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第三十九話 初めての都市 【ジーク過去編4】

 それからは月に一回は賊の討伐もするようになる。


 この国はどれだけ治安が悪いのかとも思ったが、命のやり取りは楽しかった。


 たまに人間とは思えない力を持っているものもいたが、何とか倒すことができていた。親父が言うには、この特別な力を持っている人間はたまにいるが、賊では大したことがないから気にする必要はないとのことだ。


 十二歳になったとき、いよいよ騎士になるための試験を受けることとなる。騎士養成学校というところに通うために受ける試験らしいが、手続きを親父が進めてくれた。


「今日までお前が鍛えてきたものを出せば簡単に合格できる」


「わかった。何か必要なものはあるのか?」


「初めて言うが、お前はヒエロニムスという苗字を持っている」


「ヒエロニムス?」


「そうだ、死んだお前のお母さんが残してくれた。この帝国の戸籍に登録してある」


「戸籍ってなんだ?」


「それはどうでもいい。信頼できる友人がしっかりとお前の戸籍を入れているはずだ」


「なるほど。ジークフリート=ヒエロニムスが俺の名前ってことか」


「名前が言えなければ騎士の試験も受けられない。絶対に忘れるなよ」


 そう言って親父から都市への地図をもらい、俺は試験に行くこととなった。


 かなりの道のりを一人で行くのは大変だったが、山での経験や途中で賊を倒しながら行ったので、衣食住に困ることはなかった。


 都市に到着すると、人間があちこちにいる光景を目にして驚いた。都市の中では文字が溢れていてこれまで住んでいた山とは正反対の環境だった。


 文字の読み書きは親父から少し習っていたが、俺が住んでいる場所では文字を見る機会はほとんどない。


 親父からは少しのお金をもらってきていたので、はじめてお店に入ってみる。


 お店に入るとメニューを渡される。算数は分かったため、手ごろな値段の食べ物を注文した。


 周囲の客を見るとみんな楽しそうに食事をしている。すぐに俺のごはんが出てきた。


 メニューにあった名前では分からなかったが、肉料理のようだ。


 一口それを口に運ぶと、これまで俺が食べてきたものはなんだったのかと思うくらいに美味しかった。


「これはなんて言う料理なんだ?」


 近くにいたお店の人に聞いてみる。


「それはステーキだ。坊や、初めて食べるのかい?」


「初めてだ。今まで食べてきたものの中で一番うまいぞ」


 俺は目から少しの涙を出しながら、この味を噛みしめた。


「そりゃぁ良かったよ。その腰にぶら下げているのは剣のようだけど、あんたは騎士養成機関の試験を受けるのかい?」


「それを受けに来た。どこでやるのか教えて欲しい」


「試験は明日だと思うけど、目の前の道を進んだ先にある広場であるよ!」


「ありがとう! そして、このステーキご馳走様」


 俺はすぐに食べ終えてお会計をした。初めてお金を使って何かを得る経験をした。親父から使い方を聞いていて良かった。


 そのまま教えてもらった道を進み、広場を確認する。はじめての都市を楽しみながら一日を過ごした。


 次の日、試験会場につくと試験を受けるものだけではなく都市の人達もたくさん観戦にきていた。


 周りを見ると、とんでもない量の受験生が参加するようだった。騎士という職業はそれだけ注目されているのだろうと実感する。


 試験の内容は実技と面接だった。実技の試験は木刀を使った実践形式で、一対一で相手と戦うものだ。試験会場で自分の名前を告げると、さっそく試験を受けることとなった。


 会場の舞台は大きな石でできており、それを囲うように周囲から応援の声がする。応援席の人に相手について聞いてみると、相手は有名な騎士の名家らしい。


 相手への応援がすさまじく、まるで俺が敵のような周囲の眼差しを感じた。


「それでは、両者構えて!」


 審判だという人が俺たちの間に入り、合図をする。


 俺はこれまで身に着けたなかで一番しっくりくる構えをする。


 相手も構えるが、何人かは俺の構えを見て驚いているようだった。


「はじめ!」


 俺は、先手を取るために大きく踏み込む。相手の力量は分からなかったが、最初の一太刀を入れのはかなり得意だった。


 俺は素早く木刀を下から振り切ろうとする。


 この攻撃は相手のカウンターも受けられる型なので、相手の出方を伺うための一撃としてもってこいだ。


 しかし、驚きを隠せない事態が起きた。


 俺の攻撃が迫っているというのに相手は一切動く素振りを見せなかった。相手がどんな型で俺を抑えるのか分からず、かなり不安になってきた。


 何を隠しているのか分からなかったが、そのまま俺はしっかりと一撃を相手の下半身に入れた。


「ば、ばかなっ!」


 下半身に攻撃が入った相手は場外まで吹き飛び、そのまま意識を失ったようで場外で崩れ落ちる。


「そっ、そこまで!」


 審判の合図で実技は終わったようだった。観衆からは歓声が上がっていた。


「あいつ誰だ? 名前は聞いたことないよな?」


「まぐれか? すごい力な気がするぞ」

 他の受験生からも声が上がる。


 俺はこの瞬間に悟った。


 騎士になることはかなり簡単らしく、俺は自分が思っているよりもかなり強いのかもしれない。

 

【お読みいただきありがとうございます】


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