17話 敵!
「たっぷり楽しませてもらおうか」
「で、ですからそれは……」
「平民ごときが、男爵である僕の寵愛を受けられるのだ。泣いて喜ぶべきところだぞ?」
「と、言われましても……」
「貴様……これ以上、僕の機嫌を損ねるつもりか? 貴様の代わりを別の者にやらせてもいいのだぞ? 所詮、平民なんて代わりはいくらでもいる。繁殖力はネズミのごとく……その点だけは、我ら貴族も叶わないからな。ははは!」
「……」
すぅ、っと心が冷えていく。
「さあ、おとなしく僕のものになれ。平民に喜びを教えてやろう」
ニヤニヤと笑うダナは、そっと顔を近づけてきた。
手も伸ばしてくる。
「あわわわ!?」
ど、どうしましょう!?
まだまだ情報は欲しい。
だからといって、このままおとなしくしていたら私は……
暴れたら情報を手に入れられない。
でも我慢したら、とても大事なものを失ってしまう。
でもでも、あの人形は放置したらいけない気がして……
ああ!?
相反する目的と感情で、私、とんでもないパニック!?
「いただきます」
ダナは、私の唇にそっと……
「アズっ!!!」
「お姉さまっ!!!」
どこからともなく、シンシアとスズカの声が聞こえてきて……
直後、窓を蹴破り、二人が飛び込んできた。
そのままの勢いでダナを殴る。
「ぎゃあ!?」
ダナは扉を突き破り、廊下まで吹き飛んだ。
うわ、痛そう……
死んでいませんよね?
「アズ、大丈夫? 痛いことされていない? 大丈夫?」
「お姉さま、大丈夫ですか!? あのような男に、あのようなことをされそうになるなんて……」
「えっと……」
どうして、シンシアとスズカがここに?
不思議に思うものの……
二人のことだから近くで見守ってくれていたのだろう、と納得した。
「……シンシア、スズカ。ありがとうございます」
「わふー」
「にゃー」
嬉しくなって抱きしめると、二人はごきげんな様子で尻尾をふりふりさせた。
かわいいです。
「アズ、ごめんね。私、邪魔しちゃったかも……」
「申しわけありません……」
作戦を理解している二人は、しょんぼりと耳をぺたんとしてしまう。
でも、シンシアとスズカは私のためを想って動いてくれた。
そんな二人を攻めることなんてできない。
「というか……私も助かったので。気にしないでください」
あのままだと、やっぱり、ものすごく大変なことになっていたので……
二人に助けてもらって、本当によかったと思う。
「ありがとうございます」
「……アズ……」
「……お姉さま……」
「「大好きっ!!!」」
ひしっと抱きつかれてしまう。
甘えん坊の子供みたいだ。
でも、そんな二人のことがとても愛しい。
「き、貴様ら……!」
振り返ると、ふらふらとしつつもダナが立ち上がるところだった。
鼻血を流しているものの、まだまだ元気そう。
わりと頑丈ですね。
ここまできたら、もう開き直ることにした。
かなり強引だけど、力付くで解決することにしましょう。
そして、人形に関する情報も手に入れます。
「あぁ、血が……僕の美しい顔に血が!? 貴様らぁ、貴様らぁあああああ!!!」
とんでもなく激怒していた。
怒りすぎて、そのまま頭の血管が切れてしまわないか心配だ。
「この僕にふざけた真似をしてくれたな!? 絶対に、絶対に許さんぞぉ!!! 少し優しくしてやれば、平民ごときが図に乗りおって!!!」
「許さないのは私達の方だよ!」
「よくお姉さまを襲おうとしてくれたわね? お姉さまの初めては私のものよ!」
……今、スズカがさらりととんでもないことを言ったような気がするけど、聞かなかったことにしておいた。
「こんなことをして、タダで済むと思っているのか? 男爵である僕に手を出したこと、死ぬほど後悔させてやろうか!?」
「ふんっ、あんたこそ、最強種にケンカを売ったことを後悔させてやるわ。叔母さまに頼めば、あんたなんてめったくそになるんだから」
叔母さま?
誰のことだろう?
「アズ!」
ダナは、血走った目で私を睨みつけてきた。
「土下座だ」
「え?」
「服を脱いで、裸になって土下座をしろ! そして僕の靴を舐めながら、愚かな私をどうか許してくださいと、泣いてみせろ! そうすることが、平民である貴様の義務だ!」
「……」
なんていうか……
典型的なダメ貴族ですね。
自分が特別であると勘違いして、その権力をでたらめに振り回す。
本来なら、その力は人々を守るために使わないといけないのに。
「どうした!? さあ、土下座だ。土下座をしろ! そして、その身を差し出せ!」
「嫌です」
「貴様っ……この僕に、男爵である僕に逆らうつもりか!? 平民が逆らえるとでも思っているのか!?」
「男爵だろうがなんだろうが、嫌なものは嫌です。それよりも、こんな身勝手なことをしていいんですか? 後で怒られますよ」
「ふんっ、良いに決まっているだろう。なにしろ、この僕は男爵なのだからな。貴族である僕こそが法であり、平民を罰するのは義務だ! やらなければいけないことなのだ! 正しいことをしてなにが悪い!?」
あー……
なんていうか、もう、この人はダメですね。
特権階級意識がサビのようにこびりついていて、更生は不可能っぽいです。
「そこの二人……最強種か? お前達も同罪だ。さっさと服を脱いで、跪け。それから、たっぷりと楽しんでやろう。特別に貴族の寵愛を授けてやる、ははは!」
というか……
さっきの発言といい、今の発言といい。
そして、二人に対するひどい態度。
私のことはどうでもいいですけど、シンシアとスズカにまで害をなそうとするのは許せない。
再び心が急速に冷え込んでいく。
冷たく。
刃のように。
研ぎ澄まされていく。
「シンシア、スズカ」
「うん!」
「はい、お姉さま」
すぐに私の意図を察してくれて、二人はそれぞれ拳を構えた。
それを見て、ダナが驚きに目を大きくする。
「バカなっ、平民である貴様が貴族である僕に逆らうというのか!? 平民の義務を放棄するというのか!? ありえないぞ!」
「そんな義務、ありませんよ」
「くっ……ならば、この僕が直々にしつけてやろう! そう、これは正義の執行なのだ! 正義にひれ伏すがいい!」
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