目を向けられてしまう。
まあ、当然ですよね。
私が店員でも、同じ反応をしていたと思います。
ほどなくして果実ジュースが運ばれてきて、それを飲んで、一息つく。
「それで、ミゼリーさんの話ですけど……」
「「?」」
「……もしかして、もう忘れました」
「「……はっ!?」」
二人はなにかを思い出した様子で、目を大きくした。
「だ、大丈夫、覚えているよ!?」
「えっと、その……今日の夕飯の話ですね!?」
「違います」
やれやれとため息。
改めて、ミゼリーさんから聞いた話を二人に伝える。
「どうも、また盗賊が現れたみたいです」
「……盗賊……」
「わ、私じゃないわよ!?」
シンシアにじっと見つめられて、スズカは慌てた様子で首を横に振る。
「もちろん、スズカは関係ありません。まったく別の盗賊団が、アクエリアスの近くに現れたみたいです」
新しく設立された盗賊団なのか、まだ被害報告は少ない。
まあ。
被害が少ないからといって、放置する理由にはならない。
「いくらかの冒険者がパーティーを組んで、討伐を請けたみたいですが……」
「アズ、難しい顔してる」
「少し気になることがあるんです」
アクエリアスは、以前、それなりの規模の盗賊団がいた。
それは私が討伐して……
空白地帯になったところに、他所から盗賊団が流れ込んできたらしい。
空になった場所に、新しい縄張りを築く。
盗賊達にはよくあることだけど、今回は少し事情が違う。
前の盗賊団が壊滅させられたということは、それだけの危険があるということ。
そんな場所を、わざわざ新しい縄張りとして選ぶだろうか?
それと、新しい盗賊団は非常に練度が高く、まるで騎士団のようだ、と聞いている。
高い力を持っていて……それでいて、残忍。
彼らに襲われた人は、ほとんど生き残りがいないとか。
そして、なによりも気になる点が……
「……アッガス……」
彼に似た男が盗賊団の中にいたとかなんとか。
今のところ、それは噂に過ぎない。
でも、もしも本当だとしたら……
「放っておけませんね」
パーティーを追放された身だけど、でも、身内の不始末のようなものだ。
もしも本当なら、なんとかしないと。
「わふー……改めて聞くと、勇者パーティー、ひどいやつ! 許せない!」
「にゃー……お姉さまに対するひどい仕打ち、許せませんわ。殴り飛ばしてやります!」
二人はやる気たっぷりだ。
「ミゼリーさんから応援を頼まれたんですけど、シンシアとスズカは……」
「「やる!!」」
「ありがとうございます」
頼りになる二人だ。
そんな二人に負けないよう、任せっきりにならないよう、私もがんばらないと、ですね!
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