2話 運命の出会い
「アリオス、本当に良かったのか?」
アズが部屋を出ていった後……
アッガスはそう問いかけた。
「なんのことだい?」
「アズのことだ。彼女のしたことは許されないが……しかし、あの腕は惜しい」
「アズに雑用、全部任せてたし、それで困りそうな感じもするわよねー」
「ああ見えて、色々な交渉が得意でしたからね」
「……そうだね。確かにアズは有能だった」
しかし、この僕の誘いを断った。
勇者の女になることができる。
それは最高の名誉であり、女にとっての幸せであるはずなのに……
そんなことはありえないと一蹴された。
許せるわけがない。
そんな身勝手な考えを抱くアリオスは、しかし、それを表に出すことなく、とても残念そうな顔をして言葉を続ける。
「アズがいれば、僕達の旅は捗っただろう」
「なら……」
「しかし、彼女は罪人だ。よりにもよって、仲間の金に手をつけた」
「……」
アリオスの言葉にアッガスは口を閉じた。
アズは有能で、手放すのは惜しい。
しかし、仲間の金に手を出すようなものを仲間と呼べるか?
否。
仲間と認めることはできない。
力量も大事だけど、それ以上に信頼関係が重要なのだ。
いたずらならともかく、窃盗をされてはそれを培うことはできない。
「でも、アズがやってた雑用、全部やるとかめっちゃ面倒なんですけど」
リーンが不満そうに言う。
それに対して、アリオスはあくまでも余裕を崩さない。
「なに、問題ないさ。またパーティーを募集しよう」
「今度は、どのような方を?」
「まともに動けるのなら、誰でもいいさ。適当に言い含めて、雑用、全て担当してもらおう。そうすれば問題ないだろう?」
「なるほど。アリオスってば、頭いいー!」
「そう……使えないヤツ、僕に従わないヤツは切り捨ててしまえばいい。そして、また補充する。なに、勇者パーティーに入りたいヤツなんてたくさんいるからね。それらを、片っ端から使い潰していけばいい、はははっ!」
アリオスが笑う。
アッガスとリーンとミナも笑う。
彼らの考えることはひどく歪んでいたものの、それを指摘する者はいない。
矯正する者もいない。
自分達は勇者パーティーだ。
選ばれた者だ。
その意識が我を増大させて、手のつけられないところまで肥大化していた。
……彼らの本性に周囲が気づくのは、もう少し先のことである。
――――――――――
私は元々冒険者だ。
そこをアリオスにスカウトされて、半年ほど、一緒に旅をした。
だから、追放された今、また冒険者に戻るだけ。
追放の際、路銀や装備を没収されることはなかった。
あまりやりすぎて、私に罪を告発されることを恐れたのだろう。
おかげで、すぐに冒険者に復帰することができる。
それはよかったのだけど……
「悪いが、あんたとパーティーを組むことはできねえな」
「え?」
冒険者ギルドを訪ねて、まずは、仲間を募集しているパーティーに声をかけたのだけど……そっけなく断られてしまう。
一人だけじゃない。
二人、三人、四人……全てのパーティーに断られてしまう。
どうして?
私は、Cランクの冒険者資格を持つ。
ベテランとは言えないけど、駆け出しでもない。
高望みをしなければ、それなりに活躍できるはずなのに……
「あんた、勇者パーティーから追放されたんだろ?」
最後に声をかけたパーティーのリーダーが、憐れむように言う。
「そう、ですけど……」
「勇者様のパーティーを追放されるなんて、普通、ありえないだろ。なにか、あくどいことでもやらかしたんじゃないか?」
「そんな! 私は……!!!」
アリオスが自分の女になれと迫ってきて……
私は、それを断って……
その逆恨みに追放された。
私は悪くない。
なにもしていない。
それなのに……
「……」
「なにも言えない、ってか」
男は呆れたように言う。
私が後ろめたいことを抱えていると思ったのだろう。
でも、本当のところは違う。
アリオスのことを訴えられないのだ。
私は一冒険者で、相手は勇者。
人々がどちらを信じるか、考えるまでもない。
それに、黙っておけば見逃してやる、という空気を感じた。
下手に告発なんてしたら、今度は苛烈な報復をされてしまうだろう。
だから……なにも言えない。
私は間違っていないのに。
正しいはずなのに。
なにも……
「うぅ……」
すごく悔しい。
「あっ、おい!?」
私は踵を返して冒険者ギルドを後にした。
男がなにか呼び止めてきたけれど、聞こえなかったフリをして、そのまま立ち去った。
あの場にいたら……涙がこぼれてしまいそうだった。
――――――――――
「はぁ……これからどうしましょう?」
私は広場のベンチに座り、ぼーっと空を見上げていた。
あの様子だと、誰もパーティーを組んでくれないだろう。
かといって、冒険者の資格が剥奪されたわけじゃない。
ソロで活動することも可能だけど……
「私の実力で、どこまでできるか……」
腕はそれなりにあると自負している。
しかし、ソロでやっていくとなると大変だ。
一人で補給線を支えないといけないし、見張りを立てることもできない。
不測の事態が起きた時、誰かに助けてもらうこともできない。
ソロの冒険者がいないわけではないが……
そういう人は一流の冒険者だ。
私には無理。
「でも……うん、いつまでも落ち込んでいても仕方ないですね! 暗いことを考えていたら、心がそれに引っ張られちゃいます。もっと明るくいかないと! ポジティブ思考です!」
報酬はとても少ないけれど、塵も積もれば山となる。
何度も繰り返し請けて、がんばって……
そして、他の街へ移動しよう。
他所でなら、私とパーティーを組んでくれる人もいるかもしれない。
「うんうん! よし、がんばりましょう!」
空元気だけど、でも、暗く落ち込んでいるよりかはマシだと思った。
――――――――――
地を這うように体勢を低く、一気に駆け抜ける。
それと同時に拳を放つ。
「ギャア!?」
「グアッ!?」
ゴブリン達が悲鳴をあげて倒れて、魔石に変わる。
それを拾い、ポーチに収納した。
「やった! これで依頼完了ですね。えへへ、うまくいってよかったです」
畑を荒らすゴブリンを退治すること。
銅貨十枚という少額の依頼だけど、それでもこなせる依頼があるだけマシだ。
それに、困っている人がいるのなら力になりたい。
「ひとまずギルドへ戻って……あれ?」
ふと、少し離れたところから動物の鳴き声が聞こえてきた。
犬……かしら?
