第四十一話 試合の傷跡
目が覚めるとナターシャの屋敷の部屋の天井が見えた。
身体を動かそうとするが、本来の力が入らない。最後の記憶は騎士対抗試合でクレインの騎士と戦っているときだが、それ以降何があったのかは全く覚えていなかった。
横を向くとアマンがいる。
「あっ、ジーク様……」
アマンは何か言葉をつづけようとしたが、目に涙を浮かべ始めた。
「目覚められたのですね……、良かった……。ナターシャ様をお呼びしますね」
「あっ、アマン! ちょっと待ってくれ!」
「ジーク様? どうかなさいましたか?」
「俺はどのくらい眠っていたんだ?」
「3日間くらい眠っておられました……」
俺のお腹から大きな音が鳴った。
「水は飲めていたのですが、固形物は戻してましたからね。スープか何か持ってきます」
「あぁ、ありがとう」
アマンが部屋を出てから記憶を思い出そうとするが、まだ頭も痛むようで状況が分からなかった。とりあえず生きていることに感謝する。
部屋の外からドタバタとした走り音が聞こえてくる。
「ジーク! 良かった!」
ナターシャが部屋の扉を勢いよく開けて入ってくる。ナターシャの顔も今にも泣きそうな様子だ。
「心配かけてすまない」
「何言ってるのよ、ジークの方が大変だったんだからね。本当に心配したんだから……」
ナターシャは俺のことを抱きしめてきた。少しドキドキするが、ナターシャの匂いや感触を感じて生きている実感ができた。
「ナターシャはケガとかはしていないのか?」
「私は大丈夫よ」
「それなら良かった。ちょっと他の人に見られてもあれだし離れようか……」
ナターシャの柔らかさをもう少し堪能したかったが、屋敷の人間に見られてもしたら問題だ。
「私としたことが、少し取り乱したわ」
「いやぁ、俺はなんにも覚えてないからな。あの後は大丈夫だったのか?」
俺は率直に聞いてみる。
「大丈夫もなにも、対抗試合はレイヤの優勝で終わったわ。本当に色々あったのよ」
「なるほど。クレインの騎士はどうなったんだ?」
ナターシャは答えず少し考えていた。
「あなたが倒してくれたのよ……。私のことを助けてくれて本当にありがとう」
「俺が倒した? そんなまさか」
「詳しいことは分からないけど、後でアバロンに聞いてちょうだい」
「ちょっ……」
俺はさらに聞こうとするが、タイミングよくアマンがスープを持ってきた。
「ジーク様! 精がつくスープです。お召し上がりください!」
アマンは十人分はあるだろうスープを鍋に入れてきた。
「そんなに食べられないと思うぞ」
俺はそう言って起き上がろうとするが、身体が思ったように動かず、まだ起き上がれなかった。
「あっ……。私が食べさせてあげますから無理しないでくださいね。はいっ、あーん」
アマンはスプーンですくって俺の口に差し出す。動けずされるがままだったため、しょうがなくそのままいただくことにした。
「このスープ美味しいな!」
身体が栄養を欲していたのか、スープを一口食べただけで全身に力が戻ってくる感覚がした。
「あらっ、アマンに食べさせてもらって喜ぶなんて」
ナターシャは少し恥ずかしい様子で言う。
「ナターシャ様もあーんしますか?」
「何言ってるのよ!」
「それならアマンがやりますね! はいっ、あーん!」
俺は遊ばれている気分だったが、食べないと元気が出ないと思いひたすら食べる。
「アマン! 私のことを助けてくれたのだから、私からも食べさせてあげるわ」
なぜかナターシャはアマンから鍋を受け取り、俺に食べさせる。
「ジーク! あーんよ!」
ナターシャからのスープもすぐに食べる。
「ナターシャ様! 私にもまたやらせて下さい!」
アマンが再びナターシャから鍋を戻し俺に食べさせる。
結局十人前ほどあったスープを俺が全部飲み干すまで二人が交代で食べさせてくれた。
スープを飲んだことで身体にも力がみなぎってくる。
「ジークが生きていてくれて本当に良かった。死んじゃったらどうしようかと……」
ナターシャは本当に心配してくれていたようだ。俺はスープを飲んだことで回復したのか、起き上がれるようになっていた。
「無理しなくていいんですよ?」
アマンが寄り添ってくれる。
「良いんだ。何があったのか知りたいんだ」
騎士対抗試合がレイヤの優勝で終わったと言うことは、俺とクレインの騎士は両者とも次を戦える状況じゃなかったのだろう。
「そうよね。アバロンのところに行ってみるといいわ」
「アバロンか……」
意識が消えていく中、アバロンの姿を見たのを思い出した。
ナターシャとアマンの二人はそんな俺を見つめるが、何も言わなかった。そのまま俺は立ち上がり、アバロンがいるだろう訓練所へ向かう。
「ジーク! アバロンから何を聞いてもあなたは私の騎士よ」
「あぁ、ありがとう。早く元気にならなきゃいけないな」
そう言って部屋を後にした。
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