第三十六話 記憶の彼方【ジーク過去編1】
夢の中にいるのだろうか、昔の記憶がよみがえってくる。忘れ去った過去、忘れなければいけない思い出。そんな消えたはずの記憶だった。
「この子の名前はジークフリートよ! 私たちの子よ! ガルム……」
「こんな場所ですまない。本当はもっといい環境で育てられれば」
「何を言っているのよ。むしろ家の問題にあなたを巻き込んでしまい申し訳ないわ」
「アメリア、それでもだ。俺がもっと頑張ればいいんだよ」
「私はあなたとこの子がいればどんな場所でも構わない。家族で楽しく暮らせれば」
「ありがとう。何があってもお前とジークフリートを守っていくよ。お前たち二人だけなら守ることができる」
俺は言葉も話せないが、二人は楽しそうに話をしていた。
「見て! ジークフリートが微笑んでいるわ」
「俺よりもお前に似てるな。顔が整ってやがる」
「何言ってるのよ。髪の色はあなたにそっくりじゃない」
「そうだな。俺たちの子だ」
「一緒にジークフリートを育てていきましょ!」
俺は母親のことは親父からほとんど聞いたこともなかった。普段は思い出せないが俺の最初に認識した記憶だろう。
夢の中だが、風景が急に変わった。
無意識の中で見ている風景は、幼少期から慣れ親しんだ山々がそびえたち、親父と一緒に作っていた農作物があたり一面に広がる。山奥なので、俺たち親子以外の人もほとんど住んでいなかった。俺たちは農作物を作ってはそれを近隣の貴族宅に届けることが主な仕事だったが、一日二時間の作業で農作業は終わる。
一日のほとんどは、親父から体術や剣術を仕込まれている。
四歳のときに初めて貴族の家へ農作物を届けた日に騎士になることを決めていた。その日から、俺は騎士になるための訓練を毎日繰り返していたことを覚えている。
幼少期は身体つくりが一番重要だったため、かなりハードな毎日をおくっていた。
「……くっ! うぅ」
朝の農作業が終わると、親父から殴られることから訓練は始まった。
「わめくな。攻撃を受けても平然としろと言っただろ」
痛みを抑えることが一番大事だと日頃から言われていた。
「うっ……」
痛みを我慢するが、どうしても言葉が出てしまっていた。
「今日もだめだったな。いつになったら我慢できるようになるんだ」
「攻撃が強いからです」
俺は言い訳をするが、すかさず腹部への攻撃を受けた。
「あぐっ……」
「言い訳をするな。お前ができないのは弱いからだ。お前が強くなるために殴っている」
「はい、ありがとうございます……」
「騎士になるんだろ?」
騎士がどんなものか分からなかったが、イメージの中の騎士は親父よりも強かった。
親父が騎士よりも強ければ農作業をするのではなく、騎士になっているはずだ。
「はい。騎士になるために鍛えていただきありがとうございます」
「いかなる時も攻撃を受けるかもしれないと考えろ。寝ている時も神経を研ぎ澄ませろ」
「はい、常に意識します」
「たとえ攻撃を受けても、相手に痛がっているそぶりを見せるな」
「分かりました」
「それでいい。さっさとトレーニングを始めろ」
農作業以外の時間は親父に殴られるかトレーニングをすることが多かった。
親父は基本的に狩りをしに行く。しかし、トレーニングをサボったときは制裁をうける。
このあたりに住む人間は数少ないが、その中の老人の一人が、俺が休まずトレーニングをしているのかを監視する役割を担っていた。この老人は俺の監視をする代わりに親父が取ってきた獣を少し分けてもらっているようだった。
俺は日頃からもくもくとトレーニングを始める。スクワットと呼ばれる足のトレーニングから、腕立て伏せ、木にぶら下がる懸垂と全身のトレーニングを行う。
親父が良く言うのは筋肉には二種類あることだった。単純に瞬発的なパワーを上げるための筋肉と、長い時間の戦いでも有用な持久力を兼ね備えた筋肉だ。その二つの筋肉がちょうど均等に鍛えられるようなトレーニングが取り入れられている。
トレーニングは三時間続けて行われるが、俺が途中で疲れたような顔をすると親父へ報告が入り制裁の対象となった。
最初のころは制裁を受ける毎日であったが、半年ほど繰り返すとトレーニングでほとんど疲れを見せることもなくなっていた。親父はトレーニングが終わる時間には何か獲物を捕らえて帰ってくる。
「今日も見ていただいてありがとうございます」
親父はそう言って老人に捕らえた獲物を少し分ける。
老人が獲物をもらって立ち去った後は親父と二人で獣の肉を食べる時間だ。
俺は痛い思いをしない食事の時間が一番好きな時間だった。
「全部食え」
親父からはかなりの量の肉を与えられていた。食べなければ筋肉の育ちが悪くなるとのことだった。
「ありがとうございます。いただきます」
親父のおかげで毎日の食の心配をすることはなかった。親父はとってきた獲物の肉は基本的に半分を乾燥させて、残りの半分を俺と一緒に食べている。
寒い時期は動物が少なくなるので、乾燥させた備蓄を食べたいた。
食事をした後は、親父との組手によるトレーニングとなる。
「うっ……。うぐっ」
親父の攻撃は容赦がなかった。俺は木につるされたサンドバックのように攻撃を受け続ける。受けるだけだと親父は一向に攻撃をやめてくれない。
「うらぁぁぁ!」
耐えているだけではなく、攻撃も入れていく。しかし、俺の攻撃はあっさりと掴まれて親父に地面にたたきつけられる。
「戦いは肉体の力やスピードだけでは勝てないと言っているだろ。考えて攻撃しろ」
なぜ親父に攻撃を入れられないのか考えても分からなかった。ただ親父の構えや攻撃方法を毎日学び取る。親父に隙が無ければどう作れば良いのか考え続けた。
ある日、なんとか親父に一撃入れるため、俺は踏み込みざまに身体の重心を前方に移して足に一撃を入れる。親父はひるまなかったので、攻撃を受けた足で俺を踏み潰す。
「そうだ、それでいい。どうやったら俺に攻撃を入れられるか考えた結果だな」
「あっ、ありがとうございます」
「俺をマネしているのだろうが、戦いは様々な型を無意識に変化させなければならない」
「はいっ」
踏み潰された箇所はまだ痛みがあったが、何とか答える。
「ジークフリート。早く俺が痛みを感じる攻撃を入れるようになれ」
基本的に組手のトレーニングは親父が満足するまで続いていたが、毎日新しいことができるようになる。トレーニングを繰り返す日々は三年ほど続いた。
この三年間でかなり強くなってきていることは実感していたが、親父にはまだまだ遠く及ばなかった。
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