20話 悪しき存在
「え? え? どこに……」
慌てて周囲を見回して……
それに気づいた。
指輪はいつの間にかダナから外れて、意思を持っているかのように、宙に浮いていた。
もはや正体を隠す必要はない。
そんなことを言うかのように、禍々しい、黒いオーラを放っている。
「これは……!?」
「うーっ……わん!」
「お姉さま、あれは……あれは危険です!」
シンシアとスズカも強い警戒を示した。
壊す。
反射的にそう判断して、一歩踏み込もうとするけれど……
しかし、遅い。
「ひゃ!?」
指輪が黒い光を放つ。
太陽のように強烈な光だ。
夜のように周囲を暗闇に染める。
侵食していく。
圧を感じるほどの、強大な闇だ。
「っ……!!!」
ほどなくして闇が収まる。
後に残ったのは……一人の男性だ。
髪を後ろに流していて、コートらしきものを着ている。
ぱっと見、おじいさんに見えるけど……
でも、違う。
全然違う。
この人はとても怖い存在だ。
人間なんかじゃない。
魔物でもない。
つまり……
「……魔族……」
「「えっ!?」」
私のつぶやきに、シンシアとスズカが驚きの表情に。
対するおじいさんは、面白そうに笑う。
「ほう、一目で儂の正体を看破するか。面白い小娘だな」
「じゃあ、やっぱり……」
「そうだ。儂の名前は……ヴァイス、魔族だ」
ゾクリと背中が震えた。
魔族。
他種族全てを敵視して……
中でも、人間に対して強い敵意を持つ。
その力は圧倒的。
最強種に匹敵……あるいは、凌駕するという。
「あなたは……」
「うん?」
「……あの指輪に封印されて、ここに管理されていた。でも、偶然、ダナが見つけてしまった。ダナが、指輪の……あなたの力を使うことで封印が弱まり、そして……」
「人間にしては賢いな、小娘。その通りだ。儂は、そこの人間に感謝しなくてはならぬな」
「っ!?」
ヴァイスと名乗る魔族が一歩前に出て、私はビクリと体を震わせた。
怖い。
怖い。
怖い。
色々な訓練を積んできたはずなのに。
死を意識するような、過酷な訓練を繰り返してきたはずなのに。
でも、こいつは別格だ。
死の匂いが濃厚で、ひどい。
例えば、草食動物が肉食動物と相対したような感じ。
どうしようもない絶望感に襲われてしまい、足が震えてしまう。
私は……
「ぐるるる……!」
「お姉さまに手出しはさせないわ!」
「シンシア……スズカ……」
シンシアとスズカが私の前に出てくれた。
私を背中にかばい、ヴァイスと対峙する。
「復活したばかりだ。無駄に争うつもりはないが……リハビリは必要か」
「わふっ!?」
「にゃっ!?」
ヴァイスが駆けた。
驚異的な加速力でシンシアに迫り、拳を繰り出す。
シンシアは大きく身をひねることで、かろうじて攻撃を避けた。
ただ、追撃に対応することができず、蹴り飛ばされてしまう。
「キャイン!?」
「このっ!!!」
激高したスズカが殴りかかるものの、ヴァイスの方が速い。
ヴァイスは、スズカの拳を軽々と避けると、カウンターの蹴撃を繰り出した。
スズカは咄嗟にガード。
しかし、そのガードの上から強烈な衝撃を与えられてしまい、壁に吹き飛ぶ。
「うにゃ……!?」
「シンシア!? スズカ!?」
そんな……
最強種の二人が、あっという間にやられてしまった。
しかも、相手は目覚めたばかりの魔族。
リハビリと言っていたから、十の力は発揮していないはず。
せいぜい、ニか三だろう。
それなのに、これほどの力の差があるなんて。
「つまらぬ。リハビリにもならないな」
「うっ……」
「くううう……」
シンシアとスズカは悔しそうにうめくけど、動くことができないらしい。
二人はこちらを見て、
「アズ……逃げて……」
「お姉さまだけでも……」
「わ、私は……」
ヴァイスは怖い。
ものすごく怖い。
だけど……
「これ以上、逃げることなんてできません!」
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