なんだか弱っているような感じだったけど……
「……こっちでしょうか?」
街道を外れて森の中に入る。
森の中は、たまに強力な魔物が現れるため、単独行動はしたくないのだけど……
でも、鳴き声が妙に気になり、私は足を進めた。
「……クゥーン……」
しばらく進んだところで、木の根元でぐったりと横たわっている子犬を見つけた。
「わわわ、大丈夫ですか!?」
慌てて駆け寄ると、子犬はゆっくりとこちらを見た。
「グルルルッ……!」
たぶん、魔物に襲われたのだろう。
子犬は怪我をしていて……
そして、気が立っている様子で、私を威嚇する。
「大丈夫、私は敵じゃないですよ? ほらほら、大丈夫ですよー」
「グルルルゥ……」
「薬を持っているから、手当てさせてくださいね? ほら、おとなしくて……」
「ガァッ!!!」
「っ!」
子犬は鋭く吠えながら、私の手の甲に噛みついてきた。
激痛。
そして、骨が折れる感触が伝わってきた。
どういうこと?
こんな力を持った犬は見たことが……ううん、そんなことはどうでもいい。
「ほら、大丈夫ですよ……」
「グルルル……!」
「大丈夫、大丈夫ですから……ね?」
痛みは無視して、にっこりと笑う。
優しく、何度も呼びかける。
「一人で怖かったんですね。怪我をして怯えていたんですね。でも、もう大丈夫ですよ。私はあなたの味方です。怖い魔物が現れた、ばこーんって倒しちゃいますよ」
「グル……」
「信頼してほしいとは言わないけど、せめて、あなたの怪我の手当てをさせてくれませんか? そのままだと危ないから……」
「……」
「お願いします……ね?」
「……キューン」
子犬は私の手から口を離して、傷口をペロペロと舐めてきた。
それと、甘えるような感じで顔をこすりつけてくる。
よかった。
信じてくれたみたいだ。
「じゃあ、手当をしますね? はい、じっとしててください」
地面に座り、子犬を膝に抱える。
その状態で全身を調べて、怪我をしているところに薬を塗る。
最後、少し薬が余ったので、それは自分に使っておいた。
けっこう高級なポーションなので、骨折も治ってしまう。
「これでよし」
「オンッ!」
「あぁ、ダメ。ダメですよ。すぐに完治するわけじゃないから、そんなに動いたらダメです……あああ、そんなに動いて、まったく私の言うことを聞いてくれません。ぐすん……って、ひゃあ!? くすぐったいです!」
子犬はうれしそうにじゃれついてきた。
私はそれをなだめて……
でも、この子の気持ちがうれしくて、ついつい笑顔になってしまう。
「でも、これだけ元気になったのなら大丈夫でしょうか? また魔物に襲われないように気をつけてくださいね。ばいばい」
「オンオンッ!」
さようなら、と手を振るのだけど、子犬は私の後ろをついてくる。
右に行けば右へ。
左に行けば左へ。
「……思い切り懐かれちゃいました?」
「オンッ!」
つぶらな瞳で私を見つめてくる。
うっ、なんて輝き。
やめて。
そんな目で私を見ないで!
あなたを飼うことは……
「って、パーティーを追放されているから、特に問題はないですね」
なにをするのも自由。
子犬を飼うのも自由。
しゃがんで、子犬と目線を合わせる。
「私と一緒に来ますか?」
「オンッ!」
「ふふ、了解です。じゃあ、今日から私達は家族ですね。いらっしゃい」
「キューン」
両手を広げると、子犬は甘えるような声を出して、勢いよく飛び込んできたのだった。
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