16話 ダナ・フランク
「……ご冗談を。私のような子供、旦那さまにはふさわしくありません」
にっこりと笑い、ダナの誘いをさらりと避けてみせた。
……笑顔が引きつっていないか心配だ。
「そうだな、確かに幼いかもしれない」
「はい。なので……」
「しかし、綺麗だ。美しい。そのような美を持ちながら、ただのメイドに収まるなんて、もったいないな。僕のものになるといい」
「いえ、その……」
「もちろん、断らないだろう? この僕、フランク男爵家を背負う者の妾になることができるんだ。これ以上、誇らしいことはない。女としての幸せを掴むことができるぞ?」
「えっと……」
「喜べ。この世のものとは思えない贅沢と快楽を味あわせてやろう」
近い!?
顔が近い!?
っていうか、このまま……!?
「旦那さま」
貞操の危機を覚えて、依頼なんか知ったことか! と、思わず手が出そうになってしまうけど……
メイド長が落ち着いた様子で口を挟んできた。
「申しわけありませんが、新人にまで手を出すのは控えていただけないでしょうか?」
さすがメイド長!
がんばって。
がんばって、私を助けて!
「旦那さまが何度も手を出しているため、人手不足になってしまい、このままですと……」
「黙れ!」
ガシャン!
ダナは激高すると、近くにあった花瓶をメイド長に投げつけた。
幸いにも直撃することはないけど、花瓶は粉々に砕け散ってしまう。
「メイドごときが、この僕に命令するつもりか? 貴様、何様のつもりだ? ただのメイドが、この僕、フランク男爵に命令できると思っているのか!?」
「……申しわけありません。私が浅はかでした」
「愚図が。大したこともできないくせに、この僕に逆らうな!」
「申しわけありません」
「ちっ……興が削がれた。仕事でもしていろ」
ダナは不機嫌そうに言って、机に戻った。
「失礼いたします」
「し、失礼いたします……?」
私も退出していいんですよね?
メイド長と同じく、頭を下げて退出しようとして……
「アズ」
「ひゃ、ひゃい!?」
ダナに呼び止められた。
「今夜、僕の部屋に来るように」
「え、えっと……」
「いいね?」
「わ、わかりました!」
これ以上、この場では面倒事を起こしたくない。
そう考えた私は、ひとまず了承しておいた。
部屋を退出して……
「では、仕事について教えます。ついて来てください」
「あ、はい」
メイド長は、何事もなかったように歩き出した。
ものすごいメンタルですね。
まあ、そうでもないと、ここで働くことはできないのだろう。
メイド長はメイド長で大変そうだった。
――――――――――
「うーん」
夕方。
休憩をもらった私は、メイド用の部屋で休んでいた。
それと同時に、仕事中に聞いたダナについての情報を整理する。
ダナは有能で、仕事はできる。
実際、彼がアクエリアスの統治に関わっているおかげで、街の収益が30パーセント上昇したらしい。
そのように、能力面の評価は高いけれど……
しかし、プライベート……性格の評価は最低だ。
とにかく女癖が悪い。
恋人がいようが結婚していようが、気に入った女性がいたら、なにがなんでも手に入れなければ気が済まない。
そのために権力を使うこともためらわない。
そのくせ、飽きればすぐに捨てる。
まさに女の敵!
「……なんか、野菜泥棒とか関係なく、即座に逮捕した方がいいような気がしてきました」
とはいえ……
そんなダナが、どうして野菜泥棒なんてしたのか不明だ。
あの人形も不明だ。
「叩き潰すことは簡単ですけど……やっぱり、もう少し探りたいですね」
どうにもこうにも、あの人形が気になる。
人形の謎を解明しないで放置していたら、とんでもないことが起きそうな……
そんな悪い予感がした。
「ここにいたのか」
「へ?」
聞き覚えのある声。
嫌な予感がしつつ、ゆっくり振り返ると……
「だ、旦那さま……!?」
ダナがいた。
ニヤニヤと笑い、ゆっくりとこちらに近づいてくる。
「えっと、あの……ここは私達メイドの休憩部屋でして……」
「ここは僕の屋敷だ。なら、どこにでも入る権利がある。そうだろう?」
「そ、そうですね……ハハハ」
もう笑うことしかできない。
「アズ」
「ひゃっ」
片手を掴まれて、抱き寄せられてしまう。
顎をくいっとやられ、顔を覗き込まれる。
「ああ、いいな。実に美しい」
「えっと、えっと……その、よ、夜に旦那さまのお部屋に行く、というお話では……?」
「我慢できなくてな。今、お前が欲しくなったのだ」
「で、ででで、ですが私は十二歳でして……」
「若いな。だが、まだ未熟な蕾を自分の色に染めるのも楽しいな。はは、想像したらたぎってきた」
「あわわわ……」
ピンチ!
私、ものすごいピンチ!?
「まさか、断らないだろうな?」
「え、えっと……」
私が慌てているのを見て、ダナは剣呑な表情に。
こちらを睨みつけて……
次いで、嗜虐的な表情を浮かべる。
「この僕の妾になれるということは、とても名誉なことだ。平民ごときでは絶対に味わうことができない、贅沢ができるんだぞ? 好きなものを買ってやろう。極上の快楽も与えてやる。だから……わかっているな?」
「そ、それは……」
「僕は男爵で、そしてお前は平民だ。平民は、男爵である僕に尽くす義務がある。喜ばせるための努力をしなければならない。平民なんて、それくらいしかできないのだからな。せいぜい、楽しませてくれよ?」
ダナはいやらしい笑みを浮かべて、そっと私に手を伸ばしてきた。
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