1話 追放
アニメ化記念、第二弾です。
「アズ、君はクビだ」
とある街の宿の一室。
そこで、私はパーティーを追放されることになった。
私にクビを告げたのは、勇者の称号を持つアリオス・オーランド。
魔王討伐の使命を帯びて、各地を旅している。
私は半年ほど前に勧誘されて、アリオスのパーティーに参加。
一緒に魔王討伐を目指すことになったのだけど……
「え? え? え? えっと……い、いきなりどうしたんですか? 私、なにかしたでしょうか?」
問いかけつつ、他の仲間を見る。
戦士のアッガス。
魔法使いのリーン。
神官のミナ。
一緒に旅をする仲間で、苦楽を共にしてきたのだけど……
今は厳しい視線をこちらに向けている。
リーンなんて、時折、舌打ちをしていた。
「心当たりはないのかい? それとも、しらばっくれているのかな?」
「しらばっくれる? いったい、なんの……」
「とぼけるなっ!!!」
我慢の限界という様子で、アッガスがテーブルを叩いた。
苛立ちを示しているかのようだ。
本気で叩いたらしく、テーブルにピシリとヒビが入る。
「お前、俺の金に手をつけていたそうだな?」
「……え?」
「俺だけじゃない。リーン、ミナ、アリオス……みんなの財布から、こっそり金を抜き取っていた。そうだな?」
「え? え?」
なにその話?
そんなこと初めて聞くんだけど……
寝耳に水なのだけど、でも、みんなの視線はますます厳しくなる。
私が犯人と信じて疑っていない様子だ。
どうして?
どうしてこんなことに?
「……ふっ」
ふと、ニヤニヤと笑うアリオスが見えた。
その瞬間、全てを悟る。
彼の仕業だ。
勇者であるアリオスは、みんなから絶対的な信頼を寄せられている。
だから、アリオスの言うことに疑いを持つことはない。
たぶん……
みんなの財布から何度かお金を抜き取り、頃合いを見計らって私のせいだと吹聴した。
そして追放話を持ちかけて……今に至る。
そんな流れだろう。
「アズ」
アリオスが立ち上がり、ゆっくりとこちらにやってきた。
「残念だよ。君には期待していたのに、まさか、こんなことをするなんて……」
悲しそうな顔をして頭を振る。
でも、それは演技だ。
彼は悲しんでなんていない。
だって、アリオスは、わざと私を追放しようとしているのだから。
……一週間前。
アリオスは、私に自分の女になるように求めてきた。
私の外見は彼の好みらしく、それでパーティーに誘ったのだろう。
もちろん、そんな誘いに乗るなんてありえない。
でも、相手は勇者。
角が立たないように断ったつもりなのだけど……
アリオスは根に持っていたらしく、この有様だ。
「……はぁ」
アリオス達に聞こえないようにため息をこぼす。
まさか、勇者が……いや。
勇者パーティーがこんな人達だったなんて。
アリオスは、自分で罠を仕掛けておきながら、自分が正しいという顔をしている。
罪悪感なんて欠片もないし、なんなら、私が従わなかったことが悪いというような態度だ。
リーンとミナ、アッガスは、アリオスの話を信じ切っている。
半年だけど、私も仲間だったはずなのに……
私の言葉はまったく信じてくれていない。
悲しい。
寂しい。
悔しい。
こんな人達……だったなんて。
やるせない気持ちになって。
言葉にできない複雑な想いで胸がいっぱいになって。
涙がこぼれてしまいそうになる。
「私は……」
こんなことの……
勇者の愛人になるために戦ってきたわけじゃない。
あの悲劇を繰り返さないために。
涙を流す人が一人でも減らすために。
そのために戦ってきたのに……
「悪いね」
アリオスは、もう一度、小さな声でつぶやいた。
まったく悪いと思っていない声。
見ると、ニヤリと笑っている。
自分の思い通りにならないのならいらない。
そんな子供じみた感情が透けて見えた。
「そんなわけで……アズ、君はパーティーを抜けてもらう。異論はあるかい? 弁明の機会が欲しいというのなら、一応、話を聞こうじゃないか」
「……いいえ、ありません」
「そうか。つまり、追放を受け入れた、ということでいいかな?」
「……はい」
「ものわかりがよくて助かるよ。一時とはいえ仲間だったから、騎士団に突き出すようなことはしないでおくよ。せめてもの情けだ。うれしいだろう?」
「……うれしいです」
「じゃあ、これでさようならだ。二度とその顔を見せないでくれよ?」
「……っ……」
激情が湧き上がるものの、なんとか我慢した。
「今まで……ありがとう、ございました……」
言葉に詰まりつつも、なんとかそう言うことができた。
そして、私は部屋を後にする。
この時……
彼らとの絆が完全に切れた。
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