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22話 少女の過去

 シンシアはとても優しい子です。

 彼女がいなかったら、私は、パーティーを追放されたことから立ち直れなかったかもしれない。


 最強種の力とか、そういうものは関係なくて……

 彼女のまっすぐで純粋な心に救われた。


 一緒にいてくれて。

 明るい笑顔をくれて。

 それらのおかげで、私は一人じゃない、って気づくことができました。


 スズカも優しい子です。

 こんな私のことをお姉さまと慕ってくれて、いつも支えてくれています。


 ちょっと思い込みが激しいというか、困った性格をしていますけど……

 でも、それはそれ。

 一緒にいると、その豊かな感情に刺激されて、私の心も明るくなるんです。


 だから……

 そんな二人に隠し事はしたくない。

 私の本当の姿を知ってほしい。


 ただのエゴかもしれない。

 自己満足かもしれない。

 それでも、過去を隠したまま二人と付き合うことは、もうできそうになかった。


「……シンシア、スズカ。少し、私の話を聞いてくれますか?」




――――――――――




 辺境のさらに辺境に、私の故郷はあります。


 百人にも満たない小さな村。

 村の名前はありません。


 観光名所はなくて、特産品もない。

 ただ、のんびりとした自然があるだけ。

 村人達は農作物を作り、わずかな蓄えを作っていました。


 ……というのが、表向きの村の姿。


 この村には、裏の姿がありました。

 それは……殺しを生業とすること。


 村人はただの村人ではなくて、暗殺者という裏の顔を持っていました。


 お金をもらい、人を殺す。

 そこに感情は一切、介入することはない。


 人を殺すこと。

 それは、村人にとってただの仕事でした。

 ずっと昔から、そうやって生きてきたのでした。


 それが……私の故郷です。


 そして私も、暗殺者の一員として育てられました。

 物心ついた時から、暗殺者としての技術を叩き込まれてきました。


 子供とか、そういうことは関係ありません。

 村に生きる全ての者が、暗殺者になるために育てられて、暗殺者として生きていくのです。

 それが、この村の常識であり、理でした。


 生きるために殺す。

 その技術を学ぶ。

 そんな歪な思想に疑問を抱くことなく、私は淡々と殺しの技術を学んでいきました。


 言い訳になってしまうのですが……

 物心ついた時からそのように教育されてきたため、それがおかしい、ということに気づくことができなかったんです。


 ただ……


 十歳の時、私の人生に転機が訪れました。


 ある日、両親が私に子犬をプレゼントしてくれました。

 理由を聞いても、一生懸命世話をするように、としか言われません。


 かわいい子犬に、私は心を動かされて……

 あと、初めての両親からのプレゼントということもあり、一生懸命世話をしました。


 あんこ、っていう名前をつけました。

 夜はいつも一緒に寝ました。

 訓練も一緒で、あんこは、私が挫けそうになると鳴いて励ましてくれました。


 いつしか、あんこはかけがえのない存在になりました。

 大事な家族。

 両親よりも大好きな、大事な大事な家族になりました。


 でも……


 それは、全部、訓練のためでした。


 ある日、厳しい顔をした両親が、私に短剣を渡してきました。

 そして……あんこを殺して食べろ、と命令されました。


 意味がわかりませんでした。

 訳がわかりませんでした。


 私はひどく取り乱しつつ、その理由を尋ねると……

 あんこを飼うことは、訓練の一種だったと告げられました。


 犬を飼い、大事に世話をさせることで感情移入させる。

 しかし、その犬を自らの手で殺して、そして、食らう。

 そうすることで、暗殺者として必要な、何事にも動じない心を身につけられるのだ……と。


 逆ではないでしょうか?

 そんなことをして得られる心なんてありません。

 心が壊れるだけ……なにも感じなくなるだけ。


 私は拒否しました。

 あんこを殺すなんて、家族を殺すなんて……絶対にありえないことでした。


 両親の命令?

 里の掟?


