21話 バカ!
怖い。
でも、そんなものは気合でなんとかするんです!
シンシアとスズカに手を出させません!!!
「うあああああぁっ!!!」
己を鼓舞するように叫びつつ、ヴァイスに向かって駆けた。
「ふむ、猪か?」
真正面からまっすぐ突撃する私を見て、ヴァイスは呆れたようなため息をこぼす。
迎撃のためのカウンターを放つけど、
「甘いです!」
「なっ!?」
直前で、急旋回。
ヴァイスの横に回り込み、
「烈火掌!」
技を叩き込んだ。
相手の体内に衝撃を伝えて、内部から破壊する技だ。
これなら……!
「今、面白い動きをしたな?」
無傷!?
「人間にはありえない動きをしたが、どういうことだ?」
「……ちょっとした、手品みたいなものです」
答えは、シンシアの主になったことで得た闘気だ。
闘気を利用することで、普通なら不可能な動きを可能にした。
「ふむ、興味深い。解体してでも調べたいところだが……」
「……」
「まあいい、儂もヒマではないのでな。復活できた以上、このまま遊ぶ必要はないか」
そう言い残すと、ヴァイスの姿は宙に溶けるように、ゆっくりと消えた。
警戒を続けるものの、気配はない。
嫌な感じも消えた。
「……逃げた?」
いえ……見逃された?
「……はふぅ……」
一気に全身から力が抜けてしまう。
立っていることができなくて、ぺたん、とお尻をついた。
「あ、あはは……」
まさか、魔族と戦うことになるなんて。
足が震えて、しばらく立つことができなさそう。
心臓もばくばくと動いている。
「こ……怖かったぁ……」
小さい頃、悪いことをすると魔族にさらわれるぞ、なんていう話をされたことがあるけど……
まさか、本物と戦うことになるなんて。
圧倒的な強さだった。
もしも本気を出していたら、私は今、生きていないはず。
「アズ!」
「お姉さま!」
シンシアとアズがこちらに駆けてきた。
「よかった、二人は無事で……」
「「バカ!」」
「え? え?」
なぜか、いきなり叱られた。
二人は眉を吊り上げて、とても険しい表情をして……
でも、目に涙を溜めつつ怒る。
「魔族に一人で立ち向かうなんて、なんでそんな無茶をしたの!?」
「お姉さまは、無茶がすぎます!」
「で、でも……あの場合は、ああするしか……」
「「逃げて!!」」
ぐいっと顔を寄せつつ、シンシアとスズカが強い口調で言う。
「無茶をしたらダメ!」
「そうです! お姉さまは、もっと自分を大事にしてください!」
「そう言われても……」
わかりました、逃げます。
……なんてこと、できるわけがない。
私一人ならいいけど、シンシアとスズカが一緒なんです。
二人を置いて逃げるなんてありえない。
絶対にありえないことです。
「シンシアとスズカを置いて、私だけ逃げるなんてできません」
「「むう」」
「それに、あの時、私が戦わないと、二人がどうなっていたか……」
魔族の気まぐれで見逃してもらえた。
でも、もしかしたら、二人に害が及んでいたかもしれない。
取り返しのつかないことになっていたかもしれない。
だから私は……
「「バカ!!」」
再び叱られてしまう。
「アズは、もっと自分を大事にしないとダメ!」
「心配していただけるのは嬉しいですが、まずは自分を一番に考えてください!」
「で、でもっ、私は二人のことが心配で、だから無茶でもなんでもしようって……!」
「それなら、私達がアズを心配する気持ちもわかって!」
「っ!?」
シンシアの強い叫びに、ハッとさせられてしまう。
そうだ。
当たり前のことだ。
私が二人を心配するように、二人も私のことを心配してくれる。
それなのに、私は無茶をして……
「……ごめんなさい」
しょんぼりと頭を下げた。
すると二人は、わかったのならそれでいいと、うんうんと頷いて……
次いで、くしゃりと表情を歪ませる。
みるみるうちに涙目になって、
「「うわぁーーーんっ!!!」」
泣きながら、私の胸に飛び込んできた。
「心配したよぉ! うぅっ、アズになにかあったら、って思うと……わふぅ」
「無茶はしないでください! お姉さまが私達を残していくなんて、絶対に嫌です……!」
「……はい、ごめんなさい。ごめんね」
なんだか私も泣いてしまいそうです。
こみあげてくる感情をぐっと我慢しつつ……
私は、ぎゅうっと二人を抱きしめました。
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