第六話 圧倒的実力差
皇室騎士たちの構えを見る限り、これまでのエリアで戦ってきた相手とは明らかに実力が違う。
構えた姿には隙がなく、こちらが甘い攻撃をしたものなら返り討ちに合う未来まで想像できる。
俺たちは今回どのように攻めるか作戦を事前に決めていた。レイヤの突撃から始めるが、それをフェイクとしてアレンと俺が一人に対して二方向から攻撃を入れる。その間にスバルは後方から、レイヤの攻撃が本命であるかのように援護するというものだった
「いくぞっ!」
作戦通りにレイヤが、正面の騎士に対して、踏み込み一太刀入れるモーションをとる。スバルがそれに続き、レイヤの攻撃が入りやすいように正面の騎士の真横へ矢を放った。アレンと俺はレイヤの影から横の騎士めがけて駆け抜ける。
予定していた通りの連携だ。各自が自分のやるべきことを実行する俺たちの連携は、そこらの騎士よりも優れていると思った。
しかし、何もかもが想定どおりに動いたのは一瞬だった。
「くはっっっっ」
レイヤから悲痛の声が出る。
作戦通り、俺とアレンが横の騎士めがけて攻撃を入れようとする時に見えた光景は、レイヤが後ろに吹っ飛ばされている姿だった。その姿を見て、瞬間的に身体を反応させようとするが手遅れだった。
レイヤを吹っ飛ばした騎士以外の二人が、俺とアレンへ攻撃を繰り出してくる。
「ぐふっっっっ」
俺は重たい一発を腹部にもらい吹っ飛ばされた。何が起こったか分からないまま、痛む身体を無理やり反転させ、次の攻撃に備える。
すぐに周りを確認すると、レイヤ、アレン、スバルの方へ騎士が追い討ちをかけに行っていた。
「な、なんだったんだ……」
現実を直視できないような顔でレイヤがつぶやく。
レイヤに合わせてスバルとアレンも体勢を整えて守りに入ろうとする。しかし、守りに入るスキも与えずに、騎士たちがアレンを襲った。
「馬鹿なっっ……」
アレンはレイヤのスピードには慣れているが、それを超える速さの攻撃に何も対応ができなかった。レイヤがサポートできないまま、アレンは直撃を受けて倒れこむ。
「次くるぞ! スバル!!」
レイヤの張り上げる声も虚しく、弓を射る構えをとったスバルに騎士がすかさず間合いをつめた。
「僕もここで終わりかな」
思わず吐露をしたスバルも騎士の攻撃を受けて意識を失ったようだ。
レイヤは悔しい顔をするが、せめて一太刀浴びせようと、他の騎士へ攻撃を仕掛ける。
本気のレイヤの一撃はこの戦いで初めて相手の騎士へ当たった。
「な、なんだと……」
相手の騎士はレイヤの攻撃を受けても全くビクともせず、お返しとばかりにレイヤの頭部へカウンターを入れた。もろに食らってしまったのかレイヤも倒れ込んでしまう。
力の差がありすぎた。本物の騎士の実力を目の当たりにして何もできなかった。四エリア目で騎士試験が十中八九合格で、最終エリアは楽しんでやれと言っていたアバロンの言葉の意味が分かった気がした。
すかさず、スピードのある騎士の一撃が俺にもきた。この一撃を受けて俺も騎士試験を終わりにしようと考えていたが、急所への攻撃だったため思わず受け止めてしまう。
「ほぅ、今の攻撃を受けるか」
相手の騎士の笑った顔が見えた。
「そこまでだ! 一度、最終エリアはこれで終わりにしよう!」
これまで観戦を続けていたアバロンが前へ出てきた。
「お前達は倒れている候補生を山小屋へ連れて休ませろ。俺はこいつと話がしたい」
アバロンがそう言うと、俺とアバロンを残して他の騎士達は、レイヤ達を山小屋へ運び始めた。
「最後の一太刀、よく受けたな!」
驚いたが、まさか褒められるとは思っていなかった。
「急所へ攻撃してきたので、身体が勝手に反応しただけですよ」
一応、まともな回答をしておく。
「お前、本気で戦ってないだろ?」
アバロンは俺が力を隠していることに気づいたのだろうか、確信めいた言い方をする。
「いやいや、本気で戦ってましたよ。平民出身の私の実力はこんなもので、よくやっている方ですよ」
本気なんてこの三年間全く出したことはなかったが、俺はいつものように返答する。
「最後の一太刀はそこで倒れている候補生でも受けられない」
「たまたま最後の動きは運がよかっただけです」
他の人達と違い、アバロンは本気を出していないことへしつこく聞いてきた。
「運がいくら良くても受けきれない攻撃があるのは分かるだろ。ガルムの息子よ!」
アバロンの口から、急に親父の名前が出てきた。俺はその名前を聞き、愕然とする。
親父の名前を知っている人間が都市にいるわけがない、ましてや小さな山小屋に住み続けてずっと畑仕事をしてきたのだから、近くの村でも名前を知らない人間もいるほどだ。
「驚いた顔だな。いいぞ。俺はお前の父を知っている!」
アバロンは俺が驚いた顔をしたことを見過ごさなかった。
なぜ目の前の男が親父の名前を知っているのか疑問でしかなかった。
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