 そんなもの知りません。

 そんな訳のわからないものよりも、私は、あんこが大事でした。


 私はあんこを連れて、里を逃げ出しました。

 逃亡は禁止。

 当然、追手がやってきました。

 両親も、失敗作の私を処分するために追いかけてきました。


 私は全力で抵抗して……

 生きるために戦い……


 なんとか、追手を振り切ることに成功しました。

 でも……その際についた傷で、あんこは死んでしまいました。




――――――――――




「……そうして、私は一人ぼっちになったんです」


 静かにそう言って、私は話を締めくくりました。


「うえええええっ……!!!」

「びえええええっ……!!!」


 シンシアとスズカは号泣。

 涙で川ができてしまうのではないか? と思うほど、勢いよく泣いていて……


「お、落ち着いてください。ね? ね?」


 失敗です。

 まさか、二人が泣いてしまうなんて。

 そんなつもりで話をしたわけじゃないんですけど……


「アズ、かわいそうだよぉおおお!!!」

「あんこもかわいそうですぅううう!!!」

「えっと……」


 二人をなんとかなだめつつ、本題に入る。


「なにを話したかったかというと……私は、暗殺者の家の生まれなんです」

「「……」」

「幸いというか、まだ人を殺したことはありません。でも、この体には人殺しの血が流れています。戦う術は、人殺しの技術で作られています」


 つまり、なにが言いたいかというと……


「私は……魂まで血に濡れた、汚れた存在なんです」


 生まれたところは、血に濡れた暗殺者の里。

 食べてきたものは、誰かを殺したことで得た物。

 服も、家も、なにもかも全部、血に濡れている。


 そんな私は……


「シンシアとスズカは、とてもまっすぐで、綺麗で……だからこそ、思っちゃうんです。こんなに汚れている私と一緒にいてもいいのかな……って」

「……アズ……」

「……お姉さま……」


 二人は泣きそうな顔になって……

 次いで、なぜか怒る顔に。


「シンシア? スズカ?」


 二人の反応がわからなくて、私は小首を傾げた。

 そんな私を見て、シンシアとスズカはさらに不機嫌そうになり……


「「ばか!!」」


 怒られてしまう。


「す、すみません……?」

「アズは、ばか! 汚れているとか、そんなこと考えるなんて、ばかばかばか!」

「そのように悩み方が、どうして汚れているって思うのですか!? お姉さまは汚れてなんていません、とても綺麗で素晴らしい方です!」

「そんなことは……私なんて……」

「「ばか!!」」


 再び怒られてしまう。

 どうして?


「アズが悩んでいるの、わかったよ。すごくすごく大変なんだと思う」

「でも、それはそれ。これはこれ、です!」

「私達はアズが好きなの。どんな過去があっても、アズが好きなの!」

「どのような道を歩いてきたとしても、その想いは変わりませんわ。全てをひっくるめて、アズ・アライズという方に惹かれているのです!」

「その好きを……私達の好きを、アズが否定しないで」

「覚えていてください。お姉さまがどれだけ自分を嫌いになっても、その分、私達がお姉さまを好きになるということを。マイナスになった分、愛を注ぐことを」

「シンシア……スズカ……どうして……」


 出会って、まだそんなに時間が経っていない。

 それなのに、どうしてそんなことが言えるんですか?

 こんな私のことを、なんで好きって、言えるんですか?


 わからない……わからないですよ……


「アズ、困った人」

「お姉さまは、難しく考えすぎなのです」


 私の考えていることを察した様子で、二人は苦笑した。


 次いで……

 にっこりと笑う。


「誰かを好きになるのに、理由なんて必要ないんだよ」

「好きだから好き……それでいいんです」

「……あ……」


 その言葉は、私の心の深いところに響いて……

 凍りついていた感情を甘く溶かしてくれて……


「うっ……ひっく、うぅう……」


 涙が止まりませんでした。


 悲しいわけじゃなくて……

 とても嬉しくて……


「ありがとうございます……シンシア、スズカ。私も、二人が大好きです」


 泣き笑いをしつつ、二人を抱きしめた。

 ぎゅうっと、抱きしめた。

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◆ お知らせ ◆
新作を書いてみました。
【家を追放された生贄ですが、最強の美少女悪魔が花嫁になりました】
こちらも読んでもらえたらうれしいです。


もう一つ、古い作品の続きを書いてみました。
【美少女転校生の恋人のフリをすることにしたら、彼女がやたら本気な件について】
現代ラブコメです。こちらも読んでもらえたらうれしいです。
― 新着の感想 ―
[良い点] 感想欄になんか故郷関連でほのめかす内容がありますね。 私、書籍は買ってないので内容がわからないなあ・・・。
[気になる点] まさか、ビーストテイマー本編の書籍限定で登場したアサシンの故郷って……
2022/08/11 17:51 退会済み
管理
[気になる点] その故郷が今どうなっているのか?・・・まさか
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