第三十八話 剣技の本質【ジーク過去編3】
山での生活を終えてからは普段のトレーニングや訓練に剣技が加わる。
剣技は木刀を使ってひたすら親父と試合をするものだった。剣を自分の身体の一部のように使えるようになるには、正しい振り方を覚えるより、戦いの中で使っていく方が効果的とのことだ。
農作物を納品する時期以外は毎日繰り返された。木刀での攻撃は素手や蹴りでの攻撃よりも痛さがすさまじい。痛みに対して打たれ強い俺でも、この痛さに慣れるのは二ヶ月かかった。
親父の技を盗みながら、相手の急所をどうやって攻撃するか、これだけを考えながら生きていた。親父の技は多種多様で毎日違う攻撃手法をとってくるため、パターン化するのは難しかしく、フラットに対峙することが必要だった。
「ジークフリート、最強の剣術はなんだと思う?」
親父の攻撃は毎日違うスタイルであったため、その中で何が最強かと問われると分からない。
俺はこれまでの経験から考え、何とか正解を出そうとする。
「最強の剣術は、相手に攻撃をさせないことか?」
俺の頭の中では、防戦一方の状況が最悪手だというものだった。
「攻撃をさせない、それも一つの正解かもしれない」
「俺も剣技を身につけ始めているからな」
一つの正解と言われて少し嬉しかった。
「だが最強というと違う」
親父はそう言って、再度剣で攻撃をしてくる。とっさのことだったが、何とかタイミングを合わせて応戦する。
「それなら最強は何なんだ?」
最強と言われてもピンとこなかった。
「剣技は基本的に型から生まれている。多くの騎士はそれぞれの騎士の家の型を身につけるところが基礎だ」
俺は型と言われてもピンとこなかった。
「俺はその型を身につけているのか?」
「お前には型は教えていない。全ての型には返し技があり、型にはまらなければかなり脆い」
「それなら多くの騎士は弱いってことか?」
「そうだ。型に忠実な騎士は強そうな身体をしていても、弱点が生まれる」
親父の話は、剣技の本質をついているような気がした。
「それなら最強は何なんだ? 型が弱点を持つのはわかったが、型がない弱さもあるだろう」
俺は幼いながらに、型が弱いのにみんなが型から取り組むということは、型にも良い点があると思った。
「最強は『悠揚自在』にある」
俺を剣で吹っ飛ばしながら親父は言った。
「その『悠揚自在』って何だ?」
初めて聞く言葉で理解ができなかった。
「型にはまらず、どんな攻撃にも的確に対処することだ」
「俺が今毎日やっている実践はそれを身につけるってことか?」
「そうだ。俺は毎日攻撃を変える。お前はどんな攻撃がきても反射的に対処できるように身体で戦いを覚えろ」
親父との日々は辛いことばかりだが、この話は剣技の本質として俺の脳裏に深く焼きついた。
♢
剣技を学び始めてからも数年がたったとき俺は十歳になっていた。
ある日、親父が鉄でできた剣を持ってくる。
「ジークフリート……。これが何か分かるか?」
「剣だ」
「そうだ……、剣だ。だけどな、これは真剣で人を一撃で殺すことができる」
そう言って親父は俺に剣をふりかざす。
俺は剣先を睨み続けた。
「それでいい。これはただの道具で扱い方は木刀と同じだ」
「木刀と同じ?」
「つまり、避けるのも容易ということだ。剣に対する恐怖心はお前を弱くする」
「なるほど」
「この剣をお前にやる。試し切りをしに明日出かけるぞ」
「分かった」
俺は初めて木刀ではない真剣を手にした。騎士もこれを使って戦うのだろう。初めて持った真剣は木刀よりもはるかに重かったが、俺の心は高ぶった。
次の日は訓練を終えた後、約束通り親父と出かけることになった。
「ジークフリート。お前は男が生きるということはどんなことか分かるか?」
「男が生きることか。仕事したり、食ったり、寝ることが生きることだと思う」
「仕事をするのも食って寝るのも生きることは間違いない。だけど足りない」
今日の親父は何かを教えようとしている様子だった。
「他になにがあるんだ?」
「それをこれから学ぶんだ」
俺たちが着いたのは郊外にある集落のような場所だった。集落をよく見ると、人が数十人いる。全員その腰には剣を身に着けていた。
「あいつらが何か分かるか?」
「ただの集落に住む人間だと思う」
「違う、あいつらは賊だ。この辺りは治安が悪いからああいった連中が生きている」
「賊ってのは分からんが、嫌な雰囲気だ」
「お前の初めての殺しにはちょうどいい相手だ」
そう言って、親父は集落めがけて駆けていった。俺もそれについていく。
「まずは俺が見本を見せる」
親父はそう言って、一人見張りをしているような男の首に一太刀入れる。はねられた首が俺の足元に飛んできたが、その眼は俺を睨んでいるように見えた。
「剣で切るだけで人っていうのは簡単に死ぬ。次はお前がやれ」
親父はそう言って次のターゲットの方に指を向けた。俺はそいつに対して突撃する。
「おい! お前誰だ?」
賊に気づかれる。何も言い返さず剣を振るうが、相手も剣を抜き俺の攻撃をはじいた。
「敵襲だ! みんな出てこい!」
男は叫ぶが、俺は剣を振り下ろしながら横に反転し、相手の首めがけて攻撃を入れた。
斬った感触が手から全身に伝わる。
初めて人を殺した。
俺の剣で人間の肉体を簡単に切ることができた。
しかし、殺した賊の叫びが仲間を呼びつけたことによって、俺と親父は囲まれた。
「ジークフリート。反対側は任せたぞ」
親父の一言で、俺たちは分散し敵を倒しはじめる。不思議なことに、強いと思った賊や恐怖心を感じる賊がまったくと言っていいほどいなかった。
俺は十人ほど殺したら増援の賊は出てこなくなった。
「ば、化け物!」
まだ生きている賊がいたので、そいつにとどめをさす。手にはまだ、首をはねたときの感触が残っていた。
「初めて人を殺した感想はどうだ?」
親父も倒し終わったようで聞いてきた。
「まだ感触が残っている」
「俺が初めて殺したのも賊だった。基本的に悪事を働いた賊を倒すのは騎士の仕事だ」
「騎士はこういう仕事もするんだな」
「そうだ。騎士になるってことはこれから何度も人を殺めなくてはいけない」
「分かった」
「こっちへ来い」
戦いの後で少し疲労が残っていたが、屋敷の中へ進む親父についていく。
「生きるとは何か質問したが、わかったか?」
「命のやり取りのことか?」
今回賊を倒していく中で、強くなければあっさり命を落としてしまうことを学んだ。
「そうだ。暴力は騎士にとって一番の武器になる」
親父はこれまでも数えきれないほどの人を殺めてきたのだろう。
その言葉には重みを感じた。
「男として生きる限り、己を鍛え続けろ」
俺は死体の山を見ながら、親父の言葉を脳で反復させていた。
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