15話 マリオネット
手も足も頭もある。
でも、指はない。
目も口もない。
それは、服飾店に置かれているマネキンだった。
「これは……」
マネキンは柵を乗り越えて、畑を荒らし始めた。
収穫前の野菜を次から次に乱獲していく。
どう考えても、野菜泥棒の犯人はマネキンだ。
でも、どうしてマネキンが動いて……?
疑問に思いつつ、今すぐに動いてはいけない、という直感に従い、もう少し様子を見ることにした。
注意深くマネキンを観察する。
「あれ?」
ふと、マネキンの背中にキラキラしたものが見えた。
背中が光っている?
ううん、あれは……糸だ。
魔力で編み込まれた糸がマネキンの背中から伸びて、彼方へ続いている。
どういうことかな?
もしかして……あのマネキンは誰かが操っている?
そう考えると納得だ。
マネキンが勝手に動くはずがない。
それに人形の体なら、人の限界を超えた動きができるはずだから、はっきりと目撃される可能性は減る。
「ここでマネキンを捕まえても意味ないですね」
捕まえるなら、マネキンを操る黒幕だ。
そうしないと、また事件が繰り返されるだろう。
そう判断した私は、あえてマネキンが畑を荒らすのを止めない。
マネキンはあちらこちらから野菜を奪い……
それを両手に抱えて畑を離れる。
「……シンシア、スズカ。起きてください」
「ふぁ?」
「お姉さま……?」
「犯人の……一味が現れました」
一から説明しているヒマはないので、一味と説明しておいた。
「黒幕を突き止めるため、追いかけますよ」
「はーい」
「わかりました」
寝起きでぼーっとしている、なんてことはなくて、二人はすぐにシャキッとした顔に。
うん、頼もしい。
――――――――――
マネキンはアクエリアスに入っていった。
私達の尾行に気づいた様子はなくて、人気のない道を進み、住宅街へ向かう。
そして……
「よし、よくやったな」
やがて、一人の男性が現れた。
三十歳くらいで、メガネをかけている。
見たことのない人だ。
男性はマネキンから野菜を受け取り、パチンと指を鳴らす。
すると、マネキンが動かなくなった。
男性はマネキンを抱えて、路地の奥に向かう。
「アズ、あいつが犯人?」
「捕まえないのですか?」
「……もう少し様子を見たいです」
彼がマネキンを操り、野菜泥棒をしていた。
証言があれば捕まえても問題はない。
ただ……
彼の力が気になる。
マネキンと男性からは、ひどくおぞましい『なにか』を感じた。
まずは、その正体を突き止めたい。
「明日、あの人の情報を集めてみましょう」
「ってことは、しばらく見張りも続くんですね……とほほ」
「お肉ぅ……」
シンシアとスズカは、がっくりとした様子だ。
ごめんなさい。
でも、これはとても大事なことのような気がするから。
――――――――――
翌日。
私達は冒険者ギルドへ赴いて、男性の情報を集めることにした。
ミゼリーさんのおかげで色々なことがスムーズに運んで、すぐに情報が集まる。
ダナ・フランク。
33歳。
五年ほど前にアクエリアスにやってきた貴族だ。
評判は悪い。
立場を盾に横暴な振る舞いをすることが多く、揉め事はしょっちゅうだとか。
「うーん、わかりませんね」
なぜ、貴族が野菜泥棒なんてことを?
そんなことをする理由がない。
だとしたら……
やはり、あの人形が関係しているのだろう。
とはいえ、情報が少なすぎるので、これ以上の推理をすることはできない。
この先に行くためには、もっと情報を集めないと。
「というわけで、ダナ・フランクの屋敷に潜入することにしました」
宿に戻り、シンシアとスズカにそう話した。
「潜入?」
「ちょうどメイドを募集しているみたいなので、それに応募してみます」
「ふふん! 私の魅力なら、一発で採用ですね!」
「スズカはお留守番です」
「お姉さま!?」
「アズは私に任せてね」
「シンシアもお留守番です」
「なんで!?」
いえ、だって……
犬耳と犬尻尾。猫耳と猫尻尾。
そんな二人がメイドにやってきたら、一発で正体がバレてしまうじゃないですか。
「二人は、いざという時のために備えて、待機しておいてください」
「うー……」
「にゃー……」
「お願いします。あとで、好きなものを買ってあげますから」
「私、お肉!」
「魚がいいです!」
なんとも扱いやすい二人だった。
こんなことで大丈夫なのかと、二人の将来がちょっと心配になるのだった。
――――――――――
数日後。
無事、メイドに採用された私は、フランク家の屋敷に赴いた。
メイド服に着替えて、仲間のメイド達に挨拶を。
それからメイド長に連れられて、主となるダナのところへ向かう。
「入れ」
メイド長が扉をノックすると、そんな声が返ってきた。
「失礼します」
メイド長と一緒に部屋に入り、頭を下げる。
「どうした?」
「新しくやってきた者がいますので、その挨拶を……ほら」
「はじめまして。アズ・アライズと申します」
名乗り、再びぺこりとお辞儀をした。
偽名を使うかどうか迷ったけど……
私のことを知っている人は知っているし、調べようと思えば簡単に正体に辿り着くことができる。
なので、気にせず本名を使うことにした。
「今日から、こちらで働くことになりました。旦那さまのためにがんばりたいと思います。よろしくお願いいたします」
「ほう」
私を見たダナは、ニヤリと笑う。
あ。
なんか嫌な予感。
「良いな。僕の女にならないか?」
だから、この街にはロリコンしかいないんですか!?
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