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梅雨のコロポックル

作者: 月之木ゆう

「気象庁は、午前11時、近畿と東海の梅雨入りを発表しました」


テレビからニュースが流れる。毎年5月か6月になると聞くニュースである。

そんなニュースに聞き耳を立てている〝小人の少女〟がいた。


「ママー! そろそろこっちも梅雨入りだってー!」


成人しても身長10cmにも満たないコロポックル族の少女──プリュイが母親の元へと駆け寄る。これはコロポックル族の長女として生まれた者が代々担ってきた大切な仕事である。普段彼らは人間に見られないように生活しているが、生活に必要な情報を集めるのは長女の仕事なのだ。


彼らは、人目を避けつつも快適な暮らしを送るために、使われなくなって倉庫の肥やしになっている玩具の家を間借りしている。それは時には、縁の下であったり屋根裏だったり様々だが、人間の豊かな暮らしの恩恵に少しでもあやかりたい彼らは、私たちのすぐ傍で生活しているのである。


そんな彼らにとって、梅雨は大切な恵みの季節である。


「ありがとうプリュイ。雨祭りの準備を始めなくっちゃ! ほら、パパも起きて手伝って!」

「んん、まだ眠いんだが……」

「パパー起きろー!」

「おっきろー!」


ねぼすけな父親にプリュイと妹が飛びつく。

娘二人の助けを借りてようやく目を覚ました父親は、子どもたちと共に水瓶の準備を始める。水瓶と言っても壺状の陶器ではなく、乳酸菌飲料の小さなボトルを利用したものである。

しかし、この容器をそのまま使うわけではない。水を長期間きれいな状態に保つために殺菌作用のある薬草から作った薬で中を拭く作業を行う必要があるのである。水道水が彼らに飲めたならこのような苦労はしなかったのかも知れないが、彼らの敏感な鼻にとって、塩素や水道管の匂いは耐えられないもののようだ。


彼らは梅雨入り前に薬草を集め最初の雨の日までに水瓶を用意し、雨が降ったら一族皆で最初の雨を祝う。

そして、彼らは夏を乗り切るために水を集めるのである。


「パパ、はやく雨降らないかな」

「お祭り楽しみー!」


梅雨の時期には、小さな隣人──コロポックルの少女プリュイとその家族がせっせと水を集める姿を見かけることがあるかもしれない。

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